東京新聞2015-03-17付P.4 「井上能行の福島だより『学者の責任』福島通う」を読んで
- 2015年 3月 21日
- 評論・紹介・意見
- 松井英介
びっくりしました。
笑いが消えました。
この記事の主張は、ETHOSの旗手ジャック・ロシャールJacques Lochard氏の言辞と酷似しているので、びっくりした次第です。
ジャック・ロシャールJacques Lochard氏は、フランス最大の原子力産業アレヴァArevaから潤沢な資金を与えられ、ICRPの肩書きをつけ、3.11原発大惨事後福島などに乗り込んで来て、草の根で原発事故安全キャペーンを展開してきた人物です。
彼は、チェルノブイリ原発事故の後5年以上にわたってベラルーシに入り込み、同国市民、ドイツの医師たちやフランスのNGOが子どもを守るために積み重ねてきた成果を横取りし、放射性物質によって汚染された地に住めば良いと宣伝してきたことでも、よく知られています。彼らは、ベラルーシでの活動の成果とノウハウを、3.11大惨事以降の福島で生かしているのではないでしょうか。
原発を作らせない、再稼働させない、代替エネルギーに転換させるなど、「脱原発」の課題が重要であることに異論はありません。原発を止めさせるためにこれまで努力してこられた安斎育郎氏の活動を否定するつもりもありません。ドイツの電力最大手E-ON(エーオン)をして、原発から代替エネルギーへと転換せしめたドイツ市民発電運動の経験から学ぶ必要もあります。
しかし「脱原発」と同時に、子どもたちを放射性物質から守る「脱ひばく」を最優先課題として、全国的な大運動を巻き多し、以下に述べる諸条件を整える責任が私たちにはあるはずです。
安斎育郎氏らの「除染して、福島に住む
「ここで暮らし、子どもを育てる」という主張は、結果的に「あれだけの過酷事故があったにもかかわらず健康上とくに問題はなかった
とする日本政府、福島県、IAEA、UNSCEAR、ICRPなど国際原子力ロビーの言辞に同調する結果を招き、その結果「脱原発」の論拠は薄弱となり、「脱原発」の主張自体、説得力を失うことになりかねません。さらに、日本政府や福島県、IAEAなど原子力ロビーの「帰還政策」を側面的に応援し、アジア、アラブ諸国など世界各国への原発販売に奔走する安倍首相に塩を送ることにもなるでしょう。
「科学的認識を土台とし、問題解決の方法は、人道主義でやる。」という言葉はそのまま、安斎育郎氏にお返ししなければなりません。
「子ども被災者支援法」は棚上げされたまま、間もなく3年が過ぎ去ろうとしています。
去る3月14日から18日まで仙台で開かれた第3回国連防災世界会議は、地震や津波など自然災害のみを論じ、原発大惨事など人工大災害とは向き合おうとしませんでした。
原発大惨事被害の記憶は、テレビメディアなどが茶の間に持ち込むバライエティー騒ぎの中に埋もれ、多くの市民の日常から消え去りつつあるように見えます。
日本列島を覆う、他人の心の深刻な痛みへの共感を忘れた非人間的状況は、百万人規模の原発大災害被害者(汚染された地にとどまった人にも、汚染の少ない地に移り住んだひとにも)の心に日々新たな疎外感や孤独感を刻んでいます。
私は、第3回国連防災世界会議に出席するため仙台まで出かけ、16日のサイドイヴェント(パブリックフォーラム)で、「原発大惨事が産み出す人工放射性微粒子による低線量放射線内部被曝から子どもを守る」ことを訴えましたが、3.11大惨事から4年が経過した仙台で、閉塞感を実感させられたのでした。
同世界会議の主会場となった仙台国際会議場のプレスセンターで、数多くの国内外ジャーナリストと言葉を交わしましたが、残念ながら、東京新聞の記者には会えませんでした。
私は、3.11大惨事以後、福島県双葉町の放射線医学アドバイザーとして、毎週のように現地に出かけ、すべてを奪われた上福島県内外の仮設や借り上げ住宅で不自由な生活を強いられている町民の方がたと交流を深めてきました。またその傍ら、福島集団疎開裁判、原発労災裁判、ガレキ裁判などの被害者・原告のために意見書を書いた一臨床医として、東京新聞にお願いしたいのは、以下の事柄です。
●今私たちが直面している重要かつ緊急の課題は、子どもたち=次世代のいのちを、東電福島第一原発事故現場から自然生活環境に放出されている膨大な量の人工放射性物質から放出される電離放射線による健康障害から守ることです。
●放射性物質は、大気と水と土と生態系を介して、日本列島さらに地球全体に拡がります。次世代を電離放射線による健康障害から守るために必要なことは、まず今回の原発事故現場に放射性物質を封じ込めることです。
●事故の責任が、東電と関連企業ならびに国策として原発を推進してきた日本政府、さらにこれを後押ししてきたIAEA やUNSCEAR などの原発推進国連機関にあることは明白です。彼らをして、電離放射線による健康障害から次世代のいのちを守る施策を行わせるべきです。
