1960年代の記憶に残るブラウン管の中の刑事や探偵
- 2014年 8月 8日
- 交流の広場
- 熊王信之
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1960年代。 未だ白黒テレビの時代。 外国、特に米国の私立探偵や刑事が活躍するドラマが全盛でした。 西部劇とともに、一世を風靡したこれ等のドラマで記憶に残っているものを書き連ねて行きたいと思います。 それらドラマに因む思い出とともに。
さて、それらテレビドラマの中では、矢張り原作の推理小説自体が定評のあるものが面白かったように思われます。
それは、まずはエド・マクベィン(Ed McBain)の87分署シリーズでした。 原作は、推理小説ファンなら誰でも知っているもので、警察小説の代表格と言っても良いものです。 私は、後年になり英語の勉強のために原作を読み進めて行く内に「手段が目的」になってしまい次々と読むようになってしまいました。 今では、推理小説の内でも、このジャンルが好みになっています。
英語の勉強のためには、推理小説を読むのが一番、と教えて頂いたのは、英作文の大家の故山田和男氏でした。 独特の辞書や英作文の参考書は、今でも参考にさせて頂いております。 氏が推理小説中で見つけられた英文表現をエッセー風にされて紹介された一連の書物は楽しくて有益でした。
このシリーズは、アイソラ(Isora)と言う架空の街を舞台にして其処で働く87分署の刑事たちを主人公に、実際の捜査手法に基づき事件の解決に努める彼等の姿を現実感のある描写で描いたものです。 舞台となった街は、架空とは言えモデルとなったのはニューヨークであり、ただ87分署は実在しない分署であるだけです。
原作は、難解な語句や表現は使われていませんので比較的容易に読解が可能ですが、米国のスラングや警察捜査の用語が分からない間は苦労しました。 でもスラングの辞典や犯罪学関連の参考書を読んでからは、読解が楽でした。
テレビドラマの方は、87分署シリーズの初期から中期のものを映像化したのでしょうが、それでもシリーズは30本ありました。 何と今でもDVDで観られるのです。 シリーズ全部がDVD化されて発売されています。
このシリーズをテレビで視聴したのは小学生の折であったからでしょう、内容がよく理解出来ませんでしたので、殆ど記憶に無く、後年になり原作を読んでから記憶を辿ったものです。 刑事たちを演じていた俳優は、なかなか演技達者の人たちで、他の番組や劇場映画でも観る機会がありました。
刑事たち以外でも、例えば、スティーブ・キャレラ刑事の妻テディ・キャレラ役を演じたジーナ・ローランズ(Gena Rowlands)は、後年グロリア(Gloria)で元マフィアのボスの情婦役で、マフィアに家族を殺された子供を決死の覚悟で守る役を演じ好評を得ました。
彼女が拳銃を構えて、ドスの効いたセリフを吐くシーンは真に迫っていました。 87分署シリーズでの役柄とは全く違うものでしたが、役柄になり切ったかのようでした。 流石に一流の俳優は違うものです。
シリーズ全部のDVDを買おうかとも考えていましたが、時代が違いますし、今ではテレビシリーズで言えば、ニューヨーク市警を舞台にして他のシリーズも製作されています。 思い出としておくことにした方が良いかも知れません。 You-tubeで観られますし。
87th Precinct -The Floater ( Pilot Episode) You-tube
次には、私立探偵が活躍するドラマですが、これも原作がレイモンド・ソーントン・チャンドラー(Raymond Thornton Chandler)のフィリップ・マーロウ(Philip Marlowe)が主人公のシリーズがありました。
原作は、余りにも有名で英文も名文とのことですが、私は、未だに一冊も読んでいないのです。 推理小説ファンを自称しつつチャンドラーを未読とは変かもしれませんが、何しろ87分署のシリーズから始まった推理小説読書歴ですので、自然と警察小説を中心に読む習性になってしまったのです。 でも一度は読みたいものです。
映画でフィリップ・マーロウを演じた俳優は多かったのですが、テレビシリーズでは、フィリップ・ケーリー(Philip Carey)が演じました。 私は、このシリーズが好きだったのですが、そのために当時は思わぬ災難に会ってしまいました。
