【集団的自衛権問題研究会 News&Review :特別版 第4号】 (2015年6月10日)
- 2015年 6月 11日
- 評論・紹介・意見
- 杉原浩司
「安全保障法制」の審議が5日ぶりに再開されました。憲法審査会での全
ての参考人による「違憲」発言を受けて出された政府見解や、菅官房長官
による「違憲でないと言うたくさんの著名な憲法学者」発言などをめぐり、
何度も速記が止まる激しい議論が交わされました。ダイジェストをまとめ
ましたので、ご参照ください(後半に掲載)。
今後の審議日程については、明日11日(木)14時30分からの理事懇談会で
協議されます。
なお、9日に出された以下の2つの政府見解に対して、本研究会代表の川崎
哲がコメントを発表しました。こちらもぜひご一読ください。
【政府見解】新三要件の従前の憲法解釈との論理的整合性等について
http://www.sjmk.org/?page_id=198
【政府見解】他国の武力の行使との一体化の回避について
http://www.sjmk.org/?page_id=200
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★2つの政府見解に関するコメント http://www.sjmk.org/?page_id=217
2015.6.10 川崎哲(集団的自衛権問題研究会代表)
6月9日、政府は「新三要件の従前の憲法解釈との論理的整合性等につ
いて」と「他国の武力の行使との一体化の回避について」の2つの政府見
解を示した。
「認識を改めた」では済まされない
「従前の憲法解釈との論理的整合性等」に関する政府見解は、憲法学者
3人が衆院憲法審査会で現在の安保関連法案を「違憲」と述べたことを受
けたものである。
この見解では、今回の閣議決定と法案は、1972年の政府見解の「基
本的な論理を維持」しながら、「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」
とする結論部分について「これまでの認識を改め」変更したものだという。
しかし、1972年の政府見解は「集団的自衛権と憲法の関係」に関する
ものであり、そのもっとも重要な結論部分について政府が「認識を改め」
たとして根本的に転換してしまうことができるとするのは詭弁であり、憲
法学者らが指摘する通り、法的な安定性が大きく損なわれているといわざ
るを得ない。
また「認識を改め」るに至った背景説明として政府は「パワーバランス
の変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器の脅威等」による安全保障
環境の変化を挙げているのみで、きわめて抽象的である。大量破壊兵器に
ついていうならば、先の見解が出された1972年当時は冷戦下の核軍拡
競争のさなかであり、世界には今日の3倍近い約4万発の核兵器が存在し
た。米ソ間、あるいはその代理戦争の形で世界のどこかで核戦争が起これ
ば、仮に日本に対する直接的な軍事攻撃がなかったとしても、日本が深刻
な被害を受けることは明らかであった。そのような時代状況下においても、
集団的自衛権の行使は許されないという憲法解釈を政府はとっていたので
ある。今日のどのような安全保障環境の変化によって、憲法解釈の根本を
転換させる変更が正当化されると考えているのか、政府はさらなる説明を
求められる。
さらに、政府は安全保障環境が「変化し続けている状況を踏まえれば」
と述べている。安全保障環境が変化することに合わせて憲法解釈について
も「認識を改め」ることが許されてしまうのであれば、今後も国際情勢が
「変化し続け」る中で憲法の拡大解釈がなし崩し的に進む可能性を否定し
えない。一度タガが外れれば、今日においては集団的自衛権の行使が「限
定的」なものだと説明したとしても、今後際限なく拡大されていくおそれ
がある。
「他国を防衛するためではない」は本当か
そのうえで、今回の政府見解においては、昨年7月の閣議決定の文言に
対して、日本が武力行使を許される条件をさらに厳格化する文言が加えら
れていることにも注目したい。「他国を防衛するための武力の行使それ自
体を認めるものではな(い)」こと、「他国を防衛するための武力の行使
ではなく、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度
の自衛の措置にとどまる」こと、「当該他国に対する武力攻撃の排除自体
を目的とするものでない」ことなどが明記されている。
また、こうした措置の発動のためには「武力を用いた対処をしなければ、
国民に我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶこ
とが明らかだということが必要」とも明記している。
もしこれらの条件が厳格に適用されれば、いわゆる存立危機事態を認定
して武力行使を発動させる条件、またその中で現実に行使できる武力の範
囲は理論上はきわめて限定されるだろう。だが現実の運用においては、自
