オバマ:「中東を改造する」:アメリカのグーラグ(収容所列島)
- 2014年 5月 9日
- 時代をみる
- 中東問題の真相松元保昭
ロシア、中国、北朝鮮、イスラム世界が悪者になっても、米国と欧州連合だけは「民主主義の使者」 として根本的に指弾されることのない異常なメディ アが相変わらず世界を覆っている。
イラク、リビア、エジプト、シリア、ウクライナと、「民主主義」「保護責任」「軍事介入」の名目 で、何十万、何百万という無辜の民衆が犠牲になり ながら クーデターと代理戦争が繰り返されている。
イスラエルの不正が隠蔽され、沖縄の要求が無視され続けている現実に、帝国アメリカの執拗な世界 支配の構造があって も、世界と日本の大部分のメディア、批評家たちは不正で野蛮な世界を生み出している帝国の悪業には目をつむり、お追従しては印象操作 に励んで民衆の眼を塞 いでいる。
ネタニヤフが来日するという。「米国の緊密な同盟国」「集団的自衛権」「秘密保護法」「兵器共同 開発」を掲げて、日本とイスラエルはアジア大陸の 東西でいよいよ帝国アメリカの両輪になろうとしている。
著者ジェームズ・ペトラス教授は、「民主主義」を詐称する帝国アメリカが生み出している北アフリ カから湾岸諸国にいたる中東の現実:グーラグ(収容所列島)を俯瞰し浮き彫りにしている。ちなみに、グーラグ御本家の米国刑務所収監者総数は220万とも230万とも 言われている。実数も成人者比率も世界最多だ。
拙訳ですが紹介させていただきます。(2014年5月8日)
※なお、ネタニヤフ来日緊急抗議集会と抗議行動が予定されています。
●ネタニヤフ首相来日を問う緊急集会 ―日本・イスラエル兵器共同開発に異議あり―
【日時】5月11日(日)19時~(18時30分開場)
【場所】文京区民センター2A
●ネタニヤフ・安倍首脳会談に抗議する 5・12 官邸前行動
【日時】5月12日(月)18時~19時
【場所】首相官邸前
以上、主催:「ネタニヤフ首相来日を問う緊急集会」実行委員会
●ネタニヤフ来日に抗議する5・14京都集会
日時:2014年5月14日(水)午後7時~9時
会場:京都市東山いきいき市民活動センター・会議室3
Obama: “Remaking the Middle East”: The American Gulag
オバマ:「中東を改造する」:ア メリカのグーラグ(収容所列島)
ジェームズ・ペトラス教授(松元保昭訳)
グローバル・リサーチ誌
2014年4月22日
Url of this article:
http://www.globalresearch.ca/obama-remaking-the-middle-east-the-american-gulag/5378634
大統領に就任した最初の任期の始めの間、オバマは「中東を繁栄と自由の地域に改造すること」を約束した。6年 後、その現実はすっかり正反対になっている。中東は、刑務所が政治犯であふれる独裁体制に支配されている。投獄された民主主義推進の 活動家たちの圧倒的多数が、過酷な拷問下に置かれており長期の禁固刑に服している。それらの統治者は、中央集権化された警察国家および軍の弾圧によって権力を掌握し、またその支配を維持しており合法性を欠く。大量の兵器搬送、軍事基地、訓練任務および特殊部隊による米軍およびCIAの直接の干渉は、北アフリカから湾岸諸国にいたるグーラグ(収容所列島)の建設において決定的である。
われわれは、米国が援護する各々の警察国家の政治弾圧の規模と範囲を実証することに取りかかる。次いで、米帝国のため、また米帝国が貫く政治的刑務所の連鎖へと「中東を改造すること」を支えている米国軍事援助の規模と範囲を詳しく述べるだろう。
エジプト、イスラエル、サウジアラビア、バーレーン、イラク、イエメン、ヨルダンおよびトルコを含むこれらの諸国と政権は、そのすべてが民衆の自由な社会的政治的運動に象徴される民主主義推進派の大多数に敵対する帝国アメリカの利権を促進し防御している。
エジプト:戦略的属国
