閣議決定文書の読解法
- 2014年 7月 18日
- 交流の広場
- 熊王信之
問題文
「(5)また、憲法上「武力の行使」が許容されるとしても、それが国民の命と平和な暮らしを守るためのものである以上、民主的統制の確保が求められることは当然である。政府としては、我が国ではなく他国に対して 武力攻撃が発生した場合に、憲法上許容される『武力の行使』を行うために自衛隊に出動を命ずるに際しては、現行法令に規定する防衛出動に関する手続と同様、原則として事前に国会の承認を求めることを法案に明記することとする。」
「また、憲法上『武力の行使』が許容されるとしても、それが国民の命と平和な暮らしを守るためのものである以上、民主的統制の確保が求められることは当然である。」
国民が期待すると目されるであろうことを先に述べ、肯定することに依り、警戒感を緩和し、これから述べる「当然である」ことと相反する論旨を受け入れやすくする、何時もの官僚的修飾字句なのです。 因みに、「当然である」、「基本である」等の字句は、何の意味も持たず、それより先の字句に重点があるのが官公庁での文章作法です。
即ち、前提条件より先の例外的事項に重点があるのです。
「政府としては、我が国ではなく他国に対して武力攻撃が発生した場合に、憲法上許容される『武力の行使』を行うために自衛隊に出動を命ずるに際しては」
ここで、集団的自衛権を発動する場合を述べ、憲法で認められていることを既得のごとく前提にしています。 「出動を命ずるに際して」と限定していることに注意。
当該の場合以前に注目すべきことは、「1武力攻撃に至らない侵害への対処」における(3)の「手続の迅速化」です。 要するに、「事前に国会の承認を求め」等してモタモタすることは最小限にしようとしている訳です。 更に、(4)にある「自衛隊と米軍部隊が連携して行う平素からの各種活動」における事態にも注目です。 その場合には、自衛隊法第95条に定めるような現場での判断に依り武力の行使が可能です。 勿論、(3)の場合も同様です。
(3)や(4)の場合は、「武力攻撃に至らない侵害」がある時ですので国会の承認が不要なのは、当然のようにも観えます。 でも、現場の判断で武力の行使が可能になることは危険極まりがありません。
本項におけるように「他国に対して」のものであっても、「武力攻撃が発生した場合」である以上は、国会の承認を求めることを基本的にすべきなのは当然ですが、宗主国が相手なので、時期遅れになるのは避けたいところでしょうから、例外事項が大幅になるであろうことは容易に予想されることです。
「現行法令に規定する防衛出動に関する手続と同様」
ここで、集団的自衛権の行使を、個別的自衛権の発動と同等にしています。
「原則として事前に国会の承認を求めることを法案に明記することとする。」
こでは、原則の例外が重要であることを謳ったものです。 即ち、例外事項の方が重要であることを示す官僚的表現です。 法案には、運用次第では、国の命運に関わる事態を招くことになる例外事項が列挙されることでしょう。
全体として、この骨子どおりになれば、事実上、武力行使に当り何の制限も無くなるのです。
(蛇足ですが、緊迫した南西アジア海域での日米共同対潜哨戒演習に当り、安倍政権の意を汲んだ諜報員が乗り組む海上自衛隊護衛艦が、演習観察のために接近した中国海軍艦艇が米軍艦艇に対してレーダー照射を行った、として対敵行動に移り、護衛艦搭載の対艦ミサイルを発射した、等と云う007の映画のようなことは起こらないのでしょうね。
集団的自衛権発動の合憲化を逆手に取り米国を無理やりに対中戦争に引き込む陰謀ですが、スパイ映画の観すぎでしょうか。 オバマ大統領も本当は、それが怖かったりして。)
参考 自衛隊法
(武器等の防護のための武器の使用)
第95条 自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備又は液体燃料を職務上警護するに当たり、人又は武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/housei_seibi.html
安全保障法制の整備について 内閣官房
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