小出裕章氏インタビュー: 原発事故から4年を経た総括
- 2015年 4月 12日
- 時代をみる
- グローガー理恵小出裕章
人民新聞編集部・山田氏が小出裕章氏(元京都大学原子炉実験所)をインタビュー
(出典: たんぽぽ舎メルマガ)
★ 4年経っても「緊急事態宣言」を解除できない現状を自覚すべき
★ 「科学技術立国」「原発先進国」という幻想
★ 戦後70年原発事故の戦後史的意味とは?
◯ 原発事故から4年を経た総括を小出裕章さんに聞いた。小出さんは、3月末で京大原子炉実験所を退官されるので、在職最後のインタビューとなった。
小出さんには、事故以前からくり返しインタビューを行ってきたが、その応答は言葉が的確で無駄がなく、論理も明快だった。これも、長年原発に向き合い、情報を集め、論理を組み立て続けてきた蓄積の賜なのだろう。
退官後は、「涼しいところに住み、山登りもしてみたい」と語るが、お金や社会的名声などからできるだけ身を遠ざけて生きていこうとする小出さんの生き方に多少なりとも触れさせて頂いたことは、私にとっても幸運なインタビューだった。この場を借りて謝意を表したい。(編集部・山田)
◯編集部:今年は、戦後70年となります。この70年を振り返った際、福島原発事故は、どんな意味を持つのでしょうか?また、どのような教訓を引き出すべきでしょうか?
小出…日本は、「戦後復興」と言いながら遮二無二に突き進み、「高度成長」と言いながらエネルギーをたくさん消費するような社会を作り、挙げ句の果てに原子力にまで手を染めてしまいました。
日本は科学技術立国だなんて思っている人が多いようですが、たいへんな勘違いです。そもそも日本という国は、科学技術の先進国であろうはずがないのです。というのも日本は、200年以上鎖国をして、西洋型の科学技術と無縁なまま生きてきました。西洋と無縁であったことを私は悪いとは思いませんが、ペリーが浦賀に来て大砲を撃たれ、びっくり仰天して開国し、初めて西洋型の科学技術に触れたのです。西洋型科学技術に関して言うなら、猛烈な後進国だったのです。
原子力技術に関しても、同様です。戦争をやって徹底的に叩きのめされた日本は、米軍に占領されたのですが、占領軍が真っ先にやったのが、日本軍による原爆開発のための研究施設を破壊することでした。当時の日本の原子力研究は極めて初歩的で、製造にはほど遠い状態でしたが、その研究施設を完全に破壊しました。無論、占領期間において原爆研究は厳禁でした。
一方米国は、第2次世界大戦の戦場にならず、圧倒的な資源がありましたから、原爆製造のためのマンハッタン計画に多大な金と人を投入し、原爆を製造したわけで、この時点で日本と米国の技術格差は、お話にならないほどでした。
世界で初めて商業用原子力発電所を稼働させたのは、ソ連(1954年)です。米国も1957年に初稼働しています。一方、日本の原子力技術は、ほぼゼロの状態なので、1966年にイギリスからプラント丸ごと買ったのです。それが東海原子力発電所です。次いで1970年に敦賀・美浜に米国から買った原発を建てますが、100%米国の技術で、日本はスイッチを入れただけでした。
事故を起こした福島第一原発も、GE(ジェネラルエレクトリック)社から買ったプラントです。冷却水ポンプが海側にあったのは、米国では原発を河沿いに建設するので津波の心配がないために、河側に冷却水ポンプを設置していたためです。米国の設計そのままで福島に造ったために、地震と津波で簡単に壊れてしまったわけです。
日本は、科学技術全般に関して後進国ですし、原子力に関しては圧倒的な後進国なのです。その後進性が福島の事故で明らかになったということです。急激な戦後復興や科学技術立国というスローガンも幻想として吹き飛んだのだ、と私は思います。
原発=他国の技術の借り物/日本の後進性が引き起こした事故
◯編:日本は、「原子力技術に関して最も進んだ国だ」として原発を輸出しようとしていますが…。
小出…日本では、三菱・日立・東芝が原発を建造していますが、全て米国の技術ですから、自力で輸出なんてできません。
東芝は加圧水型ですが、WH(ウエスティングハウス)社を丸ごと買収したからで、基本技術はWH社です。日立は、GE社と共同で沸騰水型軽水炉を輸出しようとしていますが、GEがいなければ不可能です。三菱は加圧水型でしたが、東芝がWH社を買収したので、どうしようもなくなってフランスのアレバ社と提携しました。アレバ社の技術がなければ輸出できないのです。
◯編:安倍首相は、「日本の原発は事故を経て、安全技術はより高まった」「原発事故の経験を踏まえた安全性の高い技術の提供」などと宣伝していますが…。
小出…皆さんこの言葉をどう思うのか?逆に聞いてみたいくらいですが、あまりにバカげた発言だと思います。日本の原子力技術は他国の技術の借り物でしかないということを、まず自覚しなければなりません。福島原発事故は、日本の原子力技術の後進性ゆえに起こってしまいましたが、事故が起きて4年経った今に至ってすら、「原子力災害緊急事態宣言」を解除できないままなのです。
「緊急事態だから」として、法律化されたさまざまな被曝基準を無視し、住民の被曝基準も労働者の被曝線量も違法状態を続けているのが、事実であり現状です。「世界一安全な技術」なんて、あまりに破廉恥な宣伝ですし、安倍首相らしいインチキだと私は思います。(下)に続く
(「人民新聞」第1543号2015年3月15日より編集部の許可を得て引用)
東電の「情報公開」あり得ない/犯罪者がかばい合ってやりたい放題
◯編:2号機から汚染水が港湾外に流出していた汚染水漏洩で、東電は、原則として情報を公開する方針を決めたと報道されています。「ようやく」という感はぬぐえませんが、信用できる方針転換ですか?また、これを実質化するための提案は?