中東における長期におよぶ属国で最大のアラブ国家エジプトの現下の軍事独裁政権は、2013年7月のクーデターの結果、権力奪取の後に続いて凶暴な弾圧の波を開始した。エジプトの社会的経済的権利センターによれば、2013年7月から12月の間、21317人の民主主義推進派のデモ参加者が逮捕された。2014年4月の時点で、16000人の政治犯が投獄されている。ほとんどが拷問されていた。人民裁判方式のいいかげんな法廷による即決裁判は、何百人という死刑宣告と大部分が長期刑の結果となった。オバマ政権は、この新政権に軍事援助を提供し続けるために、民主的な選挙で選ばれたモルシ政府の軍隊による政権転覆をクーデターと呼ぶことを拒否した。引き換えに軍事独裁政権は、イスラエルのガザ封鎖を後押しし中東全域にわたる米軍の作戦行動を支援し続けている。
イスラエル:地域最大の刑務官
米国の支持者たちが「中東唯一の民主主義」と称するイスラエルは、実際は地域最大の刑務官である。
イスラエルの人権保護団体ブツェレム によれば、1967年から2012年12月の間、住民の20パーセント、800000人のパレスチナ人が何らかの咎で収監されていた。100000人を超える人々が、告訴も裁判もなく 「行政勾留」で拘留されていた。ほとんどすべてが、拷問され残酷な扱いを受けていた。現在イスラエルは、4881人の政治犯を刑務所に収容している。 しかしながら、このユダヤ国家を神が選んだ…地域筆頭の刑務官にしているのは、ガザで暮らす182万人のパレスチナ人を事実上の青空監 獄の中に閉じ込めていることである。イスラエルは、空域、海域、地上の至るところを警備し封鎖しては、旅行、貿易、漁業、建築、製造業および農業の自由を奪っている。加えて、(ウェストバンク)占領地における270万人のパレスチナ人は、永続するパレ スチナ住民の土地財産の強奪に没頭するイスラエル軍とユダヤ人入植者自警団による恣意的な逮捕と暴力的な襲撃、軍事侵入に日々従属して、 刑務所のような分離壁に囲まれている。
サウジアラビア:絶対君主国家
オバマ大統領の「中東の改造」によれば、サウジアラビアはワシントンの「アラブ世界における最も忠実な同盟国」である。忠義を尽くす属国の その刑務所は、自 由選挙、市民的自由と女性排除の政治の終結を要求して投獄された民主主義推進の反体制派の人々であふれている。イスラーム人権委員会によれば、サウジは30000人の政治犯を収容しており、その大部分が告訴も裁判もなく勝手気ままに拘留されている。
サウジの独裁政権は、地域全体におよぶ警察国家体制に資金提供する主役を演じている。彼らサウジ王権は、軍事クーデターのすぐ後にエジプト軍事政権の財源に150億ドルを注いだ。これは、選挙された 政府当局者および民主主義推進派の支持者に対するその大規模な血の粛清の報酬であった。サウジアラビアは、パキスタン、イエメン、バーレーン、ヨルダンおよびエジプトにおける「刑務官-体制」に資金と武器を援助してワシントンの支配的立場を支援することで大きな役割を果たしている。
バーレーン:小国家-数多くの刑務所
地域で尊重されている人権センターによれば、バーレーンは「一人当たり政治犯の数では世界トップの国」といういかがわしい栄誉をもっている。エコノミスト誌(2014年4月2日)によれば、バーレーンは750000人の人口のうち4000人の政治犯を抱えている。ペンタゴンによると、バーレーンの絶対主義的な独裁政権は、空軍および海軍基地を米国に提供してイラク、イランおよびアフガニスタン攻撃のための不可欠な役割を演じている。大多数の民主主義推進の反体制派が、米帝国の利権とサウジ独裁政権に対抗して、その従属、独裁政治、奴隷状態の終結を要求して投獄されている。
イラク:アラブ的性格のアブ・グレイブ
2003年のイラクに対する米国の侵略と占領で始まり、その代理である家臣のヌーリー・アル=マーリキー首相の下で継続されている ことなのだが、何万人ものイラク市民が拷問され投獄され殺害されてきた。イラクの軍事政権支配は、米 軍とその特殊部隊に頼り続け、そしていかなる民主的な主張をも骨抜きにしてしまう同種の軍事的・警察的「掃討」に携わり続けている。アル=マーリキーは、反体制派の居住地域や反対派の拠点を襲撃するために彼の秘密警察の特殊部門すなわち悪名高い56旅団に頼っている。シーア派政権とスンニー派の反対派双方が、テロの武力衝突を続行することに没頭している。両者は異なる時点でワシントンの緊密な協力者として仕えてきた。
