共産党にどこまで何を期待できるか
- 2015年 8月 25日
- 評論・紹介・意見
- 共産党安保阿部治平
―八ヶ岳山麓から(156)―
私は、安保法制をめぐる国会審議の中で、比較的鋭く政府を追及しているのは日本共産党だと感じている――ケンカ腰が過ぎるところはあるが。
このほど、共産党委員長の志位和夫氏に、ジャーナリストの神保哲生氏と宮台真司首都大学東京教授が質問したインタービュー記事を見ることができた(「マル激!メールマガジン 」2015・8・5)。質問者は、「安倍政権による解釈改憲法案など、戦後70年、日本の政治が大きな節目を迎える中、共産党にどこまで何を期待できるかを議論した」という。話題は多岐にわたるが、ここでは安保法制とその関連、党の気風についてみてみたい。
志位の安保法制成立の成否についての見方は楽観そのもの、手放しに近い。「圧倒的な世論の流れが起こっている」から、「政権が立ち往生の状態を作り出」して不成立に追い込む可能性があるという。安倍政権が世論を無視して参議院でも強行採決に出たときはどうするか。さもなくば憲法59条の衆議院優越原則による自然成立の可能性がある。にもかかわらず志位はそれについて何もいわない。
いま「日米安保は抑止力」「中国の脅威があるから安保法制が必要だ」とか、「憲法を守って国が滅びたらどうするのだ」とする人は、磯崎陽輔首相補佐官だけではない。国民の4割近くは確実にいる。
神保・宮台両氏だけでなく、私も気になるのは、国会審議の中心が法案自体の問題点と違憲性に集中していることだ。宮台は、従来のような切り口ではこの4割弱の人々を説得し切れない。堅固な日米同盟が抑止力であるという議論は成り立たないこと、そこを突かないとマズイと繰り返し主張した。
志位はこれには直接答えず、(領土問題の)軍事的解決を回避するためには、まずは日中韓3国の「北東アジア平和協力機構」を組織するよう提起した。これはこれでよいとしても、当面する審議の重点課題――日米同盟は抑止力たりえないことを実証する――への答えにはならない。
志位・宮台・神保の3氏は、アメリカと中国が軍事的衝突に至る国家関係になく、朝鮮有事も緊迫したものではないという情勢判断において、また現実的危険性は中国や北朝鮮にでなく、むしろアフガン戦争・イラク戦争のほうにあるという認識において一致している。
尖閣について、志位は「(現実は)中国海軍が入ってきて、そして領海侵犯をやっているという話ではない。そういう動きに対して、日本の側から軍隊を入れていったら、向こうも海軍を出してくるでしょう」という。日本が先に挑発行動に出てはいけないという志位の主張はよい。
だが中国が尖閣海域に軍艦を入れる事態になったら日本はどう対処するか。これ答えないで、「日米同盟は抑止力」という議論を無力化することはできまい。三氏は言及していないが、私は中国が東シナ海で軍事行動を起す危険性が絶対にないとはいえないと思う。
一説によれば、1979年鄧小平が中国軍をベトナムに侵攻させた目的は軍の主導権を掌握するためでもあったという。これを考慮すれば、中国治安状況の悪化、あるいは中国共産党の党内矛盾が激化したとき、これを外に転嫁する目的で東シナ海で今以上の強硬策に出る危険性がある。また解放軍好戦派が(中共中央の意向に反して)挑発に出るかもしれない。我々はいま、日本がこの挑発に乗せられてはならないという議論を徹底しておく必要がある。
安倍政権は中国を仮想敵国として国会審議に臨んでいる。そして中国の従来からのふるまいは、どうみても最大の安倍政権応援団であり、安保法制論争のなかの主役であり、安保法制反対派にとっての難物である。
さらに神保の「日米安保が廃棄され、米軍が日本から撤収したとしたら、一時的には自衛隊の増強──重武装が必要になるのではないか」という問いに、志位は「それは逆です」と答える。そして、日本の自衛隊は非常にいびつな構造で、元々日本を守る機能を持っていない。空母を持っていないのに、(米空母を守る)護衛艦は50数隻持っている。したがって日米安保条約を解消した場合は逆に軍縮できる。日米安保をなくせば重武装になるというのも一つの神話だと反論している。――遠いさきの話とはいえ、志位のような確信を私は持てない。
インタービューの後半で、神保・宮台両氏は共産党員の気風・ふるまいについて重要な指摘をした。
宮台は、「私は危惧するところがあるのです。共産党員ですとか共産党の幹部の方々、それは東大民青の幹部でもよいですが、そういう人たちと話してきて思うのは、基本的には機関決定をベースにしたお話をリピートする人たちが多くて、『あんたはどう考えているのだ』ということについてうまく反応できないということです。あるいは、世田谷区の基本構想審議会の中で言えば、共産党の人たちの方が、自民党の人よりも住民自治にむしろ懐疑的で、場合によっては否定的なコメントを平気でいうということを繰り返し聞いている」と指摘した。
そして「(宮台が今後あるべしとする)共同体の自治構想を考えると、共産党が今でも機関決定をベースにしているところが気になる。共産党は一体どの程度の縛りを前提として考えていらっしゃるのでしょうか」と問うた。
これに対して志位は、「民主的な討論はやるけれど、決めたことはみんなでやる。そういう大原則は大事にしています」と従来の「民主集中制」原則を主張した。
神保の「なぜ共産党の人は、みな同じことをしゃべるようになってしまうのでしょうか」という重ねての問いに、志位は「皆が同じことを言うというのは悪いことではないでしょう。ただ、それがやはり国民から見て、自分の言葉でしゃべっていないという風に見えるのであれば、本当にこれはいまの国民的な運動の中で共産党が信頼されるということにはならないと思います」と答えている。――神保の質問の意味がわかっているようでわかっていないようだ。
おわりに、神保は「(安保法制が)万が一強行で通ってきた場合、これを廃止にするために野党で選挙共闘をされることは、日本共産党としてありえますか。つまり、沖縄のような」と問うた。志位はこれに対し、「いまそれを言うのは時期尚早で、まずは廃案に追い込むことです」と答えている。
時期尚早もなにも、国会内の力関係からすれば、安保法制を廃案に追い込む見通しはそう明るいものではない。いまは廃案のために戦いつつも、国政選挙を考慮するのは当然ではないか。神保ならずともこの質問は自然に生まれる。
私は、神保・宮台が発した以上の疑問・意見は実は日本共産党への期待だと受止めた。
いま護憲、リベラルを志向する市民には大いなる焦りがある。民主党は、中に改憲派があり、文句なしのリベラルな政党とはいいがたい。社民党はもはや風前のともしびである。のこる共産党には、従来のいきさつのすべてを乗越え、安保法制廃案のために戦う一方で、憲法擁護派を結集する選挙共闘の準備もやってほしい。そう願うのは私だけではあるまい。
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