安倍氏の憲法再解釈を受けてニューヨーク・タイムズ社説が批判―アジアの緊張緩和が必要なときに「納得し難い転換」
- 2014年 7月 4日
- 時代をみる
- 「ピースフィロソフィー」集団的自衛権
7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について 」と安倍氏の記者会見を受けて『ニューヨーク・タイムズ』はただちに社説で、おもにアジアでの緊張緩和の妨げになるとの観点から批判した。この点はもちろん重要であるが、この記事は、この閣議決定の前後に行われた各社の世論調査によると日本の有権者の過半数が集団自衛権行使にも九条改憲にも反対しているということに触れていない。この閣議決定はアジア隣国を警戒させるだけではなく主権者である日本市民への裏切りであることをしっかり書くべきである。また、フィリピンがあたかも戦時に日本による被害をそれほど受けていないかのような印象を与える表現も問題がある。このように問題点はいくつかあるがやはり日本語に訳して周知すべき記事と思い翻訳した。中韓が、「日本がこの新たな権限をどのように使うのか警戒している」との部分の「新たな権限 new authority 」には苦笑した。社説の筆者の意図は知らぬが、権力者の権限を制限する憲法を権力者が勝手に変えて「新たな権限」を得たという皮肉がこめられているとしたら、よくできたものだと思う。@PeacePhilosophy
官邸HP「総理の演説・記者会見など」より |
Editorial
社説
Japan and the Limits of Military Power
日本と軍事力の制限
http://www.nytimes.com/2014/07/03/opinion/japan-changes-limits-on-its-military.html?src=twr
By THE EDITORIAL BOARD JULY 2, 2014
2014年7月2日 論説委員会
Prime Minister Shinzo Abe has disturbed many in Japan and increased anxiety in Asia by reinterpreting his country’s pacifist postwar Constitution so that the military can play a more assertive role than it has since World War II. While a shift in Japan’s military role was never going to be readily accepted by many, Mr. Abe’s nationalist politics makes this change even harder to swallow in a region that needs to reduce tension.
安倍晋三首相は、終戦以来今までよりも軍隊がより積極的な役割を果たせるように日本の戦後平和憲法を再解釈することによって日本の多くの人を動揺させ、アジアにおける不安を増加させた。日本の軍事的役割における転換はそもそも日本の多くの人にとって容易に受け入れられるものではなかったが、緊張を緩和しなければいけない地域において安倍氏の国家主義的政治はさらにこの転換を納得し難いものにしている。
It is difficult to overstate the significance of what Mr. Abe has done. Since 1947, Japan’s Constitution, written and imposed by the American Army, has permitted the military, known as the Self-Defense Forces, to engage only in self-defense. That meant the large and technologically advanced armed forces was barred from “collective self-defense” – aiding friendly countries under attack – and thus was far more constrained than those of other nations.
安倍氏が行ったことの重要性はいくら強調しても誇張にはならない。1947年以来、米陸軍によって起草され日本に課された憲法は、「自衛隊」として知られる軍隊に対し自衛に携わることのみを許可してきた。それは、規模も大きく技術的にも優れている軍隊が「集団的自衛権」行使-友好国が攻撃されたとき援護すること―を禁じられ、従って他国の軍隊よりもはるかに大きな制限を受けていたことを意味する。
With the reinterpretation, Japan’s military would still face restrictions on what it could do, but it would be allowed for the first time, for example, to help defend an American ship under attack, destroy a North Korean missile heading toward the United States or play a larger role in United Nations peacekeeping operations.
再解釈により、日本の軍隊はまだその行動に制限が加えられるが、例を挙げれば、攻撃を加えられた米国艦船を防護したり、米国に向かう北朝鮮のミサイルを破壊したり、国連平和維持作戦により大きな役割を果たすといったことが初めて可能となる。
Mr. Abe has long argued for changing the Constitution on the grounds that Japan should assert itself as a “normal” country, freed of postwar constraints imposed as a consequence of its wartime atrocities and defeat. He now has another argument for expanding the military’s role: Japan, the world’s third-largest economy after the United States and China, needs to be a fuller partner with the United States in countering China as it increasingly challenges the conflicting claims of Japan and other countries in the South China and East Asia Seas. Washington has long urged Tokyo to assume more of the regional security burden.