毎週の死者数が百人単位で続いている。アル=マーリキー政権は、拷問センター(ア ブ・グレイブを含む)、その技術、また以前米国に率いられ運用されていた多くの刑務所を引き継ぎ、米「特殊部隊」のアドバイザーはそのまま留めて、彼らが、人権批評家、労働組合活動家および民主的反体制派の一斉検挙を監督している。
イエメン:米–サウジ共同の衛星国家
イエメンは、米-サ ウジ配下の独裁者たちに何十年も支配されてきた。アリ・アブドッラー・サーレハの独裁的支配は、その所謂「引き渡し」計画の下でCIAに 誘拐され送致されてきた反体制派のための秘密拷問センターとして機能しているだけでなく、何千人という世俗的、宗教的なデモクラシー推進活動家の投獄・拷 問が伴っていた。2011年 には、米国がサーレハ政権を後押ししたことによる長期の激しい弾圧にもかかわらず、国家の存亡および米国とサウジ政権の関係を脅かす大規 模な反政府デモが 爆発した。その支配的立場と軍事提携を維持するため、ワシントンとサウジは、政権の「改造」を周到に準備した。不正選挙が行われ、サーレハの忠実な取り巻 きでワシントンの召使いアブドッラッボ・マンスール・ハーディーという人物が権力を掌握した。ハーディーは、サーレハがやり残したことを継続した。つま り、民主主義推進のプロテスターたちの誘拐、拷問、殺害……ワシントンはハーディーの支配を「民主主義への移行」と呼ぶことを選んだ。イエメン・タイムズ(2014年4月5日)によれば、3000人を超える政治犯がイエメンの刑務所をいっぱいにしている。 「監獄民主主義」は、アラビア半島における米国の軍事プレゼンスを強化することに仕えている。
ヨルダン:長期にわたる警察国家 依存
半 世紀以上もの間、三世代に及ぶ絶対専制の世襲君主たちは、CIAの資金供給のもとで中東における米国の利益に仕えてきた。米国の家来であるヨルダンの支配者たちは、アラブ民族主義者とパレスチナ人の抵抗運動を残酷に弾圧している。つまり、パレスチナに対するいかなる国境を越える支援も押さ えつけるためイス ラエルとの所謂「和平協定」を承認した。また、米国、サウジ、EUの支持を表明して、シリアに侵入する傭兵たちを訓練し武装させ資金供与し軍事基地を提供 している。
腐敗した専制君主となじみの少数独裁 組織は、破綻しないため果てしなく外国援助金に依存する経済を取り仕切っている。失業率は25%を超えており、人口の半数は貧窮の中で暮らしている。政権は、何千人という平和的なプロテスターたちを投獄した。近ごろのアムネスティ・インターナショナル・リポート(Jordan 2013)によれば、アブドゥッラー国王の独裁政権は「告訴なしで何千人も拘留している」。監獄君主制は、中東における米国の帝国建設を支えることで、またパレスチナにおけるイスラエルの土地の横領を手助けすることで中心的な役割を果たしている。
トルコ:NATOの防波堤と監獄 民主主義
タイイップ・エルドアンに率いられた 自称「公正発展党」の治世下で、トルコはNATOが援護したシリア侵略のための主要な軍事作戦基地へと発展した。エルドアンには米国との意見の違いがあった。とくに、ここ最近の公海上におけるトルコ船の急襲と9人の非武装のトルコ人人権活動家たちの殺害をめぐるトルコとイスラエルには冷めた関係がある。だが、トルコが国際資本供給の大幅依存に向かいNATOの国際 戦略への統合に転換したとき、エルドアンはさらに権威主義的になった。公共施設の彼の独断的な民営化と労働者階級地域の家族の立ち退きに 対する大規模な民 衆の異議申し立てに直面して、エルドアンは市民社会や諸階層を基盤とした運動と国家組織への粛清を開始した。2013年夏における大規模な民主化デモをものともせず、エルドアンは反対派に対して凶暴な襲撃を開始した。人権グループによれば、ゲジ公園の抗議期間中5000人を超える人々が逮捕され8000人が負傷した。
