ロシアは経済制裁に耐えられるのか/プーチン・ロシアの報道の自由
- 2014年 8月 3日
- 交流の広場
- 熊王信之
ロシアは経済制裁に耐えられるのか
ウクライナ危機に端を発して、米欧が対ロシア経済制裁に踏み切り、その効果が注目を集めるところですが、現在までのところ、プーチン・ロシアに進路変更の兆しは見えずにいるところから、米欧首脳の会談では、追加制裁に踏み切ることに決したようです。
現在までに、ロシア債の格付は、ジャンク債の一歩手前に格付され、ルーブル安に対するにロシア中銀に依る緊急の利上げもされたところです。
S&Pがロシアを「BBB─」に格下げ、ジャンク級の一歩手前 ロイター 2014年 04月 25日 23:07 JST
デフォルト確率18%?CDS急上昇のロシア国債をS&Pが格下げ!緊急利上げでルーブル安に歯止めはかかるか? 社債投資まとめ! 2014/04/27
ところが、MH17便墜落事件の前日までのところ、プーチン・ロシアの進路変更は確認出来ず、米欧の追加制裁が発動されたところです。
コラム:ロシア経済の「アキレス腱」に迫る西側制裁 ロイター 2014年 07月 24日 15:03 JST
今また、英仏独伊米5カ国の首脳は28日、テレビと電話による異例の会談を実施し、ロシアに追加制裁を課すことで合意された、と報道にありますが、ロシアは、果たして制裁に耐えられるのでしょうか。
欧米が対ロ追加制裁で一致、「プーチン氏に戦略転換見られず」 ロイター 2014年 07月 29日 06:26 JST
まず、ロシア債ですが、政府総債務残高(対GDP比)が13.41%で177カ国中164位であり、一位の日本が政府総債務残高(対GDP比)で243.22%であるのに比してはるかに低位にあると言わねばなりません。
また、経常収支が黒字で世界ランクでは第14位であり、日本の次点に位置しているのにも注目しなければなりません。
外貨準備高に至っては、世界ランクの第4位であり、各種の指数を勘案すれば、少々の経済制裁では影響は少ないでしょう。 却って、EUのように、ロシアにエネルギーを頼っている諸国に影響が及ぶのではないか、と心配してしまいます(以上、何れも2013年次実績)。
こうしたところから、S&Pの格付が「BBB-」に下げられたのは、純粋に経済・財政の指数を反映したものと云うよりは、政治的事由に依るものでしょう。
プーチン・ロシアが、これ以上の軍事的冒険に踏み出さずに、オバマ大統領が出しているサインを精確に読み、着地点を見出せる、と仮定したならば、投資的観点からは、ロシア買いの時期かもしれません。
1980年代にジャンクボンドの帝王(Junk Bond King)として名を馳せたマイケル・ミルケン氏なら、如何に評価されることでしょうか、御意見をお聴きしたいものです。
東欧諸国に共通した要因は、旧ノーメンクラツーラ(赤い貴族)の眼先の効いた連中とマフィアが連合したオルガルヒ(新興財閥)を率いる旧KGBの輩が支配層に鎮座して国と国民を統率していますので、民主主義とは隔絶した政治実態があり、報道の自由は無く、治安も悪く、軍閥が割拠し、至るところにマフィアの利権が張り巡らされているために闇経済が大きな比率を占めているのが現実です。 この現実を踏まえれば、マフィアのドンの交代も含めて予測がつかないのが本当のところかも知れません。
米シンク・タンクの中には、プーチンが生き残れるかどうか、を考えている人もいるようですが、何人よりも、彼自身が真剣に考えていることでしょう。
私的には、本当は、ロシアが、と云うよりは、ロシアン・マフィアが経済制裁に耐えられるのか、と問いたい処ですが、参考にすべき資料等は全く存在しませんので、投稿に値する内容を書こうにも書けません。
Can Putin Survive? Geopolitical Weekly Monday, July 21, 2014 – 16:05
プーチン・ロシアの報道の自由
私は、日本の新聞・テレビは、読まず視聴せずですので、その報道の有無は分かりませんが、プーチン・ロシアの報道の自由に関わる出来事が色々と西側(英語国)では報道され、その実態に一般大衆も呆れている状況があるので、眼についたものを挙げてみました。
まずは、女性テレビ・リポーターの辞職です。 報道記事中の要点を拙訳で示します。
以下要点の拙訳(逐語訳)と原文です。
「グローバルなロシア・テレビ・チャンネルのリポーターが、ウクライナ上空マレーシアのジェット旅客機墜落報道における、彼女が言うところのクレムリン出資に依る局の『事実の無視』で辞職した。」
(A reporter for a global Russian TV channel resigned over what she called the Kremlin-funded station’s “disregard for the facts” in its coverage of the downing of the Malaysian passenger jet over Ukraine.)