學校の父兄の懇談会で、テレビ番組の話が出たのでしょうか、馬鹿な教師が、この番組を暴力礼賛とレッテルを貼り批判したそうで、真に受けた亡母が帰宅して私に視聴禁止を申し渡したのです。
成人して後に推理小説の系譜を多少は理解した折に、当時の無知な教師は、ハードボイルドの私立探偵ものを理解せず、また米国での銃器の取扱に偏見を持っていたのであろうと推測がつきました。 こうした偏見・誤解に基づくトラブルは何時の時代にもありますし、角突き合わせていては時間の無駄、と当時の私が妥協した訳ではないのですが、母親と喧嘩して小遣いを減らされては堪りませんので黙って従いました。
昭和の時代の教師こそ暴力的で、何かと言えば子供を殴っていました。 そのくせ教頭や校長には卑屈な態度で接しているのが大半で、こんな連中とは一線を画して子供により
沿う教師は、異動で他校に行くのでした。 今でもそんな連中には反吐が出るほどむかつきます。 むかつくのは歳とっても同じです。 そんな心中が顔に出たのでしょう。 悪友とよく教師にどつかれました。 でも亡母が中元・歳暮をするようになると収まりましたから、度し難いほどに俗物なのです教師って。 こんな嫌な思い出があるからフィリップ・マーロウものは読まなかったのです、実は。
Philip Marlowe “The Ugly Duckling” You-tube
私立探偵ものでは、他にピーター・ガン (Peter Gunn)のシリーズが思い出として残っています。 と言うよりもその音楽です。 テーマを含めて劇中の音楽がモダン・ジャズだったのです。 クレイグ・スティーブンス(Craig Stevens)が主演でした。 ヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini)の音楽は、モダン・ジャズファンの間で有名になり、シリーズそのものよりも有名になったのかも知れません。 シリーズ全114話がDVDで購入可能ですが、今観ると、矢張り時代が違うのが分かるでしょう。 音楽のみを鑑賞するのが良いかも知れません。
因みに、このシリーズの影響でしょうか、中年に差し掛かる頃に、或るジャズ・バーの常連になってしまいました。 そのバーは、大阪市のJR天王寺駅前にあるビルの地下でひっそりと店を開いていて昼はジャズ喫茶、夜はジャズ・バーになっていました。 何時行っても客は少なく、自然とマスターが話し相手になってくれました。 ジャズに関しては薀蓄を傾けるほどの知識が無い私は、ただ、ピーター・ガンで聴いたヘンリー・マンシーニが好きで良くリクエストしたものです。 その店「トップ・シンバル」は、残念ながら数年前に廃業されて、マスターの薀蓄ももう聞くことが出来なくなってしまいました。 カリッと焼いたピザ・パイを食べながらバーボンを飲むことも出来なくなりました。 常連の人たちとの戯言もいまとなっては懐かしい思い出です。
他には、マイケル・シェーン(Michael Shayne)も私立探偵もので、好きなシリーズでした。 原作は少し古くて読んだことはありませんが、テレビのシリーズは垢抜けた印象でした。 主演のリチャード・デニング(Richard Denning)が他の刑事や探偵とは違った印象で知的でした。 このシリーズは一部のみDVDで購入が可能です。
デニングは、引退後はハワイのマウイ島に奥さんと住んでいたそうですが、その私生活もなかなか垢抜けたものです。 ハリウッドの喧噪とは距離を置いた、と云うことでしょうか。
1960年代には、他にもたくさんの刑事や私立探偵を主人公にしたテレビシリーズがありましたが、その殆どが米国からのものでした。 英国からのものは今とは違い少なくて、あっても面白いと思ったものはありませんでした。 でも記憶に残っているものの内では第三の男(The Third Man)の印象が強く残っています。 映画の第三の男とは物語設定が違いますが、音楽が同じでした。 このシリーズは亡母もお気に入りでしたから、例え暴力的場面があっても視聴は禁止されませんでした。 主演のマイケル・レニー(Michael Rennie)は女性に受けましたから、それが理由でしょう。 馬鹿らしい。Sorry, this item is not available in
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