地政学からみたアメリカの世界的凋落―21世紀におけるワシント ン対中国 By Alfred McCoy
- 2015年 7月 14日
- 評論・紹介・意見
- 松元保昭
米国がこの地球上で何をしているのかも知らずに、ただひたすら米国と心中することしか考えない盲目は―この盲目は民衆を舐めた低劣卑劣な誤魔化しにもあらわれているが―、ついに憲法を根底から覆そうとしている。イスラエル国の不正を隠ぺいし許容しようとしてつくられてきた「反テロ戦争」、いま世界はこの「反テロ戦争」の作り事から脱却しなければならないというのに、日本では、これを主導してきた米国への盲従と、一方では歴史的な責任を無視する裏返しでの中国敵視という盲目的国家主義 が根を張ろうとしている。
著者アルフレッド・マッコイは、世界島の中心部に位置する中国の侮りがたい基本戦略に着目し、大英帝国から相続した「封じ込め」理論をソ連崩壊後も怪しむことなく実践している米国政策立案者たちに警鐘を鳴らしている。日本の戦後もまた、アジアに背を向け続けて維新以来の欧米拝跪を怪しむことなく実践して戦略的思考のない己の盲目を病み難いものにしている。
中国、北朝鮮、韓国への敵視感情は日本の未来にとって百害あって一利なしだ。 ユーラシア東端の地政学からして、過去の責任を果たし大陸内部で進行している胎動をよく知り自立と互恵で共に歩んでこそはじめて太平洋の架け橋たりうるのではないか。
地理学、地政学が欧米の植民地主義侵略の理論的道具でありつづけたという歴史にもかかわらず、視野狭窄の日本人には地政学的な鳥瞰図が冷静さを取り戻すひとつの参考になるかもしれない。拙訳ですが紹介させていただき ます。(2015年7月12日記)
著者のアルフレッド・マッコイ(Alfred McCoy)は、1945年生まれ、イェール大学で東南アジア歴史学Ph.Dを取得、現在、米ウィスコンシン大学マディソン校歴史学主席教授で東南アジア の歴史研究が専門。『終わりなき帝国:スペインの衰退、ヨーロッパの没落、アメリカの凋落』(2012) の編集、『アメリカ帝国を見張る:合州国、フィリピン、そして監視国家の台頭』(2009) など著書多数。
※文中〔1〕~〔44〕の原注リンク先を段落ごとに示しておいた。また、「ハートランド」(中心地域= ユーラシア大陸の中軸地帯Pivot Area)、「リムランド」(周辺地 域=とくに東部ヨーロッパ)、「シーパワー」、「ランドパワー」などのマッキンダーの用語はカタカナ表記にした。また、文中[ ]は原著者のもの、 ( )は訳者の挿入である。
The Geopolitics of American Global Decline
Washington Versus China in the Twenty-First Century
Url of this article:http://www.informationclearinghouse.info/article42074.htm
地政学からみたアメリカの世界的凋落―21世紀におけるワシントン対中国
By Alfred McCoy
アルフレッド・マッコイ(松元保昭訳)
2015年6月8日
インフォメーション・クリアリング・ハウス(ICH)
トム・ディスパッチ
最強の帝国にとってさえ、地理学はときに宿命である。に もかかわらず米国政府の中ではそれを知ろうともしなかった。アメリカの政治上の国家安全保障政策や外交政策のエリート集団は、過去500年の世界帝国の運命を決定した地政学の基本を無視し続けている。その結果彼らは、 ユーラシアにおける急速な世界的転換の意味を見落としている。それは米国政府が過去70年 間追い求めた世界支配の基本戦略を衰弱させる過程でもある。
ワシントンの消息通の「分別」を一瞥するだけでも、この頃は島国根性の驚くべき狭量な世界観をあらわにしている。たとえば、「ソフト・パワー」の提唱で知られるハーバード大学の国際政治学者 ジョセフ・ナイ・ジュニアをあげてみよう。米国の軍事力、経済力、文化力は相変わらず唯一無比のままだと彼が信じる恒例の単純な一覧表を提示して、彼は世界の最高権力としてのアメリカの将来を衰退させる可能性は国内的にも世界的にもなんの説得力もなかったと最近の著書で論 じた〔1〕。
〔1〕 Is the American Century Over, 2015, by Joseph S. Nye Jr. http://www.amazon.com/dp/0745690076/ref=nosim/?tag=tomdispatch-20
中国政府の急上昇する経済力や公言される「中国の世紀」という指摘について、ナイは否定的なリストを並べてみた。つまり、中国の一人当たり所得がアメリカに「追い着く[には]何十年もかかるだろう」、(北京は)近視眼的に「何よりもまず自分の地域に政策を集中させた」、また「グローバルな軍事計画のためにはいかなる重要な能力も開発しなかった」といったものである。何よりも中国は、「アメリカに比較してアジア内部のバランス・オブ・パワーでは地政学的に不利な条件」を被っていると、ナイは主張した。
あるいは、他のいかなる大国よりも多くの同盟国、戦艦、戦闘機、ミサイル、マネー、諸特許そして大ヒット映画作品で、こうしたやり方を持ち出しては[ここでナイはワシントンの考え方のすべての世界の典型を示すのだが]、米国政府は確実に勝利するという。
ナイ教授が多くの例示で帝国を描くなら、(ウォール・ス トリート・ジャーナル誌の)批評〔3〕で啓示にほかならないと絶賛された元国務長官ヘンリー・キッシンジャーの最近の控えめなタイトルの大冊『世界秩序World Order』(2014)〔2〕は、 ニーチェの大局観を採用する。老いてはいるがまだ元気なキッシンジャーは、権力への意志をもつ偉大な指導者の方向付けに柔軟かつ高度な反応をする世界政治を描く。シャルル・タレイラン、メッテルニヒ侯爵といったすぐれたヨーロッパ外交官の伝統における尺度に従えば、セオド ア・ルーズベルト大統領は「アジア-太平洋の均衡を管理するアメリカの役割」を開始した大胆な先見性ある人物であった。他方では、ウッドロウ・ウィルソンの民族自決という理想主義的な夢は、地政学的な無能ぶりを彼に演 じさせた。またフランクリン・ルーズベルトはソビエトの独裁者ヨセフ・スターリンの鋼鉄のような「世界戦略」には盲目だった。対照的にハリー・トルーマンは「新国際秩序の具体化にアメリカを」託すため国民の優柔不断に打ち勝ち、この政策は続く12人の大統領に賢明に引き継がれた。
〔2〕World Order 2014 by Henry Kissinger http://www.amazon.com/dp/1594206147/ref=nosim/?tag=tomdispatch-20
〔3〕Book Review: ‘World Order’ by Henry Kissinger Sept. 5, 2014 By James Traub http://www.wsj.com/articles/book-review-world-order-by-henry-kissinger-1409952751
