かんぽ生命にご用心! -年寄り狙いはおれおれ詐欺だけではない-
- 2015年 8月 29日
- 評論・紹介・意見
- かんぽ生命田畑光永
暴論珍説メモ(140)
あんまり腹が立ったから、個人的な経験を書かせていただく。保険の話である。
歳をとれば誰しも新しい保険とは縁遠くなる。当然のことだ。ところが、先日、家内のところへかんぽ生命の勧誘員が上司と称する人物とともにやってきた。伏線として、わが女房どのは昔から銀行や証券会社がきらいで、というか、飲み込みが悪くて話がよくわからないから敬遠するというタチで、貯金も保険も郵便局だのみというところがあって、やってきた勧誘員とはうっすら顔なじみという関係であったらしい。
彼らは昔の簡易保険はお客に有利で、お宅もずいぶん恩恵を受けたはずだというような話をひとくさりしたあと、やおら「保障と満期の楽しみをお考えの方に 新フリープラン 普通養老保険 全期間払込90歳満期養老保険」と題するパンフレットを取り出した。
この保険の特徴は「90歳満期」にある。そんなもの、若いひとは見向きもしないだろうから、明らかに年寄り狙いである。かく言う小生は今月末に80歳に到達する押しも押されもしない年寄りである。向こうの狙いにぴったりというわけである。
それで勧誘員が作ってきたプランは小生を被保険者に家内を受取人とする契約で、90歳満期で、それ以前に死亡した場合や重度障害となった場合に500万円を支払う。生きて満期を迎えた場合も500万円が支払われる。だから「保障と満期の楽しみ」ということになるのだろう。
問題は保険料である。それが小生の場合、月額68250円だというのである。年額では819000円である。10年かければその10倍になる。支払われる保険金が500万ということは、かけ始めてからうっかり6年も生きると、そのあと払う保険料はそのままただで取られるわけである。
勿論、保険には保障機能(6年以前に死ねば受取金額が払った保険料より多くなる)があるから、そのコストは分かるが、満期まで800万円以上払って受け取るのは500万円というのはいくらなんでもひどすぎないか。
これは68250円という月々の支払と500万円という死亡時の受け取り額との間の差額に目をくらませようという、年寄りのボケを狙った詐欺商法である。そこを会社側も意識していて、パンフレットの表面にはわざわざこんなことが書いてある。
「当社では、満70歳以上のお客さまには、ご家族などのご同席をお願いしています。
保険の商品内容をしっかりご理解いただくために、満70歳以上のお客さまには、ご家族、またはご親族とご一緒に説明しております」
おそらくこれは問題になった場合の言いぬけ用である。守られていない。現にわが家に来た2人は「保険の内容はご主人さまには言わない方がいいでしょう」と繰り返したという。年齢的に死が間近に迫っていることをお互い意識して、生きているのだから、それを確認するような保険に入ることは言わない方がいい、ということらしいが、自分が6年以上生きたら損するなどという保険は不愉快千万であるから(私も不愉快千万であった)、本人の耳に入れれば、間違いなく話が壊れる。そこで本人抜きで契約をまとめようとしたのだろう。
もっと悪い想像をすれば、家族がもう長いことはないとふんで、老人にこの保険をかけたとして、その老人が採算分岐点を越えて生きながらえたら、家族は悔し涙で無駄となる保険金を払い続けなければならない。そこから先、どんなことが起り得るか、あんまり考えたくはない状況だ。
というわけで、この保険設計はあまりにひどい。保険会社は集めた保険金を運用して利益を出し、それを一定の条件で顧客に払い戻すのが本来の姿である。しかし、ゆうちょ銀行にしても、かんぽ生命にしても、昔の大蔵省資金運用部資金へ渡して国債を買っていれば仕事になった時代の名残で、運用がさっぱりとはかねて言われてきたのだが、老人ボケにつけむこんな詐欺まがいに手を出すようでは、民営化の結末は明らかである。
ゆうちょ銀行もかんぽ生命も今秋には株を上場するという話だが、それへ向けての焦りがこんな商法を思いつかせたのかもしれない。とにかく、われこそは年寄りと自負する方々はくれぐれもご用心を。老人狙いはおれおれ詐欺だけではないのだ。
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