緊急報告 スペインを「ものにする」中国 ―― ユーラシア制覇への地政学? ――
- 2014年 12月 17日
- 時代をみる
- 童子丸開
緊急に書いた新しい報告です。
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http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-2/Spain-China-connection.html
緊急報告 スペインを「ものにする」中国
―― ユーラシア制覇への地政学? ――
※ 以下、ユーロと円の換算比率は2014年12月14日のものを使用している。
(1)スペインの中国人と中国社会
西側世界の大都市には数十年から百年近い歴史を持つ大規模なチャイナタウンがある場合が多い。しかしスペインには1990年代まで中国人が街のある区画に固まって種々の商売を営む本格的なチャイナタウンは生まれなかった。スペイン程度の国では進出してもさほどうまみがあるわけではなく、せいぜいが各都市に中華料理店や中国食材店(日本や韓国などのアジアの食材も売っている)などが散らばる程度だった。また中華料理などに使う特別な野菜(チンゲン菜やモヤシ、ニラなど)を栽培する中国人経営の農家が少数あるくらいだった。
それでも2000年代のバブル経済期になると、合法・非合法の形で大勢の中国人たちがスペインにやって来るようになった。バルセロナには旧市街のサン・ペラ地区に多くの中国系商店・商社があり、また市内の各所には、伝統的な料理店や食材店のほかに、中国人が経営する衣料や日用品の安売り店や小規模スーパー、理髪店などがあるが、しかし本格的な「チャイナタウン」と呼んでよい地区は存在しない。旧市街ラバル地区にはBarrio Chino(チャイナタウン)と呼ばれる一画があるが、これは単に名前だけであり実際に住んでいるのはパキスタン人やモロッコ人などのアラブ系である。
しかしマドリッドでは様相が異なる。市の中央からやや南側にあるレガスピやウセラにはかなりの規模で中国人街が広がっている。 こちらのYouTubeビデオはアップが2011年とやや古いが、これらのマドリッドの典型的な中華街を記録したものだ。多くが食料品や雑貨の店、美容室や理髪店などを営業しているが、旅行社や貿易業者などもある。言葉が分からなくても映像だけでその様子が分かるだろう。またマドリッド市内のコボ・カジェハには中小の工場が密集しているのだが、そのほとんどが中国系で、不法に入国した大勢の中国人たちを奴隷同然にこき使って「中国製品」の衣服や偽ブランド品などを作らせている他に、麻薬取引や売春の一大拠点となっている。必然的に中国系マフィアが暗躍する場所でもあり、その規模は欧州内でも最大級のものと言われる。
【写真 マドリッドのウセラ地区で行われる春節:Vozpúbli紙 http://estatico.vozpopuli.com/imagenes/Noticias/E606A976-FAC8-1DD7-765E-2B82850C6C7A.jpg/resizeMod/0/1200/En-el-barrio-de-Usera-vive-un-gran-numero-de-ciudadanos-chinos–que-dominan-el-comercio-minorista.jpg】
スペインの経済バブルがはじけた2008年以降、スペイン人にさえ400万人を超える失業者が出る中で、中南米人やアフリカ人などの他の地域から来てスペインで働いていた者たちは次々と失業し、大量にスペインを出ていった。しかし中国人はその逆だった。彼らは08年以降今年までに、正式に就業して社会保険と税金を支払っている者だけでも、 44%もその人口を増加させている(46694人⇒91554人)。もちろん非合法の形で住み着いている者たちはもっと多いと思われる。数的には在住外国人全体の中で大きなものではないが、その働き、特に動かす物品と資金の量は、他の者たちとは桁が違う。
バルセロナでも、小物・日用品の安売り店はほとんどが中国人経営で、各地区でけっこう客を拾っている。90年代には街のほうぼうにあったスペイン人経営の安売り店(日本の100円ショップに当たるもの)はほぼ完全に姿を消した。何せ安いのだ。まだスペイン人経営と中国人経営の店が混ざっていたころには、人々はまず店の外からカウンターに座っている店員の顔を見て、中国人なら店に入っていった。日本レストランを経営するのもほとんどが中国人である。また経営の行き詰ったスペイン人経営のバル(喫茶店)やレストランを中国人が買い取って従来の店名と外装のままで経営する例も多いが、彼らが経営を始めると客が離れていた店も持ち直す。
