西部劇の思い出
- 2014年 5月 16日
- カルチャー
- とら猫イーチ
私は、西部劇が好きでした。 過去形で書かねばならないのは、近年になって、ハリウッドから西部劇の新作が全く世に出なくなったからですが、勿論のことに今でも好きなことには変わりはありません。
しかしながら、その昔、場末の映画館で親父に連れられて観た西部劇は、面白くも無く、ジョン・ウェインのような大柄で無骨な俳優が、先住民族や悪役を無造作に撃ち殺すのみでしたし、アラン・ラッド扮するシェーンの様な超人的ガンマンが、悪人の巣窟に乗り込んで退治する等の、とてもあり得ないお話でした。 幾ら子供でも、スーパーマンのような存在が実際にあるとは思えませんでしたので、映画館では一人、白けるだけでした。
反対に、今でも評価の高い「真昼の決闘」(High Noon)は、ある町の住民全部が、自ら任じた保安官を見捨て、地域の治安に危惧をも示さない、等と云う、これまた、到底、あり得ない作り話で、これでは、如何に開拓時代と云えども地域住民の安全が脅かされ、生活自体が成り立たない、と思われます。 とは言え、幼少時に観た折には、西部劇とは異質な印象を受けたのみでした。 現在では、この映画は、西部劇の形式を借りたハリウッドの「赤狩り」批判である、と思っています。 私の定義では、これは西部劇ではありません。
この間の事情はテレビ映画でも同様で、大方が、スーパーガンマンが百発百中のガン捌きで悪人を撃ち殺す単純明快で、阿保らしくも退屈な物語を繰り返していました。
ところが(長い前フリでした、御免なさい)、或る西部劇のシリーズは、少し趣が違いました。 まず、主人公が、この世に正義を齎す毘沙門天の如き保安官や勧善懲悪を実現する超人的ガンマンでは無く、何と、賞金稼ぎだったのです。 それは、後年になり、一世を風靡したアクション・スターであるスティーブ・マックィーン(Steve McQueen)が演じた賞金稼ぎ(Bounty hunter)ジョッシュ・ランダル(Josh Randall)が主人公のWanted : Dead or Alive (日本語の番組名は、「拳銃無宿」)でした。
この西部劇シリーズが、何故、群を抜いて私と亡母の関心を惹いたのか、と云いますと、主人公がそんなに強くなく、時たま、絶体絶命の窮地に陥るのです。 ですが、その窮地を自身の決死の戦いや、弱いはずの幼少の者や女性に救われるのです。 銃撃戦では、それまでの西部劇には無かった程に臨場感があり、主人公が操るソードオフ・ガン(sawed-off gun: 銃身と銃床を切り詰めた銃。 此処では、Winchester M1892)のポイント・シューティングが必死さを表していました。 因みに、ポイント・シューティング(Point shooting)とは、CQB(Close Quarter Battle: 近接戦闘)で、通常の照星に依る照準での射撃が出来ない場合に、目標を目視して射撃する手法です。 西部劇での腰のホルスターからの抜き撃ちがそれです。
マックィーンの臨場感のある射撃演技は、当然で、彼は、実銃射撃に長じていて、中でも拳銃での射撃は、格段の腕前だったのです。 テレビ映画シリーズでの実銃の取扱を観るだけで、並みの腕前では無いのが分かります。 黒沢映画「七人の侍」の翻案である、Magnificent Seven(「荒野の七人」)の製作中には、彼が他の俳優に実銃操作を教えたほどなのです。 余談ですが、この映画中で彼が射撃演技する際には、眼を閉じずに目標を捉えて射撃しているのが観えます。 ところが、ユル・ブリナーは、射撃演技中の何度かで眼を閉じているのが御愛嬌です。
Wanted : Dead or Alive(「拳銃無宿」)のシリーズは、結構長く続き、総数で94話を数えます。 Season one では36話、Season two では32話、Season three では26話で、合計94話のエピソードのDVDが、廉価で買えます。 これはUSのもので、日本語吹き替え版は、可成り高価になります。 私は、日本語の吹き替え版には興味が無く、何よりマックィーンの肉声が好きなのでUS版を購入して、数十年ぶりに視聴しています。
版権が切れたためか、ネットでは、シリーズの多くを無料で視聴出来ますが、
矢張り、全てのエピソードを何時でも視聴出来るためにはDVDは便利です。 今では、この時代(1960年代)のテレビ映画シリーズの多くがネットで視聴可能ですし、DVDも廉価で購入出来るのが嬉しくもあり、また、時の経過を知らされることにもなり、自身の年齢を思わざるを得ません。
