「被爆アオギリ」の強靱さに驚嘆 -我が家の庭で育つ三世の苗木-
- 2014年 10月 17日
- 評論・紹介・意見
- 原爆岩垂 弘
8月29日のことだ。朝日新聞朝刊に目を通していて、「声」欄の一投書に引きつけられた。投書の中に「アオギリ」という文字があったからである。
その投書は、福岡県の無職の女性(65)からのものだった。8月9日に行われた長崎市の平和祈念式典で被爆者代表として「平和への誓い」を述べた城臺美彌子さんの発言をテレビで聴いて感動し、勇気づけられたという内容で、末尾は次のような文章で結ばれていた。「私が勤めていた中学校には、広島市の平和記念公園にある被爆したアオギリの種から育った大きな木がある。つい先日、卒業生に会ってアオギリの話をしたばかりだが、城臺さんの思いを知って、今気持ちを新たに引き締めている」
私は「広島市の平和記念公園にある被爆したアオギリ」という個所に引きつけられたわけだが、なぜそうなったのかというと「広島市の平和記念公園にある被爆したアオギリ」の子孫が、埼玉県南部の私の自宅の庭でも驚異的な勢いで育っているからだった。
私は、広島に原爆が投下された「8月6日」を毎年、広島で迎えることにしている。今夏もその日を広島で迎えたが、私にとっては44回目の「8・6」であった。
4年前の2010年8月6日、広島市主催の平和記念式典終了後、まだ式典の余韻が残る平和記念公園内を歩き回っていたら、平和記念資料館(東館)北側の一角に茂る「被爆アオギリ」の前で、その苗木を配布している人たちに出会った。市民団体「アオギリ広島事務所」の人たちだった。私も1鉢譲り受け、帰宅すると、さっそく自宅の狭い庭の隅に植えた。
69年前のあの日、人口約30万の広島は一発の原爆による熱線と爆風と放射線で灰燼と帰した。このため、被爆直後、広島では「これから75年間にわたって草も木も生えないだろう」とさえ言われた。が、極めて数少ない植物が、この未曾有の惨禍を生き延びた。
爆心地から北東約1300メートルの広島市基町(現:中区東白島町)にあった広島逓信局(後の日本郵政公社中国郵便局、現日本郵政グループ広島ビル)の中庭にあった4本のアオギリも被爆。いずれも爆心地側の幹半分が熱線と爆風で焼け焦げ焼け、1本は枯れ死したが、3本は翌1946年の春に芽を吹いた。奇跡的に生き残ったアオギリは、絶望の底にあった広島市民に生きる希望と勇気を与えた。
その後、逓信局局舎の建て替えに伴い、被爆アオギリは、1973年5月、平和記念資料館(東館)北側の緑地帯へ移植された。移植された3本のうち1本は枯れてしまったが、2本はその後も傷跡をさらしながらも成長を続け、今なお原爆の惨害を無言のうちに訴え続けている。
2000年夏に被爆アオギリの近くに、小さなアオギリが自然に育ちつつあるのが見つかった。被爆アオギリの実が地面に落ち、発芽したものと確認された。いわば「被爆アオギリ二世」であった。2003年、「二世」は親木のそばに移植された。いまでは、親木をしのぐ勢いで成長している。
広島市は、広島市民の“平和を愛する心”“命あるものを大切にする心”を世界の人々や若い世代に伝えようと、被爆アオギリが実らせた種を発芽させて育て、成長した苗木を「被爆アオギリ二世」と名付け、希望者に配布している。私が市民団体を通じて譲り受けた被爆アオギリは「被爆アオギリ二世」の子どもだから、いわば「被爆アオギリ三世」であった。
被爆アオギリの苗木は日本全国各地で育てられているほか、米国、イタリア、ドミニカ、中国など世界各地で育っている。
ところで、我が家の庭の被爆アオギリだが、移植当時は10センチ足らずの幼木だった。それが、この4年間で6メートルを超す高い樹木になった。なんと1年間に1メートル50センチも伸びたことになる。なんという成長率の速さ。背の高い樹木に、庭の前の通りを行き交う人が「何の木だろう」と、立ち止まって見上げる。
この8月10日には台風11号の、10月14日には台風19号の余波で埼玉南部も強風が吹き荒れ、被爆アオギリは激しく首を振り、揺れに揺れたか、倒れたり折れることはなかった。
私は毎日、何回もこの被爆アオギリに目にするが、そのたびに広島の原爆被害を思い浮かべ、核兵器はもう決して使われてはならないとの思いを新たにするとともに、原爆の惨禍を生き延び、スラリと伸びた幹と精悍な豊かな葉で天空を目指す被爆アオギリの生命力の強さに驚嘆する。原爆の破壊力に負けまいとする生物の力強い営みに感動する。
広島では、市民の間で、被爆アオギリにからんで1人の人物の生涯が語り継がれている。「アオギリの語り部」といわれる故沼田鈴子さんである。沼田さんは被爆で左脚を失い絶望のあまり自殺を考えるが、被爆アオギリに出合って生きる希望を取り戻す。3年前に亡くなるまで、被爆証言活動を続け、その中で、被爆アオギリのことを語り続けた。沼田さんをモデルにした映画『アオギリにたくして』が2013年に完成、今、全国各地で上映中だ。
<アオギリ>アオギリ科の落葉高木。中国原産。高さ10~15メートルになる。小枝は太く、樹皮は滑らかで緑色。葉がキリに似ていて、樹皮が鮮緑色なので「青桐」の名がある。葉は大きく、長い柄があって互生し、扁円形で長さは15~30センチ。手のひら状に3から5つに裂ける。6~7月ころ枝先に黄色い小さな花が円錐形に集まって咲く。10月に実がなる。沖縄、台湾、中国大陸、インドシナに多く分布する。
被爆アオギリに関する問い合わせは、広島市都市整備局緑化推進部緑政課花と緑の施策係(082-504-2396)で受け付けている。
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