マンション生活で知り得た社会問題を考える (5) ― 管理費・修繕積立金の行方は?
- 2015年 1月 25日
- 評論・紹介・意見
- マンション住宅問題住民自治羽田真一
購入したマンションの一室は基本的にはコンクリートの箱であるが、マンションは必ずしも一般に思われているような安心・安全が守られる集合住宅ではない。マンションというハード要素の他に、管理組合を持つ管理のソフト要素とで両輪となるからだ。案外に高額な管理維持費を強制的に負担しなければならず、よく考えてみると全額自己負担であり、のさばっている管理集団(理事会・管理会社・専門委・管理人・コンサルタント)は大事な住民のお金に巣食う集団なのです。240戸からなる当マンションでは各戸約2万円/月の[管理費*]に各種専用利用料を含めて年総額約6,500万円から管理費約2,000万円と修繕工事積立金約4,500万円に分け、ほぼ5年に1度の約2億円の大規模修繕工事を実施し、資産価値を維持しているという概略の姿が見えてくる。一般庶民には年間個人負担額約24万円を考えると大きな買い物であるという意識を持つ必要がある。その修繕工事積立金が対価として正当に使われているか、その観点で役員として理事会に入って経験した実態をできるだけ住民の立場でお伝えしたい。[管理費*]=管理費+修繕積立金+各種専用利用料
1. 長期スパンでマンションの不動産経済を考えてみる
首都近郊で1980年当時2千万円を切る最後の物件と言われ、生活環境を優先して通勤時間を犠牲にして購入した。約25年かかってローンを払い終えて総額を計算すると、約3千万円の数字が出て大きな買い物であったことを実感した。35年が経った現在、税金(固定資産税)を含めてこの住宅に4千万円以上を注ぎ込んだことになる。ところが今度はちらほらと「建替えの話題」が顔を出すようになってきた。別に当所に永久に居を構える気は毛頭ないが、マンションの行く末を算定することも、今後の参考になるだろう。
単純化し過ぎるとしても素人の頭で敢えて試算してみる。マンションは築50年が一つの目安と言われているが、その頃になると当マンションの資産価値はせいぜい数百万円程度であろう。ところが不動産会社(当マンションでは分譲管理会社でもある)は行政に働きかけ敷地面積が同じでも建蔽率を上げさせ、施設を併設させ、より高層階として戸数を倍増させ販売価格を高める策を講ずるであろう。するとどうなるか、少しは行政の補助が出るであろうが高齢者は対応できなくなり、その時の資産価値で売り払い他所へ移住を余儀なくされるであろう。一部の対応できる住民だけが建替えのマンションに差額を払って残る事態となるだろう。このマンションの第2世代化により不動産会社は全体の価値を高めた営業展開ができるメリットを見込むことができるのだ。単純ながら第1世代分譲で約36億円(15百万円×240戸)から、例えば第2世代分譲で約120億(30千万円×400戸)の売上増も可能であろう。やはり、喜ぶのは不動産会社ということになる。管理組合を手なずけておけば、住民の協力で建替え次世代化がスムーズとなり双方に利益があるのだ。
2. 修繕積立金を支配するのは誰か
マンション管理の主要な目的が建物の資産価値の維持であるから、[管理費*]のかなりのウエートが修繕工事費用に注ぎ込まれる。しかし、住民は[管理費*]全てを負担するが修繕工事の内容を理解することはまずない。そこが管理中枢の付け目であり、かれらが利権集団となって活躍する場となる土壌がある。1年任期の理事長には修繕工事積立金の動きを把握することは容易ではない。分譲されて以来、すでに長期修繕計画が策定されている(それをコンサルタント会社が数年ごとに有料で見直す)。全ての大本は管理会社であり、契約時にちゃんと予算運営項目を入れてある。これに協力するのが理事会でなく(第1回大規模修繕工事を機に形成された)専門委員会である。別に建築知識が深い訳でもなく、ほとんどが理事長経験者で占めている(永久就任が可能な細則を制定)。即ち、いずれも実質長期契約の管理会社・コンサルタント・専門委が修繕工事積立金の運用を差配しているが、管理規約上、理事会が予算案を審議決定することになっているから、実務を独占している管理人が彼らの橋渡し役をして、結局、4者で管理中枢の利権集団を形成している。勿論、その仕組みは理事会他の会議や資料から推定するしかないが、その端々で見えてきたものがあり(会合の席で管理人がこそっと次の修繕工事の調査費用予算300万円を頭に入れといてと言ってきた)、その構図を組み立てることができた。
毎年管理費から確実に100万円が修繕工事積立金に移される(時には余った700万円も移された年もある)。何時の年からか駐車場使用料の半分(約340万円)が修繕工事積立金に移されるよう管理規約を改訂している。総会資料には「極力[管理費*]を上げないよう努力する」と謳っているが、以前から何のことは無い管理費を最大限修繕工事費に使っているのだ。よく見ると管理規約・細則が管理中枢に都合よく改訂されている。一般の住民が彼らの領域に足を踏み入れることはできない。知識も経験も無いから、コンサルタントが金額を提案してその何%かを出精値引きで割引くと言えば、喜んで良いコンサルだとマインドコントロールされてしまう。建物の中身を専門委から提供されて知っているから素人理事や一般住民は太刀打ちできる訳がない。
3. 垣間見えた利益集団の手口