早い時期にエルドアンは、偽造された証拠に基づく政治的な見せかけ裁判で編成された「特別権限裁判所」を設立した。それは、軍将校、政党活 動家、労働組合活 動家、人権弁護士、さらにジャーナリスト、とりわけ彼の対シリア戦争支援を批判する者たちの何百人もの逮捕、投獄を容易にした。懐柔をねらった美辞麗句にもかかわらず、エルドアンの刑務所は、選挙活動家と国会議員を含む数千人のクルド人反政府派を収容している(Global Views 10/17/12)。
エルドアンが中東での民衆による民主主義的・民族主義的な運動に対抗する有能で忠実なイスラム主義の支えとして機能してきた一方で、彼が同地域におけるトルコの影響力の増大を追求するので、米国は、(トルコの)国 家機関や実業界や教育界に浸透するより従順で親ワシントン、親イスラエルであるギュレン・ムーブメント(訳注1) との政治的つながりを深める方向に向かっていった。後者(ギュレン運動)は浸透主義の戦術を採用してきているが、それは、権力に向かう静かな前進の中で国家の内部から敵を排除するものである。トルコの反帝国主義運動を弾圧するため、対シリア戦争への軍事的な頼みの綱として機能するため、イラン に対する制裁 を後押しするため、そしてイラクにおける親NATOマーリキー政権を支援するため、米国は依然エルドアンの「監獄民主主義」を頼りにしている。
【訳注1:ギュレン・ムーブメント:1941年にトルコ東部のエルズルムで生まれたフェトフッラー・ギュレンからはじまったイスラームの思想に基づく対話と教育を中心とした文化社会運動である。1960年代末から、イマームであるギュレンの教えに啓発された人々が、公式の組織もなく各個人を基礎とした無数のネットワークを通じて、対話と寛容をかかげ、宗教間・文明間対話と協力、平和的共存、教育活動を目的に展開している世界的な文 化社会運動である。とくに、多様な民族的・宗教的・社会経済的背景をもつ若者のために文化を越えた対話と相互理解を深めることを目的としたギュレン系の学校が、トルコ国内で500校以上、世界約100か国に1000校(日本にも11校)以上あるという。ギュレンは、1999年に病気治療の名目で米国に亡命している。以上がその外貌であるが、筆者がここで「親ワシントン、親イスラエル」と特徴づけている根拠については、残念ながら訳者は不詳である。後段のトルコに関する論評にも触れられているように ジェームズ・ペトラス教授は当然何らかの確証を得て論述しているものと思われる。
なお、下記の日本語情報でも指摘されているように、エルドアン率いるAKP(公正発展党)とギュレン・ムーブメントとの確執が世俗派の軍部およびエルドアン一族の汚職問題を めぐって顕在化し、2013年の私立学校閉鎖やゲジ公園抗議運動をとおして、その敵対関係 が現実政治に影響を及ぼしつつあるという。
●公正発展党(AKP)とギュレン・ ムーブメントの亀裂の経緯(Oct/9/2010)
http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP324210
●イスラム穏健派内部での確執 エルドアン体制にほころび(2013年12月)
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131224
●エルドアン首相とギュレン師の闘争 続く(2014年3月)
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/e/290b135f8d9d780ca2d15363101c8307
中東のグーラグ(強制収容所)と 米国の軍事援助
アラブ世界における警察国家体制と長期の権威主義的政治文化は、専制的支配者たちに対する長期にわたる米国の軍事支援の所産である。民主主義の不在は、地域における米国の軍事プレゼンスを拡大し前進させるための必須条件である。
