対中国強硬派の認識と意見
- 2014年 3月 22日
- 評論・紹介・意見
- 中国阿部治平
――八ヶ岳山麓から(98)――
この2月の北京で、産経新聞古森義久・矢板明夫両記者による『2014年の米中を読む』(海竜社)という本を読む機会があった。柴田穂氏の文化大革命報道以来、産経の中国報道には一目も二目も置いてきたし、本書著者も名にし負う中国専門家だから謹んで目を通した。座談をまとめたものらしく誰が何を語ったかを明記してあるが、ご両所に基本的に意見の違いはないと判断して、以下、自分流に要約した。
習近平政権をどう見るか
矢板氏によると、習近平は学力、能力ともにないひとだが、首相の李克強は秀才だ。習政権の行政能力は前政権に比べて劣る。
中国共産党中央の怖いのは一党独裁を揺るがす国内の敵である。2011年の治安維持費は7兆8千万元で、国防費7兆5千万元を上回る。インターネット管理は厳密で政府批判は許さない。
習近平は政治的力量が弱いがゆえに、毛沢東を模倣し権力を集中し強い指導者を演出している。
オバマ政権をどう見るか
オバマ政権は基本的に内政志向、中国の対米軍事力は増強めざましいのに中国に対して妥協的だ。国務長官のケリーも、国防長官のヘーゲルも「軟弱」だ。中国によるサイバー攻撃への対応も無力だった。悪化する人権弾圧にも厳しく対応せず、中国の民主人権派を失望させている。
尖閣ではアメリカがカギを握っているのに、これまた中国に遠慮している。昨秋の安倍首相の靖国参拝に対するアメリカの「失望」という反応もそれである(この本のカバーの折り返しにも「アメリカと中国の接近に注意せよ」とある)。
アメリカ人が最も重視する国は日本ではなく中国だ。貿易・投資・国債の買入など、ともに巨大で中国経済は無視できない。アメリカは中国を「敵対者」であると同時に「パートナー」とする。アメリカ人はよく中国を研究している。同時に中国人もまたアメリカ進出に熱心だ。
中国の経済はどうか、
中国国有企業は国家を後ろ楯で何でもやれる。中国石化はアフリカ諸国の武器調達から衛星打ち上げまでフォローしている。だが国有企業は経営効率が悪いから外資にかなわない。そこでアメリカ企業と競合する中国企業には補助金をだす。日本企業への仕打ちは苛刻であるが、キャノン・コマツ・トヨタ・川崎重工などもうけているところは沈黙を守っている。あんなこんなが後楯で何でもやれる。中国石化はアフリカ諸国の武器調達から衛星打ち上げまでフォローしている。だが国有企業は経営効率が悪いから外資にかなわない。そこでアメリカ企業と競合する中国企業には補助金をだす。日本企業への仕打ちは苛刻であるが、キャノン・コマツ・トヨタ・川崎重工などもうけているところは沈黙を守っている。それやこれやで欧米銀行が中国投資から撤退し始めた。
統計はほとんどあてにならない。李克強も信用できるのは電力消費と貨物運送量だといったことがある。統計に表れない地下経済が経済システムを補完している。
東部臨海地帯ではローテクからハイテクへ産業構造を変えつつある。労働契約法施行によって労賃が上がり、ローコストを狙った外資企業が中国から撤退し始めた。
人民元のレート引揚上げはまだない。それをやれば輸出に不利になると同時にバブル経済崩壊の恐れがあるからだ。その一方で習近平は大国志向から人民元を交換可能通貨にしたがっている。
李克強総理は、規制を排除し世界の投資を呼び込むという機構改革「上海自由貿易試験区」を打ちだしたが、成功の見込みはあまりない。その改革は一党独裁の改革へ行きつくから当然強力な抵抗に遭うはずだ。
薄熙来裁判に関しては
胡錦涛派も習近平派も、薄熙来を悪人にしなければならなかったが、裁判では薄熙来は徹底抗戦し事実上勝利した。裁判は強引な起訴が小沢一郎裁判に似ていて、贈収賄の直接証拠がなく日本なら無罪だった。
日本からみたらびっくりするような裁判が行われた。法廷が山東省済南市になったこと、日程の前倒し、メディアに対する厳重管理、重慶などから来るの人の済南市立ち入り禁止等々。
反日運動に関しては
中国人は日本嫌いでアメリカ好きだ。政府の演出とはいえ、反日デモは学生が中心なら荒れ、反米デモは暴れない。この反日感情は、学校教育で身についたというよりは、毎日放送されたテレビ・ドラマによって醸成されたものだ。だが今後、中国が反日暴動を演出することは難しい。それを機会に反政府運動が起きるリスクがあるからだ。
国防・尖閣に関しては、
