自然に対する驕りは、倍返しを招く!
- 2014年 10月 1日
- 時代をみる
- 加藤哲郎原発民主主義自然
2014.10.1 ようやく国会が始まりました。政府の集団的自衛権閣議決定も、川内原発再稼働の原子力規制委員会「安全」審査も、沖縄の普天間基地辺野古移転も、国権の最高機関たる国会などなきがごとくに、安倍首相により進められてきました。内閣改造は、女性閣僚を増やしたといっても、安倍首相の右翼的言説に輪をかけたナショナリストの面々がならび、「お友達内閣」の骨格は変わりません。物価高・生活苦のなかでの消費税増税への不満、原発再稼働反対の多数派世論、武器輸出ばかりでなく自衛隊の海外での参戦さえ近づく不安がありながら、野党のふがいなさが、政治へのあきらめ・無力感を産み出しています。「朝日たたき」が、元記者勤務先への脅迫状にさえ結びつき、各地の自治体で、憲法を守る集会や脱原発展示が、「政治的」という理由で、開けなくなっています。ウクライナの不安定ばかりでなく、アメリカの対「イスラム国」シリア爆撃が始まり、中国・韓国との関係が冷えきった安倍内閣の姿勢からすると、戦争が、現実の問題として迫ってきます。
そんな世界の中での、一抹の希望。スコットランド独立をめぐって、過半数までは届かなかったが自決・自治の力を世界に示した、イギリスでの住民投票の経験、そして、いま眼前で進む、普通・平等・自由選挙への、香港市民の願いと運動。前者は、スペインでのカタルーニャやバスクの住民投票へと飛び火し、後者は、かつて四半世紀前の天安門前広場を想起させる、「アンブレラ・レボルーション(雨傘革命)」へと展開しています。福島や沖縄の人々は、身につまらせる思いで、注目していることでしょう。自分たちの問題を自分たちで決めること、自分たちの代表は自分たちで選ぶこと。これが、民主主義の原点です。福島知事選は10月26日投票、沖縄知事選は11月16日投票です。
木曽の名山、御嶽山が突然の噴火、水蒸気爆発ということですが、多くの犠牲者が出ています。この夏の広島土砂災害をはじめ、各地の集中豪雨は異常でした。地球全体の地殻変動・異常気象を前に、私たちが「科学」と信じてきたものには、あまりにも空白と隙間が多く、自然に対しては無力であることを、改めて思い知らされます。2011年3月11日から「もう3年半」なのか、「まだ3年半」なのか。汚染水をたれ流し除染も進まないのに「収束」や「アンダーコントロール」と公言する政府や東京電力にとっては「もう」なのでしょうが、故郷を奪われ、今なお仮設住宅に住む人々、放射能の内部被曝をおそれる人々にとっては、「まだまだ」です。「世界一安全」と称する原発再稼働を急ぎ、原発輸出のセールスに精出す安倍内閣にとっては「もう」でも、毎週金曜日に首相官邸前や全国で「再稼働反対」を訴え続ける人々にとっては「まだ」です。
自然に対する人間の驕りは、どこかで必ず、しっぺ返しに遭います。グローバリズムや新自由主義経済も、大きなひずみを抱えています。夏に創刊された雑誌『NONUKES VOICE』は、ピケティの『21世紀の資本論』 や、先日亡くなられた宇沢弘文さんの名著『自動車の社会的費用』などとは違った意味で、「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」という田中正造の言葉を思い起させます。小出裕章さん、今中哲二さんの、謙虚な科学的解説が、心に響きます。福島の 木田節子さん「騙され続けた私たち」や、大飯原発福井地裁判決要旨の全文掲載に、考えさせられます。経産省前テント村やたんぽぽ舎、川内原発からの報告に、勇気を与えられます。桜島の噴煙を見ながら、避難計画もできないのに川内原発再稼働が強行されそうな近隣住民は、御嶽山の噴火を、どんな想いで、受け止めたのでしょうか。
9月27日から、早稲田大学エクステンションセンター中野校で、オープンカレッジ「検閲と危機の時代 ― 戦中・戦後占領期から現代まで」が、毎週土曜日全10回で開かれます。山本武利名誉教授や土屋礼子教授らが占領期のメディア検閲を中心に歴史的に検証し、私も10月11日に原爆・原子力言説と検閲の問題を話します。まだ定員に余裕があるそうですから、権力とジャーナリズムの関係に関心のある方はぜひどうぞ。誤報や誤記は、書物の場合でも避けられません。3月刊行の『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の正誤表を作りましたので、ご参照ください。法政大学『大原社会問題研究所雑誌』の最新8月号に、「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」を発表しています。講演記録で読みやすいですし、『大原雑誌』はデジタルで読める日本では最先端の雑誌ですから、ぜひご参照ください。もっともその講演記録で、イギリス国立公文書館の略称を、「TNA(The National Archives)」ではなく「BA(British Archives)」 と表記してしまいました。訂正したpdfファイルを入れておきましたので、こちらからどうぞ。学術論文データベ ースに、常連宮内広利さんの新稿宮内広利「親鸞における信と不信~『歎異抄』を読む~」(2014.9)をアップ。あわせて佐々木洋さんの「核開発年表」(2014.9)を最新版にバージョンアップしました。東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』が刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。ご笑覧ください。現代史料出版からは加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂して、第一期6巻セットが発売されました。概要は、「機密解除文書が明かす戦後日本の真の姿:GHQ文書」(『週刊 新発見 日本の歴史』44号、2014年5月18日)に書き解説していますが、大部で高価ですから、ぜひ図書館等にリクエストしてご利用下さい。前回お知らせした「第二のゾルゲ事件」については、資料整理中ですが、11月8日(土)午後に予定されているゾルゲ・尾崎処刑70周年記念国際シンポジウム(明治大学)で中間報告するつもりです。乞うご期待。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2783:141001〕
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