【集団的自衛権問題研究会 News&Review :特別版 第14号】 (2015年7月7日)
- 2015年 7月 7日
- 評論・紹介・意見
- 杉原浩司
7月6日、衆議院安保法制特別委員会は那覇市とさいたま市で地方参考人会
を行いました。本来、委員会としてきちんと中継すべきですが、国会はあ
らゆる地方参考人会の中継をしておらず、主権者の知る権利を蔑ろにして
います。直ちに改善すべきだと思います。また、NHKもこれほど重大な法
案の参考人質疑は中継すべきです。
今回、沖縄では沖縄タイムスと琉球新報がネット中継していました。また、
沖縄、埼玉ともIWJが中継してくれました。さいたま市(パレスホテル大
宮)の参考人会の中継をウォッチしましたので、ダイジェストをお送りし
ます。ぜひご一読ください。
★なお、まもなく発売される『世界』8月号に当研究会による「安全保障
法制の焦点 3」が掲載されます。ぜひお読みください。
<関連報道>
衆特委 さいたまで参考人質疑(7月7日、NHK)
http://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20150706/3039121.html
【動画あり】安保法案3人が反対、2人は理解 沖縄で参考人質疑
(7月6日、沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=123000
自民が参院特別委設置提案 民主応じず(7月6日、NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150706/k10010140871000.html
安保法案:維新、衆院採決退席へ 与党強行すれば(7月6日、毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150707k0000m010085000c.html
※まったく油断はできません。
<安保法制特別委員会の今後の日程>
8日(水)午前9時~ 一般質疑
10日(金)集中質疑(首相出席、NHK中継)
13日(月)午前9時~ 中央公聴会(衆議院第一委員会室)
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【安保法制特別委員会 地方参考人会(第2班・埼玉県)】
<参考人の意見陳述>
◆石河秀夫(埼玉弁護士会会長)
「法案は明白に違憲であり、直ちに廃案にすべき。日弁連の全国55の全て
の単位会が、反対する会長声明、総会決議を採択している。埼玉でも今ま
でで最も多い1万人が参加して集会を行った。国民の理解を得られぬ法案
の強行採決は立憲主義そのものを破壊し許されない。自衛隊の海外での戦
闘行為加担は違憲だ。冷戦期の方が安保環境は厳しかった」
◆石河秀夫
「民間の現地支援活動も、法案ができると継続が困難になる恐れが高い。
全国で違憲訴訟も起こされるだろう。自衛隊員が海外で殺傷した場合どう
扱われるのかも不明だ。平和を維持するには、不断の努力によって極力敵
を少なくするしかない。武力によらぬ紛争解決機構の充実も必要だ」
◆石河秀夫
「周防監督が紹介した格言「少しの安全のために少しの自由を犠牲にする
国民は結局その両方を失う」を思い起こす。結局は戦争に導かれる事を肝
に銘じるべきだ。国会審議は費やした時間ではなく、国民の理解が得られ
たかのが重要。強行採決されるなら多くの国民と共に徹底して闘う」
◆落合洋司(弁護士、東海大学法科大学院特任教授)
「集団的自衛権の行使を肯定するのは法解釈として難しい。憲法は最高規
範であり、安保法制には根本的なところで問題があると言わざるを得ない。
「存立危機事態」のかなり多くの部分は個別的自衛権で対応可能だ。武力
行使と一体化しない事を担保してきた「周辺」概念の廃止も問題が大きい」
◆落合洋司
「多国籍軍の後方支援について、恒久法については大枠を制定して、細部
は個別に対応すればいい。弾薬提供や戦闘作戦行動のために発進準備中の
米国等の戦闘機への給油は、武力行使との一体化につながり、戦闘に巻き
込まれる可能性が高い」
◆倉持麟太郎(弁護士、明日の自由を守る若手弁護士の会会員)
「弁護士の「特殊部隊」として日々審議をウォッチしてクラクラしている。
切れ目のない違憲法案であり、憲法9条で合憲とされてきたギリギリのラ
インをまさにシームレスに踏み越えるものだ。政府答弁はあまりにも不誠
実であり、民主的正当性が欠けている」
◆倉持麟太郎
「同じ事実を当てはめ、違う解が出るのは基本的論理が変わったというこ
と。それでも「規範が変わらない」と言うのは欺瞞以外の何物でもない。
自衛隊法第76条が「我が国への武力攻撃」と定義しているのは、そうしな
いと違憲だから。オーダーメイドでしかあり得ず、まさにジャストサイズ
だった。内閣法制局長官には最後の最後で法律家としての魂を売り渡さな
いでほしい」
◆倉持麟太郎
「基本的論理を変えているのに、「変えていない」と強弁するのは、パン
トマイムをしている人が滑稽なのと同じだ。話はパントマイムで済まない。
現場の自衛官への負担も増える。強行採決は政権支持率にも影響するだろ
う。議論されていない論点は資料で示しただけでも40個以上あり、例えば
憲法前文と平和的生存権の関係は一切ふれられていない。強行採決されれ
ば、手続き的にも民主的正当性が失われる」
◆倉持麟太郎
「これまでの政府答弁を調べてみたが、多くの答弁が使い回しだった。同
じことしか答えられない。「全く当てはまらない」「断じてあり得ない」
などの打ち消しや否定しかできておらず、答弁になっていない」