中国は毎年軍事力を10数%ずつ増強し続け、アメリカを標的とする兵器開発を行なっており、対米軍事バランスを変えようとしている。だから日本防衛をアメリカに頼る片務的同盟は時代遅れだ。集団的自衛権と武器輸出は「解禁」し、防衛戦が可能な有事法体制を構築すべきだ。もちろん憲法改定が必要だ。領土を一寸たりとも譲らない姿勢をとることが戦争の抑止力となる。法が整えられたら中国を刺激せず、出方を待てばいい。
日米同盟強化のため日本は防衛費を増額すべきだ。艦対艦ミサイル装備を強化し、中国本土に届く中距離ミサイルを持て。
中国は建国以来9度の対外戦争を起しているが、みな国内的要因による戦争であった。だから日本が挑発しなかったら中国は攻撃しないというわけではない。
習近平が尖閣へ軍事行動に出て、成功すれば民族英雄になれる。習政権は島を確実に奪えると確信した時にだけ行動を起こす。習近平の経験からして可能性の高いのは、数百隻の漁船で尖閣を包囲し日本公船を排除することだ(「万船斉発」)。
尖閣問題や日本首相の靖国参拝は中国にとっては内政問題である。習政権が日本に対して強硬な態度に出なかったら国民に見放される。
安倍首相は、中国は日本に対する手を打ち尽くしたことを知っているから、中韓両国から靖国参拝に対して噛みつかれても揺らがない。ところがアメリカの態度は従来とは異なり安倍首相の靖国参拝に不同意を示した。
2013年の防空識別圏設定のねらいは、日本の尖閣領有権・施政権を崩すためであるが、好戦的な世論と解放軍への迎合でもある。
健全な保守派出よ
古森・矢板両氏は、米中の個々の事象を実によく見てリアルに語っている。古森氏のアメリカにおける中国の存在感、日本の影の薄いこと。矢板氏の中華思想批判をやると中国人全体を敵に回すことになるという指摘など、じつにわかりやすい。だが、日中両双方の相手国の分析・評価がないのは残念だ。
古森氏が強調するのは、安倍晋三氏への支持、改憲、軍備増強、とりわけ対中ミサイル装備である。安倍首相には「積極的平和主義」を掲げて、日本を普通の国、正常な国家にするために、さらに前進してほしいという。安倍氏にすれば「いわれるまでもない、オレの解釈改憲で集団自衛権を解禁するよ」ということになろう。
思うに、本書最大の問題は外交手段による日中問題打開の方法論が缺落していることだ。これは必須事項ではないか。安全保障とは敵を作らないことである。自衛・防衛は敵を想定することである。外交によって中国を敵に回さなければいい。そうすれば両国とも無人島をめぐって飛行機だの艦船だのを巡回させ、緊張する必要はなくなる。
いや、それは無理だというなら無理だという理由を示してもらえばいい。ならば領有問題は戦闘を交えて解決するしかない。いったん戦闘が行われれば人命と政治的経済的損害は計り知れない。かつてのノモンハンの日ソ両国兵士の惨状を見よ。
戦闘を避ける意志さえあれば妥協はできる。ヨーロッパの北海開発の線引きはさんざんもめたが、大陸棚会議で各国の権利を陸上国境の延長とみなす中間線方式で区分した。ドイツ・オランダ・デンマークの海底領土は国際司法裁判所の裁定で決定された。
戦前だって、まともなことをいった指導者はいた。1922年のワシントン海軍軍縮会議でアメリカ・イギリス・日本の戦艦比率を10・10・6とすることで妥協したのに対し、海軍は猛烈に反対したが、海軍大臣加藤友三郎の反批判はこうだった。
「国防は国力の相応する武力を備うると同時に国力を滋養し、一方外交により戦争を避くることが目下の時勢において国防の本義なりと信ず……」と。
経済的に離れがたく結びつき、地理的に最接近している中国・韓国を敵視し、汚い言葉でののしりあい、さらには外交上の基本文書とでもいうべき村山談話と河野談話を事実上無視することは上策ではないと私は思う。
デフレ20年間という時代の閉塞状況から脱出するひとつの精神的必勝法は、狭隘な民族主義=国家主義である。煽られれば人は国家主義に流れやすい。東京都知事選挙は精神的に脆弱な若者が無視できない数に達したことを示した。
安倍首相の戦後レジームからの脱却がカイロ宣言・ポツダム宣言で規定された第二次大戦の戦後処理からの脱却を意味するなら、それはオバマならずとも、ヨーロッパ諸国も日本を警戒する。これは必然である。本書では、中国は孤立しているというが本当かね。孤立しているのは日本ではないのかね。(2014.3.8)
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