<民族自決権>って何?
- 2015年 9月 7日
- 評論・紹介・意見
- 平田伊都子民族自決権
<民族自決権>って何?日本庶民には、なかなか馴染めない言葉です。筆者の頭には長らく、沖縄戦の<集団自決>がこびりついていて、<民族自決権>には<民族が集団で自殺する>というイメージが焼き付いていました。とんでもなく殺伐とした暗い印象をこの言葉に抱いていたのです。
でも、<民族自決権>という言葉は、国連憲章の<Self-determination>の日本語訳です。
直訳すれば<自分で決める>という、<Self-service(セルフサービス)>に似通った言葉では?そう考えると、気が楽になりませんか? 不勉強は悔やまれますが、、
では、国連憲章の中に散りばめられた美しく難解な言葉の数々から、この<民族自決権>を取り出して、一緒に勉強してみましょう、、そして、国連に想いを馳せてみましょう。
(1)安倍談話に登場した<民族自決権>:
2015年8月14日、世界が注目した<安倍談話>で、安倍首相はこの<民族自決権>を語った。
「世界を巻き込んだ第一次世界大戦を経て、民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました」と、第二次大戦以前の中で、まず振っておいて、
「植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」と、第二次大戦直後の国連憲章に則った<民族自決権>の精神を強調した。
世界はマジに取る。「有識者が寄ってたかって決めた談話だから」と、安倍首相は談話を語る前から引けていたが、そんな言い訳は国際社会に通用しない。翻訳された日本首相の言葉として<民族自決権>を扱う。 <民族自決権>は一人歩きを始めた。
(2)民族自決権とは?:参照: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
<民族自決権(Self-determination)>とは、民族が自ら、その帰属や政治形態、民族の未来を決定し、他民族や他国家の干渉を認めないとする権利を指す。第二次大戦後、国際連合の憲章や総会の決議で<民族自決権>は、虐げられた民族のための崇高な言葉になった。が、第二次大戦以前にはドイツのナチスが<民族自決権>を名目に、チェコスロバキアやポーランド、オーストリアなどに住むドイツ系住民の保護と称して、この地域を侵攻していった。 <民族自決権>という言葉は、使う人によって毒にも薬にもなるようだ。
(3)国連の民族自決権:
1945年10月24日に発行の国連憲章第1条2を見ると、「人民の同権及び自決(民族自決権)の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること、並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること」と、明記されている。
1960年12月14日に発行の国連総会決議第1514号<植民地諸国、諸人民に対する独立付与に関する宣言>通称<植民地独立付与宣言>においても、<民族自決権>は再確認された。第3項では、「政治的、経済的、社会的又は教育的基準が不十分なことをもって、独立を遅延する口実にしてはならない」と述べ、国家成立要件が満たされていなくても独立が承認されると明記した。その後の国連や諸国家の行動を経て、植民地人民の独立の権利は一般国際法上の常識として認められてきた。
さらに、1966年に採択された国際人権規約により、「規約締結国は自決権を保障する国際法上の義務を負っている」と、国際社会の支援を義務づけた。国際人権規約とは、人権に関する多国間条約である経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約、A規約)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約、B規約)及びその選択議定書の総称である。
国際人権規約の内、第1条では、「すべての人民は自決の権利(the right of self-determination)を有する」と述べ、民族自決権のあり方を明確に規定している。さらに、天然の富及び資源に対する人民の権利も規定している。
(4)民族自決権を行使していない民族、行使を希望する民族:
国連は、民族自治権を行使していない又は行使できない地域を、Non-Self –Governing Territories(非自治地域)と名付けた。
国連は植民地独立付与宣言の対象地域、非自治地域、つまり植民地として16地域を挙げている。( )内は、施政国。
アフリカ:西サハラ(?)、
アジア太平洋:米領サモア(米)、グアム(米)、ニューカレドニア(仏)、ピトケアン諸島(英)、トケラウ(ニュージーランド)
大西洋、カリブ海および地中海:アンギラ(英)、バミューダ(英)、英領バージン諸島(英)、ケイマン諸島(英)、フォークランド諸島(英)、ジブラルタル(英)、モントセラト(英)、セント・ヘレナ(英)、タークス・カイコス諸島(英)、米領バージン諸島(米)
しかし、グアムなどはアメリカ本国から度々、独立や自治を急かされたにもかかわらず、住民はアメリカの属国でいたいとしてきた。非自治地域の住民が独立を望まない場合は、国連は独立のお手伝いをしない。世界中が紛争だらけで、国連はお忙しいのだ。
かくして、アフリカで最後の非自治地域として残されたのが西サハラ。しかも、当該地の住民は独立したがっているのだ。ただ、他の非自治地域と違って、国連は西サハラに関してのみ、施政国を明記していない。1975年から現在まで西サハラを実効支配しているのは、紛れもなくモロッコなのだが、1975年に撤退した旧宗主国スペインが、国際法上のけじめをつけずほったらかしにしたままなので、書類上はスペインが施政国ということなのだろうか?これって二重契約?ダブルブッキング??こんな国連の不手際さが、西サハラの独立をズルズルと40年も引きずっているに違いない!
モロッコは、<Self-determination民族自決権>を、故意に自治権と誤訳する。<自治権>は英訳すると<Autonomy>だ。西サハラの<民族自治権>を認めたくないモロッコの思惑が、ありありとしている。狡いの一言に尽きるが、こんな子供だましが国際社会で通用すると思っているのだろうか?
「安倍首相に感謝状をお送りしたい」と、西サハラ難民政府から興奮したメールが入った。
「すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」という安倍談話のくだりに感激したという。
「そして、我々は彼の行動を注視している」と、結んでいた。要は、安倍総理に、「言葉に従って行動せよ!」と、煽っているのだ。
もう、逃げれませんよ。あんたが言ったんだからね! 世界はあんたの言葉を信じています。言葉を実行に移してください。一国民として、誇らしいお言葉で~す?
文:平田伊都子 ジャーナリスト、 イラスト:川名生十 カメラマン
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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