マンション生活で知り得た社会問題を考える (1)
- 2014年 12月 20日
- 評論・紹介・意見
- マンション住宅問題住民自治羽田真一
整然としたパリの都市景観も地下鉄で郊外に向かうとしばらくすれば移民も数多く暮らしていると言われる巨大なマンション群が広がっている。多数のマンションをも包み込んだ無秩序なビル群空間は、そこに暮らす人々の社会生活の違いをも表しているようだ。
今や日本全国で1,400万人が暮らすと言われる集合住宅:マンション(大邸宅にあらず鉄筋アパートと呼びたいが)なる現代の小社会住居集団は、互いに連携して問題を共有することもなく、個々の管理組合を通じて運営されているのが現状である。
私は2011年5月、長年暮らしている在住マンションの管理組合の理事長に初めて承認された。そこで遭遇したマンション管理の実態「現代も残るムラ社会」を知り、過去の無関心派の自分を改新派(どこまでそう呼べるか?)に変わらせた経緯をお伝えすることにより、身近な住生活問題から出発して小さいが重要な社会問題として考察し報告する価値があると信じ、正義が通る社会の実現に向けて人々の関心を喚起したい。
自立すべき精神の主体である住民が、管理会社に支配されてその意識すらなく、全体で抗う個人を異物として排除する社会の存在を認める訳にはいかない。
1. マンション統治の仕組み
マンションは区分所有者の集まりであり、住居としての建物の資産価値を維持するために管理組合の形成加入が義務付けられている。組合を通したマンションの管理運営のため住民組合員は高額な購入費の他に、それ相応の負担金、即ち、[管理費*]=管理費+修繕工事積立金+各種専用施設利用料を納めて居住者としての権利を得ている。組合活動の原資は全てこの[管理費*]であり、組合の主役は住民組合員であるが、全員が運営に直接関わる訳にいかないため、代表者を選んで理事会を設け課題を審議執行させている。 当マンションでは理事は各棟から順番くじ引きで選ばれ、毎年半数が交代する2年任期であり、その中から理事長・総務理事・会計理事が互選で選ばれ、別に監事は全体で1名が選ばれる。1年目はそれぞれ副であり2年目に主となることになっている。
この理事会が中心となって月1度の理事会を開催し、種々の議題を審議決議し執行する。年間の総まとめと次年度の活動計画について年一度の総会で組合員の承認を取る。管理運営(会計処理や修繕工事など)に専門的知識も必要なところから、通常、管理会社や建築コンサルタントなど外部業者に委託し、また日常の業務事務のために管理員を雇用委託する。これが通常の各マンションの統治機構であり、統治の実質代表者は理事長である。
マンション管理の規範として国交省は標準管理規約を打出しており、各マンションはこれを基にそれぞれの事情を勘案した管理規約を制定している。また、それぞれの事情の変化に対応するため適宜規約の追加・改訂や、より身近な問題には各種細則を制定し、総会で承認を得ることになっている。しかし、その適用は理事会の守備範囲であり、ルール違反への罰則がないなど、まだ不備があってマンション管理紛争の源になっており、その整備強化は喫緊の重要課題である。
2. ここに至る当マンション管理の経緯
現在、私が暮らすマンションは築30数年の段階にある。当初から大手不動産会社の物件として、その子会社の直接管理で全てが始まった。これが当マンション問題の出発点である。15年目に第1回大規模修繕工事があり、その後、17年目に初の管理人の交代機会があり、親会社出身?の前管理人が送り込まれてきた。これを機に自主管理を導入するための検討チームが発足し、その3年後の20年目から自主管理体制が始まった。自主管理への名目の移行目的は年間1,000万円を超える管理委託料の減額要求であった。しかし、委託料は300万円ほど減額になったが、会計管理委託先はそのままその子会社に継続され、管理人は理事会雇用で継続された。この管理人(常駐)は管理会社の実務肩代わり、即ち、管理会社代理人の役割を持ち、実質的に管理会社支配の直轄管理と変わりなく、エセ自主管理が行われてきた。
第1回大規模修繕工事を機に、専門委員会(長期就任が可)が形成され、管理人(管理会社とも)と繋がり、規約改正・細則制定や予算案に口出しし、短期(2年)任期の理事会に代って管理組合を牛耳ることとなった。自主管理検討時に管理運営方法調査としてコンサルタント会社と契約し、以降、建物修繕工事全般をコンサルタント業務・長期修繕工事計画で委ね、現在に至るまで20年近く当マンションの大型修繕工事の根幹を管理会社・コンサルタント・専門委で全て握るようになった。その他清掃委託など大口契約もほとんど当初の業者を変更していない。
このようなエセ自主管理体制が続くとどうなるか。特に要の会計管理業務は一部の支配中枢に密閉され、住民は高額な[管理費*](約2万円/月・戸)を負担しながら、十分な説明も受けず蚊帳の外での運営に慣らされてきた。実務は管理人中心で会計理事・監事ともチェック機能無しのお飾りに近い監理では、会計不正疑惑を持たれるのも当然であろう。会計問題に口を挟むことはタブーとなっており、過去、総会で「会計- – -」と言いだしたら会場から横槍が入り発言出来なかったと聞いている。総会は住民の理事会運営結果と次年度の活動計画の承認の場であるが、管理会社の敷いたレールの上で、シャンシャン会議とするのが理想とされ、限られた時間での「寝た子を起こすな」的報告会に形骸化される。異論を唱える住民は管理中枢とその同調住民集団の力でねじ伏せられるのが実態である。
