「バンザイノミクス」の行く末
- 2014年 11月 17日
- 評論・紹介・意見
- 熊王信之
日本銀行宮尾審議委員の11月12日に長崎市で行われた記者会見要旨が日銀のHPで公開されました。 宮尾氏は、異次元緩和を更に巨大なものにし、第二次大戦中に組織的な戦闘が終結した後にも、徒手空拳で強力な米軍陣地目指して日本兵が自殺行進を行った「バンザイ突撃」に因む「バンザイノミクス」と揶揄される財政ファイナンスについて問うた記者に対するに、以下の如く官僚的答弁をされています。 実は、氏は、追加緩和なるものに賛成されているので、答弁には注意していました。 少し長くなりますが該当箇所を引用します。
―以下引用―
(問)2 つございます。10 月 31 日の追加緩和ですけれども、何が大の理由で賛成されたのか、簡単にお願いします。5対4ということは薄氷の決定だったと思います。今日の懇談会をみても、やはり基調として経済はそんなに弱くない、というか、やはりタイトな労働市場をベースにそれなりに物価がアンカーされているようにもお見受けするのですが、もしギリギリの決断であったとすれば、どこを重視して賛成されたのかを教えて下さい。
2 つ目は、失礼な質問であればコメントを控えて頂いて構わないのですが、消費税の再増税については、首相に近い方が延期あるべしという前提で発信をされ始めておりまして、延期の可能性がかなり高いと思います。その中で英米の市場関係者の間では、追加緩和による事実上の国債全額買い取りという明確なマネタイゼーションと、増税延期という組合せをバンザイノミクスという国債暴落政策として懸念する見方も出ていると思います。この点についてご所見をお願いします。
(答) まず、第 1 点目ですが、今回、私自身、追加緩和が適切であると判断したわけですが、何が大の理由か、どこを重視したのかというご質問でした。 まず、懇談会でも申し上げていますが、これまでの「量的・質的金融緩和」の効果がしっかりあった、具体的には、これまでの「量的・質的金融緩和」は実体経済の回復を金融面から強力にサポートしてきたことで、企業収益や雇用・賃金の回復・改善をしっかりと後押ししてきたと私自身思っており、それに伴って、物価上昇圧力も高めてきたと考えております。同時に、中長期の予想インフレ率も全体としては、この間上昇してきており、デフレマインドの転換も着実に進んできたと考えています。そうした中で、このひと月、ふた月ですが、原油価格の下落がより顕著になってきた影響、あるいは増税後の需要面の弱めの動き──いずれも一時的な要因とみられるわけですけれども──、それらは物価の下押し要因として作用してきており、これまで順調に進んできたデフレマインドの転換が後戻りするリスクがあると考えました。実際、経済・物価見通しを 10 月 31 日の会合で点検したわけですが、私自身の見通しとしては、物価の見通しが下振れし、リスクバランスも経済・物価とも下方にやや厚いという判断になりました。こうした状況のもとで、やはりデフレマインドの転換が後戻りするリスクを未然に防ぐ、好転している期待形成のモメンタムを維持するということは極めて重要であると考えましたし、また、まだ崩れていない景気の前向きな循環メカニズムが維持される中で現在の回復をさらに強力に後押しすることで、より大きなまた持続的な政策効果も期待できると考え、そういった予想される政策のベネフィットと懸念されるコストやリスクを慎重に比較考量した結果、追加緩和が適切であると判断した次第です。
続きまして 2 点目の質問については、消費税の再増税に関するご質問かと思います。消費税の再増税に関しては、政府、国会において、経済状況を総合的に勘案して判断されることと理解しておりますので、私の方からのコメントは差し控えたいと思います。また、国債の暴落のリスクについてご指摘があったと思いますが、私自身は懇談会でも申し上げていますように、国債の金利は先行きの経済・物価情勢に関する見通しとターム・プレミアムが加わって形成されるものです。国債の金利は、もちろん私ども日本銀行が国債買い入れを行って、それが金利に低下圧力を加えていくわけですが、一方で、今後、経済・物価情勢が改善していく中で金利上昇圧力が強まっていけば、国債買い入れが続く中にあっても金利は下げ止まったり、あるいは上昇に転じていくということも考えられるということであり、そうした国債金利の見通しについては、経済・物価情勢の改善を伴う形で今後推移していく可能性が高いと考えております。
下線部分に注意してお読み頂ければ御分かりでしょうが、如何でしょうか。 氏は、大学教授と云うことですが、大学の講義で第三者的に行う講義では無くて、自身が決定に関わった追加緩和について官僚的答弁をされる神経が分かりません。 質問に答えるにあたり懸念が無ければその旨答弁すれば良いのです。
「バンザイノミクス」とは吉本新喜劇のタレントが駄洒落で云っているような次元のものではありません。 金融・経済の第一線にある識者が諸外国の経験に依る中央銀行の国債引受を金融緩和名目で行う危険を指弾しているのです。 自国の国債への信認を毀損し、惹いては自国通貨への信認を毀損する行為は厳として慎まねばなりません。 特に我が国では第二次大戦後に戦時国債の乱発に端を発する通貨信任毀損が基で制御出来ない激しいインフレーションに襲われて国民が塗炭の苦しみを舐めた経験があるのです。 1945年10月から1949年4月までの3年6か月の間に消費者物価指数は、何と約100倍になったのですから。
日銀は、10月末で、市場から23%の国債を買い、予想では、2015年末には、それは30
%となり、2016年末には、40%に近づく、と金融情報にはあります。 これが、国債の貨幣化(monetization)で無くて何でしょうか。 即ち、財政ファイナンスそのものではないのでしょうか。 国家財政が破綻してハイパーインフレに向かう地獄の道を選択し、平然としていられる日銀や安倍政権の神経が分かりません。
BoJ owned 23% of the JGB market in October Japan Macro Advisors
「バンザイノミクス」とは、第二次大戦において戦闘の結末が鮮明になった絶望的状況にあっても、尚、満足な武器も所持せずに自殺的行為に出た日本軍の行為を云うところの「banzai charge」(バンザイ突撃)からの造語でしょうが、ガダルカナル島での死屍累々の凄惨な写真を観ながら、例えるにあたってこのような行為を持ちだすのは、我々日本人では出来ないであろうと思うものの、またもやこのような行為を国民に強いかねない安倍政権が目論むものとすれば首肯できようと云うものです。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5050:141117〕
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