原発事故に労働者が吐いた怒りの川柳 『原発川柳句集―五七五に込めた時代の記録―』
- 2014年 3月 27日
- 評論・紹介・意見
- 原発岩垂 弘川柳
「フクシマをすっかり忘れて花見酒 黄金餅」。『原発川柳句集―五七五に込めた時代の記録―』と題する冊子が、レイバーネット日本・川柳班の編著で刊行された。川柳好きの労働者が、東京電力福島第1原子力発電所の事故以来、原発問題について吐き続けてきた句をまとめたものだが、そこには、依然事故を収束しえないでいる政府と電力会社への怒りと、早くも事故を忘却しつつある世間へのいらだちがあふれている。
「レイバーネット日本」は、働く人たちをつなぐ情報ネットワーク。労働運動活動家、市民メディア関係者、労働運動研究者らの呼びかけで2001年2月に発足した。労働運動の発展を願うすべての人に開かれたネットワークで、個人の自律性・自主性に基づいて運営されており、ウェブサイト、動画配信、レイバーフェスタ、レイバーネットTVなどを通じて情報を発信している。
レイバーネット日本・川柳班は、このネットワークに結集する川柳愛好者の集まり。2010年には初の句集『がつんと一句!―ワーキングプア川柳』を刊行している。今回の句集はこれに次ぐもので、その狙いを「まえがき」で次のように述べている。
「私たちは原発事故発生以後、首相官邸前や経済産業省前テントひろば、月例句会などの場でそれぞれの思いや怒り、批判を川柳という五七五の極めて短い一句に吐き続けてきた」
「あれからもう二年以上経つというのに、この非常時ともいうべき事態の中で、政治の無能さと、東京電力をはじめとする責任主体のあまりにも無責任極まりない対応など、私たちの怒りは、まさに怒髪天を衝くものがある。そうした思いを吐いてきた川柳を、この時代のひとつの記録としてまとめ、広く世の中に問い、後の世の人びとのためにも遺しておきたいと思う」
本書には同班の定例句会の記録も収録されている。その中から、一部を紹介する。
<2011年 夏・秋>
[夏]
真夏でも背筋にヒヤリ原発禍 やせ蛙
[デモ]
六万人政府東電想定外 一志
脱原発叫ぶわが子ののどの腫れ 白眞弓
デモに行く脱原発の一里塚 エチゼンクラゲ
[実り]
豊穣の大地哭く声聞こえぬか 斗周
今年から放射能をも収穫す 白眞弓
セシウムでたっぷり色づく紅葉樹 一志
放射能実りの秋を苦りきり 乱鬼龍
[警官]
東電を守り確保の天下り 斗周
デモ隊に放射線量訊く警官 英卯蝶
<2011年 冬>
[十二月]
直ちにのツケをそろそろ払わされ 斗周
サンタさん二の足を踏む汚染図 なずな
惜しまれぬ千に一度の年もあり 奥徒
<2012年 春>
[変わる]
避難して来たこの街に住む決意 なずな
死の街に変えた主犯を問わぬまま 囲真人
一年が過ぎて変わらぬ喪に服す 白眞弓
[芽]
芽を出して良かったのかとつくしんぼ 囲真人
タラの芽に棘より怖いものがつき 笑い茸
芽も出ない花も咲かない核の冬 かぜはやて
[風]
憤死して千では足りぬ風となり 斗周
[ゼロ]
ゼロ歳の未来を悔いる汚染地図 奥徒
セシウムがゼロになる日は墓の中 一志
[自由吟]
人類が絶滅危惧種原発禍 囲真人
<2012年 夏>
[水]
水清き桜の国の汚染地図 わかち愛
あの嘘が奪う命の水と空 奥徒
末期の水セシウム入りはお断り 一志
[自由吟]
「安全」と言えば危険と納得し なずな
議事堂が小さく見える金曜日 一志
一億が被曝手帳を持たされる 乱鬼龍
<2012年 秋>
[ナショナリズム]
フクシマを置き去りにする愛国心 なずな
[自由吟]
そういえば工程表つてあつたよね 斗周
<2013年 冬>
[蛇]
毒蛇の毒もかなわぬ核汚染 なずな
[自由吟]
遺言の通りお棺に防護服 笑い茸
<2013年 春>
[福島]
ゼネコンに盆と正月福の島 笑い茸
棄民という現実を知る二周年 なずな
フクシマの空気読めずにいる総理 わかち愛
フクシマとヒロシマ悲劇の人類史 勢子船
[空気]
危険だと言えない町で子を育て 笑い茸
砂場では息しちゃダメと母叫ぶ 白眞弓
[自由吟]
収束の二文字嗤う汚染水 なずな
不良品海の向こうへ詐欺商法 奥徒
『原発川柳句集―五七五に込めた時代の記録―』は四六判、88ページ。発行所はレイバーネット日本。℡03-3530-8588 FAX03-3530-8578。頒価600円
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