中国人たちは通常一家族で店を維持するため人件費が抑えられるうえに、商品や食材などの生産と仕入れも中国系の卸屋からであり、十分に値段を下げることができる。さらに彼らには独自の資金ルートがあり、不動産や店の権利などを買い取る時にもポンと現金で支払うことができる。加えて、多くの場合に実態は闇の中だが、労働ビザや居住権、運転免許などの取得もなぜか極めて容易であり、本人がいなくても居住権の延長申請が楽々と通ってしまうほどだ。それほどに中央と地方の官僚組織に強い影響力を持っている。
2012年10月にグアルディア・シビル(軍に所属する国内治安部隊でテロや広域犯罪捜査などにも対応する)は、国内の中国マフィア組織の一斉手入れを行い、中国人および協力していたスペイン人の企業家や役人ら 100人近くを逮捕した。俗に「皇帝作戦(Operación Emperador)」と呼ばれるものだが、彼らは8億~12億ユーロ(1180億~1770億円)のカネを洗浄してスペイン国外に持ち去っていたとされる。この作戦で逮捕された中国マフィアの首領ガオ・ピン(Gao Ping)は、表向きは現代絵画の画廊を経営しており、社会労働党政府(2004~11)幹部とも親しく、さらに国王フアン・カルロス(当時)にも近づくことができるほどにスペインの国家上層部に食い込んでいた。さらに現与党国民党の隠し資金を扱っていた同党経理担当者ルイス・バルセナス(逮捕済み)がこの中国マフィアの資金洗浄網を使って スイスの銀行に大量の送金を行っていた疑いも持たれた。
【写真 国王フアン・カルロスとガオ・ピン:Libeltad Degital紙 http://s.libertaddigital.com/fotos/galerias/operacion-emperador-mafia-china/gao-ping-rey.jpg】
【写真 社会労働党政権モラティノス外相とガオ・ピン:Periodista Digital紙 http://www.periodistadigital.com/imagenes/2013/04/01/pantallazoyoutubegaoping_560x280.jpg】
もちろんだがガオ・ピンはスペイン国内に、多額の隠し資金だけではなく 数多くの不動産や自動車を所有していた。またオルガス侯爵家や国王の親戚に当たるブルボン家のメンバーなどとも親交があったほどに、スペインの上流階級に深く食い込んでいた。さらに彼のスイスへの送金と資金洗浄にはスイスの銀行家マルク・ペレスと英国の世界的な投資銀行HSBCが絡んでいたことが疑われているが、真相はいまだに明らかにはされていない。しかしガオ・ピンはマフィアのボスにしては若すぎる。彼の背後には中国の裏社会と政治グループが控えていると思われるが、それが表に出ることはあるまい。そして彼は多額の保釈金で釈放され、何週間も後になって再逮捕命令が出されたが、それ以来ガオ・ピンとその周辺の様子についてのニュースは途切れたままである。
(2)2014年秋に突然開いた中国の扉
いま(1)で述べたことは単なる「前奏曲」にすぎない。しかし以上の事実から、2000年代に入って強力な中国人社会がスペインに大規模に作られ始め、中国系マフィアが社会の奥深く、それも極めて上層部に、さらには欧州の伝統的な「雲の上」にまで喰らい込んでいったことがわかるだろう。また、単なる金もうけだけならむしろバブルの期間中がその活動に中心になると思われるが、彼らが大量にそして激しくスペインに入って来たのは、逆にバブルがはじけてスペイン中が失業と借金と金づまりにあえぎ始めた後になってからなのだ。つまりスペイン国内の経済活動が次々と失われる中で、その空白を埋めるように中国人とそのカネとモノがなだれ込んできたのである。
そして今年の秋、2014年9月25日、カタルーニャ独立問題の嵐が吹き荒れる中、首相のマリアノ・ラホイは北京で中国の国務院総理Li Keqiang(李 克強)を相手に、 総額30億ユーロ(4425億円)を超える貿易協定を取り結んだ。内容は風力発電プラントやアルファルファなどの中国への輸出である。スペイン政府はこのおかげでようやくEUと交わした負債額削減の約束を果たすことができたのだから、ラホイが有頂天になったことは言うまでもない。しかし彼が北京と上海を訪れた理由がそれだけではなかったことがすぐに明らかになる。
