シャルリー・エブドの虐殺:戦争を扇動し自由を破壊する別の演出された出来事なのか?
- 2015年 1月 21日
- 時代をみる
- 松元保昭
パリ襲撃事件のピークとなった11日のフランス市民の自発的デモに便乗して、オランド政権は各国首脳を集めて俄かデモを演出した。世界の市民は、フランス全土で370万という市民の数よりも、言論の自由どころか生存の自由さえも奪っているテロと弾圧の張本人たちの大猿芝居に驚かされた。1982年 のサブラ・シャティーラ虐殺を皮切りにレーガン時代に展開された米-イスラエル出自の「反テロ世界戦争」は、ついにヨーロッパ内部での永久戦争宣言に至ったといってもいい。
言論の自由、フランスのエスプリ、人道、西洋の価値、こう したものがその二枚舌の泥沼にずぶずぶと落ち込んでいくのを世界は目の当たりにしている。イスラームの数百万の犠牲者への関与をいささかも顧みることなしに、市民たちが「私はシャルリー」と叫び、テロを増殖してきた張本人たちがショックドクトリンよろしく監視国家づくりと 反ユダヤ主義の利用を隠しながら言論の自由を叫ぶ。オバマはその直後、サイバー・セキュリティを強調した。「反テロ世界戦争」を対テロ対 イスラームを口実に西洋内部でも実行していく宣言だ。370万市民と猿芝居の政権 指導者に共通するのは、自分たちこそ自由と正義の守り手であるという「うぬぼれ」だ。「人間の尊厳」を隠れ蓑にしたこの「うぬぼれ」、カウボーイ帝国主義を、テロと人種差別のシオニズムを、西洋十字軍を、植民地主義を、生み出しているこの度し難い「うぬぼれ」はもうごめんだ。
シャルリー・エブド事件への論評はすでに世界中に噴き出しているが、ここに紹介するのは、11日のデモンストレーションの前、事件直後に書 かれた比較的早い分析記事である。著者ブランドン・マルティネスは現代史、国際問題、イスラエル/パ レスチナ問題などを専門とする在カナダの若い独立系ジャーナリストである。表題にあるように、早くから背景にある問題に目配りしている。 日本問題も国際的なパッチワークに嵌め込まなければ見誤るだろう。ちなみに本日ニュースとなった「イスラム国の日本人人質事件」も、この 論考を下敷きにすると対ISIS連合に日本を抱き込む一里塚となるだろう。集団的自衛権の出番というわけだ。拙訳ですが紹介させていただきます。(2015年1月20日記)
【ご参考】数ある日本語のもので、私自身は檜原転石さんが 紹介されたハフィントンポスト誌のこの論考に共感しました。
▼Mehdi Hasan Political director of The Huffington Post UK
「イスラム教徒として言おう。「言論の自由」原理主義者の偽善にはもう、うんざりだ」
http://www.huffingtonpost.jp/mehdi-hasan/charlie-hebdo_b_6476358.html
Charlie Hebdo Massacre: Another Staged Event to Incite War and Destroy Freedom?
シャルリー・エブドの虐殺:戦争を扇動し自由を破壊する 別の演出された出来事なのか?