キッシンジャーは、それらの最も「勇敢な」中に「勇気、尊厳、および信念」をもつ指導者ジョージ・ブッシュがいたと強調する。シリアとイランによる彼の任務の「無慈悲な」転覆さえなかったならば、「中東最大の抑圧国家の中から複数政党制の民主主義にイラクを変化させる」という彼の断固とした努力は成功しただろうと。「政治家」または王様の大胆なヴィジョンだけが本当に重要なのだというこうした考え方の中に、地政学 はまったく場をもたない。
それはおそらく、世界帝国の地殻変動の只中でアメリカの ヘゲモニーが目に見えて崩れ落ちている瞬間に、米国政府を安堵させる観方にすぎない。
地政学的な力学にかんしては際立って鈍感なワシントンの 選ばれた予言者たちと共に、おそらく基本に立ち返るべき時である。それは欠かせない指針で在り続けている現代地政学の基本テキストに立ち 返ることを意味する。たとえそれが一世紀以上も前のあまり知られていない英国の地理学ジャーナルで発表されたものであったとしても…。
地政学を考案したハルフォード卿
1904年1月 のロンドンの寒い夕暮れ時サヴィル・ロウ街の王立地理学協会では、ロンドン大学政治経済学部(LSE)の学長ハルフォード・マッキンダー 卿(1861~1947) が「歴史の地理学的中軸“The Geographical Pivot of History”1904」〔4〕という大胆なタイトルの研究 論文で聴衆を「魅了した」。この研究発表は、当時の王立協会会長自らが「卓越した描写だ…これまでこの部屋で匹敵したことなどなかった」 と語ったことに、よく表わされていた。
〔4〕The Geographical Pivot of History (1904) H. J. Mackinder http://www.jstor.org/stable/3451460?seq=1#page_scan_tab_contents
マッキンダーは、グローバル・パワー(世界帝国)の未来は当時ほとんどの英国人が想像したようなグローバル・シーレーン(海路)の支配にあるのではなく、彼が称する「ユーロ-アジア」という広大な大陸塊を支配することにあると主張した。惑星の中心をアメリカから 遠い中央アジアに置いて地球を回転させ、ついでメルカトルの赤道投影図をほんのすこし越えて地軸を北へ傾けることによって、マッキンダー は世界地図を描き直しつまりは再概念化したのだった。
彼の新しい地図は、アフリカ、アジア、ヨーロッパを切り離された3つの大陸として示すのではなく、単一の大陸まぎれもない「世界島“world island”」として表示した。その広大で奥深い「ハートランド“heartland”(中心地域)」は―ペルシャ湾からシベリア海までの4000マイル(6400㎞)―ヨーロッパ東部のその「リムランド“rimlands”(周辺地域)」から、あるいは彼が「周縁“marginal”」と呼ぶ周囲を取り巻く海域からわずかに支配されうるにすぎないほどあまりに巨大であった。
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マップ・キャプション:マッキンダーの世界島の着想、地理学ジャーナル(1904)より
http://www.tomdispatch.com/images/managed/mackinder_natural_large.jpg
16世紀における「インド諸国に至るケープ経由の発見」は、 キリスト教世界に権力の機動性の最も広大な可能性を与え…従来その存在だけでも脅威であったユーロ-アジアのランド-パワーの周囲にキリスト教世界の影響を直接巻きつけた、とマッキンダーは書いた。「この巨大な機動性は、約4世紀ものあいだアフリカとアジアの地の 男たちを支配する優越性」をヨーロッパの海の男たちに与えた、と彼は追って説明した。
ところが、この広大な大陸塊の「ハートランド」、ペルシャ湾から中国の揚子江に広がる「中軸地帯“pivot area”」は、未来の世界帝国のアルキメデスの梃子以外の何物でもないものとして残されていた。「ハートランドを支配するものが世界島を制す」という言葉がマッキンダーの後の 見解の要約で広まった。「世界島を支配するも のが世界を制す」。地球の大陸全体のほぼ60%を占めている世界島という広大な大 陸塊の向こうには、いささか遠くの「より小さな島“smaller islands”」とさらに広大な海洋に覆われたそれほど重要でない半球がある。もちろん彼はオーストラリアと南北アメリカ大陸を意味していた。
初期の世代にとって、スエズ運河の開通と蒸気船の出現は なによりも「ランドパワーに[比較して]シー パワーの機動性の増大」であった。だが、未来の鉄道は「大草原に素晴らしい眺めをもたらす」にちがいないとマッキンダーは主張した。海上輸送コストを切り詰めて地政学パワーの場を内陸に移動させ、機が熟すと、ドイツのような別の大国と提携してロシアという「中軸国家“pivot state”」は、「艦隊建造のための巨大な大陸資源の利用」が許され 「ユーロ-アジアの周縁地帯全体に」拡大するかもしれない。「そして世界の帝国が間近に見えるだろう」。
つぎの2時間、彼が絡み合う構文とオックスフォードの元教師に求められた古典の引用をともなう分厚いテクストのあれこれを読んだとき、聴衆は途方もない何かに同席していることを理解した。幾人かがさらに引き続きの解説を求めてそこに残った。たとえば、オックスフォードで初の軍事史教授に就任した当時有名な軍事アナリストのスペンサー・ウィルキンソンは、「大陸全域にまたがる(ロシアの)分割された軍事力のバランス」を現状維持させる歴史的な役割を英国と日本の海軍力が引き継ぐことになると強調して、「ロシアの近代の膨張」という主張については彼自身 納得していないと発言した。
「移動の手段として空」をも含む他方の事実ないしは要素 をもっと熟考したい学識ある聴き手に押されて、マッキンダーは返答した。「私の目的は、あれこれの国の素晴らしい将来を予測することでは ない。そうではなく、どんな政治的バランスにも当てはまる地理学的な処方箋をつくることにある。」マッキンダーは特定の出来事ではなく地 理学と世界帝国とのあいだの因果関係を示す一般理論に及んでいた。「世界の将来」は、大英帝国ないし大日本帝国の近海周縁での軍事行動のようなシー・パワーと、彼らが封じ込めに専念していたユーロ-アジアのハートランド内部の「膨張する域内軍事力」とのあいだの「バランス・オブ・パワーの維持管理に依存する」と彼は強調した。
マッキンダーはその後の数十年、大英帝国の外交政策に影 響を及ぼす世界観を表明しただけでなく、彼はその瞬間に―特定の状況下においていかなる地理学の研究がすべての国家、民族、そして帝国の 運命を方向付けることができるか―という「地政学」の近代科学を創設したのであった〔5〕。
〔5〕Halford Mackinder and the ‘Geographical Pivot of History’: A Centennial Retrospective Klaus Dodds and James D. Sidaway The Geographical Journal http://www.jstor.org/stable/3451459?seq=1#page_scan_tab_contents