衛隊の行動がなし崩し的に「他国防衛」の領域に踏み込んでいってしまう
危険性が常につきまとう。だとすれば昨年7月の閣議決定前の議論に立ち
戻って、そもそも現在論じているような事態は個別的自衛権の範囲内で整
理できるというふうに議論をやり直すべきではないか。きわめて限定的な
事例にこだわって憲法解釈の根底を変えることは、将来的ななし崩しに道
を開くという危険を冒す行為である。
「一体化の回避は満たされている」か
次に「武力行使との一体化」に関する政府見解についてである。この見
解では、日本の自衛隊の行動が他国の「武力行使との一体化」をしてはな
らないということは「憲法上の判断に関する当然の事理」であるとし、い
かなる状態を「一体化」とみなすかについては従来の判断基準(4つの基
準)を維持するとしつつ、しかし「非戦闘地域」や「後方地域」といった
枠組みを見直したと説明している。
だが、政府が従来示してきた武力行使との一体化に関する判断基準の第
一は「戦闘活動が行われている、又は行われようとしている地点と当該行
動がなされる場所との地理的関係」である。このたびの閣議決定および法
案において、これまでは「戦闘地域」として活動が認められなかった場所
においても活動が可能とされるようになったわけであるから(「現に戦闘
行為を行っている現場」でない限り)、地理的関係については根本的な変
化が導入されたのである。
自衛隊が活動している場所が「現に戦闘行為を行っている現場」になっ
てしまった場合は、直ちに活動を「休止又は中断」するというが、速やか
に退避できなかった場合には現に「戦闘行為を行っている現場」に自衛隊
がとどまることになる。武力行使との一体化に関する第一の判断基準(地
理的関係)に照らすまでもなく、戦闘行為の主体から見れば、同現場にと
どまる武装部隊を戦闘上の敵と一体化した存在とみなすであろう。
この一点のみをとっても、今回の安保関連法案は「『一体化』の回避と
いう憲法上の要請は満たす」ものであるとする政府見解は無理な強弁とい
わざるを得ない。「一体化」の回避を維持するというのであれば、少なく
とも、「一体化」を回避しなければならないことおよび「一体化」に関す
る定義と判断基準を法律の中に明記し、いかなる事例が「一体化」となる
かということについて明確な政府見解を示さない限り、論理的整合性も説
得性もない。
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【6月10日(水)「安全保障法制」審議ダイジェスト】
一般質疑(計7時間、首相出席なし、NHK中継なし)
衆議院インターネット中継 http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php
※右のカレンダーの日付をクリックすると、アーカイブが見られます。
◆盛山正仁(自民)
「機雷掃海に十分な要員と装備はあるか? また、任務に携わる隊員に十
分な特別手当を保障すべきだ」。
左藤防衛副大臣「掃海艇27隻は世界有数規模。平成20年度から木製から強
化プラスチックに変更。平成25年度から機雷探知の範囲も2.5倍に拡大。
自走式機雷用の弾薬も装備」「平成23、24、26年のペルシャ湾での多国間
掃海訓練にも参加した」「勤務形態や特性に考慮して待遇を検討していく」。
◆辻元清美(民主)
「先日の中谷大臣の「現在の憲法をいかにこの法案に適用させていけばい
いのか」との発言は立憲主義に反する。撤回してください」。
中谷「趣旨を正確に伝えられなかったので、撤回して修正したい」。
辻元「この間の一連のやり方は立憲主義に基づく日本へのクーデターのよ
うに見える」。
◆辻元清美(民主)
「昭和47年政府見解の(1)(2)を維持し(3)の結論を安保環境の変化
を理由に「当てはめ」で変えたのなら、安保環境が良くなれば元に戻せる
のか?」。
横畠法制局長官「我が国への攻撃以外に国民の生命、自由及び幸福追求の
権利が根底から覆される可能性がないという環境になればあり得る」。
辻元「そういうことが法的安定性がないということではないか」。
◆辻元清美(民主)
「全く違憲じゃないという著名な学者をいっぱいあげて下さい」。
菅官房長官「個別にあげるのは控えるが、百地(章)先生、長尾(一紘)
先生、西(修)先生など」。
辻元「政府がいっぱいいると示せないなら法案を撤回すべき」。
菅「わたくし、数じゃないと思いますよ」。
◆辻元清美(民主)
「違憲判決が出たら、装備や訓練も含めて元に戻すんですね?」。
中谷「法治国家なので司法の判断に従う」。
辻元「ガイドラインもやり直すか?」。
中谷「仮定の判断は差し控える」。
◆寺田学(民主)
「違憲判決が出たら、今までの慣例と同様に、政府としてまず法の執行を
停止するのか?」。
中谷「適切に対応する」を繰り返すばかり。
◆緒方林太郎(民主)
「北朝鮮の核実験や台湾海峡での1996年のような緊張した事態と、ホルム
ズ海峡の事態と、どちらが我が国にとってより深刻な事態と考えるか?
