民主党政権は偽預言者?
- 2010年 12月 15日
- 時代をみる
- 日米関係民主党政権浅川修史資本環流
民主党政権への支持が急低下している。民主党は2009年の衆議院選挙勝利の後、2010年の参議院選挙に勝利し、さらに2011年の統一地方選挙で地方議員を大きく増やして政権を盤石のものとする戦略を立てていたが、現在までことごとく裏目に出ている。党内抗争も激化し、党内対立は分裂含みなっている。このままでは2011年の統一地方選挙で、政権政党にふさわしい地方議員の数を獲得するというねらいは実現できない。
民主党が支持を失った要因はちきゅう座でも多くの識者が指摘しているので、あえて書かないが、民主党政権で世の中が良くなると期待していた人々の中には、「支持しない」という段階を通り越して、「自民党よりひどい」とか、「裏切りが許せない」など怨嗟の声が増えている。民主党が「嫌い」という段階から「憎しみ」へと変わっているように見える。このままでは自民党、公明党などと連立するしか、政権も維持できないだろう。
「勝手に民主党に感情移入しただけで民主党の本質はあんなもの」という冷静な声も聞こえてくると、素朴に民主党に期待し、投票した筆者にはつらい結果である。
筆者は自民党が嫌いだった。第1の理由は政治を官僚に丸投げして、丸投げ構造の中で、「政治をカネに変えていた」からだ。自民党が官僚機構と一体になっている姿は、筆者にはソ連共産党のように見えた。第2の理由は、地方交付税や補助金、公共投資などを経由して、都市の勤労者などから集めた税金を、地方の農家、建設業者などにばらまく政策を一貫して続け、その結果、東京郊外のインフラは貧しいままに放置され、都市の勤労者の生活水準はドイツやフランスなどと比べると比較にならないほど貧しいからだ。
第3の理由は日米関係が不健全になったからだ。小沢一郎氏が、「第7艦隊だけでいいんじゃないか」と語ったように、日米安保、日米同盟は今の日本にとって必要だが、オーバープレゼンスである。さらに米軍の駐留経費の大部分を日本が負担している現状では、米軍は日本に多くの基地と兵力を置いたほうが得である。この現状をつくったのが自民党政権だ。このほか、1985年のプラザ合意以降、米国への日本からの資本環流という目に見えない形の「搾取」「収奪」が激しくなっている。このあたりの仕組みは、三国陽夫著「黒字亡国」(文春新書)に詳しい。米国に還流した日本の資金は220兆円程度になるだろう(1ドル100円の時代)。還流するルートは、まず外国為替特別会計がある。政府が短期国債を発行して、その資金で米国国債などを購入する。このメカニズムがあるから、米国はいくら貿易赤字になっても日本から工業製品を輸入することができる。第2のルートは日本の民間金融機関や機関投資家などの米国国債購入である。
第3のルートとしては日本銀行が民間銀行や企業から集めたドル資金をNY連邦準備銀行の口座に環流させる形が指摘されているが、筆者は中央銀行や外国為替に詳しくないので、うまく説明できない。だた、国際金融に詳しい元大蔵省官僚の推計では、3つを合計すると日本から米国への資本環流は220兆円はあった(円高前のレートで)ということである。
しばしば、「日本は輸出しないと生きていけない」という話を聞かされるが、対米輸出については、「輸出すればするほど日本が貧しく(デフレ)になる」(三国陽夫氏の指摘)が実態だろう。消費者(米国)から代金を回収できない(しない)クレジット会社(日本)が最後にどうなるかは明白だろう。
だから、民主党が政権を取る前に、管直人氏が、財源論争に関して、特別会計には巨大な「埋蔵金」があるという文脈の中で、「外国為替特別会計は100兆円はいらない。半分でいいのではないか」と発言したときは、かなり期待したものだ。
筆者が勝手に(?)期待した、1 政治主導 2 日米関係正常化 3 都市のインフラを整備する、という3つの要因はことごとく裏切られた。
現在の民主党は、官僚主導で増税路線にまっしぐらであり、日米関係を修正するうごきもなく、「官僚主導、増税、対米隷属に迷いがない」(ある識者の発言)という状況だ。
どうやら筆者の憶測に過ぎないが、党派を問わず、1 日米関係を本気で変える 2 日本からの資本環流 という虎の尾を踏むと米国は本気で日本の政治に介入するように見える。 それ以外は、記者クラブメディアなどがいくら「反米的」あるいは「米国の新自由主義は間違っている」など左翼的な論陣を張っても痛くもかゆくもない、というところか。
今の民主党の政策は2009年のマニフェストの真逆であるといって過言はないだろう。
さらに、検察権力、警察権力の膨張に歯止めをかけないどころか、反対派退治に利用するかのように見えることから、「民主党政権はこわい」という声すら出ている。民主党政権ができたとき、市民運動家だった菅直人首相や東大全共闘、フロントにいたとされる仙石由人官房長官の経歴から、保守派から「左になる」と懸念する声も多かった。ところが、実際は真逆で、一部に「左」の衣装はあるが、実際の政策は自民党時代と変わらず、日米同盟はより進化する方向になる。ここまで民主党政権が変わると「こわくない自民党のほうがまだよかった」という声すら聞こえる。
筆者はこんなユダヤの民話を思い浮かべる。「偽預言者を(素直に)信じてはいけない」というユダヤ教のたとえ話である。
こんな物語である。中世の欧州の寒村の出来事。ろばに乗った老人が現れた。その姿は伝承による預言者エレミヤの姿と同じだ。「預言者エレミヤが再臨した」。ユダヤ人は歓喜した。さっそく丁寧にもてなして、家に招き入れた。扉を閉める。すると預言者エレミヤの姿をした老人から黒い角と長いしっぽが飛び出し、みるみるうちにサタン(悪魔)の姿に変わった。家の中にいたユダヤ人たちはサタンに食べられてしまった。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1126:101215〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。