ロンドンのその夜は、もちろんひと昔以上のことだった。 それは別の時代のことだった。イギリスはまだヴィクトリア女王の死を悼んでいた。テディ(セオドア)・ルーズベルトが米国大統領であった。ちょうどヘンリー・フォードが最高時速28マイル(45㎞)の自動車モデルAを製造する小さな自動車工場をデトロイトに開業したころだった。 ほんのひと月前には、ライト兄弟の「飛行機」が初めて空中をきっかり120フィー ト(36,5メートル)飛び立った。
しかし、次の110年の間、―2度の世界大戦、冷戦、アメリカのアジアにおける戦争[朝鮮戦争とベトナム戦争]、2度のペルシャ湾岸戦争、そしてさらにアフガニスタンの終わりのない鎮圧―という世界の重大な紛争を引き起こしてきたしばしば不可解な地政学を理解するときに、ハルフォード・マッキンダー卿の言葉は並外れて正確なプリズムを提供することになる。したがって今日の問いは、ハルフォード卿は過去の世紀だけでなく来たる半世紀もわれわれの理解をいかに手助けできるのか?ということである。
海を支配するブリタニア
1602年から1922年 のワシントン軍縮会議まで―ちょうど400年にわたって続いたシーパワーの時代で は、諸列強はロンドンから東京まで15000マイル(24000㎞)に及ぶ周辺のシーレーンによるユーラシア世界島支配のために競い合った。列 強の手段は、もちろん船―最初に軍艦、次いで戦艦、潜水艦、そして航空母艦であった。食料供給部隊が満州やフランスの泥沼で無益な犠牲者 を生み出す戦いに苦戦する一方で、帝国海軍はすべての沿岸と大陸支配の海上機動作戦に水を切って進んだ。
1900年頃の帝国権力の絶頂期には、大英帝国は主力艦300隻の艦隊、30か所の海軍要塞、スカパーフロー(スコットランド北岸沖)の北大西洋からマルタ島とスエズ運河の地中海を経由してボンベイ、シンガポール、香港に至る 世界島を取り巻く多数の軍事基地で海を支配した。まさにローマ帝国がそこを「われらが海」[Mare Nostrum]にして地中海を囲んだように、大英帝国権力はインドの北西 辺境州(パキスタン北部とアフガニスタン)では陸軍部隊がその脇腹を確保しインド洋を自分たちの「囲われた海」にした。そしてペルシャ(イラン)とオスマントルコ両帝国のペルシャ湾における海軍基地建設を妨げたのだった。
その作戦行動で、大英帝国はマッキンダーが「ヨーロッパ からインドへの回廊」および世界島の「ハートランド」への出入り口と称していたアラビアとメソポタミアの(現在のアラビア半島から歴史的 なイラク、大シリアを含む)戦略的地域に対する支配を手に入れた。この地政学的展望からすると、19世 紀は根底では「ほとんどハートランド全体を見渡し…インド諸国の陸の門を叩く」ロシア帝国と「北西辺境州からの脅威に立ち向かうためイン ドの海の門から内陸に進む」大英帝国との間の、ときに「グレイト・ゲーム」と呼ばれる戦略的競争であった。言い換えれば、現代の「最終的 な地政学的現実」は、シーパワー(海軍力)対ランドパワー(地上兵力)あるいは「世界島とハートランド」であった、とマッキンダーは結論付けた。
激しい競争は、初めにイギリスとフランスの間で、ついで イギリスとドイツの間で、シーパワーの費用をもはや維持できないレベルにまで増大させヨーロッパの絶え間のない建艦競争を駆り立てた。1805年には、オーク材で覆われた重さ3500トンのネルソン提督の旗艦HMS(英国軍艦)ヴィクトリーは、9ノット(時速約17㎞)でナポレオン海軍に対抗しトラファルガーの戦いで堂々と帆走した。この旗艦に備えられた無線条の100インチ(約25㎝) カノン砲から発射する42ポンド(約2㎏)の弾丸は、たかだか400ヤード(約360m)未満の 射程距離であった。
ちょうど一世紀後の1906年には、大英帝国は世界初の近代戦艦HMSドレッドノートを進水させた。その分厚い鋼鉄の船体重量20000トン、速度21ノット(時速38,9㎞)が出せる蒸気タービン、その機甲化された12インチ砲から高速発射される850ポンド(約38㎏)の弾丸は12マイル(約19㎞)まで砲撃で きる。このリバイアサン(巨艦)の費用は、今日のほぼ3億ドルに匹敵する180万ポンドだった。10年以内 には、これらのひたすらむだ遣いの高価な戦艦で全艦隊を装備するために半ダースもの列国が国庫を空にしてしまった。
世界が到達した技術的優位の組み合わせと米国および日本との海軍同盟を尻目に、パックス・ブリターニカは1815年から1914年までまる一世紀を持ち応えた。しかしながら、結局、この世界システムは、加速する海軍軍拡競争、列強相互のいつ爆発するか知れない外交、海外植民地帝国のための激しい競争によって特徴づけられていた。そして1918年までには1600万人の 死者を残した第一次世界大戦の愚かな大殺戮でこのシステムは破綻した。
マッキンダーの世紀
著名な帝国の歴史家ポール・ケネディがかつて「20世紀の残りはマッキンダーの命題を証明した」と見抜いた〔6〕ように、2度の世界大戦は東 ヨーロッパから中東を経て東アジアに及ぶマッキンダー言うところの「リムランド(周辺地域)」をめぐる戦いであった。第一次世界大戦は、 じつにマッキンダー自身が後に認めたように、「ランドパワーとシーパワーとの直接対決」であった。1918年 の戦争終結で、シーパワー―イギリス、アメリカ、日本―はロシア革命をその「ハートランド」内部に封じ込めるためアルハンゲリスク(ロシア北西部ドビナ川沿いの港町)、黒海、さらにシベリアに海軍遠征隊を派遣した。(日本ではいわゆるシベリア出兵)
〔6〕The pivot of history 19 June 2004 Paul Kennedy http://www.theguardian.com/world/2004/jun/19/usa.comment
※ポール・マイケル・ケネディ(Paul Michael Kennedy, 1945年 – )は、英国の歴史学者。イェール大学歴史学部教授・同大学国際安全保障研究所所長。専門は 軍事史、外交史。=訳者
ドイツの地政学的な思考の上にマッキンダーの影響が反映した。アドルフ・ヒトラーは彼が言うところの「支配民族」のためにレーベンスラウムまたは生存圏として、ロシアのハートランドを奪うという無謀な努力で彼の帝国(ライッヒ)を危機に陥れた。ハルフォード卿の仕事はドイツ「地政学時報Zeitschrift für Geopolitik」誌の創設者でありレーベンスラウム概念の提案者、またアドルフ・ヒトラーと彼の副 総統〔7〕ルドルフ・ヘスのアドヴァイザーでもあるドイツの地理学者カール・ハウスホッファーの着想を方向付けた。1942年に総統はスターリングラードからヴォルガ川を突破するために100万の兵士、1万の砲兵隊、500輌の戦車を派遣した。結局彼の部隊は世界島の中軸地帯のヨーロッパ東部リムランドを打ち破るという無益な企てで負傷者、死者および捕虜が85万人にも及ぶ大被害を被った。
〔7〕Deputy Führer From Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Deputy_F%C3%BChrer