10月1日付のスペインの経済紙エル・コンフィデンシアルは、ラホイが中国屈指の大富豪Wang Jianlin(王 健林)と会って、マドリッド近郊に欧州最大規模のカジノ都市「ユーロべガス」を、彼のDalian Wanda Group(大連萬達グループ)の投資によって建設する基本合意ができたことを報道した。この「ユーロべガス」は、元々は国民党が牛耳るマドリッド州が米国ラスベガスのネオコンで大富豪のシェルドン・アンデルソンの懐を当てにして計画されたものだ。しかし、米国共和党の政治資金源でもあるアンデルソンの財布の具合と、(おそらく)2020年オリンピックの誘致大失敗が原因だろうが、アンデルソンのラスベガス・サンズは2013年12月にこの計画からの撤退を発表した。札束の山と選挙の得票数を夢にまで見る国民党が「新たなアンデルソン」を必死に探し求めたのは当然である。そして彼らはそれを、米国とは逆の方角で、発見することができた、というわけである。ラホイが「分離独立」を叫ぶカタルーニャに対して強気になるはずだ。カネは今からいくらでも入ってくる、カタルーニャの雑魚どもなどもはやいくらでもない、ということなのだろう。
【写真 中国屈指の大富豪Wang Jianlin(王 健林)右:el Confidencial紙 http://www.ecestaticos.com/imagestatic/clipping/158/c93/5e0/158c935e0bd2b31254eaac951c557a9e.jpg?mtime=1418067076】
そして12月8日に一風変わったニュースがスペイン人を驚かせた。70のコンテナに1400トンの物資を積み込んだ貨物列車が、世界最長の鉄道路線Yixinou(Yuxinou)でマドリッドに運ばれてきたのだ。この貨物列車は上海に近い世界的な日用雑貨の取引所のある義烏を11月18日に出発し、カザフスタン、ロシア、ベラルーシ、ポーランド、ドイツ、フランスを通過し、13000kmの道のりを21日間かけて、はるばるスペインの首都までやって来たのである。いわばユーラシア大陸をほぼ完全に横切ったわけであり、スペインでは「新シルクロード」と紹介された。
【写真 世界一の長距離鉄道Yixinouでやって来た中国の貨物列車を出迎えるスペイン国有財産相アナ・パストール(中央)とマドリッド市長アナ・ボテジャ(その左):el País http://ep02.epimg.net/politica/imagenes/2014/12/09/actualidad/1418131219_308872_1418139981_noticia_fotograma.jpg】
【地図 新しいシルクロードか? ユーラシアを東西に結ぶYixinou:el Periódico紙 http://estaticos.elperiodico.com/resources/png/1/6/1417211421761.png】
コンテナの貨物はマドリッドなどにある中国人経営の雑貨店に運ばれる工業製品に違いあるまい。また通関などの手続きが簡略化されていけば日数ももっと短くて済むようになるだろう。もちろん帰路にはワインやオリーブオイル、チーズやハムなどのスペイン製品がコンテナに詰められることになり、対ロシア経済制裁のとばっちりでロシア市場を失っているこの国の農業にとっては実に美味しい話だ。
驚きはそれだけではなかった。Yixinou到着のニュースの翌日、12月9日付のエル・コンフィデンシアル紙は、Dalian Wanda Groupが先ほど述べた「中国資本ユーロべガス」に対する60億ユーロ(8850億円)規模の融資を2015年からスタートさせることを報道した。これは一つのプロジェクトに対する融資額としてはスペインで過去最高の記録となる。マドリッド近郊都市のアルコルコンが建設予定地だが、そこにはすでに王健林による5千万ユーロ(74億円)の融資のおかげでサッカー球団のアトゥレティコ・マドリッドが土地を所有しており、同球団会長のエンリケ・セレソがこの中国資本呼び込みの立役者になっている。またその他の国の投資家たちもこの計画に乗っており、クウェート投資庁(KIA)なども総額20億ドル(2952億円)の投資を決めているそうである。