ブランドン・マルティネス(Brandon Martinez)(松元保昭訳)
2015年1月11日
インティファーダ・パレスタイン
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オーウェル的世界となったオランドのフランスでは、「言論の自由」はイスラームを貶める人々にだけ 約束されている。だが一方、シオニズムとユダヤ人例外主義への批判者たちは、最初に烙印を押され次いで犯罪者とみなされる。かつての自由な国の本物の黒幕へのオマージュ。
「イスラム主義者」がまた襲撃―すくなくともそれは最近のパリの暴挙の背後にいる連中が私たちを信じさせたいことだ。
(1月7日) 水曜日に、マスクをした2人のガンマンが新聞のリーダー全員を暗殺するためにAK-47を使ってパリに本拠がある風刺新聞シャルリー・エブドの本部を襲撃した。暴れまわったあげく、ほとんどがシャルリー・エブドの従業員と2人の警官、12人が殺害された。何日か後に、パリの射撃手に関係があるという別の2人の戦闘員によってさらに無差別な市民4人がユダヤ人の食料スーパーで銃殺された。
その襲撃のあいだ、時折「アラーアクバル」と叫ぶ2人の襲撃者がパリの通りを発砲しながら見世物のパレードをしているところをビデオが捕えた。テロリストが卑劣な仕事をし遂げる前に、彼らであることまた彼らが意味することをただちに知らせることは、主流メディアが明白な理由を説明しない異常とともに、特徴的に異常なことだ。
他の異常も懐疑論を引き起こしている。テロリストたちは軍用兵器をいかにして気づかれもせず手にすることができたのか?ジャーナリスト、ジロイド・O・コルマンは、2人の死んだフランス生まれの容疑者サイド・クアシとシェリフ・クアシは、シリアで過激派戦闘員から軍事訓練を受けており、またアルカイダ指導者に会うためにイエメンにも行っていた、とロシア・トゥデイに語った。その上、二人は当局の干渉なしにフランスに帰国できた。その兄弟はよく知られていてフランス諜報機関からも監視されていると別のリポートの指摘があるが、にもかかわらず水曜日の襲撃を実行するのに何の支障もなく必要な武器や装備を手に入れることができた。
スプートニク・ニュースは1月8日 の記事で次のように報道した。「[シャルリー・エブドの]テロ襲撃を犯したと疑われている30代 の2人の兄弟サイドとシェリフ・クアシは、フランス内務省警備局長官とパリ警察管区によく知られていたとル・ポワン・ニュース・マガジン が木曜日に語った」。スプートニクの記事はさらに、2008年にシェリフ・クアシ はイラクのアルカイダ戦闘員のリクルートを企てた廉で逮捕され3年の刑期を言い渡されていたことを明らかにした。
他の者たちは、パリの射撃のいくつかの光景はハリウッドのアクション映画のように完璧に演じられていたと強調している。トルコMEP(欧州議会議員)のアリ・サーインとAKP(公正発展党)の指導メンバーは、不思議なことに射撃が起きた通りには 車もなく、またパリ警官がガンマンの一人に至近距離で撃たれたときも奇妙なことに血も出ない反動もないことを引き合いに出して、この見方 を繰り返している。
オプ-エド・プレスTVのアナリスト、ケヴィン・バ レットは、警察にいち早く容疑者を確認させた逃走車の中から当局がテロリストの残した身分証明書を発見したというのは疑わしい話だと異議を唱えている。バレットは、こうしたミステイクは熟練したテロリストはしないだろう、むしろムスリムの関与を目的としたニセ旗作戦の特徴を帯びていると強調している。
公式にはシャルリー・エブドの虐殺で「イエメンのアルカイダ」が非難されているが、現在呼ばれているような ISISまたは「イスラム国」(IS)の異常な迂回路は、ここ数か月間マスメディアを率いて語られているネオコンにとっての例の化け物だった。
フォックス・ニュースの記事によれば、「シェリフ・クアシは金曜日の襲撃の前に工業団地で、彼はイエメンのアルカイダに派遣され指導者アンワル・アル=アウラキに資金を受けていたとフランス TV局に語った。」同じ記事が、アル=アウラキは「2011年のイエメンで米国の空爆によって殺害された」と続けて認めているのだが、彼の死の4年後に、死んだ男がどうして資金を供給し攻撃を指揮することができたか説明はなかった。
パリ襲撃にかんしては多くの疑問が残されており、主流メディアの受け皿となっている魂を売り渡す人々にあつらえ向きの未解答がたぶん続くだろう。