マッキンダーの独創的な論文の一世紀後、もう一人の英国の学者、帝国の歴史家ジョン・ダーウィンは、その権威ある概観『ティムール後―世界帝国の興亡』(2009) 〔8〕で、「ユーラシア[マッ キンダーの「ユーロ-アジア」の彼の表現]の 両端で」戦略的に軸となる要衝を抑えて歴史的には第一の大国となって、アメリカ合州国は第二次世界大戦のすぐ後に引き続き「空前のスケー ルで…巨大帝国」に達したと論じた。「協同の触媒」の効き目で膨張する中国とロシアの脅威にともない、合州国は西欧と日本の双方で帝国の 橋頭保を確保した。頼みの綱としてのこれら軸となる要衝とともに、つぎに米国政府は大英帝国の海の枠組みを引き継いで軍事基地の弧を築いた。それは明らかに世界島の包囲を意味した。
〔8〕After Tamerlane: The Rise and Fall of Global Empires, 1400-2000, August 18, 2009, by John Darwin http://www.amazon.com/dp/1596916028/ref=nosim/?tag=tomdispatch-20
アメリカの中軸地政学
1945年にナチス・ドイツと大日本帝国から世界島の軸となる先 端部を奪取したので、つぎの70年間、アメリカ合州国はユーラシア・ハートランド の腹部となる中国とロシアを封じ込めるため絶えず軍事力の幾層もの積み重ねに依存してきた。そのイデオロギーの装いを取り去った冷戦時代 の反共「封じ込め」という米国政府の基本戦略は、帝国の相続過程にすぎなかった。空洞化した大英帝国は、海の「周縁」の両サイドにまたがって取って代えられたが、戦略の実体は相変わらず本質的に同じものであった。
第二次世界大戦終結の2年前、すなわち1943年に、年老いたマッキンダーは影響力の大きい米国誌フォーリン・アフェアーズに彼の最後の論文『丸い世界と平和の勝利』を発表した〔9〕。彼はその中で、地球上の覇権の空前のバージョンを求めるアメリカ人の「基本戦略」に対する野心は、彼らの「グローバルな空軍力の夢」をもってすら、地政学の基盤を変えることにはならないだろうと思い起こさせた。「もしソ連がこの戦争からドイツの征服者として立ち現れるなら、その国は地球上最大規模の自然要塞を支配する世界最強のランドパワーと位置づけられねばならない」と彼は警告した。
〔9〕Halford Mackinder’s Last View of the Round World, By Francis P. Sempa, March 23, 2015 http://thediplomat.com/2015/03/halford-mackinders-last-view-of-the-round-world/
戦後の新しいパックス・アメリカーナを確立するという話 になれば、何と言ってもソビエト地上軍封じ込めの拠り所は米国海軍である。大英帝国海軍に取って代わるその艦隊は、補強されユーラシア大 陸を包囲することになるだろう。第6艦隊は大西洋と地中海を統御するため1946年にナポリを拠点とした。第7艦 隊は西太平洋のため1947年にフィリピンのスービック湾に拠点を置き、また1995年からは第5艦隊がペルシャ湾バーレーンに拠点を置いた。
つぎにアメリカ外交は、包囲する幾層もの軍事同盟をこれに加えた。―北大西洋条約機構(1949年)、中東条約機構(1955年)、東南アジア条約機構(1954年)、 そして日米安保条約(1951年)である。
また1955年 までに米国が確保した36か国にある450もの軍事基地のグローバル・ネットワークのその大部分は鉄のカーテンの背後にある中国-ソ ビエトブロック封じ込めに向けられていたが、それはユーラシア大陸を取り巻くマッキンダーの「リムランド」と驚くほど一致していた。1990年の冷戦終結までには、共産主義の中国とロシアの包囲には、700の海外軍事基地、1763機 のジェット戦闘機をもつ空軍、大量の核兵器、1000発以上の弾道ミサイル、さら に15の原子力空母艦隊を含む600隻 もの海軍を要した。―そのすべてが世界唯一の地球通信衛星システムで繋がっていた。
世界島を取り巻く米国政府の戦略的防衛線の要衝として、ペルシャ湾地域はほぼ40年のあいだ、公然非公然のアメリカが不断に介入する作戦 位置にあった。1979年のイラン革命は、湾岸周辺の米帝国の弧における中軸国の 喪失また地域におけるそのプレゼンスの再建努力の撤退を意味した。そのためには、革命イランに敵対する戦争でサダム・フセインのイラクを 支援し、かつ同時にアフガニスタンのソビエト占領に敵対するもっとも過激なアフガニスタンのムジャヒディーンを武装させることであった。
ジミー・カーター大統領の国家安全保障補佐官ズビグネ フ・ブレジンスキーが、今日でさえ依然理解されていない真の地政学的機敏さでソビエト連邦敗北のための戦略をけしかけたのは、このコンテキストにおいてであった。1979年に、母国ポーランドの大陸上にある地政学的現実に独自に通じていた没落貴族ブレジンスキーは、1980年代後半には年間5億ドルに達する大規模な資金提供でカーターにサイクロン作戦(アフガニスタンのムジャヒ ディーンに武器・資金提供をしたCIAの作戦コードネーム)〔10〕の開始に確信を与えさせた。その目標はソビエト連邦の軟弱な中央アジア下腹部を攻撃するイスラム戦士を動員すること、そしてソビエト・ハートランドの奥深くに過激イスラムの楔を打ち込むことであった。それは同時にアフガニスタンにいる赤軍に自信喪失の敗北を与えることであり、モスクワの影響範囲からヨーロッパ東部の「リムランド」を切り離すことであった。大作戦(グレイト・ゲーム)の冷戦版における地政学的な彼の巧妙な手腕を説明する中でブレジンスキーは、「われわれは[アフガニスタンへの]ロシアの介入を強要しなかった。」…「しかし、われわれは彼らがそうするだろうという見込みを知っていてわざと(資金と武器援助を)増大させていった…その秘密作戦は非常に秀れたアイデアであって、その効果はロシア人をアフガニスタンの罠(落とし穴)に引き込むことだった。」と1998年に語った〔11〕。
〔10〕Terror ‘blowback’ burns CIA 01 November 1998 Andrew Marshall http://www.independent.co.uk/news/terror-blowback-burns-cia-1182087.html
〔11〕The CIA’s Intervention in Afghanistan, Interview with Zbigniew Brzezinski, January 1998 http://www.globalresearch.ca/articles/BRZ110A.html
米国に敵対意識を持つイスラム戦士をつくったという話になってこの作戦の残したものについて問われると、マッキンダーをたびたび引き合いに出しては研究してきたブレジンスキーは、冷淡にも非を認めなかった。「世界の歴史にとって何がもっとも重要なのか?」、「タリバンか、ソビエト帝国の崩壊か? 一部の騒ぎを起こしたムスリム か、または中央ヨーロッパの解放か、冷戦の終結か?」と彼は聞き返した。