組合の民主的運営の重要な手段である組合情報の統制も凄まじい。理事会議事録は次の理事会で理事には配布されるが、一般の住民には何が審議決議されたか配布・掲示もされず、管理人のファイルに仕舞われるだけである。議事録は閲覧請求があれば見せねばならないという規約は存在するが、それを利用する者は稀である。住民の発言の場は年一度の定期総会だけと言ってよいが、その場も上記のように自由な雰囲気はない。議長は初めに「総会資料に関係しない案件の意見はお断り」と釘を指す。総会後の懇談会すら発言を阻止する仕組みができている。いつの間にか自由な討論の場のない、管理会社を向いた有力者集団に支配される窮屈な社会空間が出来上がっている。当方がそれに抗う所以である。
3. マンション管理の実態経験
いざ6月、理事長として最初の理事会が始まってみると、早速、当時70数才?、15年継続の老獪管理人の巧みな手管に見舞われ、議長として会議のやり方やこれからの運営方針をしゃべるのがやっとであった。また、予定した議事事項すら巧妙に手を加えられた。そこには、この管理人を中心とした、管理会社を頂点とする非民主的な組織が存在した。
理事会を形骸化する専門委員会が支配する強固な運営支配組織が出来上がっていた。[管理費*]総額は年約6,500万円で、管理会社への委託料や日常管理費用の他に、数年に1度の2億円程度の大規模修繕工事を実施して資産価値を維持することになっている。管理組合正常化を目指して行動することは、この既得権益集団と直にぶつかることとなり、正に「出る杭は打たれる」状態になることを覚悟しなければならなかった。
一般の住民にとって法律の世界はどうしても疎く敬遠しがちであり、自分の住むマンションの管理運営など煩わしく理事会に任しておいて無関心でいたいというのが本音である。理事会はその意識を上手く利用し理事会情報は最小限にして、規約無視だけでなく違反となる活動も巧妙にやってのける。注意深く国交省の標準管理規約と当マンションの管理規約とを読み比べると、マンションの管理支配層に好都合な文言が巧みに挿入されたり、不都合な条項は骨抜きにされているのが分かる。
組織は統治の要である情報の統制と会計を独占する。会議の議題設定から議事録作成まで、必ず管理人の手を通るように仕組まれているから適当に内容が改竄され(法律違反)、管理人に不都合な発言は残さない。種々の大口の業務委託契約も日程的な時間制約で殆ど審議不十分で実行できないように仕組まれ、余りにも理不尽なので会議の席で文句を言ったら、専門委員会では多勢に無勢、こちらの提案資料にイチャモンをつけ、吊し上げ同様の延長会議を行い、いつの間にか議事録は管理人の契約も含めた各種大口外部委託契約の一括承認となっていた。
関係公共機関の窓口で経験した事実を説明(十分な説明は不可)しても、適切なアドバイスは殆ど得られず、「理事や住民を味方につけて」とか「その場で言えば良いではないか」という答えが返ってくる。正攻法でやろうとしたら任期1年は短すぎるし、経験・知識のない身では経験豊富で巧妙に騙す手管に即応できないことが多いのも事実である。学習の足りなさを今さら嘆いてみても始まらないのだが。
4.実態と刷新案を書いて全戸に手紙を配布した結果
”チェック機能の無い長期継続組織は必ず腐敗する”の原則通り、組合会計に不正疑惑が見えてきたので、外部による会計監査を要求したが理事会は無視を決め込んでいる。管理費を納めている住民に組合会計をオープンにするのは管理の基本である。管理組合正常化への鍵は住民の意識改革にあると考え、マンション内部には2011年7月から手紙の全戸配布で実態を伝え、種々刷新案を示し、近隣地域にはチラシ配布で訴えた。初めは住民から賛同意見が数々寄せられたが、その後、不思議に全体が沈黙に変わった。あれこれ理由を考えたが、未だよく解らない。「王国」は私を会議で吊し上げ、集団夜襲で口封じ、訴訟脅し・誹謗中傷ビラ、電話・メール・来訪など個人攻撃を仕掛け、孤立状態を強いられることとなった。12月には理事会が手紙配布・理事会欠席を理由に2度の「辞任勧告」を郵送してきた。度重なるストレスで心臓病を発症し、一住民として柔軟に持続して抗おうと決心し、正月明けに「辞表」を提出した。「辞めたら負け」とのアドバイスもあったが、正面からぶつかって倒れるよりは、1歩退いても自分の自然の気持ちを優先して持続的に社会正義を味方に抗い続ける道を選んだ。
その後、何が効いたか、1月末に管理人が、4月総会前に専門委大半が退いたが、要の管理会社・コンサルタント会社は理事会を使って巧妙に契約を継続させ、支配を強化してきている。新管理人は管理会社の直接雇用となった。機能しなくなった専門委に代って理事会の役員に辞めた専門委を送り込んできている。総会はいくら重要な問題が起ころうとも彼らの不都合事は無視して通り過ぎる。不正会計疑惑を訴えても全く採り上げようとしない。住民は何時自分の意見を言えるのか、ノーなのである。志ある人は黙って転居していく。それが残念でならない。”正義は何時かは実現する”と確信して最後まで手紙配布は止めない決意であり、近隣社会と情報を共有して自由な意見交換の場を作り、自然で正常なマンション生活の実現に努めたいと考えている。
今後、数回にわたって、実体験して知り得たマンション管理に関する社会問題を私なりに考えて位置づけし、方法論も含めて問題解決に意欲を持つ皆さんの参考になればと願ってお伝えする事にしたい。先が見えない現段階では風車に立ち向かうドンキホーテの感がするが、一つ一つ経験し考え対処していくだけであると考える。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion5078:141220〕
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