米国の(イスラームを貶める=訳者)イスラモフォビアの大学教授、「専門家」、ジャーナリストおよびメディア批評家の小部隊は、独裁者たちの支配を促進し、支え、強化し、また長期にわたって噴出し続ける深部からの民主的な大衆運動を鎮圧することにおける米国の役割をまったく無視している。長いあいだ、親イスラエル中東文筆家、 学者、アイビーリーグ諸大学、これらのプロパガンディストたちは、アラブの独裁政権は民衆を支配し治めるために「有力独裁者」を求める「イスラム文化」あるいは「アラブ の権威主義的パーソナリティ」の結果であると主張してきた。主要なアラブ諸国のすべてにおける労働者の階級闘争の歴史、デモクラシー推進の抗議と主張をねじ曲げ無視して、これらの学者先生たちは、仮定された「利用できるオプション」を「実際的な力の政策(レアル・ポリティクス)」として独 裁政権と米国との 結びつきを正当化するのだ。
現実の民主主義が現れ始める所、政治 的な権利が行使され始める所ならどこでも、ワシントンは数あるクーデターを引き起こし国家の弾圧機構を支えて干渉する(夥しいケースの中でも、2011~14バーレーン、2011~2014イエメン、2013エジプト、2012ヨルダン)。中東「専門家」の大半が 権威主義的支配に対抗するアラブ市民を非難する一方で、彼らは何十万人もの民主主義推進のパレスチナ人の投獄、拷問を一貫して支持しているイスラエルの人種主義的な大多数を隠蔽し完全に見て見ぬふりをしている。
中東のグーラグ(強制収容所)を理解 するためには、「監獄体制」を支える中核となっている米国の「援助政策」の検討が必要だ。
エジプトへの米国援助:独裁者に 何十億ドル
エ ジプトの警察国家は、北アフリカから中東への米「帝国の弧」を繋ぎ止める錨である。エジプトは、リビア、スーダン、レバノン、シリアを不 安定化させ、パレ スチナ人の土地・財産を強奪するイスラエルに協力することには積極的に携わってきた。ムバラク独裁政権は、ワシントンから年20億ドル―その帝国軍隊のためにほぼ650億ドルを受け取ってきた。米国援助 は、デモクラシー推進派および労働組合活動家を投獄し拷問するその規模を強化した。ワシントンは、エジプト初の民主的に選ばれた政府に対 する軍事クーデターの後、2014年には15億5000万ドルもの大金に至るまでその独裁支 配への軍事支援を継続した。
新しい軍部の実力者アブドゥル・ ファッターフ・アッ=シーシー将軍による民主主義推進プロテスターの何千人もの殺害をめぐる「懸念の表明」にもかかわらず、所謂「テロ対策」と「安全保障」のためと称して資金援助には何の削減もなかった。米国議会立法の下でも独裁政権に資金援助を継続する ため、ワシントン は軍事クーデターのような暴力的な権力奪取と描写することを拒否した…それを「民主主義への過渡期」と見なしたのである。米外交政策におけるエジプトの鍵となる役割は、イスラエルの「東脇腹」(‘eastern flank’は、western flank「西脇腹」のミスではないかと思われる。=訳者)を守ることである。エジプトに対する米国援助は、議会およびホワイトハウスにおけるシオニスト勢力の配置による圧力と影響力の結果である。米国の援助は、エジプトのガザ国境の「警備」すなわちイスラエルのガザ封鎖の 効果を確実にすることが必須条件である。ホワイトハウスは、テルアビブがやっているパレスチナ人の土地強奪に反対する民族主義者や反植民地主義のエジプト人の大多数に対す るカイロの弾圧を支持している。イスラエルの利益を明確にする限りにおいて、米国の中東政策すなわちエジプト監獄独裁政権へのワシントンの資金提供は、シ オニストのワシントン戦略と一致するのである。
イスラエル:中東における米国の 「要」
米国の中東政策の大部分は、52の主要アメリカ・ユダヤ人組織の代表者たちおよびその171000人 の有給・常勤の活動家によって送り込まれた議会の多数派だけでなく、財務省、国務省、国防省および商務省の重要な政策決定の立場を占めているシオニストの 忠実な支持者の多数によって大規模に指令されていることは、独立した情報通の大部分の専門家たちが一致して認めていることである。「現 実の」米国の「国益」とイスラエルの植民地的野望との食い違いとして一部の批評家が引証するものの中に幾分かの真実はあるのだが、実のところではワシントンの米指導者たちは帝国の支配的立場とイスラエルの軍国主義とが一致した目的を持っていることを分かっている。要するに、服従するエジプトは広範囲にわたる米帝国とイスラエ ルの植民地的利権に奉仕しているのだ。
