嘘だらけ、米国側の負担増額要求 ―在日米軍駐留経費の全容解明を!
- 2010年 11月 5日
- 評論・紹介・意見
- 在日米軍坂井定雄思いやり予算
米軍駐留経費の減額を求めていた日本政府に対し、米側は削減に抵抗するどころか「環境対策費」を新設して、逆に増額を要求してきた。米軍が破壊し続けてきた沖縄の海と生活環境を改善するのかと一瞬思ったが、そうではない。読まれた方も多いと思うが、朝日新聞10月20日朝刊を引用させてもらうー
「『日本の安全保障環境が悪化しているのだから減額できない。増額が必要だ。なにか増やせるものはないか』-日米の協議で米側が繰り返してきたのが、このセリフだ。9月に尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件が起きると、攻勢は強まった」
それで、この“環境悪化”に対応して、米軍はどんなことを、新設経費でやろうとしているのか? その説明はまったくない。自民党政権が作った巨額の財政赤字に苦しむ日本政府から、さらにむしりとる口実がほかに見当たらないのだろう。なめられたものだ。
さらに、引用するとー「日本は在日米軍の駐留で防衛費を節約しているのではないか。なぜ削ろうとするのかー米側の主張だ。米側によると、在日米軍約4万7千人の維持には年間約48億ドルが必要。日本側は3分に1程度の経費負担で米軍の抑止力を得ており、自主防衛に比べれば『多額の節約になっている』というわけだ」
在日米軍の駐留のために、日本政府が負担している金額、つまり国民が負担している税金は「思いやり予算」だけではない。上記の記事に併用図示しているのは「思いやり予算の推移と内訳」だけだが、これは大きな誤解を招く。防衛省のホームページの「在日米軍関係費」はやや分かりにくいが、同ページを若干整理して示すとー
2010年度(平成22年度予算)
在日米軍関係経費総額(防衛省関係予算のみ) 4、695億円
(内訳)
▽在日米軍駐留経費負担(いわゆる思いやり予算) 1,881億円
労務費(1419億円)はじめ、光熱・水道費、訓練移転費、提供施設整備
▽周辺対策、施設の借料、漁業補償費など 1、737億円
▽SACO(沖縄に関する特別行動委員会)関係経費 169億円
▽米軍再編関係経費(グアムへの移転経費など) 909億円
防衛省以外の他省庁予算(21年度予算、22年度試算)
▽基地交付金など 378億円
▽土地の賃料 1、656億円
つまり、在日米軍駐留のために日本政府が支出している国民の税金の総額は
約6350億円。ドル換算(1ドル=85円)で約75億ドル。
「思いやり予算」はその一部にしか過ぎない。
朝日新聞が書いている「米側によると」48億ドルという在日米軍の維持経費の根拠も分からない。「日本はその3分の1程度の経費負担」という根拠を日本政府は追求すべきだ。仮に48億ドルとすると、在日米軍維持のための日本政府の支出は、その1.5倍。「思いやり予算」でだけでも、46%。なにが「3分の1」だ。
本ブログで、以前にも書いたが、米国防総省が公式に発表した最後の「同盟国の米軍駐留経費負担(2002年)」では、日本は44.1億ドル。負担率74%。ドイツは15.6億ドル、負担率32.6%。韓国は8.4億ドル、負担率40.4%。日本は金額でも負担率でも圧倒的に高かった。思いやり予算だけをみても、日本政府の支出は、円ードル換算を考慮して計算すると2002年の2010年もほぼ同額。02年はブッシュ政権の「対テロ戦争」真っ最中で、沖縄はじめ在日米軍基地の活動が活発だった。現在の維持経費は02年に比べ減っているのではないか。米国防総省の計算方式が変わっていなければ、2010年でも70%を超える経費負担と考えるべきだろう。
ベトナム戦争敗北後、米国防総省は広報作戦を抜本的に立て直し、湾岸戦争からイラク戦争に至るまで、メディアのコントロールにかなり成功したが、普天間移設問題と在日米軍経費問題では、日本政府と日本のメディアをなめたのか、すぐばれるような嘘と脅しを政府との交渉やメディアに対して使った。
同じ朝日新聞の記事―「日本は在日米軍の駐留で防衛費を節約しているではないか。なぜ削ろうとするのかー。これが米側の主張だ」。最近、かっての“ただ乗り”バッシングと同じようなことを、米国防総省や米軍の高官、その周辺の日米安保ロビーが盛んにいう。アフガニスタンとイラクで巨額の戦争経費を使い、増える一方の軍事予算に米国民の批判が高まっているので、いうことを聞く日本にすこしでも矛先を向けようとするのだろう。日米安保改定50周年の今年、国内でも日米同盟至上派、米国ロビーあるいは対米従属至福派に、朝日をふくめ大手メディアが発言の場を大きく与えた。在日米軍について彼らは「日本は米軍の抑止力から最大限の恩恵を被っている」(岡本行夫氏)、「リスク引き受け 防衛費増を」(加藤良三氏)などと口をそろえて強調した。しかし、在日米軍基地がアジアでの米国の戦争で極めて大きな役割を担い、米軍の世界展開において不可欠の役割を果たし、沖縄をはじめ在日米軍基地のおかげで、米国が財政的にも極めて大きな利益を受けていることについては、まったく触れようとはしない。たとえは、原子力空母中心の空母打撃軍の母港を横須賀に引き受けているだけで、ハワイを母港にするのに比べ少なくとも年間15億ドルを節約できているという。
沖縄海兵隊のグアム移転のような海外米軍基地の米国内への移転費用を、受け入れていた国が負担するのは日本だけだ。このような日本の貢献に、米国政府とくに国防総省と米軍は、もっともっと感謝すべきなのだ。稿を改めて書こう(了)
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0199:101105〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。