◆倉持麟太郎
「憲法カフェで話を聞くと、人々は自分たちの手の届かない所で決められ
ているという感覚が強い。現政権は「押し付け憲法」と言うが、法案は憲
法違反の押し付け。国民は権力者のパントマイムに気づいている。「日本
を取り戻す」前に自立を取り戻すべきだ。権力行使への節度を持って廃案
にしてほしい」
◆佐伯鋼兵(埼玉県商工会議所連合会長)
「埼玉県には入間基地などがあり、自衛隊員とも接する機会がある。平和
を祈念するだけでなく、平和を守る組織の保持が重要だ。自衛隊の活動の
幅を広げるのは非常に大事であり喫緊の課題だ。自衛隊は集団的自衛権の
行使などの任務を不安なくこなすと確信している」
◆佐伯鋼兵
「日本に被害が及ぶ恐れがある時、武力攻撃されるまで待っているのか。
日本の安全保障は尖閣、南沙諸島など未解決の事項が山積している。中国
の飛躍的な軍備増強や北朝鮮の核保有と弾道ミサイル開発も進んでいる。
国家間のパワーバランスが変化したのに、従来の自衛権では対応できない」
◆細谷雄一(慶應大学法学部教授) ※安保法制懇の委員の一人
「日本が憲法9条を掲げても、それ自体では中東の紛争を防ぐ事はできな
い。マックス・ウェーバーが心情倫理と責任倫理と言っている。政治家に
は平和を願うだけでなく安保法制を作る事が必要だ。ウェーバーは「良い
目的の達成には危険な手段も必要」とも述べている」
◆細谷雄一
「平和を孤立主義や独善ではなく国際協調主義によって導くべきというの
が憲法前文の理念だ。50年代、60年代までは国民に深く浸透していた。そ
れがいつのまにか消えてしまった。自国さえ平和であればそれでいいとい
うのが個別的自衛権。ODA支出も減ってしまった」
◆細谷雄一
「自衛隊の国際的任務の拡大は日本国憲法の理念に沿うものだ。湾岸戦争
後の掃海艇の派遣もカンボジアへの自衛隊派遣も、「平和憲法が崩れる」
と多くの人が反対したが、むしろ多くの人命を救済し、国際社会の信頼を
回復した。国際安全保障の大きな潮流である集団防衛、集団的自衛権を無
視するのはおかしい」
◆細谷雄一
「サイバー防衛やあいまいな状況への対処、ネットワークで繋がれた国際
安全保障から孤立して、日本は一国だけの安全保障で進むのか。国際社会
の中で協調行動をとるには、今回の安保法制は重要な意味を持つ」
<参考人への質疑から>
◆細谷雄一
「軍事力がない方が他国の侵略を招きにくいというのは、過去の歴史を見
る限り真実ではない。日米同盟により日本一国で過剰な防衛力を持たなく
ても済む。軍事大国化しなくて済む」
◆岩屋毅(自民)
「法案は戦争抑止法案だが、「戦争法案」と的外れな反対もある」
細谷雄一「軍事力は本来戦争させないためにある。いかに使うかでなく、
いかに戦争を起こさないかが重要。米国の戦略家であるエドワード・ルト
ワックもそう述べている。安保法制があるから想定される事態は起きない
と述べるべきだ」
◆細谷雄一
「今後70年間、新3要件に基づく集団的自衛権の行使は起きないと思う。
法案により海外派兵が増えたり、リスクが高まることはない」
◆緒方林太郎(民主)
「メリットは多く語られるがデメリットが語られない」
倉持「政府案は日本に交戦権がなく、武力行使しない前提で作られており、
捕虜についても「日の丸を付けた山賊」(参考人の意見)との声もある。
国際法上、現場でどう扱われるか、法案中の主語である「自衛官」がどう
判断するのかが不明だ」
細谷「リスクが生まれるもので、通常の法案とは違って緊張感を持ち、安
全保障に精通して議論すべきだ。人の命を預かる切実さが伝わってこない
こともある。また、軍事力による問題解決は困難であり、軍事力以外の解
決も重要だ」
◆緒方林太郎
「法案でリスクは増えるのか?」
石河秀夫「派遣場所が戦闘現場でないとの判断は困難だ。誰がどう判断す
るかも不明確。実施後にどう評価するのかも不明。現場の自衛隊員が戦闘
に巻き込まれれば、当然殺し殺されることになる。元自衛官もリスクが高
まると明確に証言している」
◆緒方林太郎
「存立危機事態は想定し難い。いきなりペルシャ湾の話になる。法制度の
作り方と事例については?」
落合「安全保障専門家の議論から始まり、憲法との関係の議論がおざなり
になっている。本来は主権者が考え決めるべきもの。憲法より安全保障を
優先するのは本末転倒。下から議論を積み上げるべきだ」
◆緒方林太郎
「世論調査でも説明が不十分との意見が多い。法案の理解が深まらない原
因は?」
倉持「法制自体がわかりにくい。特に主婦などには。説明責任は国家権力
にあるのに、政府答弁がクレーマー対処的な形式答弁を続けている」
◆太田和美(維新)
「維新の独自案の「武力攻撃危機事態」への評価は?」
石河「「明白な危険」は評価にわたるもので、明確になっていない」
落合「元の案よりは良い」
倉持「新3要件の1の肝は我が国か、他国への攻撃かだ。どちらが明確かは
判断しづらい」
細谷「政府案のように、状況に応じた柔軟性が必要だ」
◆太田和美
「独自案の第一要件への評価は?」
石河「政府案より抑制されているが、現行法でよい。対案でなく政府案反
対がわかりやすい」
落合「限定は好ましい」
倉持「他国軍への攻撃が自衛権行使の根拠となるのは問題。1項、2項と分
けるのはまずい。この要件でもどういう時に当てはまるかは不明だ」
細谷「「条約に基づき」とあり、米国以外と協力できないのは好ましくな
い。独自案を提案されたことは望ましい」
太田「独自案は合憲か?」
落合「ぎりぎり合憲の範囲に収まる可能性がある」
◆塩川鉄也(共産)
「ガイドライン改定にある、平時から利用可能な同盟調整メカニズムとは?」
