小和田次郎はいま -長老ジャーナリストの「安倍とメディア」論-
- 2014年 3月 15日
- 時代をみる
- 半澤健市原寿雄安倍
《座談会発言を抜粋すると》
以下■に続く文章は、座談会「安倍政権の暴走と新聞の二極化」における一出席者の発言である。長文だがゆっくりお読み頂きたい。太字は半澤が付け、「/」は中略を示す。
■日本版NSC(国家安全保障会議)の審議を新聞はほとんど追っていきませんでした。総司令部になりうるNSCこそ、戦時体制の最終形態みたいなもので、僕は特定秘密保護法より前に、まずNSCへの疑問を口にせざるをえません。/武力攻撃事態法で指定公共機関になっているNHKは、戦時体制になればNSCの基幹放送にになるんですよ。
■日経は考え方が安倍政権そのものと対立していますよ。/右翼的な政策については批判していると思います。市場経済にマイナスになることを平気でやられたら、経済界としては批判せざるを得ないから、靖国参拝なんかも「よけいなことをしてくれるな」と批判的になっていくんじゃないでしょうか。
■安倍の考え方に産経が一番近いと思う。だけど政権党として現実を考えると、産経のような政策はできない。ナベツネさんはそれをわかっているから、読売が政権党の機関紙として現実を踏まえた政策を出しているんじゃないか。
■安倍のマスコミ戦略として、一つは国内最大のメディアであるNHKを牛耳るというのがあります。/もう一つは、朝日を手なづけることでした。ところが、その必要がないほど、読売が期待以上に御用機関紙的な役割を果たし始めているから/読売に乗っかっていけばいいと判断しているんじゃないでしょうか。
■安倍のナショナリズムと、ナベツネのそれはちょっと違うと思います。ナベツネさんは長年記者をしてきたし、新聞人だから国際的な常識を知っているけど、安倍は世界の情勢について歴史的な感覚が薄い。/安倍は既に日本帝国主義に進んでいく野心を持っている。だから、今後は安倍の方からナベツネと衝突する可能性が高くなってくると思います。
■オバマ大統領の後、共和党政権になったら、アジア政策を変える気がしてなりません。アジア太平洋国家なんて言っても、アメリカは毎年4兆円ずつ軍備を節約しなくてはいけない金欠病。共和党は二者択一で考えて、アジアから撤退する孤立主義を取る可能性はフィフティーフィフティーだと思う。そして安倍はそこまで見通してると思います。
■中国は自滅し、アメリカは撤退するから、次は日本だと考えているんじゃないでしょうか。安倍の考えているのは帝国主義で、大東亜共栄圏というおじいさんの野望を果たそうとしている。
■田母神氏やNHK経営委員の長谷川三千子、百田尚樹氏などは、安倍に代わって日本の現代を象徴していると思う。そんな中で、12月23日の天皇の憲法発言は、僕は事実上の護憲声明だと思います。
■(衆院予算委での安倍発言にたいして)あそこまで行くとヒトラーですよ。そういえば、ヒトラーは、1933年1月に首相となり、3月の選挙で43%の得票率で大勝、全権委任法を成立させた。その後、労組や政党をすべて解散させてナチズムの独裁体制を完成した。この43%は第二次安倍政権が誕生した12年12月総選挙で得た小選挙区の得票率と同じ数字です。しかも議席獲得率は79%です。これも重大問題だが、安倍は2016年7月の参院選を衆院選と一緒のダブル選挙にして圧勝を狙う。実現すれば日本の議会民主主義は自死しかねない。新聞は民主主義擁護のキャンペーンをやるべき時ではないでしょうか。
■事実報道という点では、ネットの発信者のところに勝手に集まる情報なんてたかが知れていてジャーナリズムにはなりません。/今ネットに広がっているのは根無し草のオピニオンみたいなものです。
■メディアの問題を考えるうえで突き当たるは、職業としてのジャーナリストの独立ですよ。これが解決すれば日本のジャーナリズムは変わります。新聞労連も横断的組合に変えないといけません。ジャーナリストの社会的なステータスを確立するために何ができるかということに焦点を絞って連帯していかないと。
《「デスク日記」の筆者はいま》
この「一発言者」は、ジャーナリストの長老原寿雄(はら・としお)である。
座談会は、月刊誌『創』の2014年4月号に掲載された。出席者は、原寿雄(元共同通信編集主幹)、桂敬一(元東大新聞研教授)、藤森研(専修大教授、元朝日新聞記者)の三人である。
私は、1960年代に「デスク日記」を愛読した。月刊誌『みすず』に長く連載され5冊の単行本にもなった。内容は、「小和田次郎」と名乗る、新聞社―または通信社―の匿名記者が、デスクの立場で報道現場のウラオモテを日々記録していくものである。虫瞰と俯瞰のバランスが取れた面白い読み物だった。筆者が原寿雄であることを私はのちに知った。原の『ジャーナリズムの可能性』(岩波新書・2009年)を読んだこともある。その読後感は「エリートによる説教的ジャーナリズム論」であった。1925年生まれ、88歳の原について私が知るのはこの程度である。とともに私の知る報道関係者には、原の見識と力量に敬意を示している人が少なくない。だから彼の最新の発言は気になるのである。
原寿雄の発言紹介が本稿の目的であり多くを語ることは必要ない。そう思ったが、敢えて言う。これは「昨今では最もラジカルな現状認識・同時に最も悲観的な近未来予測」だ。これが戦後70年の着地点か。気分は複雑である。(2014年3月12日)
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