抜けた乳歯と粉ミルク
- 2015年 7月 31日
- 評論・紹介・意見
- 松井英介
「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」。これは、二年前2013年9月7日ブエノスアイレスで開かれたIOC総会でのオリンピック招致安倍首相演説です。前号で紹介した“東京でオリンピックができるのだから、もはや原発事故のリスクはない!”宣伝は、すでにこの段階で日本と世界に向けて発せられていたのです。
50年ぶりの東京湾海水浴解禁も同類でしょう。選に選ってなぜこの時期に、と感じた方も少なくなかったのではないでしょうか。なぜなら、事故現場は収束からほど遠く、人工放射性物質は自然環境に出つづけており、陸上の汚染物が集積する河口と海、さらに生態系の汚染は決して改善されていないのですから。
2015年6月16日のビデオ・レターで、アメリカ合衆国の原発技術者アーニー・ガンダーセンは述べています。「核反応炉3基の炉心(ウランなど核燃料)は、炉底の鋼鉄(20cm厚)を融かし、格納容器の底(120cm厚コンクリート)に溜まっています。コンクリートには亀裂・穴が開いており、溶けた核燃料は地下水とじかに接触しています。毎日300トンの地下水が流れ込み、海に向かって流れ出していくのです。もう4年以上経ちましたから、その総量は20,000リッター積載タンクローリー23,000台分を超えます」。
事故現場は、未だに、全く手に負えない状態なのです。
ところが、ここに重大な問題があります。「食べて応援しよう」運動です。
その前提は汚染地で農業をつづけること。すると、農業者は作業時に人工放射性物質の微粒子を呼吸によって取り込み、これが新たな内部被曝源になります。大惨事から4年半経ちましたが、土に含まれる人工放射性物質はほとんど減っていません。土の深い部分に移っても樹木が吸い上げ、落葉とともに土の表面に戻るのです。自然生態系の循環です。
農作物や海産物すなわち食品を調べたら基準値以下だったから安心だといいますが、その基準が問題です。まず、胎児や乳幼児の基準値が定められていません。最も厄介な核種ストロンチウム90が無視されています。セシウム137の基準値はもっと厳しくしなければなりません。
まずは、抜けた乳歯や赤ちゃん用粉ミルクのストロンチウム90を調べることから始めましょう。詳しくは次号で。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5539:150731〕
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