菅政権が説得すべき相手は沖縄ではなく米国だ -米軍普天間飛行場の移設問題-
- 2010年 12月 16日
- 時代をみる
- 岩垂 弘普天間飛行場民主党政権沖縄
「菅内閣はいったいどこの国の政権なんだろう」。思わずそうつぶやいてしまった。17日から予定されている菅首相の沖縄訪問を前にしての首相の発言と、同じ日に発せられた仙谷官房長官の沖縄県の米軍基地負担についての発言に、である。この人たちは、民意(沖縄県民の総意)というものをどう考えているのだろう、と思わずにはいられない。
新聞報道によれば、菅首相は13日夜、17日からの沖縄訪問の狙いが、来春の訪米の前に米軍普天間飛行場の移設問題に道筋をつけたいことにあることを明らかにした。つまり、同飛行場を沖縄県宜野湾市から同県名護市辺野古へ移すという今年5月の日米両国政府の合意について沖縄県に説明し、沖縄側の同意を得たいというわけである。首相は記者団に対し「県民の皆さんに(民主党政権の迷走を)謝るべきところは謝りながら、辺野古への移転が少なくとも今の普天間よりも危険性が少なくなることも含め、きちんと(県民に)説明したい」と語ったという(12月14日付朝日新聞)。
13日にはまた、仙谷官房長官が記者会見で「安全保障政策は中期的に見れば日米同盟の深化と日韓連携の強化。沖縄の方々もそういう観点から、誠に申し訳ないが、こういうこと(基地負担)について甘受していただくというか、お願いしたい」と述べ、多くの米軍基地が沖縄に存在することに理解を求めたという(12月14日付毎日新聞。翌15日付同紙によれば、この発言に仲井真弘多・沖縄県知事が「理解ができない表現で誠に遺憾」と反発、仙谷長官は発言を撤回した)。
11月28日に行われた沖縄知事選は、普天間飛行場の「県外移設」を掲げる保守系の仲井真弘多氏と、「県内移設反対」を掲げる革新系の伊波洋一氏の争いだったが、仲井真氏が当選した。両氏に共通していたのは「辺野古への移設は認めない」ということだった。要するに、「辺野古へ移設」という日米両国政府の合意は両氏によって拒否されたのだった。
これまで、沖縄では米軍基地をめぐって保守と革新の対立が長く続いてきた。保守が「基地容認」だったのに対し、革新が「基地の縮小・撤去」を主張してきたからだった。しかし、米軍普天間飛行場の移設問題では、保守と革新が初めて「辺野古への移設反対」で一致したわけで、沖縄県民の総意が極めて明瞭に示されたと言ってよい。
こうした選挙結果をうけて、11月29日付の沖縄タイムス社説はこう論じた。
「県内の政治トレンドは、民主党に政権交代した昨夏の衆院選を境に一変した。県内移設を容認した自民党議員が沖縄の全4区で誰もいなくなった。初めてである。1月の名護市長選、9月には名護市議選で市長支持派が圧勝した。
象徴的なのは7月の参院選沖縄選挙区。当選した自民党候補は日米合意を批判し、県外移設を訴えた。党本部の方針と異なる対応をとらざるを得なかったのである。これまで県内移設を容認してきた保守陣営も、沖縄ではもう県内移設を掲げて戦うことはできなくなったということである。
移設問題では保守、革新の対立の構図は消滅し、県外、国外に収斂(しゅうれん)しつつある。仲井真氏が県外移設にかじを切らざるを得なかったのもその延長線上にある。政権党の民主党は参院選に続き、県知事選でも候補者を擁立することさえできず、自主投票にするしかなかった」
「政府が説得する相手は仲井真氏ではない。米国に正面から向き合うことこそが求められている。名護市、県いずれからも同意が取れていない辺野古移設を進めようとするならば、民主主義を破壊するものである」
13日の仙谷官房長官の発言に対し、15日付琉球新報の社説は、こう述べている。
「あきれた無神経ぶりと言うほかない。仙谷由人官房長官の発言のことだ。仙谷氏は13日の会見で、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設について『県民に甘受してもらいたい』と述べた。しかも『情と理を尽くして説得する』と述べている。駄々っ子をあやすかのような口ぶりだ。駄々っ子は沖縄側と政府と、いったいどちらなのか。
仙谷発言は1994年の宝珠山昇防衛施設庁長官(当時)を想起させる。『基地との共生』を求めた宝珠山氏と同様、仙谷氏も県民の反発を買った。仲井真弘多知事が『他人に言われる筋合いはない』と不快感を示したのも当然だ」
「沖縄は既に十分に『甘受』を強いられてきた。今度は本土側が『甘受』する番だ。
在沖米海兵隊は国外移転すべきだが、政府がどうしても国内に置きたいというのなら、県外に置くべきだ。仮に普天間飛行場を県外移設したとしても、在日米軍基地の沖縄への集中度は73・9%から72・4%に下がるにすぎない。こんなささやかな要望すら、駄々っ子扱いする政府には、怒りを通り越してあきれ返る」
沖縄県民の反発の深さがうかがえるというものだ。
菅内閣に今求められているのは、日米両国政府の合意を沖縄側に「説明する」ことではなくて、沖縄県民の総意を米国政府にきちんと伝えることではないか。09年7月に発表した「政権政策Manifest」で「日本外交の基盤として緊密で対等な日米同盟関係をつくるため、主体的な外交戦略を構築した上で、米国と役割を分担しながら日本の責任を積極的に果たす」と国民に約束した民主党政権であればなおさらである。
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