(写真 アトゥレティコ・マドリッド会長エンリケ・セレソ:Marca紙 http://www.marca.com/imagenes/2012/08/03/en/football/spanish_football/1343981932_extras_mosaico_noticia_1_g_0.jpg)
しかし、落ち着いて考えれば奇妙な話だ。スペインと言えば今の欧州の中で最も多額の負債を抱え、食うや食わずの貧乏人をさらに切り捨てないと借金の利子すら返すことができず、傲慢で貪欲なわずかの巨大企業と大多数のよれよれの中小企業が形作るような国である。純粋に商売で言うなら、とてもではないが「美味しい国」とは言えないだろう。しかもこんな国にカジノの拠点を作るメリットがどこにあるのだろうか。スペイン人自身について言えば、一握りの貴族や大富豪と一部のニワカ成金ならカジノにも群がるだろうが、集まる人数はたかが知れている。フランス人やドイツ人を相手にしたいのなら欧州の中央部に作ればよい。スペインの窮状を救う慈善事業ではないのだからアンデルソンが手を引くのも当然だ。では王健林はカジノ拠点の建設とそのコントロールを通して何を手に入れる目算があるのだろうか。
もし、中国人たちがスペインの中小企業と商店を次々と買収して、国内での生産と販売の手段の多くを握るなら、つまりスペインが「小・中国」になり中国人の成功者が輩出する事態になるのなら、話は別なのかもしれない。いずれは米国を抜いて世界一の経済大国となるはずの中国の資本とのつながりを求めて、マドリッドに欧州各国から大小の資本家も集まるだろう。そして非合法を含む様々な手段で設けたカネが、スペイン政府公認のカジノの売上となって、そこから欧州と世界のいろんな場所に融資されていくのなら、誰にも文句を言われる筋合いはない。
スペインと同じように不況にあえいで「スッカラカン」になっている国でも、ポルトガルやギリシャでは国の規模が小さすぎる。イタリアでは伝統的な利権構造に食い込むことが難しい。いやしくもユーロ圏第4位の経済規模を持ちながら他の西側諸国が進出に二の足を踏むスペインなら、「中国経済圏」に組み入れるのにうってつけなのかもしれない。何せこの国の支配層は「絵に描いた札束」を見せるだけで涎を垂らす条件反射が身にしみついているのだ。百戦錬磨の中国人にとって彼らをコントロールするのは造作も無いことに違いあるまい。
しかし、ユーラシア大陸の東側からこんな西の果てにまで人と資本と輸送路をつないでいくような動きが、単に大資本家の「先見の明」だけによるものとは考えにくい。ここにはユーラシア大陸を舞台とする中国の世界戦略が現われているのではないか。中国は米国などとは異なり、軍事行動ではなく移住と商業と貿易を主武器にして他国をコントロールする。そのノウハウは何百年間にもわたって積み重ねられており、彼らにとってはそれがほとんど空気のように当たり前になっている。人々が意識しようがしまいが、移住と商業活動はいつの間にか政治的な意味合いまでを帯びてくるだろうし、指導部の政治的な狙いを持ってその政策が行われることもあるだろう。
(3)ユーラシア大陸の覇権を巡る米国との対決とロシアとの「協力関係」
12月1日にロシアのプーチン大統領が、黒海の海底と東欧諸国を経るパイプラインでロシアの天然ガスを欧州に運ぶ、いわゆる「サウスストリーム」の建設計画を中止して、トルコに向かうパイプラインを建設すると発表したニュースは、日本でも知っている人がいるだろう。しかし、いま(2)で述べた中国とスペインの急接近は日本ではほとんど知られていないと思われる。その理由は、英国や米国の英字新聞がこの事実にほとんど興味を示さずこのニュースを広めようとしないことである。英語ニュースにならない限り日本人の注意を引くこともまずあり得ない。ロシアの動きと前後して、中国がユーラシア大陸の東と西を具体的に結びつける「カネとヒトとモノのパイプラインを建設した」事実は、私にはロシアの天然ガスに勝るとも劣らない重要な出来事ではないかと感じられる。
ロシアの天然ガス・パイプライン変更については、「マスコミに載らない海外記事」様にある次の二つの翻訳記事を参照のこと。
「逆効果!」 Michael Hudson著 2014年12月11日 ”ICH”
「“ざっくばらんなトルコの話”」 Mike Whitney著 2014年12月7日 CounterPunch誌
また中国との関係を加えた国際情勢については「田中ニュース」の次の記事が詳しい。