「ロンドン在住のサラ・ファースは、モスクワに本拠を置くRT(注:Russia Today)に五年間勤務の後に、金曜の朝に辞職した。 自身の離任をツイートした後に、彼女は、木曜日の報道は、彼女にとっての「ラクダの背を折ったわら」(格言:我慢の限界)だった、とガゼット・プレスに語った。」
(Sara Firth, based in London, quit Friday morning after five years with Moscow-based RT. After tweeting her departure, she told the Press Gazette Thursday’s coverage was “the straw that broke the camel’s back for me.”)
「私には、もう出来なかった。 私たちは、毎日、毎日、嘘をついているの。 そして、もっと良く嘘をつける方法を探しているの。」
(”I couldn’t do it any more, We’re lying every single day … and finding sexier ways to do it.”)
「RTのスタイル・マニュアルでは、編集部員にロシアの代わりに、ウクライナか、その他の要因に責任を帰するように指示している、とファースはガゼット・プレスに数時間後に語った。」
(Firth told the Press Gazette hours later that the RT style manual tells the editorial staff to cast blame on Ukraine, or any other factor, instead of Russia.)
Russian TV reporter quits over crash coverage Michael Winter, USA TODAY 9:45 a.m. EDT July 19, 2014
この五月には既に、RTの米国の局でも、プーチン・ロシアのクリミア併合に関連してアンカーのリズ・ウォール(Liz Wahl)が、放送中に辞職していますので、同一局で二人目の辞職です。
因みに、リズ・ウォールの放送中の辞職と云う衝撃的な出来事は、報道に携わる者として倫理的には如何なものかと思われるのですが、プーチン・ロシアの形振り構わない情報合戦に与する報道には我慢がならなかったのでしょう。
ともあれ、アンカーとリポーターが辞職すると云った事態が示すものが何かが誰にも分かるのではないのでしょうか。 反面、情報戦・宣伝戦に撃って出るなら、北朝鮮のように偉大な首領様や指導者様に絶対忠誠を誓った人間を表に出すべきでしょうが、それでは、国内は兎も角も、国外では誰も信じないでしょうから、プーチン様もお困りでしょう。
ロシアの報道では、やり過ぎてしまったものもあり、逆効果ではないのかと思うものがあります。 それは、ロシアの国営テレビ局「第1チャンネル(Channel One)」が、ウクライナ東部のスリャビャンスク(Slavyansk)でウクライナ兵らが3歳の男児をはりつけにしたという真偽不明の証言を報道したことです。 読めば「証言」とも言えないものですが、こんな調子で「報道」すると誰も信じなくなるので宣伝戦の意味が無くなります。
「ウクライナ兵が幼児はりつけに」、露TV報道に批判の声 AFP 2014年07月15日 11:21 発信地:モスクワ/ロシア
英誌「ガーディアン」(the Guardian)の特派員ルーク・ハーディング(Luke Harding)に依る“Mafia State”(「マフィア国家」)では、自国に依る統制が出来ない外国特派員に対する妨害・弾圧がどのようなものかが分かりますが、命があっただけ未だましとも言えるでしょう。 辞職されたお二人に危険が及ばないことを祈らずにはおれません。
暗殺された不屈のジャーナリスト・アンナ・ポリトコフスカヤは、自著「プーチニズム」を終えるにあたり、その一節にこう書いています。
「昨夜遅く、ロシア版『フォーブス』誌のパーヴェル・フレブニコワ編集長がモスクワで殺された。 社屋を出るところを狙われてのことだった。 フレブニコワは新興財閥、ロシアの『ギャング資本主義』の構造、一部の人間が不正に入手した巨額の金に関する執筆活動で有名だった。
やはり昨夜のこと、ヴィクトル・チェレプコフがウラジオストックで手榴弾によって吹き飛ばされた。 彼はわが国の議会下院の一議員であり、この国の弱者、貧困層の味方としてつとに有名だった。 (以下略)」(プーチニズム 報道されないロシアの現実)。
こんな国で、報道の自由を実践するのは、命を賭けることに他なりません。 そして、実際に命を賭けて報道の自由を実践した人が居たことを忘れてはならないでしょう。
KGB譲りの情報戦・諜報戦の戦略に乗っては本質を読み誤ることに直結します。 今のロシアは、その達人が大統領ですから。 そう云えば、彼の履歴には、空白があるのを御存じでしょうか。
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