今度は高校に「近現代史」―止むを知らない安倍内閣の挑発路線
- 2014年 8月 19日
- 時代をみる
- 教育歴史田畑光永
暴論珍説メモ(132)
特定秘密保護法制定、集団的自衛権容認閣議決定、沖縄普天間基地の辺野古移転工事開始強行と矢継ぎ早に「戦時体制」整備に余念のない安倍政権が今度は教育に目をつけて、高校に「近現代史」科目の新設を検討し始めたという。(「産経」8月17日)
「産経」の報道によれば、平成28、29年度にも予定される学習指導要領の全面改訂にあたり文部科学省が高校の地理歴史科で、日本史Aと世界史Aを統合した科目「近現代史」を新設する検討を始めたという。
今、高校の地歴の科目では日本史、世界史とも、A、Bに分かれている。Bは通常の通史だが、Aは近現代に重点を置く。しかし、実際は入試の準備が難しい、などの理由で、A を選択する生徒は少なく、Aは有名無実化し、歴史といえば昔ながらの原始・古代から始まる通史が大勢である。
歴史科目がこのように重点を異にする2科目に分かれたのは、最近の子供はあまりに近現代の歴史を知らなすぎる、という声が広くあり、その原因として従来型の通史では日本史の場合、古代から始まって大体、明治維新に到達するかしないかの段階で1年が終わってしまうという授業のあり方が原因とされたことによる。また高校の場合、社会科は「地理歴史」と「公民」に分かれ、地歴では「世界史」が必修、「日本史」と「地理」が選択となっていて、日本史を取らなくとも卒業できる。
こういう現状に文科省はかねて高校で日本史を必修にすることを目指していたことと、近現代史教育重視を組み合わせて、新科目「近現代史」をつくることを検討し始めたものらしい。
そこでこの話をどう考えるか。
まず、最近の子供が歴史を知らない、あるいは知らなすぎるというのは事実である。私のささやかな大学教員としての経験でも、「国際関係論」などというもっともらしい科目よりも、高校の歴史教科書を受験抜きでじっくり読む科目を作ったほうがましだと思ったものだ。
また日本史A、世界史Aが有名無実化している以上、近現代教育をどうするかを中心になにがしかの制度改革も必要かもしれない。
しかし、この問題を安倍内閣が手がけることには私は反対である。この動きの背景について、「産経」の記事を引用する。
「先の大戦をめぐり中国や韓国が日本への批判を強める中、明治以降の日本の近代化の歩みを世界史と関連づけながら深く学ばせることで、国際社会で自国の立場をきちんと主張できる日本人を育成する狙いもあるとみられる」
「狙いもあるとみられる」どころではなく、これまで安倍内閣のもとで文科省が教科書から従軍慰安婦の記述を削り、竹島や尖閣列島についての領有主張をもりこんできた経緯から見れば、「自国の立場をきちんと主張できる人間」、つまり言い合いで負けない人間を作ろうとしていることは明らかだ。
第二次世界大戦終了までのアジア極東の近現代史は大づかみに言えば、19世末、朝鮮半島に起こった地方の反乱を口実に兵を出した日本が喧嘩の押し売りをして、日清戦争をひきおこし、清国から巨額の賠償金を取って軍事大国となり、今度はそれを振り回して、朝鮮、中国におおきな損害を与え、さらにいい気になって戦火を太平洋に広げたところで惨敗した50年、ということである。
歴史は複雑だから、さまざまな局面で、善悪が交錯することは無数にあったに違いない。しかし、基本は上にまとめた数行につきる。だから戦後の日本は今の憲法を持ち、平和に徹して生きる道を選んだのだ。
しかし、その歴史の真実を認めたくない人間も日本にはいる。しかも残念ながら時を経るに従って、その人数が増えてきた。安倍晋三という人物はその代表格である。彼に代表される人々は歴史にさまざまな修飾語を貼りつけて実態をごまかし、加害者としての負い目を振り払ってしまいたいと考えている。
国内ではそれを囃し立てる人間もいるだろうが、そんな詐術は被害者には通用しない。通用しないどころか、古傷をかきむしられて70年前に終わったことを昨日のことのようにいきり立つ。現状はまさにそうだ。加害者は相手の怒り、恨みが鎮まるまで、こと歴史に関しては基本的にはじっと頭を垂れて待つべきなのだ。植民地にされたり、侵略されたりした側の苦難を思えば、それくらいのがまんは何ほどのことでもないではないか。
歴史の真実は政府が黙っていてもいずれ明らかになる。それなのに「従軍慰安婦の問題はつきつめれば強制連行があったかなかったかだ」などと、部分的な争点を作って言い争うことは、百害あって一利もない。相手の気持ちの鎮静化を中断する挑発行為でしかない。
そんな安倍内閣に子供たちの近現代史教育に手を出させてはいけない。子供たちが歴史を知らないことは民族として一大事だ。しかし、その状況を改善するのは、紋切型になるけれど、国民全体が手をつくすしかないのだ。
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