「中露結束は長期化する」 田中宇 著 2014年12月5日
先ほどの中国とマドリッドを結ぶ長距離鉄道Yixinouが描かれた地図を眺め直してほしい。かつての「冷戦構造」は、「東側」の中国とソ連が対立を続けているうちに東欧から「共産圏」が崩されていった。そして911事件後には中央アジア諸国にアフガニスタン・タリバン政権攻撃を口実にして米軍基地が作られた。プーチンがロシアの国益を防衛しようとすると、旧ソ連領内での「カラー革命」によっていくつかの反ロ親米政権が誕生した。しかしその後になって、中央アジア諸国とグルジアはすでに米国と距離を置いている。旧ソ連の国々の中で明確に反ロシアの態度をとるのは、ネオコンの全面的支援とネオナチの力を借りたインチキ「マイダン革命」によって捏造されたウクライナ政府だけである。欧州はというと、ガスの供給をロシアに頼りながら、米国ネオコン路線に従ってロシアへの経済制裁に参加し「新冷戦構造」作りに協力させられている。
一方でロシアは欧州に向かうガス・パイプライン計画を中止して、NATOの一員でありながらEUに入ることのできないトルコに向かうエネルギーのパイプラインを建設することで、トルコとの「同盟関係」を作り上げようとしている。またロシアはエネルギーの取引によって中国との同盟関係を強化している。両国はすでに上海協力機構を通して中央部ユーラシア各国への影響力を強めており、先ほどのYixinouが通る国の中でカザフスタンは既にこの機構のメンバーであり、ベラルーシは「対話パートナー」としてロシアとの関係を強めている。イランとインドがその正式加盟国になるのも遠いことではないだろうし、ガス・パイプラインの新しい行き先となったトルコもまたその「対話パートナー」となっているのだ。
ロシアのガス輸送計画変更とほぼ同時に起こったスペインと中国との「同盟関係」は、東側で「サウスストリーム」中止に揺れ動くEUを西側から挟み撃ちにする、ロシアと中国の陣形を作り上げたと言えるのではないか。EUの首脳は心臓が止まりそうになり、米国ではいまごろネオコンのパトロンであるシェルドン・アンデルソンが歯ぎしりをしているかもしれない。
おそらく中国は、単なる「スペインでの儲け話」をはるかに超える次元で、長中期的な世界戦略の一環としてこのイベリア半島の国を「ものにする」計画を実行しているのではないか。いずれはスペインを足がかりにして欧州を「中国経済圏」に組み込んでいくこともできよう。単なる東西からの「挟み撃ち」ではなく、東西を通して「新たなシルクロード」が敷かれ否が応でも他のEU諸国を巻き込まざるを得ないのだ。そうなれば、仮に中露対立が起こりそうになってもロシアは簡単には中国とは敵対できなくなる。むしろ両国で協力して、他のアジア諸国や中東、アフリカへの影響力を強めて米国の軍事覇権主義を無力化していく方を選択するだろう。ユーラシア大陸をチェス盤に見立てた米国の知恵は、碁盤に見立てて一つずつ石を打っていく中国の知恵に打ち破られていくのではないか。
いまスペイン首相マリアノ・ラホイは浮かれ切っている。この単純さを絵に描いたような男は、膨らみ続ける公的負債額も貧窮の度を強めつつある下層国民も頭に無く、スペインの銀行の基盤は脆弱なままだというEU委員会の警告をも無視して、「経済危機は去った。それはすでに歴史となった!」と公式な場で演説し、与党国民党内部からも批判を受けている。やっぱりドン・キホーテの国だったと思わざるを得ないが、まあその気持ちとしては分からないでもない。さすがに切れ者の副首相ソラヤ・サエンス・デ・サンタマリアは、ラホイの迷演説を「スペイン経済はそのサイクルを変えつつあり、その表れは完全に変わっている。作業は続けなければならないが、しかし我々はどこからやって来て、そしていまどこにいるのか・・・、50万人の職が破壊される流れと同じ数の職が作られる流れは、まさに正反対のものだ」と言い換えてみせた。
「我々はどこからやって来て、そしていまどこにいるのか・・・、」と語るサエンス・デ・サンタマリアには、ひょっとすると一つの歴史の大きな転換期がすでにイメージできているのかもしれない。
2014年12月15日 バルセロナにて 童子丸開
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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