アジア・インフラ投資銀行・・・流れに乗れず、行き場を失った安倍政権
- 2015年 4月 2日
- 時代をみる
- アジア・インフラ投資銀行田畑光永
(暴論珍説メモ136)
あれよあれよという間の孤児への転落だった。中國が今年中の発足を目指しているアジア・インフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーへの加盟申請が3月31日で締め切られた。その日までに加盟を申請した国はアジア・大洋州・中近東・欧州・アフリカにまたがって50か国に達したとされ、世界の主要国で加盟しなかったのは米と日本の2か国だけとなった。
それも米が日本と一緒に孤児になったのならまだ面子も保てるが、米は締切り直前にルー財務長官が北京に飛んで、30日に李克強首相と会談し、2人のにこやかな会談風景が締切日の31日に世界に向かって流されたのである。これではまるで米は中国と組んで日本をコケにしたと言ってもいいくらいである。
この会談でルー長官は、中国がアジアのインフラ建設でより大きな役割を果すことを歓迎するとともに、二国間また多国間での協力を強めたいと述べたという(新華社電)。これに対して李克強首相も、相互尊重、異は残して同につく原則にのっとって、対立は建設的に抑制し、中米の新型大国関係を正しい軌道の上で前進させたいと応じた。このやり取りで米がインフラ銀行に入るか入らないかはすでに問題ではなくなったことは明らかである。
日本はなんとか恰好をつけざるを得ない。麻生財務相は31日の記者会見で、融資や審査の透明性、環境や社会への影響を考えた融資などが「きちんと整理されていなければ、参加についてはきわめて慎重な態度を取らざるを得ない」と駆け込み参加はしないことを明らかにした。どことなくその昔、満州国問題で国際連盟を脱退した時の松岡外相を思わせるが、とりあえずその意気や壮としておこう。
そこで、これがどのくらい大事な問題かとなると、私はそれ自体ではたいしたことではないと思っている。最後の2,3週間に参加国がどっと増えたのは、またその呼び水となった英、独、仏、伊の西欧各国の腕を組んでの参加表明は、まあ入っておいたほうがいいことがある可能性が高いという打算だけのことである。創設メンバーに名を連ねておけば、融資対象プロジェクトの仕事が回ってくるかもしれない。メンバーが多ければ、中国もいくらよそより多額を出資したとしてもそうそう勝手なこともできないだろうから、と。
一方、日本にとってのマイナスといえば、逆にAIIB融資のプロジェクトの仕事を受注できる可能性が低くなるということである。それがどの程度のものかはまだ判断できない。
では、経済面で大きなマイナスがないとすれば、べつに心配はないかといえば、そうでもない。日中関係への影響を考えるとかなり憂鬱になる。
今度の顛末ではっきりしたのは、安倍首相は多額の国費を使って世界中を飛び回っているが、親身になってくれる友人はいないらしいということである。西欧の国々から事前に連絡があったとは聞いていないし、とくに米から最後にルー財務長官が訪中するときに、日本に挨拶がなかったとすれば、「前から近隣諸国とはうまくやれと言っているのに、首相が靖国神社なんぞへ行くんだから、今度のことは自分で始末をつけろ」というメッセージであろう。
これは中国にとっては願ってもない状況である。習近平政権は今、国内的に大きな圧力にさらされている。拡大する格差とそれへの不満をそらせるための腐敗撲滅キャンペーンは別の怒りを招いている。経済指標は軒並み下降線をたどっている。チベット、ウイグルの反抗も激化している。政権の正統性を強調し、求心力を高めるには日本の歴史認識を攻撃するという古い手を使わざるを得ない。特に今年は第2次大戦終結70周年ということで、日本対米英中蘭ソ(ロシア)というかつての戦争の図式を再現しようとしている矢先に、日本がAIIBで自らその立場に立ってくれたのだから、こんなに好都合なことはない。
中国は9月3日に抗日戦争勝利の軍事パレードを予定している。何年かおきに建国何十周年記念として10月1日の国慶節に行う以外に軍事パレードを行うのは前代未聞である。そしてこのパレードは日本を「震え上がらせるため」だと公言している。これから半年、中国はこのパレードへなるべく多数の各国首脳を集める外交を展開するはずだ。
そこで問題は安倍首相の腹のすえようだ。安倍首相へも招請は来るであろうから、戦争当事国として真っ先にそれに応じて参列を決めるべきである。そしてもしチャンスを与えられれば反戦演説をするべきだ。その腹を決めておくことが必要である。それをしておかないと、オバマ大統領でなくとも、米からもしかるべき人物が参列するという事態にならないとも限らない。そこで慌てては見っともなさは今回の比ではない。
最近も安倍首相は「わが軍」と言ってみたり、慰安婦を「人身売買」と言ってみたり、ささいな主張をしたがっているように見える。そんなところに神経を使わず、北京で世界に向かって日本軍国主義批判をぶつくらいの気概を持ってほしいと願う。
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