しかし、ソビエト連邦の内部崩壊とともに冷戦におけるア メリカの見事な勝利でさえ、世界島の地政学的な原則を変質させはしないだろう。1989年 にベルリンの壁が崩壊した後、その結果を受けてサダム・フセインのクェート占領を口実として利用した。新時代における米国政府の最初の外 国侵犯はペルシャ湾でその支配的立場を再建する試みを意味した。
2003年、米国がイラクに侵略したとき、帝国の歴史家ポール・ ケネディは、説明のつかないこの不幸な出来事を説明するために〔12〕マッキンダーの一世紀前の論文に舞い戻った。「たった今、何十万もの米軍がユーラシアのリムランドにいるが」、「米国政府は『歴史の地理学上の中軸』支配を確保するためにマッキンダーの指示を真剣に受け止めているように見える。」とケネディはガーディアン誌(2004年6月19日)に書いた。もしわれわれがこの見解を幅広く解釈するなら、アフガニスタンとイラクを横断する米軍基地の急激な増加は、あのインド北西辺境州に沿ったかつての大英帝国の植民地砦と同質の、中核的要衝に対するユーラシア・ ハートランドの辺縁でのもう一方の帝国の拍車(振る舞い)と考えるべきである。
〔12〕The pivot of history 19 June 2004 Paul Kennedy http://www.theguardian.com/world/2004/jun/19/usa.comment
引き続く年に、米国政府は無駄な地上軍の一部を空中無人機に切り替えようとした。2011年までに、米空軍とCIAは無人機の編成部隊を擁した60か所の軍事基地でユーラシア大陸を取り囲んだ〔13〕。それまでには、対戦車用空対地ヘルファイアー・ミサイルとGBU-30レーザー誘導爆弾を装備したその便利な死神は、それらの軍事基地からアフリカとアジ アのどこの目標でも叩くことができる1150マイル(1840㎞)の範囲〔14〕をカ バーしていた。
〔13〕Tomgram: Nick Turse, Mapping America’s Shadowy Drone Wars, October 16, 2011. by Nick Turse http://www.tomdispatch.com/blog/175454/tomgram:_nick_turse,_mapping_america%27s_shadowy_drone_wars
〔14〕Tomgram: Nick Turse, Drone Disasters January 15, 2012, by Nick Turse http://www.tomdispatch.com/archive/175489/
意義深いことに、無人機の基地が、現在、世界島を取り巻く沿岸沿いに点在する。―シチリアのシゴネラからトルコ〔15〕のインジルリクまで/紅海に面したジブチ/ペルシャ湾のカタールとアブダビ/インド洋のセーシェル/アフガニスタン〔16〕のジャララバード、ホースト、カンダハール、およびヘラート州シーンダンド/太平洋 ではフィリピンのザンボアンガおよびグアム島〔17〕のアンダーソン空軍基地など ほかの場所にもある。この広範囲にわたる周辺パトロールのため、半径100マイル (160㎞)全環境監視能力を持つ高解像度カメラ、あらゆる通信を傍受できるエレ クトロニクスを駆使した電子感知器、また35時間航続可能な〔19〕高効率エンジン等で装備し〔18〕、8700マイル(14000㎞)の 範囲を99グローバル・ホーク無人偵察機の編成部隊で強化するために米国防総省は100億ドルを費やしている。
〔15〕U.S. military drone surveillance is expanding to hot spots beyond declared combat zones By Craig Whitlock July 20, 2013 https://www.washingtonpost.com/world/national-security/us-military-drone-surveillance-is-expanding-to-hot-spots-beyond-declared-combat-zones/2013/07/20/0a57fbda-ef1c-11e2-8163-2c7021381a75_story.html
〔16〕Where the Drones Are | Foreign Policy By Micah Zenko, Emma Welch, May 29, 2012 http://foreignpolicy.com/2012/05/29/where-the-drones-are/
〔17〕New drone to be deployed to Guam, 6 March 2015, by Gaynor Dumat-ol Dalenohttp://www.suasnews.com/2015/03/34634/new-drone-to-be-deployed-to-guam/
〔18〕Why The USAF’s Massive $10 Billion Global Hawk UAV Is Worth The Money, Tyler Rogoway 9/09/14 http://foxtrotalpha.jalopnik.com/why-the-usafs-massive-10-billion-global-hawk-uav-was-w-1629932000
〔19〕Northrop Grumman’s Global Hawk Unmanned Aircraft Sets 33-Hour Flight Endurance Record by Staff Writers, Mar 31, 2008 http://www.spacewar.com/reports/Northrop_Grumman_Global_Hawk_Unmanned_Aircraft_Sets_33_Hour_Flight_Endurance_Record_999.html
※2014年には米軍三沢基地に無人偵察機グローバルホークが配備された。沖縄嘉手納基地には2017年配備予定。 無人オスプレイも開発中とあり、自衛隊も無人偵察機の導入を予定している。=訳者
中国の戦略
言い換えれば、米国政府の動き方は、たとえ想像を絶する スケールであっても何か古いものを象徴している。一世紀前には考えられない世界で最も強大な経済大国としての中国の台頭は、過去400年のあいだ世界帝国を形づくってきたまさに海の地政学をひっくりかえす恐れをもって 新しい何かを象徴している。大英帝国のように海洋を支配する海軍またはアメリカ帝国のようにグローバルな宇宙編成部隊を構築することに一 途に焦点を合わせる代わりに、中国は世界帝国の地政学的土台を完全に作り変えようという試みでは世界島の奥深くに達している。これまでのところ、米国政府の政策集団とは遠く無縁であった手の込んだ戦略を使っている。
何十年もの沈黙の準備の後、最近、慎重なうえにも慎重に、中国政府は世界帝国へのその基本戦略を明らかにし始めた。その二段階プランは、米国政府の孤立化させる封じ込め政策によって外科的に 断片化された軍隊を集結させる一方で、その内側から世界島の経済統合に向けて大陸横断の基盤整備の建設が計画されている。
