パロディ「国会中継:三代目総理の閣議決定」
- 2014年 7月 11日
- 評論・紹介・意見
- パロディ盛田常夫
委員長:それでは、これより党首討論を始めます。「旧世代の党」代表、黒原珍太郎君、お願いします。
「旧世代の党」黒原代表:総理ね。私はあなたの集団的自衛権の閣議決定、たいへん高く評価しますよ。誰が作ったかも分からないような憲法をね、後生大事に守ることなんて必要ない。あなたの決断は正しい。そもそもね、アメリカに押し付けられた憲法が日本人を骨抜きにしたんだよ。あれは有名無実な無用の長物どころか、日本人を駄目にした張本人なんだ。だから、シナやチョウセンが図に乗って、日本を挑発するんだ。
昔だったら、一発かまして済んだことなんだが、平和憲法なんてろくでもないものに手を縛られたために、甘く見られてんだよ。だから、集団的自衛権で、何ならやってやるぞという姿勢を見せなきゃならんので、閣議決定は当然のことだな。
学校では劣等生だったと陰口をたたく者もいるが、あなた、そんなことは気にする必要ないな、総理。学校の成績で人生が決まるものじゃない。あなたのような行動力をもっている政治家はそんなにいない。たいしたもんだよ。
そこで、三代目総理に聞きたいのだが、集団的自衛権の閣議決定で満足することなく、戦後憲法を骨抜きにする決定を次々に打ち出して欲しいが、どうですか。
三代目総理:黒原先生にお褒めをいただき、恐縮いたします。私もかねがねですね、黒原先生と同じ思いでいましたが、ようやく憲法の制約からですね、一歩抜け出すことができました。これでですね、私の祖父、曾祖父にも顔向けができ、私の家系のですね、進取の精神を守ることができて、たいへんうれしく思っている次第です。これも旧世代の党ほかの皆様のご支援のおかげだと。
「旧世代の党」黒原代表:総理ね。自慢話や形式的な謝辞は結構なので、もっと実質的な議論に入りましょう。今の憲法ね、あなたも分かっているように、これは無用の長物。何の役にも立たないばかりか、日本民族の足かせになっている。この際ね、閣議決定で一挙に戦後憲法を骨抜きにしてね、明治憲法の精神に戻るべきたと考えるが、どうですか。
三代目総理:お説の通りです。私の家系はですね、憚(はばか)りながらですね、明治維新を断行した由緒ある家系ですから、近代日本の礎を築いた家系と誇りをもっていますね。明治維新によって日本がですね、近代国家に生まれ変わってですね、アジア諸国を従えて、欧米諸国と対等にやり合う時代を築いたのですね。したがって、明治の精神を基礎に、強い日本を築いていくことに、異論があるはずもありませんね。
「旧世代の党」黒原代表:明治の日本はアジアの遅れた国を欧米の植民地支配から解放したんだ。左の奴らは帝国主義と批判しているが、これこそ自虐史観だな。シナもチョウセンも国がバラバラで、近代化が進んでいなかった。だから、日本が手取り足取りで近代化の模範を示してやったんだよ。まぁ、多少の行き過ぎがあったかもしれないが、それは仕方がない。そういう些末なことに捕らわれて、自分を貶める史観は間違ってるんだよ。そうでしょう、総理。
三代目総理:お説の通りです。ですから、私もですね、常々、侵略という言葉を絶対に使わないようにですね、心がけているわけですね。侵略かそうでないかはですね、立場によって180度変わりますから、一部の人がいうようにですね、日本の侵略だったと断言することはですね、自らを貶めてしまいますね。日本人は過去の歴史にもっと誇りと自信をもつべきだと。
「旧世代の党」黒原代表:そこでね。あなたの党も主張しているように、天皇を国家元首とするように憲法解釈を変更することを考えたらどうか思うが、どうだろう。日本は世界に例を見ない2000年の歴史をもつすばらしい天皇制国家だよ。戦後憲法はこういう日本の伝統を破壊して、自虐的歴史観を植え付けてしまった。天皇制をないがしろにすることは日本人として許されないんだ。総理、この際は憲法改正手続きなんて七面倒くさいことを考えず、閣議決定で天皇を元首とすると宣言したらよい。その閣議決定を踏まえて、公立学校すべてに天皇陛下の御真影を置いて、重要行事の際には、日の丸掲揚と同時に、壇上に掲げて、天皇家を敬うようにしなけりゃだめだね。天皇制国家の存続のために命を賭けて闘う気概がなければ、日本人はしゃんとしないな。
三代目総理:すぐにそこまではですね、考えていませんが、いずれ機会があればですね、チャレンジする課題であるかと。今回も外務省OBの方々にですね、いろいろ教えを乞いました。憲法改正など百年経ってもできないから、これからは閣議決定で一つ一つ憲法を変えていくのが良いと。今後とも、関係各位とともに、黒原先生が正しくご指摘になったですね、無用の長物の憲法をですね、骨抜きにしていくのが良いと。
「旧世代の党」黒原代表: それからね、総理。ここまで来たからには徴兵制の導入だね。「来るなら来い。返り討ちにしてやるぞ」と言っておきながら、徴兵制を敷かなければ、腰が引けてると思われるからな。相手になめられないように、ここは徴兵制だな。そこまでやれば、シナもチョウセンも、かんたんに攻め込んで来れんよ。半年でも1年でもいいよ。とにかく、今の若者は精神がたるんでいるから軍隊でびしっと鍛えないとね。皇軍の精神を注入することだね。一石二鳥だよ。
