教科書を支配しようとする安倍首相
- 2015年 4月 20日
- 評論・紹介・意見
- 小澤俊夫教科書
メール通信「昔あったづもな」 第37号
教科書の検定作業において「尖閣諸島」や「従軍慰安婦」について、「政府見解」を取り入れた記述にするよう、文科省が各教科書会社に求めたとのことである。日本は、昭和の初めころから無謀な戦争に突っ込んでいったことへの反省として、教育を時の権力のもとにおいてはいけない、という大方針を打ち立ててこれまでやって来たのである。戦争の惨禍を真摯に振り返って生まれてきた、国家としての大方針である。
国民一人一人が、自分の頭で考えることをやめ、時の政府の号令通りに行動することが、いかに危険なことであるか、日本人はあの戦争で学んだ。その深刻な反省から教育の独立性が叫ばれ、教育委員会制度が生まれ、国定教科書が廃止されたのである。それを、安倍首相と政府は、ほとんど議論もなしに変更している。断じて認めることはできない。
大学に国旗、国歌の強要も
安倍首相は大学の入学式や卒後式で、国旗掲揚、国歌斉唱がされるべきではないか、と述べたということだ。そして、下村文科相も、「各大学で適切な対応がとられるよう要請したい」と述べたという。これは全く、大学への不当な介入である。
要請の根拠として、国旗・国歌法を挙げたとのことだが、この法律の審議の際には、「国として強制や義務化をすることはない」と政府は述べていたはずだ。なのに、文科省は小中高の学習指導要領に基づいて、全国の小中高校に国旗掲揚と国歌斉唱を強制している。今度は、大学にも強制しようとし始めたのである。しかも、文科省の発表を見ると、国立大学86校で、どこが国旗、国歌を実行しているのか、すでに調査済みであったことがわかる。恐ろしいことである。
文科省は、「大学に指導や強制はできない」としているそうだが、国立大学の学長が参加する会議で要請するつもりだという。形は「要請」だが、国立大学は法人になったとはいえ文科省からの交付金がなければ成り立たないのだから、文科省からの要請は無視できないだろう。そうなると、これはもう文科省からの強制と同じだ。こんなことを認めるわけにはいかない。
大学の自治は、民主主義国家の基本的条件である。それが冒されようとしている。昭和初期の、軍部が台頭しつつあった時代と極めて似てきた。
マスメディアにも圧力をかける安倍自民党
新聞報道によれば、自民党は昨年の衆議院選挙前、テレビ朝日の番組内容に対して、「公平中立」を求める文書を出していたとのことである。報道ステーションが、「アベノミクスの効果が大企業や富裕層にのみ及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく断定する内容」であると批判し、「放送法に照らし、同番組の編集及びスタジオの解説は十分な意を尽くしているとは言えない」と指摘したとのことである。
マスメディアに対して、これほどあからさまの圧力をかけるとは、安倍自民党は全く思い上がっている。しかも、自民党が指摘した報道ステーションの報道内容は、一般庶民が感じている通りではないか。
安倍首相と政府、そして自民党は、選挙で圧倒的に勝利したのだから好きなようにやっていいと思いあがっているのだろう。だがあの低い投票率の中で議席だけは多数がとれたということであって、決して国民の多数の支持を得たわけではない。むしろ、選挙制度の欠陥によって得た多数議席なのである。そんなことを言っても、安倍首相と自民党は、勝利は勝利だと開き直っている。やはり、選挙の時、有権者がしっかり投票しなければ、安倍首相と自民党を抑えることはできないということだ。(2015.4.14)
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