「安全神話」を復活させ、原発再稼働を許していいのか?
- 2014年 3月 16日
- 時代をみる
- ゾルゲ事件加藤哲郎原発
◆3年目の3・11を、初めて日本で迎えました。3年前はメキシコでしたし、昨年・一昨年はアメリカでした。それで東北被災地めぐりをしたかったのですが、体調が思わしくなく、やむなく9日の東京・日比谷野外公会堂、国会へ。脱原発への熱気を久しぶりで感じとりましたが、NHKニュースの当初発表は1万人、どうみてもその数倍は会場外にあふれ、請願デモのため並んでいましたから、東京新聞などの言う主催者発表3万2千人の方が正しいでしょう。ただし気になったのは、平均年齢の高さ、若い人の姿は子連れの母親などまわりに数えるほどしか見当たらず、坂本龍一さんが挨拶したように、「この会場にきていない人々に訴えること」が緊急かつ重要でしょう。福島でも関西でも大きな集会は開かれ、東京都知事選から危惧された運動の分裂はひとまず避けられたようですが、持続的であると共に、若者に開かれたスタイルの、脱原発運動が必要でしょう。政府の方は、エネルギー基本計画で原発を「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置づけ、鹿児島川内原発から再稼働に着手しようとしていますから。15日の日比谷野音も、一市民として参加したいところですが、この間発表した加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)の「日本における『原子力の平和利用』の出発」、岩波現代全書『日本の社会主義ー原爆反対・原発推進の論理』のからみで、15日午後、京都大学吉田キャンパス法経東館での「原発問題の本質ーー科学から・地域から」シンポジウムに出席します。関西地方の方はどうぞ。
◆原発再稼働が、世界に発するメッセージも憂鬱です。かつて「フクシマのウソ」を世界に明らかにしたドイツ公共テレビZDFは、3年目に三度「フクシマのウソ、その3」を放映し、冒頭で「ウソ」の典型として安倍首相の東京オリンピック招致演説の「アンダー・コントロール」を挙げています。安倍首相の「ウソ」は、原発ばかりではありません。靖国参拝の意図も、中国や韓国に対する外交姿勢も、「集団的自衛権」や「憲法改正」への熱意が本当に日米関係を強めるものかどうかも、問題にされています。ジョン・ダワー=ガバン・マコーマック『転換期の日本へ』(NHK出版新書)をぜひお読みください。安倍首相とその取り巻き=「オトモダチ」の歴史認識が、国際社会でいかに日本のイメージをおとしめているかが、わかります。4月から消費税が8%になります。春闘ベースアップは自動車等一部産業のごく一部の世界企業のみのようですから、確実に「アベノミクス」の破綻がみえてくるでしょう。科学技術の世界でも「日本のウソ」が問題になりそうですから、「世界最高水準の新しい安全基準」などという、原発再稼働のための大ウソ=再版「安全神話」が、いつまでも続くはずはありません。関西で予期せぬ震度5強の地震がありました。「伊方・島根原発とも異常なし」なんていうニュースが流れるたびに、国民は不安になり、家族や友人を案じなくてはなりません。故郷を追われた15万人近いフクシマの被災者たちの声に、率直に耳を傾けるべきでしょう。
◆3・11以来の原子力研究で遅れていた懸案の本を、ようやく書き上げました。まもなく平凡社新書『ゾルゲ事件ーー覆された神話』が発売されます。岐阜県瑞浪市での伊藤律生誕100周年記念シンポジウムでも宣伝され、朝日新聞・岐阜新聞の記事になったようです。新書の「あとがき」で、特定秘密保護法への批判も入れておきましたので、ぜひご笑覧ください。国民の知る権利、情報公開のためにこそ、ゾルゲ事件をめぐって展開された、この70年の情報戦の真実を学ぶ必要がある、というのが私の立場です。日本のゾルゲ事件研究では、これまで尾崎秀樹『ゾルゲ事件』(中公新書)が長く通説的位置を占め、入門書的役割を果たしてきました。しかしその内容は、戦前日本の特高警察と裁判記録、戦後マッカーシズム時代のGHQ ・G2ウィロビー報告を鵜呑みにし、祖述したもので、ソ連崩壊後に世界各国で現れた公文書館史資料や証言・研究に照らして問題が多すぎる、ほとんど信用できない、と考えて、原子力研究の合間を縫って、公にするものです。科学研究の方法や史資料の扱い方、歴史的事件の見方・考え方、「神話」の生成と崩壊についても問題を提起したつもりですので、厳しい批判を含め、大いに議論していただければと願っています
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2573:140316〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。