自民党と安倍政権の権力が浸み込み始めた
- 2014年 6月 2日
- 評論・紹介・意見
- 右傾化小澤俊夫
メール通信「昔あったづもな」第13号
自民党と安倍政権の権力がこの国の隅々に浸み込み始めた。
四月二十一日午後七時のNHKニュースを見て驚いた。地方自治体が、市民の講演会や展示会に対して、会場の提供を拒否したり、会の後援を断ったりするケースが急増しているというのである。理由は「政治的中立を配慮する」ということだそうだ。調査は県庁所在地、政令指定都市と東京二十三区についてのものだそうだが、その自治体の対応内容は、会場使用を断ったものが奈良市で二件、内容の変更を求めたものが東京都、福井県、京都市など五自治体で六件。会の後援申請を断ったものが札幌市、宮城県、茨城県、京都市、神戸市、福岡市など十四自治体で二十二件あったということだ。会合の内容は憲法に関すること十一件、原発に関すること七件。その他に社会保障、税金、介護、TPP問題などであったとのこと。いずれも市民にとって切実な問題である。
地方公共団体が市民の活動に制限をかけてくるのは、大きく言えば時の政権の顔色を窺って、その意を汲んでのことであろう。末端の公務員が政権の意を汲んで、政権のやりたい方向に働くことは極めて危険な傾向である。
その典型的なケースは日本の軍隊であった。軍隊では、どの階級の軍人にとってもそれぞれの上官の命令は絶対だった。戦闘行動ではもちろんこと、日常の行動でも「命令である」と言われたら絶対に服従しなければならなかった。なぜならば、「上官の命令は天皇陛下の命令である」ということになっていたからである。だが、たとえ戦闘行動の最中でも、一つ一つの場面での命令が天皇の命令であるはずはない。その場その場で思いついた命令である。しかし、それをあたかも天皇の命令であるかのようにして、強制力をもたせ、全員に従わせた。
上に述べた会場使用の拒否にしても、内容変更の要求にしても、後援申請の拒否にしても、管轄する総務省の大臣からの指示ではあるまい。いわんや安倍首相からの指示ではあるまい。末端の公務員が思いついた規制であろう。だがそれをあたかも国家の大命令であるかのように強く、絶対的な規制として市民に強要する。この構造は、ぼくの目から見ると戦争中の日本軍の命令構造と同じものに見える。
この命令構造によって、軍の権力の意志は一兵卒に至るまで浸透したのであった。そして、今、平和であるはずの日本社会で、天皇ならぬ安倍首相の意思が市民の心の中に浸み込んできているのである。非常に危険なことだと思う。
これと同じことが生活保護申請についても起きているそうだ。五月九日の「東京新聞」朝刊によれば、生活保護費の不正受給に関する情報を市民から募る専用電話が少なくとも十二の都市で開設されるそうだ。設置した市は、「不正受給が増え、行政だけでは発見できない事案もある」と言っているそうだが、これは明らかに市民の「相互監視社会」を作ることになる。現行憲法のもとでは絶対に認められない制度である。だがこの制度も大臣からの指示ではなく末端の公務員の工夫であろう。公務員は本来「公僕」なのであって、市民の側に立って発想するべきなのだ。にも拘らずこの制度は市民監視の権力側の発想に立っている。
末端の公務員の、自主的発想の右傾化は大学にも及んでいる。五月二十一日の「東京新聞」によれば、二月に完成したばかりの京都大学医学部資料館で、戦争中に細菌兵器の開発を行った七三一部隊について説明する展示パネルが、完成記念式典後、撤去されたということだ。
七三一部隊というのは関東軍防疫給水部のことで、一九三六年、中国東北部、ハルビン市郊外に細菌研究室や特設監獄などを建設し、中国人、ロシア人捕虜に人体実験をした。その犠牲者は三千人とも言われている。京大医学部は部隊長石井四郎が卒業生であったため、どのように関与したかを解説するパネルを二枚展示したのだった。
このパネル撤去も文部科学省からの命令ではなかっただろう。京都大学の事務官(これも公務員である)が、直接的には文科大臣、間接的には安倍首相をはじめとする、いわゆる「自虐史観批判者」たちの意向を汲んでおこなったものと考えられる。
こうやって安倍首相はじめ現在の権力者たちの国家主義的政策が、この国の隅々まで浸透しつつある。本来「公僕」であるはずの公務員たちが、それぞれの場で「役人」として、権力の意思を汲んで市民をおさえにかかってきている。その意味でも「あの日本をとりかえそう」としているのである。これが進んでいくと、ボールは止まらなくなる。(2014・5・22)
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion4869:140602〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。