小出…東電が情報公開するなんてあり得ません。これまでも情報を隠してきましたし、これからも隠します。今回の不祥事で東電の姿勢が変わることはありません。これまで東電は、ずっと情報を隠して、バレてしまったら「情報公開します」と言いながら公開しないでやってきました。今回の汚染水漏洩と情報隠しにしても、彼らは深刻に受け止めてなんていません。「大したことじゃないのにな…」くらいにしか思ってないでしょう。
私は、「東電の幹部は犯罪者であり刑務所に入れるべきだ」と言い続けています。誰も責任を取らないし、被害者の損害賠償にしても、加害者である東電が損害の査定をするというおかしな仕組みになっています。その結果、東電は2015年3月期決算の経常利益が2270億円の黒字になるというのです。被害者への責任を取らないで黒字を確保するという、とんでもない会社です。こんな仕組みは根本的に間違っているし、犯罪者である東電がやろうとすることは全て禁止すべきです。
本来なら国家が東電に責任を取らせて、国家管理の下で事故処理をしなければなりませんが、政府も原子力マフィアの一員です。政府・東電という犯罪者集団が、お互いにかばい合って、ぬくぬくと生き延び、やりたい放題やっているのが現実です。このような状態で、正確な情報が開示されるわけがありません。
本来なら東電を倒産させて、情報についても東電が管理するのではなく、情報公開のための組織を作らねばなりませんが、そんな気配すらありません。
どんな過酷事故でも、電力会社は安泰
◯編:高浜原発再稼働について。
小出…関西電力が原発を再稼働させたい理由は、動かない原発が不良債権化し、決算が赤字になることを恐れているのでしょうが、次の点が重要です。関西電力が福島原発事故から学んだ最大の教訓は、「どんな過酷な事故を起こして住民を苦境に陥れても、絶対に自分たちが責任を問われることはない」ということです。東電があれだけの事故を起こしても、誰も刑事責任を問われず会社は黒字になるのですから、関西電力が高浜原発を再稼働させて事故を起こしたところで、彼らは安泰なのです。
政府の側にもさまざまな思惑があるのでしょうが、一つは原発輸出のために再稼働は必要だということです。自国で原発が動いていないのに他国には輸出しますという道理は、さすがに通りません。原発を輸出するためには、再稼働が絶対条件です。
ただし、高浜原発の再稼働は無理でしょう。3月内にも再稼働禁止の仮処分が決定されるでしょう。仮処分決定は出た時点で確定しますから、再稼働は不可能でしょう。
◯編:3月で定年を迎えられます。今後、どのような活動をされる予定ですか?
小出…定年なんて所詮、社会的な制度でしかありませんから、私にとって重要な意味はありません。ただし、私も生き物なので、老いや死を避けることはできません。定年は、老いや死への一里塚だと思っていますので、残りの人生をどう生きるかを考える時だと思っています。
しかし、福島の事故から4年経って、事故そのものも収束できないし、たくさんの人々が苦難に落とされているのですから、そこに目をつぶることはできません。私は「仙人になる」と言っていますが、周囲の人たちは「そんなことはさせない」と怒っていますので、私しかやらない、私にしかできないことを引き受けながら、少しずつ退いていくしかないと思っています。私は暑さが苦手なので、涼しいところで山にも登ってみたいと思っています。
* 注:日本軍の原爆開発:第二次世界大戦中、軍部には2つの原子爆弾開発計画が存在していた。陸軍の「ニ号研究」と海軍のF研究である。
1938年からウラン鉱山の開発が行われ、1941年4月に陸軍航空本部は理化学研究所に原子爆弾の開発を委託。研究には理化学研究所の他に東京帝国大学、大阪帝国大学、東北帝国大学の研究者が参加した。
(「人民新聞」第1543号2015年3月15日より編集部の許可を得て引用)
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