●さまざまな人工放射性物質をこれ以上拡げない具体的施策が必要です。本来人工放射線は、ゼロであるべきです。とくに、呼吸と飲食を通じて、人工放射性部物質が子どもや胎児の体内に入らないように万全の対策を講じるべきです。
●人工放射性物質とそれらが放出する電離放射線によって汚染された地から、汚染の少ない地に移り住む権利を保障しなければなりません。
●国策として原発を推進した結果3.11大惨事を引き起こした日本政府は、自らの責任において被害者に謝罪し、被害者の健康と人権を守る諸条件を整えるべきです。換言すると、日本政府には、子ども被災者を「支援」するのではなく、被害者の「権利を保障」する責任があるのです。
●具体的には子どもたち次世代がのびのびと成長し教育を受ける権利を保障しなければなりません。そのために政府は、子どもたちの親や保護者が汚染の少ない地に移り、住み、働くための諸条件を整えなければなりません。政府と地方自治体は自らの責任において、受け入れ側住民の同意を取り付け、汚染の少ない地を確保しなければなりません。
●私が、3.11大惨事以降、全国大手新聞や地方紙に代えて、東京新聞を読むようになったのには、理由があります。それは、貴紙がこの間一貫して、3.11原発大惨事被害者や同じように犠牲を強いられている沖縄の住民の立場に立つ姿勢を保ってきたからです。このように貴紙を評価する市民は決して少なくありません。だから余計に、今回のような記事が紙面に登場すると、笑いが消えるのです。
●今、私が注目しているのは「子ども脱ひばく裁判」です。この裁判の弁護士・井戸謙一さんがやさしくこの裁判について解説したブックレットが、ママレボ出版局から出ましたので、ぜひともご参照ください。
●貴紙が、子どものいのちと人権、人間としての尊厳つまり「脱ひばく」を最大限重視した記事を、いつまでも私たちに届けてくださいますよう、願って止みません。なぜなら、国際原子力ロビー(軍産協働体マフィア)との闘いはまだ始まったばかりですから。
●私の主張の科学的根拠を記述した論考を、貴紙あてmailに添付するかたちでお送りしますので、貴紙のmail addressをお教しえ下さいますれば幸甚です。
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東京新聞2015-03-17付P.4「井上能行の福島だより『学者の責任』福島通う」から抜粋:
安斎さん講演要旨
安斎育郎さんは先月7日、福島市で開かれた「はなネット友の会」総会で講演した。 得意のマジックを演じながら「人はなぜだまされるのか」を語った。 講演の要旨を紹介する。
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知識不足や欲得ずく 思い込みが人をだます
私は東京・亀戸生まれだが、父は(福島県二本松市)杉田、母は三春町の生まれです。 戦争中、二本松に縁故租界し、4歳から9歳まで過ごした。
2011年4月16日、福島に来た。 立入禁止の一週間前だった。 頼まれて、浪江町にある牛小屋で放射線量を測ったら、毎時100マイクロシーベルトだった。 これをどうすればいいのかを考えるのが、放射線を専門としている者の責任だと思った。
今、保育園や個人のお宅にうかがって、どうしたら被ばくを減らせるか、測定し提言をしている。 依頼があれば誠実に応えるので、遠慮なく言ってください。
学生時代、放射線を当ててマウスの死に方を観察する実験があった。 死ぬと、解剖した。 放射線は目に見えなくて生命を奪うもの、と感じた。 それで放射線健康管理学を専門にした。
政府の原発政策はきわめてずさんだと、1967年ごろから感じ、原発批判をするようになった。 原発は今、54基もあるが、三重県・芦浜、和歌山県複数の計画、高知県・窪川などは地元の人と一緒に建設計画をつぶした。 国家に比べれば微力だが、無力ではない。
人はなぜ、こりもせずにだまされるのか。 (スプーン曲げを実演した後)超能力でなく、なぜと考えてほしい。 これは、てこの原理を使っただけ。 金属は堅いという思い込みがあるのでだまされる。 知識不足、欲得ずく、思い込みがだましの道に誘われる3つの入り口だ。
テレビの時代劇、暴れん坊将軍、水戸黄門、大岡越前に共通点がある。 わかりますか。 「お上に任せておけば大丈夫」という物語で、主人公が権力と武力で悪人を制圧する。 町衆が一致団結して問題を解決するというドラマではない。
では、どうすればいいのか。 科学的認識を土台とし、問題の解決方法は、人道主義でやる。 人任せでなはなく、具体的に自分がかかわろうと考えることだ。
2015-03-18記
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5249:150321〕
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