いま改めて「100人の地球村」を読み直す
- 2015年 1月 15日
- 時代をみる
- 加藤哲郎
2015.1.15 フランスの風刺週刊紙「シャルリエブド」の風刺漫画家らに対するイスラム系テロ組織の銃撃に発する、新年のフランスでの連続テロ事件とヨーロッパの反テロ集会・デモは、難しい問題を孕んでいます。イスラム教徒全体を敵と見なしかねない、「文明の衝突」風の言説も見られます。かつて、9・11同時多発テロの後のアメリカでも見られた、愛国主義的・排外主義的熱狂も気がかりです。日本からは遠い国の出来事のように見えても、従軍慰安婦問題を報じた元朝日新聞記者への個人攻撃や脅迫、インターネットを格好の動員手段としたヘイトスピーチの横行、「死ね」とか「出て行け」「売国奴」といったレッテル貼りは同じです。2001年の9・11の後に世界で繰り広げられた非戦平和の運動については、本HP「イマジン」に、たくさんの記録が保存されています。当時の運動のスローガン「No Terrorism, No Revenge, No War!」「Killing More is not the Answer」を、改めて掲げておきます。
9・11直後の日本で、燎原の火のように広がった一篇の詩がありました。本HPにその経過が記録されている「100人の地球村」です。
IMAGINE! もし、現在の人類統計比率をきちんと盛り込んで、全世界を100人の村に縮小するとどうなるでしょう。その村には──
57人のアジア人
21人のヨーロッパ人
14人の南北アメリカ人
8人のアフリカ人がいます
52人が女性です
48人が男性です
70人が有色人種で
30人が白人
70人がキリスト教以外の人で
30人がキリスト教
89人が異性愛者で
11人が同性愛者
6人が全世界の富の59%を所有し、その6人ともがアメリカ国籍
80人は標準以下の居住環境に住み
70人は文字が読めません
50人は栄養失調に苦しみ1人が瀕死の状態にあり
1人はいま、生まれようとしています
1人は(そうたった1人)は大学の教育を受け
そしてたった1人だけがコンピューターを所有しています
この「100人の地球村」の描く状況は、2015年の今も、ほとんど変わっていません。グローバリズムのもとで格差は拡大し、富の独占も続いています。一つだけ大きく変わった点が、最後の1行です。現在地球中でパソコン・インターネットの世帯普及率は40%、携帯電話・スマホまで含めると、100%に達しています。コミュニケーション手段だけは、21世紀に急速に広がったのです。だからこそ富を独占してきた米国は、NSA/CIAの世界通信情報監視システム「バウンドレス・インフォーマント」「プリズム」や「エシュロン」を用いて世界の隅々まで日常的に監視・盗聴し、他方、「イスラム国」の方は、SNSやyou tubeを用いて世界中の矛盾・軋轢・不満の情念を動員しようとしています。20世紀の終わりに本カレッジが「機動戦・陣地戦から情報戦へ」というテーゼを打ち出した時には、軍事力・経済力から知力・交渉力へと政治・外交舞台の基軸が平和的に転移することを想定し、期待していました。しかし、情報戦も戦争の一種で、武力・財力と結びつき人命をも奪いうるという方が、現実の進行だったようです 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)から出発して、「情報収集センター(歴史探偵)」「2015年の尋ね人」ページに移した「占領期右派雑誌『政界ジープ』と731部隊「二木秀雄」について情報をお寄せください」に、皆さんから多くの情報が集まっていますが、どうやら軍部・財界と知の世界の結びつきは、占領軍によって「解放」され、本格的な「言論・出版・学問の自由」を得た70年前の敗戦直後から、始まっていたようです。1946年8月東京で創刊の『政界ジープ』には、前身がありました。1945年11月石川県金沢市で創刊された旬刊『輿論』、その後継誌月刊『日本輿論』で、731部隊の人体実験資料を米軍からも隠匿して金沢医大で保管し、戦犯免責の交渉材料とした石川太刀雄が、いち早く原爆の解説を書いていました。東京に移った731残党の社主「二木秀雄」の右腕となり編集を受け持った、ジープ社常務取締役・編集局長「久保俊広」は、なんと陸軍中野学校出身で、二代目社長でした。二人は「戦後最大の恐喝事件」とされた「政界ジープ事件」で検挙され、刑を受けた後、奇妙な歩みを見せます。731部隊同窓会幹事長・日本ブラッドバンク(後のミドリ十字)創設者の一人であった医師二木秀雄は、第一次石油危機時の1975年に、新宿歌舞伎町の病院の患者を組織し「日本イスラム教団」を作って中東産油国の利権に食い込みます。中野学校出身の久保俊広は出版界に巣くって大物総会屋に成り上がるようです。私の戦後70年の歴史の見直しは、宗教まで利用して日本の経済成長の陰で便乗し生き残った、こうした医者・科学者・知識人、旧軍人・政治家の軌跡を追いかけることから始めます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2871:150115〕
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