NHK放送番組 「サイエンスZERO : 謎の放射性粒子を追え!」のどこがおかしいか=きちんと伝えられないホット・パーティクル(放送では「セシウム・ボール」と名付けていた)の危険性
- 2014年 12月 28日
- 評論・紹介・意見
- 田中一郎
さる2014年12月21日(日)放送のNHK「サイエンスZERO:謎の放射性粒子を追え!」が、昨日12月27日(土)のお昼に再放送されました。下記は、その関連サイトです。
公共放送たるものが放射線被曝について、かような態度では、これからの時代の日本に大きな懸念と暗い影を投げかけてしまいます。危ないものは危ないと、しっかり視聴者に伝え、原発・核燃料施設事故や核兵器実験などで環境放出される放射能の危険性と、その犯罪性について、国民的な共有認識にしていかないと、最終的には回復不可能な大変な悲劇的結末に至ることになりかねません。放射能の危険性は、人体に対しても、他の生物群に対しても、従ってまた、環境や生態系に対しても、強調されすぎるということはありません。あいまいにしたり、ごまかしたり、矮小化・過小評価したりすることは許されないのです。
●2014年12月21日の放送|NHK「サイエンスZERO」
http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp489.html
(一部抜粋)
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福島第一原発の事故で大量に放出された放射性物質・セシウム。放射線量などをもとにその汚染状況が調査されてきたが、実際の化学的形態はよく分かっていなかった。しかし、電子顕微鏡を用いた巧みな調査で、不溶性の球形粒子として存在するものも多いことが明らかになった。従来想定されていた水溶性粒子とは体内や環境中でのふるまいが異なるため、健康影響の推定などにも違う考え方が必要だ。どのくらいの影響が懸念されるのか。
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(関連1)NHK・サイエンスZERO <シリーズ 原発事故⑬> 「謎の放射性粒子を追え!」 – @動画 (見逃された方はこれをご覧下さい)
http://www.at-douga.com/?p=12757
(関連2)謎の放射性粒子を追え!(NHK・Eテレ サイエンスZERO) 魑魅魍魎男
http://www.asyura2.com/14/genpatu41/msg/460.html
(関連3)小木曽洋一「プルトニウムの吸入被ばくによる発がん等生物影響-動物実験でどこまで明らかにされたか―」『Isotope News』, No.711,
2013年7月号
http://www.jrias.or.jp/books/201307_TRACER_OGHISO
(関連4)放射性微粒子の危険性の完成版(渡辺悦司氏、遠藤順子氏、山田耕作氏の共著)
「「福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性ーその体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性」
detail
●ブログは今までと同じでURLは以下です。
http://blog.acsir.org/?eid=3 はじめに、一章
http://blog.acsir.org/?eid=32 二章
http://blog.acsir.org/?eid=33 三章
http://blog.acsir.org/?eid=34 おわりに、注記
修正された点は上記の報告に入っていますが、以前の報告からの主な変更点である東京圏におけるがんの急増傾向を示す追加資料のyahoo.boxのURL
は以下です。
(以下、この番組のどこがおかしいか、簡単に申し述べます)
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1.茨城県つくば市にある気象研究所が2011年3月14日にフィルターで採取した大気中のエアロゾルなどの浮遊物やホット・パーティクル(セシウム・ボール)などに含まれる放射性セシウム137の量は、通常の場合の1,000万倍の量(濃度)であると放送されていた。シャーシに入れられたサンプルに線量計を近づけると、目盛りの針が振り切れていた。ならば何故、事故直後に流れた放射能の量が非常に危険な膨大な量であったことや、それを吸い込んで呼吸被曝してしまった人がいるであろうこと、また、事故後においては可能な限り呼吸被曝を防ぐ手立てとして,強力マスクの着用など、被ばく防護措置を取る必要があることなどを注意喚起しないのか。この呼吸被曝の危険性については、今の福島やその隣接県の放射能汚染地帯では、なお、継続して万全の注意を払わなければならないことのはずである。