それから、もう一つ大事なことはね、政権の覚悟を示すためにも、政治家の子息や孫も、率先して戦場に行く姿勢を見せることだよ。三代目内閣は、政治家が安全な場所にいて、国民を犠牲にするだけの「軍事オタク」内閣だと疑われているところもあるからな。
三代目総理:徴兵制はですね、その必要がでてきた時にですね、閣議決定を行えばよいことであって、今はことを荒立てない方が良いですね。これからはもう憲法改正など難しいことを考えなくてよくなりましたから、もう何も心配することはありませんね。
ただ、政治家の家族が率先して戦場に行くという考え方には賛同いたし兼ねますね。政治家や有能な官吏の家族が戦場の犠牲者になるとですね、その家系が途絶えてしまいますね。国家を支えてきた優秀な家系を潰すことにもなりますから、その際は徴兵制から免除される家族を指定して、政治家には家族の行く末に憂慮することなく、国家の平和と安定のために大胆に政策を立案し、実行できる条件が必要ではないかと。
それも含めてですね、憲法改正や国会決議などという面倒な手続きに頼ることなく、迅速に閣議決定して行うことが肝心かと。
「旧世代の党」黒原代表:総理、流石だ。あなたのことを三流大学卒だと見下す者もいるけど、政治家に学歴と知性は何の役にも立たない。なまじ知性があると実行力が削がれる。知性と実行力を兼ね備えているのは政治家の中でも私ぐらいで、私を除けば、あなたのように実行力がある政治家は少ない。良い知恵者が傍にいれば、あなたは立派な宰相になれるよ。
うちはね、5人の息子がいて、孫もいる。うちの家系はみな、知事や議員など社会の重職について、国家にたいへんな貢献をしている。こういう優れた家系を絶やしてはいけない。だから、総理、あなたの言ったことは正しい。一般国民なら多少の犠牲が出ても国家の運営に支障はないが、われわれのような優れた家系から犠牲者がでれば、将来の国家運営に支障が出るからな。だから、そういう閣議決定の際には黒原家も入れて欲しい。よろしくな。
三代目総理:私には子供がいませんから、自分の家族を特別扱いしているという誤解はですね、受けないかと。しかし、この件はですね、慎重に対処しなければ、世論がすぐに反応しますから。今すぐに、特定の家族の徴兵免除の話をするわけにはいきませんが、世論の動向を見据えながらですね、閣議決定するのが賢明かと。
「旧世代の党」黒原代表:総理、世論なんていい加減なものだよ。三代目総理の「アホノミックス」で十分洗脳されていて、抵抗力なんてありゃせんよ。何でもいちいち、バカな国民に意見を聞こうとするから道を誤るんで、行政の最高責任者である総理が断固として決断すれば済む話なんだから、しっかり頼むよ。
重要課題は、これからはすべて閣議決定でやるべきだな。これで私の質疑を終わります。
委員長:それでは本日の党首討論会を終わりにさせていただきますが、ほかに議事進行のご意見がありますか。
「イカサマ維新」橋上代表:三代目総理、黒原先生、たいへん素晴らしい歴史観国家観をご披露いただき、感銘しました。一つお願いがあります。
委員長:委員以外の傍聴人には、質疑の権利はありません。不規則発言はお止め下さい。
「イカサマ維新」橋上代表:なんですか、それは。官僚主義そのものじゃないですか。そういう形式的規則が政治を無能にして、日本を駄目にしてるんですよ。せっかく戦後憲法の骨抜き改正の重要な話をしている時にですよ、なんですかその官僚的態度は。
委員長:傍聴席からの不規則発言は認められません。
「イカサマ維新」橋上代表:委員長、あなたはもう答えなくていいですよ。私は三代目総理に聞きたいんです。総理、道州制の導入、是非、すぐにでも閣議決定していただきたい。そして、大阪を都にしていただきたい。地方で議論していても、埒が明かないんです。ここは総理が決めてください。それで済むことなんです。
三代目総理:私がこの委員会でですね、傍聴席からの質問に正式にお答えする訳には行きませんが、私の独り言としてお聞きくださって結構です。橋上代表がおっしゃられたことはですね、まことにごもっともだと思います。議論して、いつまで経っても決められないことが多いですね。だから、私も憲法改正の手続きにしたがって憲法を変えることを断念しました。外務省の有能なOBの方々も、解釈改憲を後押ししてくださいました。
やはり、政治は実行力が大切ですね。議論だけして、実行しない政治は役に立たないですね。だから、今後とも橋上代表とは、手を携えてやっていきたいと。
「イカサマ維新」橋上代表:流石、総理。なるべく早くお願いします。地方選挙まで時間がないんです。もたもたしていると、無能な地方議員が既得権にしがみついて、改革を妨害しますから。せっかくのチャンスが失われてしまいます。総理の実行力に期待しますよ。黒原先生、高邁なお説、ありがとうございました。
(野党の委員や傍聴席からのヤジと怒号で、閉会を継げる委員長の声が聞き取れなかった)
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