過去に両者は「周辺事態に当たらない」との政府答弁もあるが?」。
中谷「個別の事態に応じて総合的に判断する」。
◆大串博志(民主)
「昭和47年見解を決裁した当時の吉國内閣法制局長官は「我が国が侵略さ
れて(初めて自衛の措置をとる)」と3回も発言している。強い傍証だ。
これを覆す事実関係はあるか?」。
横畠「それはまさにその当時の認識。今般、事実認識に変化がある」。
◆後藤祐一(民主)
「集団的自衛権と個別的自衛権は重なり合うことはないか?」。
中谷「ございません」。
後藤「「数量ではなく目的が超えているので集団的自衛権の行使は違憲」
との平成11年の大森法制局長官の有名な答弁がある。この答弁は維持され
ているか?」。
横畠「「我が国の防衛に限る」との目的に収まっており、矛盾しない。維
持している」。
後藤「昭和56年の稲葉衆院議員への答弁書にある「集団的自衛権の行使は
我が国防衛のための必要最小限度を超えるもので許されない」との趣旨の
有名な見解は維持するのか?」。
横畠「フルセットの集団的自衛権に関するものとして維持している」。
後藤「両者の答弁を引き継ぐのか政府見解を出してほしい」。
◆高井崇志(維新)
「せめて「違憲でない」と言う学者が何人くらいいるか、答えてほしい」。
菅官房長官「私が知っているだけで10人程度おります」。
高井「極めて少数だ」。
菅「いろいろな学識経験者の意見を聞いた」。
◆高井崇志(維新)
「歴代法制局長官の多くが違憲だと批判していることをどう考えるか?」。
横畠「元長官の方々の個人としての発言にいちいちコメントしない」。
高井「法制局の皆さんがこの話を聞いたときに、反対する意見はなかった
のか?」。
横畠「反対する意見はありません」。
高井「最高裁で違憲判決が出ないという自信はあるのか?」。
横畠「ご指摘の通りです」。
◆宮本徹(共産)
「昨日の政府見解に「安保環境が根本的に変容」とあるが、かつてソ連は
もっと多くの核ミサイルを日本に向けていた。何をもって、いつから根本
的に変容したのか?」。
中谷「インターネットや人工衛星ができ、科学技術が発展し、(ムニャム
ニャ)」。
宮本「それが基準か?!」。
中谷大臣は結局、明確には回答できず。
◆宮本徹(共産)
「他国に対する武力攻撃によって国の存立が脅かされるようになった例は
あるのか?」。
中谷「一概に言えない。絶えず国際社会は対立、紛争を繰り返してきた」
「事前に聞いてないので調べて対応したい」。
宮本「調べて提出を。出せなければ立法事実がなく法案は出せない」。
◆宮本徹(共産)
「砂川事件判決は集団的自衛権について何か言っているか?」。
横畠「ふれているわけではありません」。
宮本「政府見解で引用されているのは砂川判決の傍論部分に過ぎない」
「一方で、イラク派遣の違憲判決を政府は「傍論だ」と批判した。これは
二枚舌、ご都合主義だ」。
◆宮本徹(共産)
「自衛隊による他国軍の武器等防護の「武器」とはどんな武器か?」。
黒江防衛政策局長「武器、弾薬、火薬、船舶、航空機等々(=全て含む)」。
宮本「米軍から要請がある場合、そのための自衛隊部隊を派遣するのか?」。
黒江「部隊同士の防護もあれば、必要な部隊を派遣する場合もある」。
◆宮本徹(共産)
「自衛隊による武器等防護の対象となる米軍は、世界中で情報収集や警戒
監視をしている。防護の範囲は地理的に無限定か?」。
黒江防衛政策局長「要請があり、我が国防衛に資するかの要件で判断する。
地域では判断しない」。
◆宮本徹(共産)
「自衛隊による他国軍の武器等防護で、米軍の空母は警護できるか?」。
黒江防衛政策局長「例外は特に設けていない」。
宮本「武器等防護は”集団的自衛権の裏口入学”ではないか?!」「防護し
ている自衛隊が攻撃を受ければ反撃して武力行使することになる。集団的
自衛権がなし崩しで行使される」。
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<特別版 第3号(政府見解等を掲載)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=207
<特別版 第2号(6月5日の審議録)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=187
<特別版 第1号(6月1日の審議録)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=136
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発行:集団的自衛権問題研究会
代表・発行人:川崎哲
News&Review特別版 編集長:杉原浩司
http://www.sjmk.org/
ツイッター https://twitter.com/shumonken/
※ダイジェストはツイッターでも発信します。ぜひフォローしてください。
<本研究会のご紹介>
http://www.sjmk.org/?page_id=2
◇集団的自衛権問題研究会News & Review
第9号の内容
● 歯止め無き対米支援法制は「国民を守る」か(川崎哲)
● 新「日米ガイドライン」は何を狙うか(吉田遼)
http://www.sjmk.org/?p=130
◇『世界』7月号、6月号に当研究会の論考が掲載されました。
http://www.sjmk.org/?p=194
http://www.sjmk.org/?p=118
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5403:150611〕
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