2.筑波大学の放射化学研究所では、福島県の各地の土壌を採取して調べたところ、浪江町のものから気象研究所が事故直後の大気中に発見したものと同じようなホット・パーティクル(セシウム・ボール)を発見したという。では、その他の福島県の地域や、福島県以外の地域では、発見されなかったのだろうか。いずれにせよ、気象研究所がフィルターで採取したものにだけホット・パーティクル(セシウム・ボール)が発見されたのではない=特殊なものではない=事故後に広範囲に拡散した、ということが明らかになったのは一歩前進だ。
3.ホット・パーティクル(セシウム・ボール)は、「鉄を添加したガラス」と同じような化学的性質を示し、水には溶けない、熱濃硝酸にも溶けない、という「安定した」物質特性があるらしい。しかし、番組によれば、2011年の3/14,15に採取されたホット・パーティクル(セシウム・ボール)は80%が水に溶けないものだったが、その後の3/20,21に採取されたものは、そのほとんどが水溶性のものだったという。
これはどうしてなのか、どうも私は腑に落ちない。ならば、その後の3/22以降に採取されたものについてはどうだったのか、そして、今現在はどうなのか、もう少し追及がほしいところである(ホット・パーティクル(セシウム・ボール)を「相対化」して「特殊なもの」だ、と印象づけているような様子がある。私の仮説は、放出された放射能のかなりの部分は、事故直後も今も、ホット・パーティクル(セシウム・ボール)状態ではないか、というもの)。
4.ホット・パーティクル(セシウム・ボール)に含まれている物質(放射性物質を含む)は放射性セシウムだけではない。ケイ素、亜鉛、鉄、マンガン、クロムの他、ウランが核分裂して発生する様々な物質=ルビジウム、ジルコニウム、モリブデン、銀、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウムなどが、まさに高熱で溶けて混ざり合って、その後冷却して固まったような状態になっている。番組は、まず、これらの物質のどれが放射性物質(放射性同位体)であり、どれがそうではないのかを明らかにして説明すべきだし、更に、番組でウラン核分裂物質について「量的には多くない」などというのなら、そのベクレル数を明確にして説明すべきである。まるで放出された放射性物質を隠すように説明するのはいただけない。
また、ホット・パーティクルには、放射性セシウム以外にもいろいろな危険な放射性物質・核種が含まれているのだから、それを「セシウム・ボール」などとネーミングすることも、判断錯誤の原因=放射性セシウム以外の放射性核種の無視・軽視につながりかねないので、やめるべきである(放射性セシウムの割合は10~20%程度)。
5.ホット・パーティクル(セシウム・ボール)の健康への影響については、次のような首をかしげたくなる点が多く見られ、とてもまともには見られない「シロウトだまし」のタチの悪い内容だった。日本のマスコミもそうだが、公共放送が、このような放射線ムラに媚びへつらうような態度で報道するのは全くいただけない。放射能の危険性や放射線被曝のリスクについては、もっとしっかりと伝えなければ、やがて視聴者・国民が判断を誤ることになりかねない。
(1)水溶性のホット・パーティクル(セシウム・ボール)については、胃腸などの消化器系に入っても体内に吸収されて、やがて体外へ排出されていく、肺に入ったとしても血管内に入り込んで、同じく、やがて体外に排出されていく、その排出までの期間は、放射性セシウムの場合だと、大人で100日前後で、「生物学的半減期」と言われていう。などと説明されていた。しかし、これは実に乱暴で、いい加減な説明である。
<1>ホット・パーティクル(セシウム・ボール)には、放射性セシウム以外にいろいろな危険極まりない放射性物質が含まれている。その中には、放射性ストロンチウムやプルトニウム、ウランなど、一旦体内に入ったら、特定の臓器や部位に集中して滞留し、長期間にわたり体外には出てこないものもある。そうしたものに言及しないで、放射性セシウムについてだけ説明しているのは、意図的な放射線被曝リスクの隠蔽に他ならない。
<2>放射性セシウムの人体内、生物体内での挙動が科学的実証的に検証・証明されていない。放射性セシウムは、人間の筋肉にまんべんなく広がって残留し、やがて排出されていく、などと言われているが、そんなことに実証性はほとんどない。一説によれば、放射性セシウムは甲状腺や心臓や膀胱に集まってきて、甲状腺疾患やがん、心筋梗塞やショック死(セシウム心筋症)、チェルノブイリ膀胱炎などの症状を引き起こすなどとも言われていて、ともかく人体内の放射性セシウムの挙動については、わからないことが多い。つまり、それだけ潜在的に危険性が高いということだ。NHKは何故それを正直に伝えないのか。
