パロディ:ぼんぼん晋ちゃんの学級会
- 2015年 8月 21日
- カルチャー
- パロディ安倍盛田常夫
先生 : 今日は、新聞やテレビで話題になっている言葉を使って、作文を書いてみましょう。今日使う言葉は、「侵略」、「植民地支配」、「反省」、「謝罪」です。この4つの言葉を入れた文章を作ってみましょう。低級学年の君たちには少し難しいかもしれませんが、何か質問はありますか。
ぼんぼん晋ちゃん : 先生、言葉が難しくて、よく分かりません。侵略ってなんですか。植民地の意味もよく分かりません。それに、謝罪って難しい漢字なので、ぼく書けません。
先生 : 侵略は他の国に入り込んで、その国の一部や全部を自分のものにすることです。その国を自分の国のように支配するのが、植民地支配です。晋ちゃんの家に、突然、隣の人が入ってきて、そこに居座るようなものね。晋ちゃんのご両親ではなくて、隣の人が晋ちゃんの家の大事なことをすべて決めてしまうようなものね。
ぼんぼん晋ちゃん : 先生、侵略って、中国へ日本が行ったことですか。だって、お爺ちゃんは、日本はイギリスなどの支配から中国を解放するために、一生懸命働いたと言っていました。だから、あれは侵略ではなく、解放だと言っていました。ぼくもそう思います。
先生 : 晋ちゃん、君の家に隣の人が入り込んで、家族の生活を指図(さしず)することになったらどう感じるかな。隣の人が善意でやっていると言っただけで、晋ちゃんは受け入れられるかな。最初は1部屋だけだったのが、だんだんと部屋から家族が追い出されて、隣の人のものになったらどうかな。
ぼんぼん晋ちゃん : いやです。隣の叔父さんがぼくの家に居座ってしまうと、好きなことができません。ご飯だって、いつも一緒に食べなくちゃいけないのですか。
先生 : だから、侵略による植民地支配はその国の人々を苦しめるよね。
ぼんぼん晋ちゃん : でも、日本は良いことをしたと思います。だって、侵略かどうかは、その国の人に聞いて見ないと分からないし。日本は一生懸命に中国のために仕事をしたんだと思います。だから、侵略かどうかは分からないと思います。
北岡級長 : 晋三、お前馬鹿だな。それが侵略で、植民地なんだぞ。お前、そんなことも分からないのかよ。もっと勉強したらどうなんだ。俺が教えてやろうか。
先生 : 北岡君、あまりきつく言うと、晋ちゃんが萎縮してしまうわよ。分かりやすく説明してあげないと、晋ちゃんはなかなか理解できないのよ。
徹君 : 先生、ぼくは晋ちゃんのいうことが正しいと思います。晋ちゃんはすごい。尊敬しちゃうな。だって、侵略とか、植民地支配なんて、見方によって違うんだもん。だから、晋ちゃんの言っていることは、絶対に正しいと思います。晋ちゃんは天才です。
先生 : 徹君、君はいつも晋ちゃんの味方になっているけど、もっと自分の頭で考えることも必要よ。晋ちゃんの家はお金持ちで、お父さんもお爺ちゃんも立派な方だけど、それだけで晋ちゃんの言うことをすべて信じるのは、まずいと思うけどな。
徹君 : 先生、それは言いがかりです。そういう失礼な言い方は許せません。ぼくは本当に、晋ちゃんの言うことが正しいと思っています。
北岡級長 : 徹、君も少しは歴史を勉強しろよ。大口叩く前にな。
徹君 : なんですか、その言い方は。先生、北岡君の言い方はひどいと思います。叱ってください。
先生 : まぁまぁ、そう興奮しないで、みんなで良く考えてみましょう。尚樹君、君はどう思うかな。
尚樹君 : おいらも、晋ちゃんが正しいと思います。だって、シナなんて、下等民族だから、日本が現地へ行って教えないと、何もできなかったと思います。石原先生も、そう言っていました。この際、相手がどう思うかなど、関係ないと思います。自分がどう考えて行動するかが、一番大事です。
先生 : それじゃ、相手のことを思いやることは出来ないわよね。それが侵略っていうことじゃない。
尚樹君 : おいらのように考えている人はたくさんいます。テレビでも、櫻井なんとかという化粧している女の人が、同じように言っていました。先生は侵略だと考えているのですか。そうなら、左翼ですよね。左翼は日本を駄目にするって言ってました。だから、左翼をみんなつぶさないといけないと。テレビも新聞も。
先生 : それは物騒ね。そんな風に、考えるのは間違っていないかしら。一方の見方だけが正しいと思うと、独裁になってしまうわよね。勝人君はどうかな。
勝人君 : 先生、ぼくは立場上、言えません。だって、この前、晋ちゃんの家でご馳走になったから。
先生 : それは違うわよ。ご馳走になったことと、自分の意見をもつことは別なことよ。それとも、勝人君には自分の意見がないのかな。
