NHKは反中、反ロシア扇動に偏るな
- 2010年 11月 7日
- 評論・紹介・意見
- NHK坂井定雄岡本行夫
11月6日(土)朝7時台のNHKメイン・ニュース。尖閣諸島事件ビデオ流出問題の報道で、岡本行夫氏を登場させ、どぎつい反中国、反ロシア、菅政権攻撃の発言をさせた。NHKにも報道の自由はあるし、岡本氏にも発言の自由はある。しかし、NHKは公共放送である。右翼ジャーナリズムを“売り”にしている産経や一部雑誌とは違う。日米同盟一辺倒で反中国、反ロシアをこれまた“売り”にしている岡本氏の意見を長々と伺うのなら、その時間を半分にして、冷静に、平和的・戦略的にこの事態を評価できる多くの有識者の一人の意見も同時に聞かねばならないはずだ。それが公共放送のあるべき手法ではないのか。だが、この重要なときに、NHKが朝、意見を聞いたのは岡本氏だけだった。
今回が初めてではないが、岡本行夫氏や森本敏氏のような、極端に反中国、日米同盟一辺倒の人物をメイン・ニュースや「日曜討論」の担ぎ出し、ひどく客観性、公平性、公共性を欠くNHK。これでは、かっての自民党べったりのNHKの政治報道と変わりないではないか。
岡本氏の発言を全部紹介したいところだが、あいにく記録してない。多少不正確になるが、わたしが記憶している要点は次のような内容だった。
▽尖閣衝突事件のビデオは全部公開すべきだ。相手が悪いのだから、なにも慎重になる必要がない。
▽中国やロシアの内部事情などに配慮する必要などない。こんなことだから、相手はやりたい放題にやる。
▽菅政権は「戦略的互恵関係」というが、中国は尖閣を領土だと言い、沖の鳥島は日本の領土じゃないといって、日本の領海を中国漁船に解放しろという。東シナ海では海底の油田開発を勝手にやる。みんな中国がもっていこうとしている。何が互恵関係だ。
▽日本は中国、ロシア、韓国そして「国家ではないが」台湾と、すべての隣接国と領土問題を抱えている世界で唯一の国だ。
▽だから日米同盟が重要だ。日米同盟がなければ、日本なんか相手にされないで好きなようにやられる。せいぜい日本列島の存在が、中国を封じ込めるのに役立つぐらいだ。政府はなにより、日米関係を修復するために努力しなければならない。
最後の部分は今月の沖縄県知事選を念頭に置いているな、と思った。岡本氏は、普天間移設問題で、「最低県外への移設」を掲げた鳩山政権を攻撃した急先鋒だった。
岡本氏はさすがに“機を見るに敏”だ。反中国、反ロシア感情の高まりを捕らえてさらに煽り、たくみに日米同盟一辺倒に国民を誘導し、沖縄の米軍基地をはじめ日米同盟に対する日本の負担を増やすべきだ、と主張し続けている。岡本氏のような扇動家の特徴は、自分の主張に都合のよい理由だけを集め、都合の悪いことには無視することだ。
政府が在日米軍駐留経費減額を求めると、岡本氏は米国防総省や米軍を同じこと主張するー「民主党政権に注文したいのは、つまみ食いはできないということだ。日本は米軍の抑止力から最大限の恩恵を被っている。例えば横須賀の空母ジョージ・ワシントン。艦載機を含めて2兆円近くなる。随伴艦を含めれば3兆円近くなる。米国がそれだけのものを東京の隣りに置いている。周辺諸国にしたら大変なメッセージだ。だから日本は防衛費がGDP比で主要国平均の半分ですんでいる」(朝日新聞10.1.19座談会)
ここでは、岡本氏は在日米軍基地が、米軍の世界展開、アジアでの戦争を死活的に支えており、米国がそのための経費でも極めて大きな利益を受けていることには触れない。日本の米軍駐留経費負担が、金額でも負担率でも米国の主要同盟国のほぼ2倍であることにも触れない。
6日のNHKでの発言―「すべての隣接国と領土問題を抱えているのは日本だけ」というのも嘘の扇動論理だ。ベトナムは中国とカンボジア、ラオスと領土問題を抱えている。中国はインド、ベトナム、モンゴルと領土問題を抱え、ロシアとは長い紛争と交渉の末にやっと解決して間もない。「すべての隣接国と領土問題を抱えている国」は世界中にある。
この手の扇動をする“有識者”だけをメイン・ニュースで長々としゃべらせるのは、公共放送NHKが絶対にしてはならないことではないのか。(11月6日記)
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