当マンションでは現在約2億5千万円予算の大規模修繕工事に当たる全戸の給排水管交換工事が進行中である。たまたま前期約1年間自発的に理事会を傍聴して工事具体化に至る道筋を一部見ることができた(傍聴者は発言禁止)ので、理事長時からの理事会等の動きを絡めてストーリーを組み立てることができた。前回の第2回大規模修繕工事(外装鉄部塗装・ドア交換など)が終わると共に、コンサルタントに室内配管の実態調査が委託された。工事の根幹である配管の傷み具合をコンサルに把握されたら首根っこを押さえられたも同然で、最後の工事着工までの道筋を全部決められてしまうと私は受取った。案の定、その後の理事会の動きはコンサルタントの独壇場となった。初めは専門委が主役に見えたが、途中2012年4月に専門委が総崩れ(第2報)し理事会が専門委の機能を吸収した。理事会はヤバいと考えて小委員会を設置し、勉強会・説明会を含め種々の会議体にコンサルタントを参加させ(住民を疎外)、予算を付けて基本設計、実施設計、施工監理いずれの委託先決定の場にもコンサルタント会社を出席させる酷さ、これを指摘しても理事会は「長年当マンションで仕事をして中身をよく知っている、他社にしたら余計な費用が掛かる」などの理由をつけ、相見積もりは住民の批判をかわすジェスチャーで全てをコンサルに委託した。業者は善意を持って最低の利益で受注するほどの善人であろうか。管理中枢との癒着を疑わないとしたらバカだとしか言いようがない。私はこんな工事を進める役員は背任行為をしているとしか思えないのだが。見せかけだけの公正を装われてバカをみるのは住民である。堂々と傍聴の私の目の前で1社の見積りを渡し、他社(管理会社)に金額だけを代えて出しといてと言う理事(小委員長)を見て唖然とした。やはり結果はコンサル会社が受注し、彼は翌年の専門委に自ら志願して収まった。それが実態であり、住民は内情を知らされず総会で承認させられ、情報統制されると金だけ出させられて騙されるだけである。
4. 隠された利権の旨味を疑惑する
過去数年間の修繕積立金決算書を調査(専門委の活動の調査でもある)して疑問を持った。残念ながら素人個人には入手資料が手持ち分しかないのが残念でならない(敵対関係となった今では絶対に入手を拒否される)。専門委細則の最後に「専門委にかかった費用は管理組合が負担する」とあるのを発見したのだが、総会資料の予算・決算表に全く専門委の費用が計上されていないのに気が付いた。理事も専門委も報酬は支払われる。しかし、理事は殆ど独自の仕事を持たないが、専門委はアンケートを実施しまとめもするし、種々工事に向けて調査・資料データーを作り施工会社に提供したり、管理規約や各種細則も検討する実務がある(理事会の仕事で規約違反)のだが。理事になって専門委と理事会に出席した結果、彼らの無料奉仕は納得できないと考えた。どうみても修繕工事関係で施工した会社に払われた代金に彼らに渡る分が含まれているとしか考えられないとの推定結論に至った。すなわち、工事を発注してくれたお礼としてのキックバックであろう。それでは管理組合内の会計帳簿を閲覧しても見つけることは不可能である。解明にはコンサル会社を含め関係会社全ての会計を監査する必要があるが、公認会計士による外部監査、さらには当局の強制捜査権が必要であろう。事実の有無を含め自ら明らかにしてほしいと文書で質問要求したが、やはり無視された。会計をブラックボックス化して取り込み、総会時だけお座成りの会計報告で事足れりとする管理中枢の持つ悪意を私は許せない[第3報]。無実ならそんなことはないと答えるべき良心を期待するのは無い物強請りか。この管理中枢は全ての点で集団でこの種の疑問には無視することで逃れる方針を徹底している。
5. 修繕工事疑惑を晴らすための改善策はあるか
先ずは管理会社・コンサルタント・専門委・管理人と関係者いずれもが15年以上の長期委託ばかりの癒着関係を断つことである。管理規約に業務委託業者の委託年数を長くとも10年以内、理想は5年以内とすることである(現実に採用している組織を知っている)。当然に信頼の置ける業者を見つける努力が必要とされる。基本は管理組合も付き合いの間口を広げることである。抽象的かもしれないが全ての点で「オープン」であることである。素人住民には工事の明細が分からないが、必要な時に必要な情報をもらえる相談先をインターネットや近隣との情報交換、専門入門書などによる勉強で備えておくことが役に立つこともあろう。私は理想的マンションの姿として少しでも知的資源を持ちたいと思う。
一部知ったかぶりの専門家に長く工事関係を独占させることほど危険なことはない。これがプロの仕事かと疑う失敗工事の例を見かける。どうみても安ぼったい色調の塗装が施され、施工後のアンケートでも不満が続出した。これなどコンピューターを使った色の着せ替え像を住民に提示して選択していたら防げると提案したが、コンサルタントのプライドに関わるのか議事録にも載せなかった。住民が興味を持って事の意義が分り、口を出すことが大切なのである。総会に使うプロジェクターの購入が課題になった時、専門委に任せていたら高額で不必要な高機能付きの機種を買いそうだと予測したので、はるばる時間を懸けて自転車で遠くの大型電気店まで出かけ、全機種パンフレットと値段を調査してきた。それを伝えると専門委達は購入の旨味がないと考えたのか購入を見送った。彼らに騙されない為には身を持って動き努力することも大切だと知った。
私は理事会を活性化するには、定額でなく役員の働きに応じた報酬制度で臨機応変に報いる成果主義的、皆で納得できる合議的運営を採用できないものかと考えている。マンション管理にも方にはまらない、柔軟な運営が導入出来たら活性化されると思うのだが。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion5138:150125〕
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