<3>「生物学的半減期」などというものが、あたかも様々な放射性核種ごとに、万人に対して有効な一般的科学概念として、観測事実として存在しているかのごとき嘘八百は、もういい加減にやめることである。「生物学的半減期」は個体差が大きく、人によって大きく違っている。たとえば放射性セシウムでいえば、短い人は50日ぐらいなのに、長い人になると数百日もかかる場合がある。ならば、「生物学的半減期」は内部被曝を評価する場合に基礎となっている数字なのだから、短い人・長い人の平均をとるのではなく、最も長い人の数字をとって「安全バッファ」的な認識をしておき、内部被曝防護の際には、その「最も長い人の生物学的半減期」をベースにものごとを考えるべきである。人間の命と健康に関わることを、「平均値」で考えるということは、平均以下の人々を切り捨てることになるということを心得ておくべきである。
それから、この(大きな数字の幅を持った)「生物学的半減期」でさえ、原子力ムラ・放射線ムラが言うところの「統計学的有意性」を持った数字ではないことも強調しておく。私の推測は、この「生物学的半減期」の数字が出てきた実証的根拠は、主としてアメリカで第二次世界大戦後間もなくの時期に、患者さんを騙して行った放射性物質の人体における挙動観測のための人体実験ではないかと思っている。いずれにせよ、「生物学的半減期」の人体実験は、今ではできないし、過去においても容易ではなかったため、大凡の推測の域を出ていない。そんなものを、あたかも厳然として存在するかのごとき科学的実証的概念として扱うことのインチキ性と、被ばく弱者(生物学的半減期が長い人)に対する暴力であることを念頭に置いておくべきである。
<4>非水溶性のホット・パーティクル(セシウム・ボール)については、肺の中に取り込まれた場合、長く肺の中に留まり続け、内部被曝を深刻なものにする危険性があることを指摘したのは非常に重要なことである。これはNHKを褒めてやりたい。しかし、胃腸に入った場合については、ほとんど吸収されずに排出されてしまうと説明されていた。しかし、ホット・パーティクル(セシウム・ボール)の大きさが「ミクロン・サイズ」ならばそうだろうけれど、「ナノ・サイズ」のものについては、そうとも言えないのではないか。判断が軽率であるように思う。いわゆる「ナノ(サイズ)物質」の危険性について、もっと注意・関心を高めるべきである。
<5>「66ベクレルの放射性セシウムを含む1個のホット・パーティクル(セシウム・ボール)が肺の中に取り込まれた場合も内部被曝を計算すると、大人で0.018mSv、子どもで0.031mSvで、ごくわずかだ、自然界に存在するラドンによる平均的呼吸被曝量の3mSv/年に比較しても、たいした被ばく量ではない」などと説明していることについては、話にならないほどバカバカしい。NHKのコメンテーターが、1個だけなら、心配はいらなさそうですね、などと「お囃子」までしている。
放射能で汚染された大気があるところで、ずっと呼吸を続けた場合に、7マイクロ・サイズのホット・パーティクル(セシウム・ボール)をどれだけ吸い込むか、どれだけ肺の中に入ってくるのか、について、よく考えてから、説明してから、かような説明をしていただきたいものだ。仮に1万個入ってきたら、上記の1万倍ということであり、0.018mSvは、たちまち10mSvになってしまう。また、このホット・パーティクル(セシウム・ボール)に含まれている放射性セシウム以外の放射性核種の放つ、ガンマ線以外のベータ線やアルファ線についてはどうなのか。それはどうカウントされているのか。更には、常々申し上げているように、内部被曝の評価にシーベルトなどという概念は使えない(過小評価概念だ)という点も重要である。
天然ラドンによる呼吸被曝との比較などは批判するまでもない。要するに、ホット・パーティクル(セシウム・ボール)による呼吸内部被曝の出来るだけ小さく見せたい、ただそれだけの思いと意図を持って、放送のこの部分は制作されたということだ。
<6>1個だけでなく、たくさん吸い込んだ場合には、WBC(ホール・ボディ・カウンター)で計測すれば内部被曝はわかります、などと、更にウソの上塗りをやっている。WBCでは、ガンマ線以外の内部被曝はわからないし、検出限界が最高性能のものでも150ベクレルくらいなので、低線量内部被曝はガンマ線であってもわからない。しかし、内部被曝は一過性のものではありえないので、150ベクレル未満の体内汚染であっても危険極まりないことは申し上げるまでもない。恒常的な低線量内部被曝の危険性がもっと強調されなければいけない。
<7>東京大学の森口祐一氏曰く「7マイクロのホット・パーティクル(セシウム・ボール)のサイズだと、肺の奥まではいることはほとんどない。=7マイクロなら、そうかもしれないが、それよりももっと小さいホット・パーティクル(セシウム・ボール)は絶対に存在しないと言えるのか?
