沖縄県知事選の陰で
- 2010年 11月 16日
- 評論・紹介・意見
- 地下戦沖縄海の大人
一
本日アップされた加藤哲郎先生の〈情報戦の時代に適応できない菅政権〉という文章はまだ読めていません。しかし、安東次郎さんの〈「陰謀」の時代〉という文章は読みましたし、これから、いわゆる「陰謀論」とは一線を画した、情報戦、陰謀の話が出てくると思いますので、関連して、本格的なものは、数日前送ったつもりが消えてしまったので、簡単に陰謀戦、情報戦に関連する事実を「沖縄知事戦」の陰で進行している事実として報告しておきます。
本当は情報戦、陰謀、と言う括り方で観る見方は必ずしも適切ではありません。情報戦と謂えばどうしても情報機関や限られた(目に見えやすい)国家、巨大企業をその主体として考えがちです。もちろん宗教機関をそれに加えるのは当然です。また、陰謀と謂ってしまえば個人の願望も組織の願望も他人を誘導しようとする限り陰謀と区別する事が困難になります。意図を隠して手を打って自分の意志を実現するのは多かれ少なかれ陰謀でしょう。そうした行動は個人にも組織にも自然な行動で、価値的に悪いイメージがつく「陰謀」とはしばしば他者を謗る言葉として、私たちそのものが使用しています。
正しくは、「地下戦」という言葉を使うべきでしょう。「正規戦」、「熱戦」に対抗する言葉です。平和、和平、秩序を維持する側からはそのような工作全体を総括する言葉でしょうし、革命、権力奪取、秩序紊乱、下克上を目指す人間からはそのための工作を総称する言葉でしょう。良いところは秩序派の策動も反秩序派の策動も同じ次元で評価できる事と、実はそうした主体が、様々な種類と集団として存在する事が公平に見やすくなる事です。一つの権力体といえども一枚岩ではない、権力だって、権力間の合従連衡の中で運動体として生きているのだ、と言う事が見える事。もちろん、反秩序派の方だって、未来を目指して全く違った構想で、様々な集団が動いているのだという事。本質は、反権力勢力の合同などは方便以上のものであるはずがないのだ、と言う事が冷静に理解できる事です。当然、権力側は権力内部の暗闘を続けつつ、反権力勢力の側に手を突っ込むのが仕事ですし、反権力の側も自分たちを太らせつつ、権力集団のあれこれに手を突っ込むのが当然の工作です。
日本国憲法第9条を大切にする先輩が多くて困るのですが、私はそうした先輩の善意は信じていますが運動は全く評価しません。安倍内閣の改憲策動を阻止したじゃないか、と言われても阻止したのかどうかの評価は保留しておいても、で、日本の国体を変革するイメージとグループは大きくなったのですか、と反問したい。第1章を問題にしては大衆運動が作れないと考えたから、第2章問題に絞ったのでしょう。しかし、その損得計算は解るとしても、第3章、第4章、第5章、第6章、第7章、第8章、第9章は勝った後で議論しつつ深めているのですか。その間、権力からの工作員との接触は自覚して実施しているのですか。それどころか、内部分裂を恐れて率直な議論が出来ない体たらくなのでは無いですか。平和は「地下戦の攻防に止まっているから」維持されているのです。「地下戦を組織する」自覚無くしては自分で平和を維持している事には為らないのです、と申し上げたい。
二
そこで、沖縄知事選です。仲井真氏と伊波氏と金城氏が戦っています。11月28日に結論が出ます。普天間移設問題への対応と沖縄振興計画終了後の制度設計が焦点だとされますが、これは仲井真氏と伊波氏のどちらが勝っても沖縄で解決できる問題ではありません。日本全体の政界再編、選挙制度の改革次第という問題です。そして、日本がその問題に没頭している時期に世界情勢は大きく変わるでしょう。アメリカの没落、中国の決定的な没落、EUの解体という事態は不可避でしょう。ロシアがどうなるか、今少し見通しが立てにくいところですがスーパーパワーになるよりは、食い物にされる可能性が大きいでしょう。機能麻痺の日本は、そのことで得をするとともに、だからこそ、地下戦のターゲットとして工作戦の東アジアの中心舞台と為っているのです。日本に橋頭堡を築く事が、世界再編にあたって利権の筋を伸ばして行くには最適でしょう。