反帝国主義者のヒズボラ運動に対抗するイスラエルのレバノン戦争は、従順な取り巻きを地位に就かせようとする米国の努力、並びにパレスチナ人の自決権を主張する党派を壊滅させようというイスラエルの努力に貢献した。パレスチナ全域でのイスラエルの土地強奪をめぐるワシントンとイスラエルの不一致は、新植民地主義的なアラブの当局者たちに進められるパレスチナのミニ国家問題におけるワシントンの利害と逆方向に向かっている。在米シオニストの影響力の結果としてイスラエルは、米国民60%より高い生活水準を持つにもかかわらず一人当たり米国援助の世界最大の受け取り人である。1985~2014年の間、イスラエルは1000億ドル以上を受け取っている。その70%は、最優先の先端技術兵器開発を含む軍事用であった。過去40年間にわたる政治犯の囚人と近隣諸国 に対する軍事攻撃で世界記録を持つ国イスラエルは、米国軍事援助の記録も併せ持っているのである。最古参の「監獄民主主義」のイスラエルは、北アフリカから湾岸諸国に広がっているグーラグ(強制収容所)連鎖の中心的な結節点である。
サウジアラビア
サウジアラビアは、民主主義推進の反体制派の投獄センターとしてイスラエルに匹敵する。サウジの何千億ドルもの石油収益の循環再利用はウォールストリートを通じて現地のサウ ジ独裁者たちと親イスラエルの海外投資銀行家を潤している。サウジ=米国=イスラエル三者の収斂は、単なる偶然を超えるものである。それら三国は、中東の至るところにある独立推進・民主主義推進 のアラブ運動に対抗する戦いにおいて軍事的な利害を共有する。サウジは米国の主要な軍事基地と湾岸最大の情報作戦本部を擁している。この国は、米国のイラク侵略を支援した。シリアに対する米=NATOの代理戦争で何千人というイスラム傭兵に資金提供している。民主主義推進運動を粉砕するためバーレーンに侵攻した。イエメン警察国家の支援ではワシントンと共に介入 している。またこの国は、米国産軍複合体の最大最上の格好のマーケットである。1951~2006年の米国軍事売上高は総計800億ドルにのぼる。2010年10月には米国の武器および施設装備の購 入で605億ドルを承認した。
バーレーン:米国の空母と称される国
バー レーンは米第5艦隊の海軍基地として、またイラン攻撃の作戦基地として機能している。この国は、アフガニスタン占領および石油輸送航路の 米国支配に仕えてきた。アル・ハリーファ独裁政権は、非常に人気がなくデモクラシー推進の大多数からは一貫した圧力に直面して極端に孤立している。従属支 配者たちを支える ために、ワシントンはこのごく小さな国のために1993~2000年の4億ドルから以降10年 間の14億ドルにまでその軍事売上高を増大させた。ワシントンは、民主的な不満の増大に比例してその軍事売上高と軍事訓練プログラムを増加したのだ。そ してそれは、政治犯収容者の幾何級数的な増大という結果をもたらした。
イラク:戦争、占領、そして監獄民主主義の殺戮場
米国のイラク侵略と占領は、1兆5千億ドルおよび4801人の米軍死者の犠牲を払って、イラク人約150万人(ほとんどが民間人、非戦闘員)の殺戮に至った。2006年、米国が巧妙に手配した「選挙」が 米国の戦闘部隊、傭兵、軍事アドバイザーと軍事基地によって強化されたマーリキー政権就任のために演じられた。ケネス・キルズマンが「議会リサーチ・オフィス」 (February 2014)に投稿した最近の研究によれば、イラクには現在、16000人の米軍総人員と「請負業者」がいる。治安協力局にいる3500人を超える米軍事請負業者が腐敗した マーリキー警察国家を支えている。監獄民主主義は、米国のミサイル、無人機、さらに100億ドルを超える軍事支援を提供されてきた。ここには援助の25億ドル、2005~2013年の売上高79億ドルが含まれている。2014~2015年の間、マーリキーは36機のF-16戦闘機および多数の攻撃用アパッチヘリを含む 150億ドルの兵器を要求した。2013年には、マーリキー体制はその内戦の 結果、8000人の政治的な死者を記録した。