安倍氏は 戦時の日本による残虐行為と敗北の結果として戦後に課された制約から自由になり、日本が「普通の」国として自らを主張するべきであるとの根拠により改憲を長い間訴えてきた。安倍氏には今軍隊の役割を拡張するためのもう一つの主張がある。米国と中国に次ぐ世界第三位の経済を持つ日本が、南シナ海と東シナ海における日本や他の国々との相反する主張に対しより強く挑戦するようになった中国に対抗するにあたり、米国にとってのより完全なパートナーになるべきというのだ。
What stood in Mr. Abe’s way was Article 9 of the Constitution. It says the Japanese people “forever renounce war as a sovereign right of the nation and the threat or use of force as means of settling international disputes.” Any change should have required a constitutional revision, which would mean winning two-thirds approval in both houses of Parliament, followed by a referendum. Instead, Mr. Abe circumvented that process by having his government reinterpret the Constitution.
This is not the first time Japanese leaders have gone this route. Past governments have reinterpreted the Constitution to allow the existence of a standing military and permit noncombat missions abroad. But this step goes further.
安倍氏にとって邪魔だったのは憲法第九条であった。九条は、日本国民は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」としている。これをどのように変えるにしても、両院の三分の二の賛成に続く国民投票という改憲手続きが必要になる。安倍氏は、そのような手続きを踏む代わりに、自分の政府に憲法を再解釈させてその手続きを回避した。日本の指導者がこのような手段を取ったのは初めてとは言えない。過去の政府も憲法を再解釈し、常備軍の存在を許し、外国の非戦闘地域への派遣を認めてきた。しかし今回はさらに踏み込んだ形となる。
Although some countries, like the Philippines, endorsed Japan’s move, China and South Korea, which suffered greatly from Japan’s aggression, are wary about how Japan might exercise this new authority. While they share blame for the current tensions with Japan, Mr. Abe is fueling their fear and mistrust with his appeal to right-wing nationalists and their abhorrent historical revisionism. For instance, he unnecessarily reopened the politically charged issue of the Japanese military’s use of Korean women as sex slaves during World War II, though his government’s recent report acknowledged the abuses. Still, the South Koreans have reacted with outrage.
フィリピンのように日本の動きを支持する国もあるが、日本の侵略に多大な被害を受けた中国や韓国は、日本がこの新たな権限をどのように使うのか警戒している。現在の日本との緊張関係には中国や韓国も責任があるが、右翼的国家主義者たちとその人たちによる嫌悪すべき歴史修正主義に安倍氏が訴えかけていることに対する恐れと不信に安倍氏が拍車をかけている。例を挙げれば、朝鮮半島の女性たちを日本の軍隊が性奴隷として使った、という政治的な議論を呼ぶ問題を、安倍氏は必要もないのに再開させた。最近の政府による報告書では、虐待の事実は認めたにもかかわらずである。それでも韓国の人々は激しい怒りをもって反応した。
The Japanese Parliament must still clear legal barriers to the constitutional reinterpretation by revising more than a dozen laws, which could take months. Mr. Abe’s governing coalition has a comfortable majority in both houses, and the revisions are expected to pass. Even so, there is time for citizens to be heard through their elected representatives. It is fair for them to ask Mr. Abe to prove that the shift “is not going to change Japan into a country that wages wars.”
日本の国会はまだこの憲法再解釈の法的障壁をクリアしなければいけない。そのためには1ダース以上[12以上]の法律を改正する必要があり、何か月もかかると言われている。安倍氏の連立政権は両院において余裕のある多数派を占めており、これらの法改正は通過することが予想される。そうだとしても、市民が自分たちが選んだ国会議員たちを通して意見を表明する時間はある。市民たちが安倍氏に、今回の政策転換が「日本を戦争をする国にするようなものではない」(注)ことの証明を要求することは正当である。
(以上)
注:安倍氏が7月1日の記者会見で「日本が再び戦争をする国になるというようなことは断じてあり得ない」と言った言葉を指していると思われる。
日本の解釈改憲問題についてのNYT紙の過去記事の日本語訳は
5月9日
ニューヨーク・タイムズ社説、安倍首相の解釈改憲への動きを批判
2月19日
ニューヨークタイムズ社説、憲法を個人の意のまま変えようとする安倍首相を最高裁で裁けと警鐘!
今回の社説を報道した日本メディアの例:
時事通信
集団的自衛権「納得し難い」=「国家主義者に配慮」と首相批判-米紙社説
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014070301007
ANN
米有力紙社説 安倍政権の“憲法解釈変更”に警戒感
http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000030031.html
産経新聞
憲法解釈変更に慎重姿勢 NYタイムズ紙、中韓の批判を強調
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140704/amr14070411180004-n1.htm
初出:「ピースフィロソフィー」2014.7.4から許可を得て転載
http://peacephilosophy.blogspot.jp/2014/07/blog-post_4.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔eye2687:140704〕
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