沖縄問題 どう解決するか (上)
- 2015年 3月 11日
- 評論・紹介・意見
- 宮里政玄沖縄
ここに紹介する『「沖縄問題 どう解決するか』は1月29日から31日まで、琉球新報に連載されたものです。ここには、沖縄の人たちの本土へのメッセージが込められていると思われますので、筆者と琉球新報社の了解を得て転載させていただくことにしました。中見出しを一部変えています。
(リベラル21編集委員会)
筆者紹介:1931年今帰仁村(なきじんそん)生まれ。国際政治学者。米国留学を経て琉球大、国際大大学院、獨協大教授を歴任。沖縄の戦後史を中心に米国の対外政策の決定過程を研究する。著書に『アメリカの沖縄統治』(岩波書店)、『アメリカの対外政策決定過程』(三一書房)、『日米関係と沖縄』(岩波書店)など。現在沖縄対外問題研究会顧問。
課題の具体的分析が必要
普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題は昨年以来、大きく転換している。まず昨年1月の名護市長選挙は、辺野古移設阻止を訴えた稲嶺進氏が大差で再選を果たし、11月の知事選挙は「オール沖縄」で日本政府に異議申し立てを行った翁長雄志氏がこれも大差で当選した。
このような変化をもたらしたのには、いくつかの要因が指摘されよう。一般的な理由としては、基地からの収入が相対的に重要でなくなったことである。「琉球新報」の特集「基地撤去 飛躍の道」(2015年1月11日)が指摘するように、「北谷町美浜や那覇新都心など基地跡地利用の成功を目の当たりにした県民の間で、米軍基地の存在は経済のよりどころではなく、沖縄経済発展の阻害要因だという見方が定着した」ことである。
また、沖縄の心情を逆なでするような日本政府の言動もあった。例えば2014年11月、石破茂自民党幹事長が同党国会議員5人とともに記者会見で、移転先について辺野古を含むあらゆる可能性を排除しないことで一致したと表明したことは、沖縄県民に、1879年の「琉球処分」を想起させた。また、同幹事長は、名護市長選挙終盤に現地入りし、突如、500億円の「名護振興基金」構想を表明して自民党候補の支持を訴えた。それは逆に選挙民のひんしゅくを買った。このような沖縄人の心情を無視した言動が、基地反対運動に拍車をかけたことは間違いない。
さらに、名護市長選挙の約1ヶ月前、安倍首相は仲井真弘多知事(当時)に2021年までに毎年3千億円の振興予算を計上すると約束することで辺野古移設を承認させた。これは公約違反であり、逆効果を招いただけであった。
これまで日本政府や一般国民だけではなく研究者も、沖縄基地の存在を当然視してきた。例えば、日本は大国にはならず中級国家であるべきだというもっともな『ミドルパワー論』は、沖縄米軍基地の存在に触れてさえいない。(添谷芳秀「普通のミドルパワー」「冷戦後の日本の安全保障政策」『「普通」の国 日本』添谷外編、千倉書房、2014年)
こうした日本政府と国民の沖縄に対する無理解、無関心にもかかわらず、先に挙げた新報の「特集」表題「基地撤去飛躍の道」は、年頭とはいえ、やや楽観的に思える。「特集」は、沖縄問題の解決策として、基地の本土並み・振興予算全額の一般県財源化、独立論(基地の撤去も含む)、東アジア共同体(構成国は日本、中国、南北朝鮮、台湾など、沖縄は拠点として「平和の要石」となる)などである。結論として「特集」はこう述べる。これらの実現に向けて積極的な施策を展開する上で、自己決定権は欠かせないだろう。戦略の構想力、提言力、発信力、政策形成能力、実行力、外交力などが問われている」
確かにそうであろう。ただ、それは必要な能力を指摘しただけである。それらの能力をいかに発揮するかが肝心なのではないだろうか。そのためには当面する問題を具体的に分析する必要がある。
背景に日本人の差別意識
本論に入る前に、まず指摘しておくべきことは、米海軍作戦本部が沖縄占領のために1944年に作成した「民事ハンドブック」(Civil Affairs Handbook)に示された沖縄少数民族論であろう。それはアメリカの著名な文化人類学者によるもので、使用された資料は1930年代までに日本で発行された(それでアメリカでも入手できた)著作とハワイなどでの日本人による沖縄人に対する差別意識(例えば結婚など)であった。要するに、「ハンドブック」は1930年代までの日本人の沖縄人観に基づいていたのである。それは、小冊子に要約されて米沖縄占領軍に配布されていた。
それは私にとって大きな発見だった。それで多少長くなるが、その主要論旨を記しておく。
日琉間の人種上の緊密な関係や言語上の類似点にもかかわらず日本人は、琉球人を人種的に同等とはみなしていない。琉球人は、いわば独特の田舎くさい風習を持つ、遠い親戚とみなされており、したがっていろいろな方法で差別されている。ところが島民は日本人に対して劣等感どころか、かえって彼らの伝統と中国との長い文化的絆に誇りすら持っている。
したがって日・琉の間には(アメリカが)政治的に利用しうるあつれき軋轢の潜在的な根拠がある。島民の間に軍国主義や妄信的な愛国主義はないであろう。
このように、沖縄人は日本人によって差別され、搾取された、日本人の中の劣等グループであるという先入観を、アメリカは占領当初から持っていた。しかもそれを裏付ける資料は、日本人による沖縄差別意識であったのである。
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