イラクは、米国の石油支配、湾岸支配、またイラン攻撃の発射台として決定的に重要な中枢である。マーリキーがイランに対して「思わせ振り」をしている一方 で、米帝国のグーラグ(収容所列島)の連鎖を推進するその役割は、湾岸地域におけるその現実の「機能」が明確にしている。
イエメン:アメリカのグーラグ (収容所列島)の砂漠の軍事前哨基地
イエメンは、アラビア半島に対するサ ウジの独裁支配と米国支配にとって高くつく軍事前哨基地である。「議会リサーチ・オフィス」(2014)に掲載されたジェレミィ・シャープの研究「イエメ ン:背景と米国関係」によれば、米国は2009~2014年の間、イエメンに13億ドルの軍事援助を供与した。サウジ アラビアは、大規模な反独裁政権暴動に直面したサーレハの独裁政権を支えるため2012年、32億ドルを贈与した。ワシントンは、 サーレハから「大統領」ハーディーへの権力移行を巧妙に手配し、また満杯の刑務所を維持するため軍事援助を2倍にすることによって彼の政権継続を 確実にし、抵抗は阻止された。ニューヨーク・タイムズ(2013年6月30日)によれば、ハーディーは「独裁者サーレハの繰り越し」だった。 イエメンにおける監獄民主主義の継続は、エジプト=イスラエル=ヨルダン軸とサウジ=バーレーンの帝国グーラグ(収容所列 島)との間の決定的に重要な環である。
ヨルダン:果てしない隷属とこじきの君主制
ヨルダンの専制的な君主政体は、半世 紀以上もの間、米国の資金提供の下にある。最近は、「引き渡し」計画に携わる米国の特殊部隊によって捕えられ誘拐された犠牲者の拷問センターの役割を果たした。ヨルダンは、フリーダ ム闘争に関わった ヨルダンのパレスチナ人の襲撃と逮捕でイスラエルに協力した。現在、ヨルダンはトルコと協力して、NATOが支援したシリアに侵入する傭兵テロリストのための訓練および兵器備蓄基地として機能している。イスラエル、ワシントンおよびNATOとの協力関係のために、この腐敗した監獄君主国は、大規模な長期の 軍事・経済援助を受け取っている。君主制とその取り巻き、刑務官、また一族の幅広いネットワークは、ロンドン、スイス、ドバイ、そして ニューヨークの海外預金口座に、その海外援助や不正送金の何千万ドルを掠め取っている。「議会リサーチ・サービス・リポート」(2014年1月27日)によれば、ヨルダンの国王独裁政権に対する米国の援助は、毎年6億6千万ドルに達する。追加の軍事援助1億5千万ドルは、シリアでのNATO介入の開始によって政権に注がれた。その資金は、ヨルダン=シリア国境周辺の部隊支援施設の増強に向けられた。付け加えれば、ヨルダンはシリアを攻撃するテロリストのため武器の主要な中継地として機能した。(米国の)「海外緊急事態」のために充てられた3億4千万ドルは、恐らくシリアに侵入した テロリストを武装するためにアンマン経由で注がれている。2012年10月には、ヨルダンはテ ロリストを供給し訓練する飛行場と基地を設置するための大規模な特殊部隊の派遣団を承認する米国との協定に署名した。
トルコ:地域に野望をもつ忠実な 従属国家
ロシア国境に面しているトルコは NATO南方の軍事防波堤として、66年以上のあいだ米国資金援助のもとにあった。ジェームズ・ザノッティの近ごろの研究「トルコ=米国相互防衛協力:可能性と挑戦」(議会リサーチ・サービス、2011年4月8日)によれば、トルコの「監獄デモクラシー」の軍事支配を強化するのと引き換えに、米国は、1800人の軍人を収容する重要な作戦本部インジルリクの巨大な空軍基地を含む貴重な軍事プレゼンスを確保した。トルコは、米国のアフガニスタン侵略と占領に協力しリビアのNATO爆撃を支援した。現在トルコは、シリアに侵入するジハード・テロリストたちの最重要な軍事作戦本部である。エルドアン首相の周期的な扇動的で民族主義的な大言壮語にもかかわらず、米帝国建設者たちは、中東および南アジア・中央アジアにおけるその数ある戦争、占領、軍事介入のためトルコの軍事基地と輸送回廊地帯を利用し続けている。米国はミサイル防衛システムの設置と引き換えに、所謂「安全保障援助」として武器売却をはるかに増大した。2006~2009年の間、米国の軍事売上高は220億ドルを超えた。2013~14年には、米 国に後押しされる第五列のギュレン主義者をエルドアンが国家機構から粛清するために動いたとき、トルコと米国の緊張は高まった。トルコの国政に浸透したギュレン主義者たちは、イスラエルと米国の軍事的利益に協力してより緊密に支援しようとその立場を利用したのだった。