もっと小さいナノ・サイズなら、肺の奥にはいってしまうのでは? (番組のこの辺から、バカバカしい、ホット・パーティクル(セシウム・ボール)の危険性を矮小化する説明が強調されてくる)
●東京大学 森口祐一氏
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/pros/person/yuichi_moriguchi/yuichi_moriguchi.htm
<8>ホット・パーティクル(セシウム・ボール)の場合には、放射性物質が中心部に集まり、周辺には非放射性の物質が取り囲むような形状のものもあり、その場合には「自己遮蔽」と呼ばれる効果が出て、内部被曝をもたらす効果が低い場合もある、などと説明。そうかもしれないが、その逆、つまり、ホット・パーティクル(セシウム・ボール)の外側に、放射性セシウムだけでなく、さまざまな放射性物質・核種が浮き出てきていて、内部被曝を何倍にもひどくしてしまう場合だってあるでしょう。このことに言及したいのなら、捕捉したホット・パーティクル(セシウム・ボール)をすべて徹底して調べてから言うべきである。それが科学的実証的態度というものだ。
<9>NHKアナウンサー曰く「放射線医学総合研究所によれば、非水溶性のホット・パーティクル(セシウム・ボール)を吸い込んだ人は発見されていない」。バカバカしいという他ない。お聞きしますが、いつ頃、何人くらいの、誰に対して、どのような調査を行った上で、こういうことをおっしゃっているのでしょうか? それは統計学的に有意性があるのですか?
(放射線ムラが、被ばく被害の実証的数字を頭から否定する時に使う言葉「統計学的に有意性がない」については、彼らが出してくる説明に対してこそ、徹底的に使って差し上げましょう。幼稚極まる論理を振り回し、何の根拠もない、非実証的で非科学的な、最初に結論ありきの説明しかできない諸君には、こんな方法で十分論破できるでしょう。実際、放射線ムラの諸君は、自分達が出す数字についての統計学的有意性=疫学的科学性を厳しく問うたためしがない。その態度は、二枚舌・ご都合主義丸出しなのです。また、説明責任は彼ら側にある、ということも忘れてはいけない)
<10>長崎大学の高辻俊宏教授の話は傾聴に値する(但し、細胞レベルでの被ばく損傷の多発が、個体レベルの健康障害には、必ず結び付くとは限らない、というところの説明が不十分だと思われる。観測されていないのは、そういう実証実験ができていない、しようと思ってもできない、妨害が入る、という可能性もある)。しかし、問題はその後、この高辻氏の議論を打ち消すかのように放送された、次の国際放射線防護委員会(ICRP)の日本関係者とかいう人間の発言だ。
「ホット・パーティクル(セシウム・ボール)の周りの細胞は、高い放射線量による強い被ばくを受けて死んでしまうので、かえってその方が、細胞が生き残ってがん化する危険性が低くなる」(安心だ?)」
バカバカしい、本当にバカバカしい、幼稚極まる発言であり、こんなことを科学に携わる人間が本当に言ったのかどうか、疑いたくなってしまう。事実、放送では、発言者の実名は伝えられなかった。実名がわかれば、その人間は、国際的には信用されない大馬鹿もの、というレッテルがつくだろう。(仮にすぐ周りの細胞は死んでしまっても、そのもう一つ外側の周りの細胞は、同じように被ばくするし、がん化の可能性もあるし、死んだ細胞が排出された後も被ばくは続くから、危険極まりないことに変わりはない。また、放射線は細胞内に電離作用を及ぼして、いわゆる活性酸素を生みだしていろいろ「わるさ」をする、ペトカウ効果のように、細胞膜の過酸化脂肪に作用して、生命秩序を乱す、その他、さまざまな細胞機能や生命秩序への障害効果が考えられ、被ばくのリスクはがん化だけではない)
ちなみに、「国連科学委員会(UNSCEAR)」の海外専門家は「健康影響は不明である」と無難に答えている(実は非常に危ないことを知っている可能性が大だが)。
<11>最後に、NHKのコメンテーターが、素朴に「今もホット・パーティクル(セシウム・ボール)が飛んでいるのではないですか?」と聞いた時に、上記の東京大学の森口祐一教授は、その点も含めて、いろいろな点について解明が必要だ、と「逃げ口上」を展開していた。結論は、健康調査と、もしものために被ばく医療の体制をきちんとつくっておきましょう、という「もっともらしい」ものだったが、本気でそう思うのなら、環境省のあの(似非)専門家会議や「福島県民健康調査検討委員会」に対して、一発、ぶちかましていただきたいものだと、私は強く思った次第である。「その場しのぎのなぐさめ」を言うのはやめていただきたい。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5088:141228〕
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