最初の段階は、大陸の経済統合のために息を呑むような基盤整備プロジェクトの配置に取りかかった。精巧かつ法外な費用の高速-大量輸送の 長距離鉄道のネットワーク、ならびにユーラシアの広大な領域をまたぐ石油・天然ガス用パイプラインの敷設によって、中国は新たな方法で マッキンダーのヴィジョンを実現するかもしれない。その歴史の初期段階から、決定的に重要な貨物―石油、鉱産物、工業製品―を高速で大陸 を横断する移動が巨大な規模で可能となるだろう。それによって、広大な大陸塊を上海からマドリッドまで6500マイル(10400㎞)に 伸びる単一の経済領域へと潜在的に一体化することになろう。こうした仕方で、中国指導部は海の周辺から離れ大陸のハートランドの奥深くへ と地政学パワーの中心を変えることを期待している。
モスクワからウラジオストックに向かう5700マイル(9120㎞)の大 陸を横断して達した世界最長のシベリア横断鉄道の「不安定な」単線軌道のような1904年の昔に、「現在、大陸-横断鉄道はランドパワーの条件を変質させている」とマッキンダーは書いた。「しかしすべてのアジアに鉄道が敷設されるより前に、世紀が古くなることはないだろう」と彼は付け加えている。「ロシア 帝国とモンゴルの内側の大地はあまりに広大で―燃料、金属など測りがたいほど重要なもの―を中に秘めており、この巨大な経済世界の可能性 は遅かれ早かれ海洋交易には近づきにくいところを開発するようになるだろう。」
マッキンダーの予言は少し早すぎた。1917年のロシア革命、1949年の中国革命、続く40年の冷戦は、何十年ものあいだ、いかなる実際の開発も緩慢で しかなかった。こうしてユーロ-アジアの「ハートランド」は経済の成長や統合が与えられることはなかった。ある程度は鉄のカーテンと中ソ対立という人為的なイデオロギーの障害のお陰であるが、巨大なユーラシア大陸を橋渡しするどんなインフラ建設も行き詰まってしまった。もはや仕方がない。
冷戦終結のほんの数年後には、共和党と民主党の政策集団の中でも世界の観方にかんしては逆思考で鋭い批評眼をもつ元国家安全保障担当補佐官のブレジンスキーが、米国政府の地政学上不適切なやり方について警鐘を鳴らし始めた〔20〕。本質的にはマッキンダーを敷衍しながら1998年に彼は書いた。「ほぼ500年前、大陸が政治的に相互作用を始めて以来、ユーラシアは世界帝国の中心となった。『ユーラシア』を支配する帝国は、西半球とオセアニアを 地政学的に世界の中心大陸から周縁に追いやって…世界の最も進歩した経済的な生産性の高度な地域の3つ のうちの2つを制御することになろう。」
〔20〕The Grand Chessboard: American Primacy and its Geostrategic Imperatives, (BasicBooks, 1997) http://www.takeoverworld.info/Grand_Chessboard.pdf
このような地政学的ロジックはワシントンには理解できな かったが、それはむしろ北京で首尾よく理解された。じっさい、この10年のうちに、中国は1950年代にさかのぼる米国政府が始めた米州間ハイウェイ・システム 以来の総計で、すでに1兆ドルの世界最大規模のインフラ投資の炸裂を開始した。敷設されたレールとパイプラインのその数は、気が遠くなるほどである。2007年と2014年の間に、中国は世界の他の国々を組み合わせた以上の規模で最新高速鉄道9000マイル(14400㎞)でその地方を縦横に交差させた〔21〕。現在、このシステムは毎日250万人の乗客を最高時速380㎞ 〔23〕で輸送している〔22〕。 このシステムが2030年に完成する〔24〕 までには、結局、3000億ドルの費用で中国の主要都市すべてを結ぶ16000マイル(25600㎞)の高速鉄道をもつということになる。
〔21〕China boasts world’s largest highspeed railway network English.news.cn | 2015-01-30 http://news.xinhuanet.com/english/photo/2015-01/30/c_133959250.htm
〔22〕Chinese High-Speed: An Evaluation of Traffic, International Railway Journal, February 1, 2015 http://www.highbeam.com/doc/1G1-402875735.html
〔23〕China’s fastest high speed train 380A rolls off production line, English.news.cn 2010-05-27 http://news.xinhuanet.com/english2010/sci/2010-05/27/c_13319787.htm
〔24〕China High-Speed Rail Juggernaut, while Most of US Stands By and Waves — But Not Elon Musk (Part 1) 7/17/2014 Sarwant Singh http://www.forbes.com/sites/sarwantsingh/2014/07/17/china-high-speed-rail-juggernaut-while-most-of-us-stands-by-and-waves-but-not-elon-musk-part-1/
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マップ・キャプション:世界島を統合する中国-中央アジアの基盤整備
http://www.tomdispatch.com/images/managed/china_central_asia_infrastructure_large.jpg
同時に、中国指導部は、国の国民用鉄道ネットワークを大陸横断交通網の中に統合するために大規模プロジェクトに関係する周辺国家と協力し始めた。2008年 に始まった「ユーラシア大陸横断架橋“Eurasian Land Bridge.”」の開始に当たってドイツとロシアは中国と合流した。北にある旧シベリア横断鉄道とカザフスタンを通る古代シルクロードに沿った新しい南ルートの二つの東西ルートはユーラシアのすべてを相互に結びつけることが目的だ。より迅速な南ルートでは、コンピュータ、自動車部品など高価な工業製品コンテナが、ドイツのライプツィヒからチョンチン(重慶)まで6700マイル(10720㎞)の 旅を始めた〔25〕。現在の船便では、こうした製品には35日を要するがそのおよそ半分のちょうど20日 で〔26〕着くことになる。
〔25〕Page not found
〔26〕Hauling New Treasure Along the Silk Road, By KEITH BRADSHER July 20, 2013 http://www.nytimes.com/2013/07/21/business/global/hauling-new-treasure-along-the-silk-road.html?_r=0
