シーシ元帥が大統領出馬を表明、大量死刑判決の2日後
- 2014年 3月 31日
- 評論・紹介・意見
- エジプト坂井定雄
―革命3年後のエジプト⑤
クーデター後のエジプト最高権力者、シーシ国防相兼軍総司令官は3月26日、国防相を辞任し、6月までに行われる大統領選挙に出馬することを表明した。エジプトのメディアはこぞってシーシの圧勝を予想している。シーシの出馬表明は、エジプト南部のメニア地方裁判所が、ムスリム同胞団の支持者529人に集団死刑判決を宣告した2日後。さらに内務省当局が同様の罪状で、新たに2件、同胞団支持者計919人をやはりメニアの裁判所に集団起訴することを命令してから数時間後だった。英BBCによると、昨年3月のクーデター以後、逮捕された同胞団員と支持者は約1万6千人で、うち2,147人が起訴され、残りの大部分が処分未定で違法に投獄されたままだ。
ムスリム同胞団は2011年の「1月25日革命」の中心的な一翼を担ったが、革命を先導したのは、「4月6日運動」をはじめリベラルな若者組織だった。そのリーダーだったマーヘル、アデル、ドウマの3人は、軍事裁判で民間人を裁く憲法上の制度に反対するデモを無許可で行ったとして逮捕・起訴され、重労働3年の判決を受けて獄中にいる。また12月以来、デモと集会をすべて警察の許可制にする厳しい規制法で、リベラルな人権団体の活動家たちが相次いで逮捕され、スピード裁判で有罪判決を受け、投獄された。
そして、革命3周年記念日の1月25日にカイロはじめ各地で行われたデモ規制法抗議デモでは、人権団体や若者たちが1千人以上逮捕され、警察署で殴打、電気ショック、座れないほどの監房への詰め込みなどの、ムバラク時代そのままの拷問が行われた。
これが、「革命3年後のエジプト」の現実だ。昨年7月のクーデターは反革命だった。
それ以後の暫定政権での周到な準備を経て、シーシは選挙で大統領に就任し、軍の力を背後に、裁判所、警察そしてメディアまで支配する強権的な独裁政権を築くことを目指しているに違いない。
▽集団死刑判決にきびしい国際的非難
死刑判決された529人の罪状は、モルシ大統領の逮捕・投獄に抗議する支持者たちのデモがメニア地方の警察署を襲撃、副署長を殺害したという容疑。裁判はごく短時間の1回目を開いたのち、2回目は被告、弁護団側が一人もいない法廷で判決が下されただけ。検察側は被告たちの取り調べに弁護団の立ち合いを拒否、判決には被告個人ごとの罪状は示されず、被告集団全員に対する死刑判決だった。
同胞団の最高指導者バディーエは、死刑判決が下された529人のなかにも、新たに起訴された2件の裁判の被告団にも含まれていている。新たな裁判の一方はサラムート市でデモ隊が警察官ら6人を殺害し、51人に殺人未遂を行ったという容疑で被告は715人。もう一方はメニア地方で国家施設を攻撃したという容疑で被告は204人。いずれも、検察側は、被告の取り調べに弁護士の立ち合いを一切拒否した。
わずか2日間の裁判での集団死刑判決に対し、国連人権機関、欧米諸国、国際人権団体は直ちに厳重な非難を声明した。ピレイ国連人権高等弁務官は「この集団死刑判決は、近年の史上前例のないことだ」「性急な集団裁判は、裁判手続きの異常な欠如だらけで、国際人権法に違反している」と非難。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「この集団死刑判決は、エジプトの裁判制度の欠陥と恣意的な運用の奇怪な一例であり、この不正義は取り消されなければならない」と声明した。
▽エジプト史上最大の集団死刑判決
今回の集団死刑判決は、エジプト史上最大の裁判所による死刑判決だ。1952年の革命後、70年の死去まで最高指導者を務めたナセルは、54年にナセル暗殺を計画したとして、ムスリム同胞団の最高指導者を含む幹部7人を逮捕、裁判で死刑判決を下した。しかし、その後減刑され、釈放された。さらに64年、やはりナセル暗殺計画の容疑で同胞団の思想的指導者クトゥブはじめ同胞団メンバー多数を逮捕、うち6人に裁判所が死刑判決を下し、66年に処刑した。
ナセルの後継者になったサダト大統領は、イスラエルとの平和条約締結後の1981年にイスラム過激派「イスラム・ジハード運動」の兵士たちによって暗殺された。逮捕された犯人5人に死刑判決が下され、82年に処刑された。
その後のムバラク政権時代でも、一般犯罪での裁判で毎年、20~30人程度の死刑判決が下されているが、執行状況は不明。
今回のような529人に上る集団死刑判決は、上級審で(エジプトは2審制)で減刑される可能性はあるとはいえ、エジプト史上まったく異常なことなのだ。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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