工作戦の種はいくらでもあります。人脈を確保する事が中心ですが、天皇家、権門勢家、学者名望家、研究者、政治家、アウトロー、利権亡者、宗教者、官僚、活動家などです。法律利権、商権、芸事利権、先端技術、ノウハウ、不動産、法外グレー利権、人材などです。トラブルもまた格好の餌でしょう。こそこそするのではなく友好、友情の彼方に緩やかな囲い込みが出来上がる。実は日米安保条約も国会の批准を必要とする条約の無いままに積み上げられている「日米同盟」も当たり前の事ですが、利権の固まりであり工作戦の道具であり、且つ、工作戦の一つの目標でもあります。「日本の安全保障」と謂うよりは「日本、東アジア工作の最大の手がかりであり、且つ、アメリカの太平洋、インド洋戦略の基盤」でしょう。これに、沖縄県知事選が噛めないという事は不思議ではありません。
沖縄県知事選挙は、アメリカ相手の勝負事(誰が沖縄の親分になってアメリカと争うのか)に見えて、実は、日本軍の配備を巡る日本政府との喧嘩の布陣を決める勝負です。すでに陳べたように、日本の国会は再編成が不可避です。菅内閣が「政治主導を放棄して、官僚に負け続ければ」自民党が復権するのではなく、政界大再編と選挙制度の改革が起きるでしょう。それを見越して地下戦は実施されているのですが、菅内閣の退陣はその引き金を引きます。現在のような、尖閣を巡る中国、海上保安庁とのトラブルではなく、「安保条約破棄通告」の可能性も含めた混乱が起きる事は避けられません。
三
このとき、鳩山内閣が残した課題は今どうなっているのか。馬毛島の事と下地島についてのみ少しご報告しておきます。
台湾に一番近い与那国島に200名規模の自衛隊が派遣される事になった事(2009年7月与那国町が防衛相に要請、2010年3月町が防衛相に要請、8月町が衆院安保委員会に要請)は、確か、ちきゅう座に報告してあります。与那国島の半分は、今まで、台湾の防空識別圏でしたが、今年前半(記憶ですから曖昧ですが)、すべて自衛隊の防空識別圏になり、その境は台湾との中間線に引き直されています。このことで台湾との間にトラブルは生じていません。
そして、与那国に近い先島諸島(宮古島市下地島)にある「下地島空港」は今までは民間ジェットパイロットの訓練場でしたが、11月11日、北沢防衛相は衆議院安全保障委員会で「「国を守る防衛省、自衛隊としては大変魅力あるものだ。実際に活用できるかどうかも検討していきたい」と述べ、検討に前向きな姿勢を示した。」(琉球新報2010年11月12日)というのです。下地島には3000メートルの滑走路があり、集落からは離れているものの、1971年の屋良朝苗琉球政府行政主席の日本政府との間に交わした「軍民共用化は出来ない」という屋良覚書があって、軍事利用は出来ない建前があるにも拘わらずです。空間的には、航空自衛隊戦闘部隊、海上自衛隊P-3C対潜哨戒機部隊、補給中継基地たり得る場所であり、広さです。
北沢防衛相が鳩山首相の普天間移転構想に一貫して抵抗し、今また、先島諸島の自衛隊配備に積極的になっている事は注目すべき事です。鳩山構想に反対したという事は自主防衛派ではありません。そして、与那国の防空識別圏を奪還し、今、先島への自衛隊配備に積極的なのは菅首相の対中弱腰への批判という構図になっています。しかも鳩山、菅両内閣で変わっていない閣僚は北沢氏だけなのです。彼が誰と親しく、どの様なイデオロギーを持っているかは大変興味深い事です。
もう一つの馬毛島も動きがあります。G20、APECのドサクサの最中、11月11日、馬毛島開発の立石社長が3億円脱税容疑で在宅起訴されたのです。ちきゅう座では5月28日か29日に交流の広場で「表が有れば裏がある-何処の権力の差し金なのだろう」として報告していた事に、在宅起訴という結論が出たのです。立石社長は動け、且つ、裁判と重加算税などのためにカネを確保しなければならない立場に立たされたのです。馬毛島を巡る動きは確実に始まります。4000メートル滑走路と2500メートル滑走路ですから、下地島より遙かに大きい利権です。アメリカか日本という国家しか手を出さない利権です。
鳩山首相が残した、「普天間は国外か最低でも県外移転」という構想は鳩山首相の地下戦の敗北によって、さらに、米中の国内危機の深化によって、「日米中ロ領土紛争危機劇」、「民主党政権の官僚統制の挫折劇」、「日米安保再編に伴う基地利権の再配分劇」という様相になっています。こうした地下戦に噛んでいく事の出来ない悔しさとともに、沖縄知事選の陰で進む色々な状況の変化にも、是非目配りを忘れないで居て下さい。(了)
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