「機能性表示食品」なんて、いらない・上 -安倍・成長戦略の一環として解禁された-
- 2015年 5月 14日
- 評論・紹介・意見
- 岡田幹治食品
「機能性表示食品」という言葉が新聞やテレビによく出てくるようになった。新しい食品表示制度が4月に解禁になり、それに基づく機能性表示食品が6月にはドラッグストアの店頭や通信販売のリストに並ぶ見通しになったからだ。機能性表示食品とは一体どんなものか。それは私たち消費者に何をもたらすのか。それを3回に分けて報告する。まず「上」は、解禁までのいきさつである。
◆届け出るだけで「体への効果」を表示
機能性とは「体への効果」のことで、それを表示できるのは医薬品に限られている。例外が「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」の二つで、これらを合わせて「保険機能食品」と呼ぶ(このほか、政府の許可を受けずに、体によさそうなことをイメージで売り込む「いわゆる健康食品」が多数販売されている)
トクホは、商品ごとに有効性や安全性を専門家が審査し、消費者庁が許可したもので、その食品が身体の構造と機能に影響を与えることを表示できる。また栄養機能食品は、国の定めた栄養成分が基準値の範囲で含まれていれば、国の審査を受けることなく、成分と機能を表示できる(注1)。
注1 トクホは飲料・ヨーグルト・菓子などの1144品目に許可されており(今年4月現在)、容器に「トクホマーク」がついている。栄養機能食品は人に対する有効性が明確な栄養成分を補うことを目的とした食品で、ビタミン12成分とミネラル5成分が指定されていたが、4月からn-3系脂肪酸、ビタミンK、カリウムの3成分が追加された。
これに対して新しく解禁された「機能性表示食品」は、食品に含まれる成分などに健康を維持・改善する効果があると企業が判断し、消費者庁に届け出れば、「骨の健康を保つ」「目の調子を整える」といった表示ができるものだ。「第3の制度」とも呼ばれる。
具体的には、サプリメント(錠剤・カプセルなどの形をしたもの)や加工食品に加えて、果物や魚などの生鮮食品も対象で、どの成分が関与して効くのかなどを企業が臨床試験や複数の学術論文で確認し、届け出ればよい。科学的な根拠を判断するさいの詳細な条件などは消費者庁がガイドライン(指針)で示すが、商品が条件を満たしているかどうかの個別審査はしない。届け出書類に不備がないと消費者庁が判断して受理すれば、その60日後から販売できる(届け出の内容はウェブサイトで公開されるから、誰でもチェックできる)=表1。
◆首相が熱心だった背景
この制度は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざす安倍晋三内閣の成長戦略の一つとして解禁された。第2次安倍内閣発足直後の2013年2月に、成長戦略を審議する規制改革会議(議長、岡素之・住友商事相談役)で検討項目に取り上げられ、わずか4か月で解禁が決定された。首相は同年6月5日、成長戦略第3弾の発表スピーチで「健康食品の機能性表示を、解禁いたします」と宣言し、解禁が必要な理由をこう説明した――。
現在はトクホの認定を受けなければ健康効果を表示できないが、その取得には費用も時間もかかり、中小企業・小規模事業者にはチャンスが事実上閉ざされている。米国では国の認定を受けていないことを明記すれば、商品に機能性を表示できる。これを参考に(より企業に便利な)「世界最先端」の制度をめざす、と。
首相が明言しているように、許可までに費用も時間もかかるトクホは企業の負担が重いので、その負担を軽くしようというのが新制度のねらいなのだ。
首相が解禁に熱心だった背景は次の二つだったと推測できる。あらゆるものを成長戦略に利用しよういう姿勢と、米国の市場開放要求に応えオバマ政権との関係を改善しようという思惑である。同時に、首相を後押しした二人の存在も見逃せない。森下竜一・大阪大学大学院医学系研究科教授と健康食品の大手ファンケルの池森賢二会長だ。
◆議論をリードした森下竜一・大阪大教授
新制度は、まず規制改革会議とその下の「健康・医療ワーキング・グループ(WG)」(座長、翁百合・日本総合研究所理事ら9委員)で検討されたのだが、これらの場で積極的に議論をリードしたのが、森下だった。
医療ベンチャー「アンジェスMG」の創業者でもある森下は、内閣官房参与も務めている自称「安倍政権のブレーン」。アンジェスMGは赤字続きで、過去にいくつもの不祥事が報道された、いわくつきの企業だ。また森下は、ノバルティスファーマの降圧剤をめぐる研究データ偽造疑惑にからんで名前が取りざたされたこともある。
その森下がWGなどで「機能性表示を解禁すれば、国民に安心感を与え、医療費が削減できる」などと根拠の乏しい主張を展開。WGは健康食品業界と関係省庁からヒアリングしただけで結論を出した。健康食品をめぐって消費者からの苦情や健康被害が増加しているという「負の側面」が考慮された形跡はない。
◆検討の山場で動いた池森賢二ファンケル会長
一方、池森は一代でファンケルを築き上げた新興財界人で、安倍とはときどき夕食を共にする「お仲間」の一人。健康食品の規制緩和は成長戦略の有力な柱になると首相に売り込んだことは容易に想像できる。
国内の健康食品市場(トクホなどと「いわゆる健康食品」の合計)は2012年度で約1兆7000億円。健康食品の問題点が指摘され出した2006年ごろから伸び悩んでいる。ファンケルの業績も近年は振るわず、池森はいったん退いた経営の一線に2013年に復帰している。業界としても、企業としても新しい突破口が何としてもほしいところだった。
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