勝人君 : 先生、ぼく、余り難しいことを考えたことがないんです。だから、どっちでも良いんです。それに、晋ちゃんには世話になっているから。
先生 : 勝人君、それじゃいけないわよ。もっと、自分の意見をもつようにしないと。上からの命令だけで動くのは、楽しくないじゃん。
勝人君 : ぼく、それでもいいんです。何も考えなくて良いから。楽なんです。
先生 : 仕方がないわね。太郎君はどうかな。
太郎君 : おれには侵略も謝罪も難しいす。漢字を勉強していないから。だから、それが何を意味しているなんか、考えたことはないす。そんなこと考えなくても、生活できるから。
先生 : 太郎君、これはとくに難しい漢字ではないので、しっかり書けるように家で勉強しましょうね。
それでは、皆さん、次に謝罪を考えて見ましょう。誰が誰に対して何を謝罪するのでしょうか。まず、晋ちゃん、どうかな。
ぼんぼん晋ちゃん : 間違ったことをしていないのに、謝る必要はないと思います。日本が中国にたいして謝るなんて。それに、ぼくがやったことではないので。だから、どうしてぼくが謝らなければならないのか、理解できません。
先生 : そうね、でも間違ったことではないと思っていても、相手を傷つけたらどうかな。自分の考えとは別に、相手を傷つけたら、謝らなくてはいけないよね。
ぼんぼん晋ちゃん : それはそうですけど、ぼくは傷つけていません。クラスのみんなも、中国の人を傷つけたことはありません。だから、ぼくらは謝る必要がありません。
先生 : 確かに晋ちゃん個人が謝る必要はないかもね。だけど、国として行った行為は、国として謝るってことじゃないかしら。君の家族の誰かが隣の家の人にまずいことをしたら、お父さんが家を代表して謝らなくちゃいけないよね。それと同じことじゃない。
ぼんぼん晋ちゃん : でも、ぼくが生まれる前のことに、僕は責任がありません。責任の取りようがありません。いつまでも謝り続けなればいけないんですか。それはおかしいと思います。
尚樹君 : そうさ。お父さんが一回謝れば、それで済むんだ。それで終わりさ。いつまでもぐずぐず言う奴は、ぶん殴ってやれば良い。
徹君 : やっぱり晋ちゃんはすごい。天才だ。ぼく、尊敬しちゃうな。
勝人君 : 晋ちゃんの言っていることで良いと思う。だって、ぼく、自分の意見がないから。
太郎君 : おれはどちらでも良いけれど、一度謝ると、謝りつづけなければならないのが面倒す。おれの家なんか、朝鮮人を使って金儲けした方だから、あまり突っ込まれるとまずいんす。
北岡級長 : しょうもない奴らだな。その程度の歴史理解だと、低級学年から進級できないぞ。社会に出て恥をかくぞ。だから、俺がきちんと例文を作ってやったんだ。もっとしっかり勉強しろよな。
先生 : 北岡君、上から目線は良くないです。みんなは北岡君のような勉強家で、賢い人たちではないのですから。
それじゃ、みんな、作文を作ってみてください。
ぼんぼん晋ちゃん : 先生、出来ました。
先生 : いやに早いわね。それじゃ、ちょっと読んで見て。
ぼんぼん晋ちゃん : 「しんりゃくして、植民地しはいするようなことはあってはならない。かこにそういうことがあったとすれば、反省し、しゃざいしなければならない。でも、ぼくたちが生まれる前のことについて、ぼくたちはしゃざいし続ける必要はない」。先生、4つの言葉をみんな入れました。
徹君 : 晋ちゃん、すごい。さすが天才だ。
尚樹君 : そういうこと。
勝人君 : それで良いと思います。
太郎君 : いいんじゃないの。
北岡級長 : いつまで経っても馬鹿だな、お前ら。
先生 : 晋ちゃん、言葉を並べればそれで良いってものじゃないのよ。一つ一つの言葉を大切にして、それぞれの言葉がもっている内容を、心を込めて相手に伝えることができなければ、人の心を打つ文章にはならないのよ。
君の英文の読み方についても、英語の先生が言っていたよ。一つ一つの単語を発音すれ英語になるのではなく、ひとかたまりの言葉に抑揚を付けて話さないと、本当の気持ちを相手に伝えることができないのよ。
家庭教師の平沢先生にも伝えておくから、家で良く勉強してね。
ぼんぼん晋ちゃん : 先生、わかりました。先生、一つお願いがあります。平沢先生に、ぼくをぶたないように言ってください。ぼくがすぐに答えないと、定規でぼくの頭をぶつんです。
先生 : ぶつのは良くないわよね。平沢先生に良く言っておきます。でも、晋ちゃん、たくさん勉強して、自分の頭で考えるようにしないといけないわよ。
これで今日の学級会を終わります。
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