マレーシア航空機ウクライナ上空撃墜事件について (第一の疑問)
- 2014年 7月 23日
- 交流の広場
- 熊王信之
マレーシア航空17便のウクライナ上空での墜落事件は、乗員と乗客全員が死亡すると云う衝撃的なものであり、EUからの飛行便であるところから乗客の国籍が多数に渡り、関係国が複数で、そのニュースの扱いも諸国において特段で、連日、報道される情報は膨大となっています。
ネットでの情報のまとめ的なものとしては、Wikipediaが便利ですので、私自身は、これに依って情報の整理をしているところですが、自身の関心に的確に答えてくれる情報が何処を探しても見つからないのには閉口します。 仕方が無いので自分で、関連情報を組立てて、法律学で云うところの「相当因果関係」を発見するべく努めているところです。
不足はありますが、下記の情報に依り、疑問点を挙げてみたいと思います。
私の第一の疑問点は、FIRに関わるものです。 「航空実用辞典」に依れば、FIRとは、「飛行する航空機に対して、安全で効率良い航行を確保するために、各国が責任を持って、航空交通管制業務、飛行援助業務、航務業務を行う空域である。」とあります。
飛行情報区 FIR:flight information regions
我が国の場合には、「札幌、東京、福岡および那覇管制部ではそれぞれ管轄する空域において航空路監視レーダーを用いた管制業務を行っています。 監視レーダー覆域外の洋上管制区は航空交通管理センターが担当しています。」とあります。
ウクライナの当該地域の管制は、何処が行っていたのでしょうか。 恐らく、近くの首都キエフの空港にある管制担当部局なのでしょう。
上記の疑問に近い回答・解説は、BBCで読むことが出来ます。
BBCでは、事実関係のまとめを行っていますが(MH17 Malaysia plane crash in Ukraine: What we know)、その一項に、「ウクライナ上空の飛行は安全か。」(Was it safe to fly over Ukraine?)と題したものがあります。
眼を引いた事実は、「マレーシア航空のシニア・バイス・プレジデント(SVP)Huib Gorterに依れば、当該飛行経路は、当局に依り安全と言明され、他の多くの航空会社に使用されていた、更に、如何なる制限も付加されては居なかった、と云う。」(Malaysia Airlines’ senior vice-president Europe, Huib Gorter, said the flight route had been declared safe by the authorities, was being used by many other airlines and was not subject to any restrictions.)との証言です。
事実、「飛行経路追跡:Planefinder の飛行経路データが示すように、MH17便墜落までの48時間に、多くの航空便が当該地域を飛行することを選び続けていた。」(In the 48 hours running up to the MH17 crash, many airlines had chosen to keep flying in the area, data from flight tracker Planefinder shows.)
更に、「これも実際の飛行経路を追うFlight radar24に依れば、過去一週間に最も頻繁にドネツク上空を飛行した航空便は、アエロフロートが86回、シンガポール航空が75回、ウクライナ国際航空が62回、ルフトハンザ(ドイツ航空)が56回、マレーシア航空が48回、である。」(According to Flight radar24, which also monitors live flight paths, the airlines that most frequently flew over Donetsk in the last week were: Aeroflot (86 flights), Singapore Airlines (75), Ukraine International Airlines (62), Lufthansa (56), and Malaysia Airlines (48).)とあります。
何と、事実上の内戦が地上で戦われ、しかも、当該地域では、「親ロシア派は、地対空ミサイルを入手したことを認めており、14日にはウクライナ空軍の輸送機を撃墜した。」にも拘らず、ウクライナ管制当局は、飛行ルート変更の指示等の適切な手続をとらずに、各航空会社の民間機に内戦状態にある危険地域上空を漫然と飛行させていたのです。 これでは、マレーシア航空機の墜落・撃墜が如何なる者に依ったのかは別として、ウクライナ管制当局、ひいては、政府の責任は逃れることは出来ません。
WRAPUP 3-マレーシア機墜落、「撃墜」とウクライナ当局 親ロ派は関与否定 ロイター 2014年 07月 18日 07:56 JST
自国政府のFIRを信頼して飛行していた民間航空機が撃墜された事実を前にして、犯人捜しに躍起となり、自身の責任を忘れたかのようなウクライナ管制当局と政府には、空いた口が塞がりません。 およそ、国家の信頼と責任と云う言葉が彼らの頭脳には存在しないかのようです。 自身の責任は何処へ行ったのやら、親露派武装集団を非難するばかりでは無能も極まった、と云うところです。
ウクライナ無能政府に依れば、国法秩序を犯す犯罪者集団の鎮圧も当面は期待出来ないことでしょうから、この国のFIRは信頼に足りずとして、この国上空の飛行は、全て禁止すべきです。 また、各国政府もその通達を出し始めているようです。
ウクライナ情勢は、予断が許されない緊迫した状況ですが、この国政府の統治能力に欠ける対応には、我々の常識の範疇では判断出来ないものがあります。 クリミアのロシア入籍もそうでしたが、いままた、自国領の一部に内乱罪の首魁(しゅかい:親玉)が吉里吉里人の吉里吉里国よろしく自国領宣言を出したのにも拘わらず、プーチン・ロシアを慮ってか、治安回復にむけての断固とした措置を取らず、取れば、時期既に遅く、ロシアからの支援を受けた過激派に打撃を受ける始末です。 これでは、内戦状態の継続も余儀なくされることでしょう。
ウクライナが引金になり、EUとロシアと米国を巻き込んだ紛争が激化する事態になれば、それこそ、冷戦どころか本当の戦争になる危険があります。 プーチン・ロシアに暗殺された不屈のジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤの言葉には、こうあります。
「『楽観的な予測』を喜ぶことができる人がいるなら、そうすればいい。 そのほうが楽だから。 でもそれは自分の孫への死刑宣告になる。」(ロシアン・ダイアリー)
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