閣議決定に関わる誤った認識を正し、安倍政権の憲法違反の立法に対峙しよう。
- 2014年 7月 14日
- 交流の広場
- 熊王信之
集団的自衛権に関わる解釈を閣議で如何に変更したとしても、それだけで、憲法を改正出来る訳も無いのですから、まるでこの世の終わりの如く批判するのは、さて置いて、少し冷静になり今後を考える必要があるのではないのでしょうか。
こう言っては身も蓋も無いのですが、閣議での決定は、内閣の権限なので、これを無効にしたり差し止めたりすることは我々には、出来ません。 即ち、内閣法第一条第一項では、「第一条 内閣は、国民主権の理念にのつとり、日本国憲法第七十三条 その他日本国憲法 に定める職権を行う。」とあり、同法第四条第一項では、「第四条 内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。」と定められているのです。 日本国憲法と内閣法の如何なる条項にも、内閣に依る憲法改正の権限は、定められていませんので、解釈改憲とあまり騒ぎ立てるのは逆効果になることでしょう。 憲法以下の法令の解釈は、内閣に於いて可能ですし、実際に日々行っているのですから。 そうでないと行政は行えません。 勿論のことに、我々国民も解釈している訳です。 現在、我々国民が批判しているのは、内閣決定文書に示された憲法解釈が我々国民の解釈と相違した結果です。 その結果は、今後、その変更された解釈に基づき立法府に法令案等が提出されるであろうことが明らかであるからですが、立法府での審議結果も未だの時期にあっては、示された閣議決定文書の解明とともに立法府の良識に期待して各会派に要請を行い、具体的法案等の危険性を指摘し、国民世論の喚起に努めることが肝要だと信じます。
内閣が閣議で決した事項を政策化し、予算の裏付けその他を実効あるものにするために、新規法案なり、改正案なりを立法府に提出し、立法府の可決を経て公布された法律に則り行政を行う段になって始めて、我々国民は、訴訟の適格要件を満たせば裁判所に訴え、その判断を仰ぐことが出来るのです。
即ち、日本の訴訟制度では、憲法裁判所が制度化されていないので、具体的争訟が生じないと裁判所は憲法判断を示すことが出来ません。 従って、閣議決定に基づく政策変更が新規立法化(若しくは、改正)に則り行政が実務に移らないことには、裁判所の判断を仰ぐことが出来ないのです。 言葉を替えれば、現行の法令で憲法判断が示されていない法令は、相当数が存在するのです。
例えば、皇室典範です。 この法律の第一条には、「第一条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」とありますが、これについては、私は、憲法違反であると思っています。 私が思っても大勢に影響はありませんが、皇室典範に関する有識者会議において意見を述べられた憲法学者の横田耕一流通経済大学教授は、明確に憲法違反であると述べられています。 また、同会議では、2005年1月より17回の会合を開き、同年11月24日には皇位継承について女性天皇・女系天皇の容認、長子優先を柱とした報告書を提出したのです。 残念ながら、今に至るも、同法は改正されていませんが。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kousitu/dai6/6siryou4.html
横田流通経済大学教授 皇室典範に関する有識者会議開催状況
行政に依る憲法以下の法令の解釈と行政実務が法令違反なり、憲法違反なりと裁判所に於いて判断されることは時たまあり、残念なことですが、特段に珍しい現象ではありません。 行政庁に於いて所属機関に示される所謂解釈例規なり通達に示された内容や、行政庁内での研修等で職員に周知の実務が違憲なり違法と判示されることがあるのです。 特に、法令執務に疎い地方自治体では、憲法と法の範囲内で条例制定が認められているにも拘わらず、違憲・違法の疑いのある条例制定がされている実態もありますし、実務が法令違反に問われる事態も珍しくありません。
流石に、国の行政各部にあっては、法律案等は、内閣法制局に依る厳密な審査を経て立法府に提出されるので、現在までのところ、そうした誤りは最小限度であったのですが、今回の内閣決定文書の至る結末は如何なものでしょうか。
余談ながら、内閣法制局参事官は、法案の審議に「三時間」をも要して厳密に審査を行うので「参事官」と呼ぶのだ、とのダジャレが法制執務を我が業務とする公務員の間での笑い話であったのですが、今後は如何なる事態になることでしょう。
ともあれ、今の今まで合憲なり合法と信じて執務していたことが裁判所に於いて否定されることは衝撃的ではありますが、珍しいことでは無いのです。 例えば、戦前から、行政法学において、「公物」(国や地方自治体が行政目的で有する財産)には、時効が及ばないとの通説がありましたが、否定され、それまでの行政実務が通用しなくなったこともあります。 裁判所自体がそれまでの判例も変更したのです。 国は、さっさと関連実務を変更しましたので特に混乱は起きませんでした。 さて、今後は如何になることでしょうか。 司法試験制度が大幅に変わり、法曹が増えて仕事が無い状況もあることですし、訴訟が増えて依頼する法曹に喜ばれるのも悪くはないでしょう。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=53275&hanreiKbn=02
最高裁判所第二小法廷昭和51年12月24日判決
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