シリーズ中で、放送当時も、今も、ある種の感動を残すエピソードは、聾唖者の少女の警護役に廻ったジョッシュが、悪党と銃撃戦の末に撃たれる寸前に、警護対象である当の少女がライフルで悪党を撃ち殺して、彼を、救うものです。 このエピソードでは、少女が、後年になり、その文学的才能を開花させる余韻を残して終わるのですが、私は、1960年代当時も、今も、このエピソードは、何か米西部での歴史的事実に因んで製作されたものかも知れない、と思っています。 深読みし過ぎ、かもしれません。 ヘレン・ケラーが西部劇に出ることはありませんし。 でも、当時の西部劇では、異例の展開でした。
このシリーズで人気の出たマックィーンが、共演のブリナーを喰った「荒野の七人」の冒頭では、亡くなった先住民族の遺体を埋葬するため、ブリナーと共に霊柩馬車で、反対派のガンマンが待ち受ける墓場に向かう場面があります。 この場面は秀逸で、墓場への途上で沿道の二階屋からの射撃にマックィーンが応射するのですが、撮影時には実弾での応射であったそうです。
ともあれ、こうした場面は、何か、それまでの人種差別、女性差別、そして、あらゆる社会的弱者への差別、に立ち向かうかのような転換が西部劇に起こったかのようでした。
やがて、当時の西部劇シリーズで一時間番組であったローハイド(Rawhide)でカウボーイを演じたクリント・イーストウッドが主演した「荒野の用心棒」(黒沢映画「用心棒」の翻案)を筆頭に、一連のイタリア製西部劇であるスパゲッティ・ウェスタン (Spaghetti Western:日本では、「マカロニ・ウエスタン」と呼ぶ)が、西部劇を大きく変容させて行ったのですが、私は、次第に、この西部劇紛いのエログロ映画の奔流には興味を失ってしまいました。
私の頭に有る西部劇は、Wanted : Dead or Alive(「拳銃無宿」)の世界であり、Magnificent Seven(「荒野の七人」)で時間が止まったままです。 そして、マックィーンが世を去った後では、映画館の大画面で観るべき西部劇は無くなりました。
http://www.youtube.com/watch?v=gbDzrqFuLsE
Wanted, Dead or Alive 1×01 The Martin Poster (シリーズ第一作)
蛇足
後年になり、米西部開拓時代の歴史的事実を知ると、幼少時の直観は正しくて、ガンマンが、街の大通りで正々堂々と対決して雌雄を決する「決闘」等は無かったのです。 ただ、ワイアットを始めアープ兄弟がドク・ホリデーとともに、OK厩で、クラントン一家と対決した出来事が例外的に実在したのみでした。 米西部の歴史では、この史実が有名で、ハリウッドでも何度となく映画化されました。 ただ、不満が残るものばかりです。 その中では、ケビン・コスナー主演の「ワイアット・アープ」(Wyatt Earp)が良いのですが、コスナーはもっと痩せて、筋肉質にしないとワイアット・アープには観えません。
些少なことですが、ワイアット・アープがOK厩の決闘時に使用した銃器の特定が出来ていません。 Wikipediaでは、スミス$ウエッソンM3(44口径)である、としているのですが、コルト・ピースメイカー(45口径)との説も有力です。
ただ、彼が、長銃身のコルト・バントライン・スペシャルを携帯していた、と言うのは伝説に過ぎません。 個人的には、中折れ式で、銃弾の装填がコルト・
ピースメイカーよりも素早く出来るスミス&ウエッソンM3を使った、と観ている
のですが、BBCのドキュメンタリー番組では、コルト(しかも長銃身)説を採用しています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Smith_%26_Wesson_Model_3
Wikipedia Smith & Wesson Model 3
http://www.gunclassics.com/tombstone.html
OK Corral Shootout in Tombstone, Arizona
http://www.youtube.com/watch?v=O8SK97DPxhE
BBC The Wild West 3of3 The Gunfight at the O K Corral YouTube
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