違法輸入がはびこる放射線照射食品・上 -米国産の青汁粉末が回収されていた!-
- 2014年 7月 15日
- 評論・紹介・意見
- 岡田幹治放射線食品
◆三越と東急百貨店に「お知らせ」
東京都内の三越と東急百貨店の健康食品売り場に、「AFCこだわり青汁」という青汁製品の自主回収を知らせる小さな「お知らせ」が出ている。
青汁粉末といえば、いま人気の健康食品だ。回収の理由について三越は何も記しておらず、東急は「原材料の一部に不適切な部分があることが判明いたしました」と記しているだけだ。原料がどう「不適切」だったのか説明はないが、実は原料の米国産大麦若葉が「放射線照射食品」だったのだ。
◆放射線照射食品とは何か
放射線照射食品といってもピンとこない人が多いだろう。
原発事故でやむなく放射能を浴びたのが汚染農産物だが、それとは違い、病原菌を殺したり、発芽組織を破壊したりするねらいで、意図的に食品に放射線を浴びせるのが食品照射だ。
使われるのは、コバルト60が出すガンマ(γ)線や電子加速器が放出する電子線で、照射線量は次のようになっている(kGyはキログレイで、グレイは吸収線量の単位)。
・保存中の発芽防止(ジャガイモ、ニンニクなど)=0.15kGy
・植物検疫処理(熱帯果物、食肉・魚介類など)=0.1~1kGy
・食中毒防止(赤身肉、冷凍エビ・魚介類など)=1~5kGy
・乾燥食品原材料の殺菌(スパイス・ハーブ類、乾燥野菜など)=10kGy以下
・無菌化=滅菌(病人食、医薬品、無菌動物用飼料など)=20~50kGy
哺乳動物の致死線量は0.05~0.1kGyだから、人間に有害な線量よりはるかに高線量の放射線を使うわけだ。
放射線照射は、衛生上問題がある「汚い」食品でも簡単に殺菌し「きれい」にできる。温度が2度程度しか上昇しないから、生鮮食品や冷凍品の処理に使える。高温殺菌すると品質が変わりやすい健康食品には、とくに便利だ。
しかし日本の食品衛生法は、ジャガイモの発芽防止目的を除いては、食品照射を製造・加工・保存に使うことを禁じている。
健康によいと信じて「AFCこだわり青汁」を飲んだ人たちは、実は食衛法違反の食品を連日、口にしていたことになる。「申し出た顧客はごくわずか」(両デパート)だから、大多数の購入者は照射の事実さえ知らないに違いない。
◆発見したのは都内の女性
今回の青汁の場合、見つけたのは、大麦若葉青汁の原料の輸入販売を始めようとした都内の女性Yさんだった。米国ユタ州産の原料を取り寄せてみると、品質はすばらしいが、微生物汚染の程度を示す「一般生菌」の数がきわめて多い。
同じ原料を輸入販売しているグリーンバイオアクティブ社(GBA社、東京都港区、七尾博社長)が、国内ではゼロ近くにしているのはなぜか。他社に尋ねると、「放射線照射処理をしているに違いない」。
そこで市民団体「照射食品反対連絡会」に相談し、GBA社の系列会社から「グリーン・ジュース・バーレイ」を通販で購入して検査に出したところ、「照射済み」という結果が出たので、3月13日に厚生労働省に迅速な対処を申し入れた。
照射食品反対連絡会は、同じGBA社の原料を使っているエーエフシー社(静岡市)の「AFCこだわり青汁」を三越銀座店と東急東横店で買って検査に出し、こちらも「照射済み」だったので、4月8日に厚労省に申し入れた。この健康食品がデパートの店頭やネット通販からいっせいに撤去されたのはこの直後だ。
◆手ぬるい行政の調査
厚労省は東京都に調査を指示し、管轄するみなと保健所がGBA社に問い合わせたところ、昨年2月~今年3月に輸入した約20トンの粉末について照射の事実を認めたので、4月14日に自主回収するよう指導した。
Yさんが厚労省に申し入れてから一か月も経っていた(5月2日に回収命令に切り替え)。
GBA社は青汁粉末のほとんどを各地の健康食品会社などに販売済みで、そのすべては保健所も把握しきれていない。大半はすでに消費されたとみられる。
GBA社は間もなく連絡不能になり、5月14日には東京地裁で破産手続きの開始が決まった。保健所の追及は行き詰まっている。
GBA社は資本金1000万円、従業員5人の小さな会社。米国カリフォルニア州のラクソン・コーポレーションから大麦若葉粉末を輸入していた。ラクソン社の松崎秀樹社長がGBA社の取締役を兼ねており、両社が謀って何年も前から照射食品の輸入を続けていたとの見方が業界には強い。
◆発覚したら破産、おとがめもなし
海外からの照射食品の輸入はもちろん違法だが、「今度の青汁事件はたまたま表面化しただけ。違法輸入はたびたび起きている」と、食品の安全が専門の中村幹雄・鈴鹿医療科学大学客員教授はみる。
放射線照射による食衛法違反は2000年から昨年までに26件摘発されているが、うち16件までが中国産だ(厚労省の輸入監視統計)。品目はボイルシャコ、ウーロン茶、乾燥ケール粉末など多岐にわたる。米国は2件だった。
厚労省の検疫は文書確認が中心で、ときどきモニタリング(抜き取り)検査をする。同省の輸入食品安全対策室によると、米国産の健康食品原料(乾燥品、粉末)については2007年以降、文書によって照射されていない旨を確認しており、今回も文書で確認していたという。しかし、それは何の役にも立たなかった。
中村客員教授によれば、10回の違法輸入のうち、仮に厚労省のモニタリングで1回違反が発覚し、廃棄損を出しても、十分に利益が出る。
稼ぐだけ稼いで、発覚したら破産で帳消し、大したおとがめはなし――が通用する世界なので、事業者任せでは違法輸入はなくならないという。
照射食品は見た目では判別できないから、私たちは知らないうちに口に入れている可能性がある。
◆有機JAS認証も当てにならない
今回の事案について東急百貨店広報部は「原料がアメリカで有機認証を得ていたことや、GBA社が日本有数の認証機関から有機JAS認証を取得していたことを確認しており、照射原料が含まれているとは認識できなかった」という。
有機JAS認証も当てにならないのだ。
三越伊勢丹ホールディングスのコーポレートコミュニケーション担当は「AFCこだわり青汁は2012年に取り扱いを始める前にAFC社より説明を受け、安全上の問題はないと判断した。今回このようなことになったが、回収に努めることで販売企業としての責任を果たしていると考えている」としている。
「関係者、とりわけ健康食品の専門会社であるAFC社が放射線照射で殺菌していたことを知らないはずはない」との見方も強いが、AFC社は取材に応じていない。
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