欧米の外交政策とムスリムの不満
私たちがパリで見たようなテロ襲撃をたとえムスリム・グループが実行したと仮定したとしても、ジャーナリスト やリポーターが問うべきひとつの疑問は、「ムスリムはなぜフランスとその市民に危害を加えたいほどに怒っているのか?」である。この極めて重要な問いのラインを避けるために、攻撃の動機を与えるイスラームの預言者ムハンマドを貶めるやり方で描写したシャルリー・エブドの反イスラム諷刺画だったとすでに広まった台本は主張する。いずれにせよ、監視を当然と考えるフランスの軍事的な外交政策を支持する政治階層 にとって都合のよい物語となった。
ワシントンとテル=アビヴの先導に続いて、フランスが 反ムスリム外交政策を遅れて忠実に追いかけた時だった。しかし、現在の親-米、親-イスラエルのパリの傀儡政権になぜムスリムは腹を立てているのか?と問うことが依然としてジャーナリストたちを困らせて いる。
2011年、ムスリムが圧倒的優位を占める北アフリカ地域を「独裁者」からの「解放」の名において民間人とその基盤施 設を砲爆撃する米国とフランスがNATOを率いた対リビア猛爆撃を見落とすことはできない。アメリカ、イギリス、フランス、カナダのお蔭で、荒涼とした世界であってもかつては他とは異なる発展の恩恵を受けていたリビアは、現在、テロリズムと市民戦争に悩まされる破産国家となった。NATOが後押しするタクフィール・ギャング団と地方の暴君たちがトリポリ支配をめぐって格闘する一方で国が崩壊に瀕しているとき、カダフィのもとでリビア人がかつて享受した安定性と繁栄は遠い記憶の中にしかない。
多くの人々は、2013年1月に西アフリカの大多数がイスラム教徒の国マリで首都バマコのフランス傀儡政権に反対する武装グループの台頭を鎮 圧するためフランスが侵略したことを忘れている。またパレスチナ人に対するイスラエルとそのテロリスト的な対策をフランスが強固に支持していることを付け加えておく。
フランスや他のNATO加盟諸国に向けられた実際のムスリムの暴力の場合、天国の「72人の処女」やその他のくだらない言葉にかんする古臭いネオコン・プロパガンダ・ミーム (遺伝子)でそれを正当化するよりも、ムスリムの不満の根本原因を話題にすることが賢明であろう。
【訳注、72人の処女:クルアーンにある天国の描写をもじって「殉教すれば天国で72人の処女とセックスができる」と説いた反イスラー ムの言説。】
もしかすると、イスラーム世界が過去数十年にわたって数百万人のムスリムの死と難民化を引き起こしたうんざりするほど多くの西洋の軍事侵略を被ってきた世界の一部から発散される根深い恐怖と軽蔑が背後に横たわっていることかもしれない?あるいは ネオコン戦争屋とシオニストたちが私たちに請け合うように、彼らは要するに「われわれの自由に対する憎しみ」をもっているのか?
平均的な知性なら上記の難問を容易に推論するだろうが、堕落した「主流」のほとんどがあえて大胆に立ち向かう どんな勇気ももてない質問なのだ。
イスラム過激派:でっちあげられた敵か?
まさに現在、私たちは比較的短期間のうちにオタワ、シドニーそしてパリで見てきた。西洋を横断するこの一連の 一匹狼のジハーディストの攻撃は、狂った男たちの錯乱した精神で準備された系統的な事件だったと考えることは筋が通っているのか?あるい は、活動中のもっと不吉な何かなのか?
多くのアナリストが、その疑わしいタイミングとこれらの事件全体の本質を疑っている。それらは米主導の対 ISIS連合に信任を与えるまさに当を得た時期に発生している。多数の西洋諸国がイラクおよびシリアで対ISISの軍事攻撃態勢に入ると いう、まさしく奇跡的以外の何物でもない。それらの「テロ事件」は、ISIS一掃の軍事行動に同調する政治屋どもに遅ればせの「開戦の口実」を与えそれぞれの国に予定通り命中した。
いずれにせよ対ISIS西洋十字軍は、まがいもの同様こっけいでさえある。ISISに対する西洋の戦いは、戦闘グループとの戦いに向けられたというわけではなく、むしろイスラエルの敵対者をさらに弱体化させ混乱させる地域全体の絶えざる不安定化 に向けられている。アルカイダ、ISIS,アル-ヌスラ戦線―それらすべてはまさ に有毒な米-シオニスト帝国ツリーの副産物である。
