米中ロとの首脳会談は何とか実現できたが、 情報戦の時代に適応できない菅民主党政権
- 2010年 11月 15日
- 時代をみる
- 加藤哲郎情報戦
2010.11.15 世界から首脳が集まる韓国ソウルでのG20サミットと、横浜でのAPEC総会が終わりました。本来日本政府は、アジアのホスト国として華やかな国際会議をリードできるはずでしたが、直前まで続いた尖閣列島問題での日中対立とロシア大統領の国後島訪問、米国オバマ大統領には普天間基地名護市移設日米合意を確認したものの沖縄県知事選さなかで与党の候補者もたてられず、目玉のはずだった環太平洋連携協定(TPP)参加も与党内を含む国内の反対でトーンダウンと、何とも成果の少ない外交舞台になりました。横浜APECを警察官の全国動員で何とか事故なく済ませたのと、米国ばかりでなくロシア、中国とも首脳会談のかたちをとれたのが、とりあえずの劣勢挽回でしょうか。菅首相記者会見の自己礼賛とは裏腹に、共同声明も共同会見も持てない、儀礼的内容だったようです。外国報道も、むしろ日本の反中ナショナリズムにスポットを当てた、総じて小さな扱いです。すでに世論調査の内閣支持率は急カーブで降下し、時事通信調査では自民党支持率が民主党支持率を上回りました。
この間日本国内では、二つの大きな情報戦上の「事件」がありました。一つは警視庁の内部資料と見られる国際テロ捜査情報がファイル交換ソフトを通じて12か国5200人に流れた問題、そして政府が非公開としてきた尖閣列島沖中国漁船衝突映像の海上保安庁職員によるyou tubeへの投稿事件です。「第2の田母神事件」ともいうべき海上保安庁職員の映像公開がマスコミでは大きく扱われていますが、情報戦の観点から見て重大なのは、前者の国際テロ捜査情報です。それもFBI情報の漏洩など日本政府の脆弱な情報危機管理と国際威信の低下が問題にされていますが、より重視すべきはコンテンツ、つまり警察が国際テロ対策の名で日本中のイスラム寺院(モスク)とイスラム教徒を秘かに監視し、それら個人情報も情報提供者も流出・露呈したことです。いわばWikileaks日本版が実行されたもので、長くグローバルな意味を持つでしょう。海上保安庁職員による衝突映像公開の方は、海上保安官の行動が「義挙か守秘義務違反か」のマスコミ好みの論点とは別に、入り組んだ問題があります。そもそもこの映像は衝突事件の直後にでも公開さるべきではなかったか、編集された映像のほかに衝突後の船長逮捕時の映像もあるのではないかといったコンテンツの問題、日中外交問題・領土問題になっての政府の公開・非公開方針の動揺と首脳会談困難期のタイミング、新聞社やテレビ局ではなく you tubeに直接投稿した公開方法の画期性、「政治優位」を唱えて生まれた民主党政権下の公務員・官僚制掌握のぎくしゃく、等々。ただ忘れてはいけないのは、海上保安官は単なる公務員ではなく、警備・公安業務にあたる特別司法警察官=「制服組」であることです。捜査・逮捕権もありますから、政府の統制に従わずに暴発すれば、戦争の引き金にさえなりかねません。「第2の田母神事件」というのは、そのような主旨です。
本HPの観点からすれば、いずれの事件も、かつて偽メール事件で代表交代まで引き起こした民主党が、いまだに情報戦の新しい時代に適応できていないことを示します。それは、外交政策における基本方向が見えないことと、照応しています。この20年の国際環境の激変のなかで、少子高齢化が進み就職難と貧困がはっきり見える閉塞社会のなかで、まずはグローバルな世界のなかでの日本の位置と役割を見定めることが必要でしょう。私の見解は、近く刊行される、加藤哲郎・丹野清人編『シリーズ21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治』(日本経済評論社)の序章「情報戦の時代とソフト・パワーの政治」に記しておきました。さしあたりは、その歴史的起源について、前回更新でアップした『年報 日本現代史』第15号(現代史料出版)掲載、加藤「戦後米国の情報戦と60年安保ーーウィロビーから岸信介まで」のウェブ版をご笑覧ください。9月はじめの段階では、今頃北京・上海で国際会議があり、先日信州大学経営大学院グリーンMOT国際シンポジウム基調講演「中国の経済発展と循環型社会構築への課題」の延長上でスワトウ市の電子ゴミのその後を見る予定だったのですが、9月中旬から会議の手続きが中断し、来年に延期されました。図書館「学術論文データベース」には、甘田幸弘「唯物史観反証理論」(2010.6)、宮内広利「死の権力と権力の死」(2010.9)に続いて、このコーナーの常連宮内広利さんの「移動する『疑い』の場所ーー柄谷行人『世界史の構造』を読んで」(2010.10)がアップされています。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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