雇われママ・ヤマトの奮戦(?)記
- 2014年 5月 31日
- 交流の広場
- 熊王信之
年月日不詳の都内某所。 夜の闇の中に、怪しく瞬くネオン・サインが、やけに多い場末の歓楽街の一角にあるバーのカウンターで、雇われママのヤマトが一人で店番。 そこへ常連の一人が現れる。
ヤマト「あら~。 大場(オバ)ちゃん。 お久し振りね。 お見限りかも、って、思っていたのよ、~。」
大場「ママを忘れる筈ないだろう? 色々、あってさ~。 うちの会社も大変で、若い社員が会社のデータを持ち出してさ~。 違法な営業をやっている、とかさ~。 業界で叩かれるし。 また、この社員を拾う会社が出てくるしさ~。 知っているかな? 路史亜って言う会社? それが原因で、ブラック企業とか世間では云われるし、参るよね。 アッチ、チっと。 こりゃ、また、変わったおしぼり。 迷彩だよね。
うちの会社も、下り坂で、あちらこちらで対抗する会社が出てくるし、営業所を畳むところもあるし。 頭が痛いよ。 ああ~。 ボトル、あったの? 」
ヤマト「いつものとおりで良いのね。 大場ちゃんも大変ね。 でもね、うちも大変なのよ。 隣のお店、知っているでしょう? 大阪から来たママのやっているお店。」
大場「ああ。 マスターは、愁(シユウ)ちゃん。」
ヤマト「大場ちゃん。 最近、御執心らしいわね。」
大場「いや~。 あそこのマスター、うちの会社の株主でさ。 それも可成りの。 それを、うちの専務が知っていてさ。」
ヤマト「株主? 社長さんや専務さんが知っているぐらいの株主なら、相当なものね。 流行っているのね、お隣。 うちとは違うのね。」
大場「ママ。 それだけれど。 お店、昔とは違って来たね。 第一、ママの服が変わってきたように思うんだけれども。 それって、迷彩でしょう。 お店の内装も変わったよね。
昔の軍隊風キャバレーみたい。 この間、会ったある常連さんが言っていたけれど、ママが変わった、ってね。」
ヤマト「私は変わらないけれど。 オーナーが変わったかもね。 私、オーナーには逆らえないから。 」
大場「フーン。 ママからそんな話、聞く、とは、ね。 昔、この店、やる時さ。 お客様には、絶対、笑顔で接して、依怙贔屓無しで、皆様に愛されるお店にして行きたい、って、言っていたのに。 お店を取り巻く環境も、友好的で善意に溢れる社会環境で、お客様の善意に支えられて何時までも営業出来るようにありたい、って、政治家みたいなこと言っていたよな~。 それが、最近は、ママがお客さんのえり好みをするようになった、って言う人が居るよ。 体育会系の御客さんが多くなってきた、って噂だよ。 それに、常連さんも、何だか、武闘派が多くなってきた、って話だし。 ママ。 えらいものにはまった、って噂だよ。
そうあれだ、ママは、サバイバル・ゲームにはまっていて、しかも、筋トレに励んだせいで女ランボー並みの体になって、二の腕には、タトーを入れた、って。 怖いよう。
そうそう、話は替わるけれど、お店の外に居るでしょう。 ガードマン。 あれ、何? 」
ヤマト「其れなのよ。 お隣のお店のことを言おうとしていたの。 実は、お隣のお店がね。 うちの店の前まで看板を出すの。 何度言っても無視されるので、ガードマンに見張って貰っているの。 お向かいのお店も、同じことするのよ。 自分のお店の前じゃ無くて、うちの店の前にごみを出すのよ。 注意すると、ここは自分の店の敷地、とか分け分からないこと言うし。
そうそう。 大場ちゃん。 お向かいのお店もお馴染みなのね。 何度かお見かけしたわ。
あのお店。 玖禰(クネ)ちゃん、って言うママが有名で。 若いし、私より綺麗よね。
でも、お店のバイトの子には評判が悪いのよね。 うちとそととは違うらしいの。 大場ちゃん、あのママが好き? 好きなのね。 悔しい。」
大場「ママ。 嫉妬してくれているの? 」
ヤマト「ああ~。 私、大場ちゃんにお見限りね。 オーナーも、私をお見限りかもね。
オーナーはね。 光熱水費を使いすぎる、って、電気・ガス・水道を見直せ、とか厳しいこと言っているし。 地震があった時に、お店がガタガタになったのは、私のせい、私がお店の中を整理・整頓して来なかったから、だって。 出入業者の言いなりに仕入するのが悪い、って決めつけられるし、不用‣不急のものを買いすぎて、経費が掛かり過ぎる、って言われているの。 バイトの子も雇いすぎ、って。 大場ちゃんが言っていたお店の内装も昔の方が良い、とか言われるし。 私の服装もいけ好かないとか、筋トレをやめろとか、店の内装を観ると、サバゲーで使うエアーガンとかが並んでいて、自衛隊の食堂で飲んでいるような気分になるとか、言われるし。」
大場「だからさ。 何かあった時には、ママの助けになる、って何時も云っているでしょう?
地震の後片付けにも来たしさ。 大丈夫、隣のお店や、前のお店と揉めたときには、力になるからさ。 オーナーとの仲は、何とかしない、とね。 私には、なんとも言えないよね。ママなら、力づくでも何とかなるよ。 ハハハ~。
でもね。 うちの会社も、うちの家族も、他所様の面倒を観る暇があれば、会社や家庭の面倒をみろ、って言うしさ。 大変だよ。 これからは。
それ、っと。 ママ。 最近、昔の彼氏と会ったんだって? 女雲(「メグモ」って読んで下さい、「ジョウン」って読まないで下さい。)さん、だったかな。 」
ヤマト「あの人、昔の彼、じゃないわよ。 お向かいのお店の御親戚よ。 私は、会いたくないけれど。 返して欲しいものがあったから。 だけれど、良い男ね、彼。 素直に謝ったし。 じゃ許してやるか、って、話になるでしょう。 」
大場「フーン。 何だかわかんないけれどもさ。 ママもよくやるよね。 お見限りになるのは、私の方かもね。 」
ヤマト「あら、大場ちゃんが嫉妬? 」
こうして大場ちゃんとヤマトの少し色っぽい関係もジ・エンドに、なるかな? まさか。
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