これらのテロ事件のひとつひとつの後、西洋の政府は、政府の政策に対する市民の異議申し立てを厳しく取り締まることを目指して実質的な警察/監視国家を確立する秘密情報機関と警察の権限を強化する立法をただちに制定した。海外でイスラエルの敵を攻撃する一方で「反テロ戦争」の批判者たちを根絶するとは、「ユダヤ教」の装いのもとで緊張の軍事行動を取り続けるこのグローバル戦略の黒幕にとって何と見事な飲み物であることか。
シオニストではなく、ムスリムをなぐりつける「言論の自由」
パリの虐殺に対応して、フランスの政治屋と他の西洋の指導者は、西洋の「価値」についてもったいぶって語る都合のいい「言論の自由」を呼びかけた。「われわれは言論の自由をもつ自由で開かれた民主主義に生きている」と西洋の詐欺まがいの指導者たちは語る。「過激なイスラム教徒は『われわれの価値』を信じない、それゆえ海を越えて彼らと戦う必要がある」これが、大統領や首相として 表看板となる指導者の職業的な台本で耳にタコができるほど繰り返される標準的な支配層のトーキング・ポイントである。
その偽善には圧倒される。今日、ヨーロッパの大部分がそうであるように、フランスは間違いなく言論の自由の砦ではない。とくに第二次世界大戦と「ホロコースト」の歴史研究を公的に否定する見解を犯罪とみなす悪名高い「ゲソ条例(Gayssot Act)注」 など何年にもわたって多くの厳しい法律が施行された。ロバート・フォーリソン、ヴィンセント・レイノールドと他の「600万」神話に疑問を持つフランスの歴史修正主義者たちは、彼らの歴史的な観点の違いに よってフランス国家に法外な金額の罰金を科され投獄された。こうしたフランスの弾圧的な立法の存在は、フランス大統領フランソワ・オランドとその大臣たちの好みで表現される言論の自由の新発見の愛の二枚舌を暴露している。
【訳注、ゲソ条例:フランス共産党の国会議員ジャン=クロード・ゲソの法案提出により、1990年に成立した。すべての人種差別的、反ユダヤ主義的、外国人排斥行為を抑制し、ホロコースト否認や人種差別的言動を禁止した法律。2006年にシャルリー・エブドに掲載されたムハンマドの風刺画に対してイスラム組織が刑事訴訟を起こしたが、違法ではないと判決された。】
スターリンの台本から1ページを取り出して、フランス 政権は親-パレスチナの抗議を最近禁止した。それどころか有名な親-パレスチナの活動家多数を「ヘイト犯罪」として起訴さえしたのだ。フランスの堕落した指 導者たちは「言論の自由」の名においてイスラームやムスリムに対する諷刺的な激しい攻撃を完全に是認しまたけしかけさえする一方で、―言 うまでもなくリビアやマリのように所々でムスリムに対して爆弾を投げつけているのだが―これらの同じ悪党どもはシオニズムやユダヤ人の特 権のどんなパロディをも禁止したのである。
シャルリー・エブドの反イスラム諷刺画を「表現の自由」として擁護する一方で、フランスの口先だけの政治階層 は、フランスのコメディアン、デュードネに対していっせいに不断の魔女狩りを先導した。デュードネの反シオニズム・パロディに国のユダヤ 支配層が腹を立てたのだった。フランス当局は広く人気のあるデュードネに対して厳しい禁止令を科した。服役と罰金という処罰を負って国の 至るところの公共の舞台で演じることから彼は妨害された。イギリスもまた、彼の有名な「ケネル(Quenelle)注」のジェスチャーがナチの敬礼と似ており従って「反ユダヤ的」であると、入国から大衆の間でのコミックを禁止 した。
【訳注、ケネル(Quenelle):意味はリヨン名物の肉団子、ソーセージの一種。デュードネが右手を胸に当てて左手を下げる(挙げるとナチの敬礼となる)写真があるが、出し物のタイトルも内容も訳者には分からない。極右の若者がユダヤ人学校の前でその真似をして物議をかもしたと言われている。】
デュードネに関してフランス大統領フランソワ・オランドは、「実はプロの反ユダヤ主義者であるユーモリストと 称する人々の諷刺に対して戦う」ために彼の政府の問題の処理に向けてはあらゆる手段で行使することを自ら誓った。オーウェル的世界となったオランドのフランスでは、「言論の自由」はイスラームを貶める人々にだけ約束されている。だが一方、シオニズムとユダヤ人例外主義への 批判者たちは、最初に烙印を押され次いで犯罪者とみなされる。かつての自由な国の本物の黒幕への捧げもの。
(以上、翻訳終わり)
Copyright 2015 Brandon Martinez
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