プーチン・ロシアのクリミア侵攻に関わって
- 2014年 7月 11日
- 交流の広場
- 熊王信之
プーチン・ロシアのクリミア侵攻に関わって、未だに、真偽を測りかねる記事があり、何度も読み返すものの、この記事の著者自身が、記事の裏付けを欠き、ことの真偽を計りかねているのではないか、との疑いを払しょくできないままになっている。 その記事とは、以下のWSJのものである。
冒頭から、「クリミアでは、ロシアの指導者たちが米国の通信傍受をうまくかわすことで、欧米を出し抜いたかもしれないというのが米国の情報機関の結論になりつつある。」、と呆けた嘘が書いてある。 おまけに、記事の冒頭部には、「クリミア半島のシンフェロポリ空港を警備する武装勢力」と白けた説明が付けられた写真が掲げられている。 それは、多少とも軍事知識がある者が観れば、現ロシア軍、それも特殊部隊員であることが歴然としたものである。 写真の兵士は、現ロシア軍正式のAK74Mアサルト・ライフル(突撃銃)を所持しているし、ロシア軍制式の特殊ヴェストを着用している。 左端の立哨中の兵士を観れば、右手を安全金にかけて、左手をライフルの遊底部にかけている。 一呼吸で安全装置を外し射撃用意の態勢(“Low Ready”と呼ばれる態勢)に転換できるのである。 画面の右の兵士二人も、ライフルを自身の正面に保持して、何時でも射撃用意態勢に移れる姿勢で歩いている。 全て意味のある姿勢である。 画面に映った兵士達は、相当な連度であると思える。 とても、有象無象の集団である「武装勢力」には観えない。 また、迷彩服には、所属・階級等を示すパッチ類が全く付けられていないのが不気味であるが、これまた意味がある。
これ等の事実を勘案すると、軍事侵攻以前の段階でもロシア軍の浸透作戦が進行中であったことは明らかである。 武装勢力とは、ロシア軍特殊部隊が展開したものである。
極めて連度の高い特殊部隊が現地で浸透展開し、自民族に依るウクライナ軍との衝突を予防し、火器使用を抑制しつつ、ウクライナ軍の撤退を統制のあるものにしたのが真相であろう。 英語版Wikipediaでは、侵攻に参加したロシア軍特殊部隊を特定している。 それは、22nd Spetsnaz Brigade と45th Spetsnaz Rgt と記載されている。 また、降下部隊も76th Airborne Division と31st Airborne Brigade との記載がある。
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303495304579460611196085556
米国、ロシア情報収集の強化急ぐ WSJ By ADAM ENTOUS, JULIAN E. BARNES and SIOBHAN GORMAN 2014 年 3 月 25 日 16:21 JST
http://en.wikipedia.org/wiki/2014_Russian_military_intervention_in_Ukraine
2014 Russian military intervention in Ukraine Wikipedia
WSJの当該記事内容に矛盾したところがあり、要点を把握するのが難しいものの、米政権は、ロシア軍のクリミア侵攻を事前に承知していたものの、特段の対抗措置を取らなかった、と私は受け止めたのである。 この記事の大半は、米政権の言い訳である。
そもそも、現代の米軍事技術に依れば、今回のような大規模軍事侵攻を事前に察知出来得ない、等と云うことは到底有り得ないのである。
例えば、海保巡視船と北朝鮮不審船が銃撃戦に及んだ九州南西海域不審船事案では、ことの発端は、不審船が北朝鮮から出港したとの米軍情報が防衛庁に寄せられたことにある。
この情報は、恐らく、米軍事偵察衛星と英語諸国のみで運用されている全地球的盗聴システムである「エシュロン」の集合情報と思われるが、小型船舶である不審船が日本目指して北朝鮮の一港湾を出港したことを察知出来得る能力は恐ろしいものがある。
http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/report2003/special01/01_01.html
九州南西海域における工作船事件について 海上保安庁
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E5%B7%9E%E5%8D%97%E8%A5%BF%E6%B5%B7%E5%9F%9F%E5%B7%A5%E4%BD%9C%E8%88%B9%E4%BA%8B%E4%BB%B6 九州南西海域工作船事件 Wikipedia
そのような能力を有する情報機関を複数も保有しながら、他国への大規模侵攻を事前に察知できない等と云うことは有り得ないことである。 いくら言い訳を連ねても、プーチン・ロシアの所業にゴー・サインとまでとは言わずとも、何らかの合意、或は、黙認があった、と理解するのが普通であろうと思われる。
即ち、米政権は、プーチン・ロシアの軍事侵攻を事前察知して、警告等を行ったものの、侵攻そのものには何等の対応もせず傍観した、と観るべきか、当該軍事行動を「侵攻」とは考えなかったのか、私には、証拠は示すことは不可能なものの、「侵攻」前に何らかの了解があったように思えてならない。
クリミアやウクライナ東部に展開した、ロシア軍特殊部隊の極めて抑制された火器使用も特徴的である。 チェチェンその他での軍事行動と比較すれば、とても同一国家の軍事行動とは思えない程にウクライナ軍との軍事衝突を避けているからである。 これは、本当に領土拡大が目的の侵攻であったのだろうか、との疑念が湧いてくる。 プーチン・ロシアの帝国復活への飽くなき欲望があったにしても、である。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2011/11/post-2350.php
プーチン、「ソ連復活」の野望と本気度 2011年11月30日(水)14時56分
フレッド・ウィア Newsweek日本版
クリミア半島にある自国軍事基地を巡る地政学的危険が在ったことは事実であろう。 ウクライナ国情が鎮静化せず、クリミア自治共和国統治秩序に懸念が生じていたことも事実であろう。 隣国ロシアとしては、自国の海軍展開に支障が生じる事態は避けなければならない。 また、隣国内で民族的対立が原因で騒乱になれば、自国への影響もある。 ところが、ウクライナには、確固とした統治能力が欠けている。 となれば、プーチン・ロシアとして取る措置は限られたであろう。 クリミアを自国統治下に置き、統制することである。
ウクライナ東部の統治秩序回復は、ウクライナ援助をする西側諸国の提供する軍事援助で可能になるであろう。 また、そのような合意があったのかも知れない。 周辺事情を観れば、現状では、プーチン・ロシアに依るこれ以上の軍事侵攻の可能性は低いであろうが、ウクライナの情勢次第では、東部への再度の侵攻も選択肢として残っている、と思われる。
http://jp.reuters.com/article/jpRussia/idJPKBN0FE06O20140709
焦点:親ロ派の支援要請に沈黙のプーチン大統領、目的達成か Reuters 2014年 07月 9日 11:14 JST
いずれにしても、ウクライナの財政危機は、自らが対処しなければ何処の国も援助はしてくれないであろう。 プーチン・ロシアが傍観(容認)している間に、早く、東部ウクライナの分離派を鎮圧し、国を挙げて財政危機に対処するべきである。 米国もEUも持続的な援助はしてくれないであろう。 今回のプーチン・ロシアの侵攻で明らかになったことのひとつなのだから。
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