交流の広場(匿名投稿への回答)6/26 福島KKKの新たなジレンマ:多発事実の認知と被曝影響の否認
- 2015年 7月 4日
- 評論・紹介・意見
- 蔵田計成
福島県「県民健康調査」検討委員会(以下福島KKK略記)は、これまで
①甲状腺異常の多発を否認し、
②それが被曝影響であることも否定してきた。
このように、福島KKKは、被曝被害を認知しないことによって、責任を逃れ被曝防護をサボってきた。これは「県民の健康」をないがしろにする欺瞞である。わたしはこのことをきびしく批判してきた。この点で、わたしは投稿者と共通の立場にいる。
それでは、第19回福島KKKに提出された同委甲状腺評価部会の「中間とりまとめ」にはなにが書かれていたか。そこには小児甲状腺ガン「悪性および悪性疑い」が事故発生前(2010年)時点の有病者数「1.7人」(中間とりまとめ)に比べて、「数十倍のオーダー(桁数)で多い」と明記している。明らかに数字を基準にしたこの記述は、従来の多発否認説①が崩れたことを示している。彼らは疑いなく一歩後退したのである。
とはいえ、彼らは決して従来の欺瞞的な対応を反省して、①の多発否認説を正式に取り下げたわけではない。「中間とりまとめ」は、今回もまるで人ごとのように主体的な判断を避けている。「数十倍のオーダーで多い。」とした後に、すぐ続けて次のように述べている。
「この解釈については、被ばくによる過剰発生か過剰診断のいずれかが考えられ、これまでの科学的知見からは、前者の可能性を完全に否定するものではないが、後者の可能性が高いとの意見があった。」
このように福島KKKは多発の原因を「被曝影響」か「過剰診断」かの二分法によって、その場を取りつくろっているに過ぎない。とはいえ、この事実を見逃すべきではない。福島KKKは多発という明白な事実を黙殺し続ける論拠①を崩されてしまい、もっぱら②の被曝影響否認説(過剰診断)を強調せざるを得なくなったのである。同時に、これは彼らが作戦変更を強いられたことを示しており、いわば、苦肉の論点移動といえる。
ところが、匿名投稿者は、この「中間とりまとめ」を依然として旧来の①+②を繰り返したにすぎないとみた。そして福島KKKの欺瞞性は変わっていない、わたしが一歩後退したと考えるのは甘すぎる、<まじめにこれまでの経緯を追跡してきたのだろうか>と論難した。
だが、匿名投稿者は福島KKKに対しても、もわたしに対しても批判をつきつけたつもりかも知れないが、すこしピントが外れている。たとえば、「中間とりまとめ」は、一見して旧態依然とした「過剰診断」説を援用しているかのようにみえるが、実はこれはひそかな換骨奪胎をねらったものである。つまり、「過剰診断」説は、かつては多発否認①のための有力な論拠として掲げていた。ところが、今回提出された「中間とりまとめ」では「過剰診断」説を被曝影響否認説②の論拠に、そのまま横すべりさせているだけである。しかも、「多発」を否定するための理屈に用いた「スクリーニング効果」説や「計測機器の性能向上」説は姿を消している。被曝の影響を否定するための論拠には使えないからである。
おそらく、彼らは新たな論点②に関して新たな論拠を案出できず、苦しまぎれに旧い「過剰診断」説(小児甲状腺ガンには当てはまらない代物!)を転用したものと思われる。だから、福島KKKは単純に同じことを繰り返しているわけではない。「ごまかし」自体をやめるかわりに、「ごまかし方」を変えたのである。
投稿者は持論の福島KKK批判を繰り返しているが、それは福島KKKのひそかな論点移動を見落としたからではないか。福島KKKをきびしく批判し続けるという投稿者の意図は至当であるが、その批判は的外れである。
新たな争点が浮上したことを補足しよう。福島KKKのごまかし策・第2弾をきびしく批判しなければいけない。
(A)多発の実態解明を一層進めること。
(B)それが被曝による疾患であることを論証していくこと。
(A)に関しては、福島KKKの1巡目調査(「先行調査」という表現は不適切)では罹患者の調査年次が1年後、2年後、3年後であり、その結果、見積もりが過少になっている。実際に年次補正を加えると、3年間の罹患者は「112人」ではなくて、推計約170人である(受診者30万人、子ども人口の80%)。
参考までに、この数字を事故前の有病者数1.7人(KKKの先の見積もり)と比較すると、170÷1.7=100倍となる。そうだとすれば「数十倍」論も、過少評価といえるかも知れない。もはや、このような数字が立証する多発の事実には、誰も異議を差しはさむことはできない。
では、数十倍~100倍の異常な多発の原因は何か。いうまでもなく原発事故による被曝であり、その結果と考えるのが常識である。明白な社会的事実であるにもかかわらず、政治が行政的にこれを認定しないだけである。被曝した若年成人(20-34歳集団)や、検査対象地域を広げれば、被曝疾患の規模はさらに広がるだろう。とくに、成人甲状腺ガンの進行に比べて、小児甲状腺ガンの成長や他臓器への浸潤(転移)は速い。このことはチェルノブイリにおいて立証済みである。実態の解明は急務である。いまや、「過剰診断」説のようなチャチな仮説ではとうていごまかせないほど深刻な事態を迎えている。 協力・河宮信郎
(認定に関する参考資料、『DAYS Japan』 7月号、「甲状腺がん『多発』認める」おしどりマコ)。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion5460:150704〕
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