細谷「イスラム国やウクライナをめぐる情勢に見られるように、平時と戦
時があいまいになっている。日米同盟も平時から公共財、安定化装置とし
て機能している。平時からの同盟調整メカニズムが重要な状況になった」
◆塩川鉄也
「C130輸送機などによる低空飛行訓練が首都圏各地で行われている。オス
プレイが配備されれば同様の懸念がある」
石河「米軍が首都圏上空の制空権持つ国がどこにあるだろうか。軍事力に
よる抑止は効果がない。米国ですら内外の自国民の安全を守れない。それ
よりも日本の方が安全だ」
◆塩川鉄也
「沖縄、米軍機による低空飛行訓練など基地問題については?」
倉持「現状は主権移譲状態だ。これ以上アメリカに付き合う必要はない。
日本は国際的な法交渉も弱い。政治が法を軽視しており、基地問題もその
延長上にある」「政府答弁は裁判長に怒られるレベル」
<記者会見>
記者「今後の採決日程は?」
江渡聡徳団長(自民党筆頭理事)
「既に80数時間審議した。中央公聴会など、今後の日程をしっかりこなし
て検討していく」
田中龍作記者「維新が対案を、また、維新と民主で領域警備法案を出すが
審議は?」
江渡「早く出していただき、丁寧に議論を進める。ただ、大きな論点は終
了した」
記者「参考人会を終えての感想を」
大串博志(民主)
「PKOや恒久法、武器等防護など議論が不十分だ。時間で判断するのでは
なく、もっと十分に審議をすべきだ」
太田和美(維新)
「独自案について政府案と同等の審議時間を確保してほしい」
濱地雅一(公明)
「今日の議論を聞いて、国民の理解が一歩進化したと思う」
塩川鉄也(共産)「あくまでこの法案は廃案にすべきだ」
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<特別版 第13号(7月3日の集中審議録はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=297
<特別版 第12号(維新独自案発表と研究会声明)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=290
<【声明】[維新独自案]法案の修正ではなく、閣議決定の見直しを>
http://www.sjmk.org/?page_id=283
<特別版 第11号(7月1日の参考人質疑・一般質疑録)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=278
<維新「独自案」に関わる3つの論点>
6月29日 川崎哲(集団的自衛権問題研究会代表)
http://www.sjmk.org/?page_id=265
<特別版 第10号(6月29日の審議録)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=275
<特別版 第9号(6月26日の審議録)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=255
<特別版 第8号(6月22日の参考人質疑録)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=251
<特別版 第7号(6月19日の審議録など)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=247
<特別版 第6号(6月15日の審議録など)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=241
<特別版 第5号(6月12日の審議録など)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=239
<2つの政府見解に関するコメント>
6月10日 川崎哲(集団的自衛権問題研究会代表)
http://www.sjmk.org/?page_id=217
<特別版 第4号(6月10日の審議録など)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=226
<特別版 第3号(政府見解等を掲載)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=207
<特別版 第2号(6月5日の審議録)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=187
<特別版 第1号(6月1日の審議録)はこちら>
http://www.sjmk.org/?page_id=136
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発行:集団的自衛権問題研究会
代表・発行人:川崎哲
News&Review特別版 編集長:杉原浩司
http://www.sjmk.org/
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◇『世界』7月号、6月号に当研究会の論考が掲載されました。
http://www.sjmk.org/?p=194
http://www.sjmk.org/?p=118
★まもなく発売される8月号にも「安全保障法制の焦点 3」が掲載され
ています。ぜひご一読ください!
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion5464:150707〕
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