結論
帝国アメリカの拡大は、帝国の軍事的前哨基地として仕える従属諸国家に武装させ資金提供しては北アフリカおよび中東一帯に張り巡らし築きあげられてきた。これらの従属政権は、独裁的な君主制、権威主義的な軍・民の支配者たちによって支配され、彼らの支配を維持するために権力と暴力に依り頼んでいる。米国は、 彼らの支配を可能にするため兵器、軍事アドバイザーおよび資金援助を供給した。エジプトからイスラエル、トルコ、ヨルダン、イエメン、イ ラク、バーレーンおよびサウジアラビアにわたり大きく伸びている米国の帝国的軍事基地の弧は、何万人もの政治犯を収容している刑務所キャンプの連鎖によっ て保護されてい る。
米国の関与、すなわち地域の至る所に 広がるそのプレゼンスは、監獄民主主義と独裁政権の連鎖を同時に生み出している。進歩的・保守的な政治学の先生や学者たちに反して、50年以上もの米国の政策は、残虐な暴君 を積極的に捜し出し、就任させ、保護してきた。彼ら暴君は、公金を略奪し、富を集中し、主権を引き渡し、そして経済を低開発のままにした。
親 イスラエルの学者たちは、米国の多くの名門大学でイスラーム世界における暴力、権威主義および腐敗の構造的基盤を系統的にねじ曲げてき た。すなわち、権威主義的な文民・軍事支配者たちと絶対的君主制に、さらに不正を働く軍隊、裁判官および警察官僚たちに資金提供、武器援助してきた米帝国建設者たちの役割を見て見ぬふりをして、その犠牲者、トルコやアラブの民衆に責任をなすりつけているのである。
大いに評判の高い親イスラエルの政治的プロパガンダの連中によって主に書かれ名門大学から出版された虚構にあふれた学術書とは反対に、中東の改造は、イスラーム社会における民主的な潮流の勢力次第である。それらの対抗する力は、学生運動の中に、労働組合と失業者、民族的な知識人たち、また 非常に現実的で明白な道理から帝国アメリカに反対しているイスラームの世俗諸勢力の中に見出される。米国はイスラエルと協力して、地域における大部分の独 創的でダイナミックな諸勢力を撲滅する政治的な刑務所キャンプの広大な連鎖の主要な組織者である。アラブの大物臣下たちは、活気に満ちた民主的な文化と運 動の周期的な爆発 を引き起こさせている。残念なことに、それはより大きな米国の軍事援助とプレゼンスという結果にもなっている。現実の文明の衝突は、東側 の民衆階級の民主 的な大志とヨーロッパ=アメリカ=イスラエルの帝国主義の中に深く嵌め込まれた権威主義(訳注2)との間にあるのだ。
【訳注2:深く嵌め込まれた権威主義:ローマ帝国の後裔であることを自認する「ヨーロッ パ」が侵略主義的植民地主義の歴史をたどってきたことは教科書でも語られるが、現代にかんして言えば、その「分割統治」を軸としたヨー ロッパのオスマントルコ分断政策、中東国分けシステムの上にシオニストが生み出したイスラエル/パレスチナ問題がある。著者のこのくだりは、イスラエルという 装置をつくることで自らの積年の反ユダヤ主義(反セム主義)の罪責の償いを何の責任もないパレスチナ人に負わせることによって、イスラエルの永久戦争と運命を共にする根深い欧米中心主義、そこから派生する権威的独善主義、と理解することができる。また「東側の民衆階級」とあるが、著者に残っている東西冷戦時の枠組みの影響か、たんに「西側(米欧)ではない」地域と考えられる。】
(以上、翻訳終り)
Copyright © 2014 Global Research
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2615:140509〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。