2013年には、ドイツ鉄道AGが、運行時間がちょうど15日を切るというハンブルグ-チョンチョウ(鄭州)間の第三のルートを準備し始めた〔27〕。一方、同じ時間でチョンチン(重慶)-デュースブルクを結ぶカザフ鉄道も開通した 〔28〕。2014年10月には、中国は2300億ドルの費用で世界最長の高速鉄道路線の建設計画〔29〕を発表した。計画によると、列車は北京-モスクワ間4300マイル(6880㎞) をたった2日で横断することになる。
〔27〕China to Germany freight train makes maiden journey http://allportcargoservices.com/retailnews/allport-knowledge/regulatory-news/china-to-germany-freight-train-makes-maiden-journey/801621580
〔28〕Kazakhs launch ‘Silk Road’ China-Europe rail route By Raushan Nurshayeva Jun 10, 2013 http://www.reuters.com/article/2013/06/10/us-kazakhstan-railway-idUSBRE9590GH20130610
〔29〕Russia And China Want To Build The Longest High-Speed Railway In The World To Connect Them Oct. 17, 2014, http://www.businessinsider.com/afp-china-russia-mull-high-speed-moscow-beijing-rail-line-report-2014-10
付け加えれば、中国は東西および当然また世界島の南の海の「周縁」に向かって走る2つの支線を建設している。この4月には、習近平首相は460億ド ルの予算で中国-パキスタン経済回廊というパキスタンとの協定に調印した〔30〕。高速道路と連結した鉄道またパイプラインは、中国の最西端地方、新疆ウィグル自治 区のカシュガルから2007年にさかのぼって開設されたパキスタン南西部の共有港 湾施設グワダルまで、ほぼ2000マイル(3200㎞)に伸びるだろう。中国は、ペルシャ湾からちょうど370マイル(592㎞)、アラビア海に面したグワダルでこの戦略上重要な港湾建設に2000億ドル以上を投資した〔31〕。 中国はまた、初期経費62億ドルでラオスを通って東南アジアに入る鉄道路線の延長 〔32〕を開始した。結局、高速鉄道路線は雲南省クンミン(昆明)からシンガポールまでをわずか10時間の旅で乗客と商品を運ぶことになっている。
〔30〕China’s Xi Jinping agrees $46bn superhighway to Pakistan 20 April 2015 BBC NEWS http://www.bbc.com/news/world-asia-32377088
〔31〕Gwadar Port inaugurated: Plan for second port in Balochistan at Sonmiani Mar 21, 2007 Saleem Shahid http://www.dawn.com/news/238494/gwadar-port-inaugurated-plan-for-second-port-in-balochistan-at-sonmiani
〔32〕China coming down the tracks Jan 20th 2011 | BANGKOK | From the print edition http://www.economist.com/node/17965601?story_id=17965601
この同じ激動する10年 内に、中国はユーラシアの―北部、中央部、東南部の―すべての人口集中地域から燃料を運び入れる天然ガスと石油の大陸横断パイプラインの広範なネットワークを構築した。この構築の10年後、2009年には、中国国営石油公社(CNPC)がカザフスタン-中国石油パイプラインの最終段階に着手した〔33〕。 これはカスピ海から1400マイル(2240㎞) で新疆に伸びている。
〔33〕CNPC announces Kenkiyak-Kumkol section of Kazakhstan-China Oil Pipeline becomes operational Jul 15, 2009 http://www.youroilandgasnews.com/cnpc+announces+kenkiyak-kumkol+section+of+kazakhstan-china+oil+pipeline+becomes+operational_35798.html
同時に、CNPCは中央アジア-中国のガス・パイプラインを開設する〔34〕 ためにトルクメニスタンと協力した。1200マイル(1920㎞)の大部分はカザフスタン-中国石油パイプラインと並行して走るこのパイプラインは地域の天然ガスを最初に中国に届けることになっている。米国海軍に支配されたマラッカ海峡を迂回するために、2013年、CNPCは中東の石油とビルマの天然ガスの両方を運ぶためにベンガル湾から遠く離れた中国の南西地域まで1500マイル(2400㎞)の中国-ミャンマーパ イプラインを開設した〔35〕。2014年5月、中国公社はシベリアを横断して満州に達する2018年 に完成予定の北方ネットワーク経由のパイプラインで年間380億立方メートルの天然ガスを輸送するためロシアの民営化した巨大エネルギー企業ガスプロムとの30年 の取引を4000億ドルで調印した〔36〕。
〔34〕UPDATE 3-China’s Hu boosts energy ties with Central Asia Dec 12, 2009 LEUTERS http://uk.reuters.com/article/2009/12/12/china-kazakhstan-idUKGEE5BB01D20091212?sp=true
〔35〕With Oil And Gas Pipelines, China Takes A Shortcut Through Myanmar, 2/09/2015 ERIC MEYER http://www.forbes.com/sites/ericrmeyer/2015/02/09/oil-and-gas-china-takes-a-shortcut/
〔36〕Russia signs 30-year gas deal with China 21 May 2014 BBC NEWS http://www.bbc.com/news/business-27503017
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マップ・キャプション:マラッカ海峡の米国海軍を避ける中国-マンミャー石油パイプライン
http://www.tomdispatch.com/images/managed/myanmar_v5_large.jpg
大規模だがこれらのプロジェクトは、中央アジアを横断し イラン、パキスタンに入る石油とガスの供給ラインをあやとりのような形に編み込んだ、過去5年間にわたって進行中の建設ラッシュのほんの一部である。その結果は、ロシア自身の巨大なパイプライン・ネットワークを含んで大西洋から南シナ海までユーラシア全体に横断して広がる統合された内陸のエネルギー基盤施設となるだろう。
このような膨大な地域成長プランに投資するため、2014年10月に、中国政府はアジア・インフラ投資銀行の創設を発表した。中国指導部はこの機構を将来の地域的またゆくゆくは、米国支配の世界銀行に代わるユーラシアの 機構と考えている。今のところ、参加しない米国政府の圧力にもかかわらず、米国に親密なドイツ、英国、オーストラリア、および韓国を含む 主要14か国が署名した〔37〕。 同時に、中国は世界島を経済的に統合する計画の一部としてアフリカの豊かな資源地帯ならびにオーストラリアと東南アジアとの長期の通商関 係を築き始めた。
〔37〕Stampede to Join China’s Development Bank Stuns Even Its Founder By JANE PERLEZAPRIL 2, 2015 http://www.nytimes.com/2015/04/03/world/asia/china-asian-infrastructure-investment-bank.html?_r=0
最後に、中国政府は米国政府が大陸周縁部一帯に配備した 軍事力を無力化するために巧みに設計された戦略をつい最近明らかにした。この4月 には、習近平首相は、豊富なエネルギー資源をもつアラビア海における将来の海軍配備〔38〕への後方支援体制を創るため、中国西部からパキスタンの新港グワダルへ直接伸びる大規模な 道路-鉄道-パイプライン 回廊の建設を発表した。
〔38〕PLAN to deploy range of warships in Indian Ocean, says China’s defence ministry, Ridzwan Rahmat, 29 January 2015 http://www.janes.com/article/48464/plan-to-deploy-range-of-warships-in-indian-ocean-says-china-s-defence-ministry
5月には、中国政府は南シナ海の排他的に統制する要求を段 階的にエスカレートさせた。地域初の原子力潜水艦の兵站基地となる海南島のロンポ海軍基地を拡張させ〔39〕、反対されたスプラトリー諸島(南沙諸島)の軍用飛行場になる予定で3つの新たな環 礁をつくる浚渫〔40〕を加速させ、また米国海軍の領空侵犯を公式に警告〔41〕して排除した。南シナ海とアラビア海の軍事基地の基盤施設を築くことによって、中国 政府は米国の軍事的封じ込め政策を精密照準の命中度で外科的・戦略的に弱体化させるため、将来的能力は一歩先んじている。
〔39〕China SSBN Fleet Getting Ready – But For What? Apr.25, 2014 by Hans M. Kristensen http://fas.org/blogs/security/2014/04/chinassbnfleet/
〔40〕Piling Sand in a Disputed Sea, China Literally Gains Ground, By DAVID E. SANGER and RICK GLADSTONE APRIL 8, 2015 http://www.nytimes.com/2015/04/09/world/asia/new-images-show-china-literally-gaining-ground-in-south-china-sea.html?_r=0
〔41〕Exclusive: China warns U.S. surveillance plane By Jim Sciutto, May 27, 2015 http://edition.cnn.com/2015/05/20/politics/south-china-sea-navy-flight/
同時に、中国政府は米国政府の宇宙およびサイバースペー ス支配に挑戦するプランを開発中である。たとえば、米国が1967年にさかのぼる その26の防衛通信衛星システムを開始して〔43〕以来初めて米国政府の宇宙支配に挑戦を示して、2020年までには自国の地球衛星システムを完成する〔42〕予定だ。また同時に、中国政府はサイバー戦のために侮りがたい能力を構築中だ〔44〕。
〔42〕China’s BeiDou satellite system expected to achieve global coverage by 2020, English.news.cn 2013-12-27 http://news.xinhuanet.com/english/china/2013-12/27/c_133001847.htm
〔43〕A Search for the Lost IDCSP Constellation, from the 19th Space Control Conference, 3 April 2001 http://fas.org/spp/military/program/com/dscs_1.htm
〔44〕Chinese Army Unit Is Seen as Tied to Hacking Against U.S. By DAVID E. SANGER, DAVID BARBOZA and NICOLE PERLROTHFEB. 18, 2013 http://www.nytimes.com/2013/02/19/technology/chinas-army-is-seen-as-tied-to-hacking-against-us.html
10年か20年 の間に、必要性が生じた場合、中国はあらゆる特権をもつ米国軍のグローバルな力に対決することなく、また輸送機、巡洋艦、無人機、戦闘機、潜水艦というアメリカの巨大編成部隊を潜在的には不要にさせ、米国政府の大陸包囲網をいくつかの戦略的要衝で外科的に切断する準備がすでにできている。
マッキンダーと大英帝国の帝国主義者の世代の地政学的 ヴィジョンを欠いたままで、アメリカの最近の指導者はユーラシア大陸全体の内側で進行中の急激でグローバルな変貌の意味をつかみ損ねてき た。もし中国がユーラシア・ハートランドの膨大な自然資源とその成長過程にある産業が結びついて成功するならば、ことによるとかなりの確率で、ハルフォード・マッキンダー卿が1904年の寒いロンドンの夜に予言したように、「世界帝国が間近に見えるだろう。」
(以上、翻訳終わり)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5489:150714〕
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