もっと現実を直視した国民主体の政権構想を(1)
- 2015年 10月 5日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2015年10月5日
野党間の選挙協力だけでは安保法を廃止できる政権は実現しない
安保法案が国会で「成立した」とされる事態の後、野党間では来年の参院選さらにはその後
の衆院選をにらんだ選挙協力、政権構想が議論されている。きっかけは、安保法案(戦争法案)
を廃止できる政権を目指して野党間の選挙協力を打ち出した日本共産党の提案(「国民連合政
府」構想)である。
その骨子は、戦争法案の廃止、立憲主義と民主主義を取り戻すという一点で、全野党、各団
体、個人が共同で、安倍自公政権に変わる「国民連合政権」を樹立する、その合意を前提にし
て来るべき参議院選、衆議院選で全野党が選挙協力をする、という提案である。そのためには
原則、全選挙区に候補者を擁立するとしてきたこれまでの方針にこだわらないとも述べている。
社民党の吉田党首、生活の党と山本太郎となかまたちの小沢代表はこれに賛意を示した。民
主党の岡田代表は注目に値する提案と前向きに受け止め、社民、生活両党と同様、共産党と話
し合いを続けると発言する一方、来年の参院選については野党第1党の民主党と第2党の維新
の党の関係を重視し、共通政策のとりまとめ、候補者調整を急ぐ考えを表明している。
とはいえ、民主党の幹部内には岡田氏が志位共産党委員長と会談すること自体に反対する意
見があり、党内の保守系の議員も含めて、民主党が全野党の選挙協力について党内合意を集約
するのは至難のことと見られる。
これとは別に生活の党の小沢代表は、「政権交代こそ野党連携の最大の目的」と題する談話
を発表。その中で、「野党が次の参院選を統一名簿による選挙、つまり「オリーブの木構想」
で戦うことを提案している。ここでいう「オリーブの木構想」とは単なる選挙協力や選挙区調
整と考え方が根本的に違い、・・・・選挙時の届け出政党を既存の政党とは別に一つつくり、
そこに各党の候補者が個人として参加するというもの」である。
目的と方法が乖離した提案
こうした連合政権構想なり、政権交代構想にはさっそく、いくつかの団体や通称「著名人」
の間から賛同の声が寄せられている。
しかし、賛否以前に、上記の提案を一読して、そこで掲げられた目的(戦争法案を廃止で
きる政権の樹立等)と、そのためにとして提案された方法(連合政権作り、選挙協力)の間
に大きな乖離があることは否定すべくもない。
共産党の提案は「国民連合政府」と名付けられているが、そのための具体的方法として謳わ
れているのは全野党(共産、民主、維新、社民、生活、無所属クラブの5党1会派)の連合、
選挙協力である。
しかし、これら全野党の連合、選挙協力がかりに実現したとしても、それで自公両党を上回
る議席を獲得できるのか? 答えはNoである。安保法案が「可決」された直後の世論調査を
見てみよう。いずれも9月19、20日の調査である。
安保法に賛成か
賛成 反対 分からない・無回答
朝日新聞 30% 51% (19%)
毎日新聞 33 57 (10)
共同通信 34.1 53.0 12.9
(括弧内の数字は賛成、反対の残余として表記)
つまり、どの調査でも、安保法案が「成立した」とされる現時点でも法律に反対の意見が過
半を占めているのである。
では政党支持率はどうか?
朝日新聞 毎日新聞 共同通信 NHK
自民党 33% 27% 32.8% 34.7%
民主党 10 12 9.5 9.8
維新の党 2 3 2.8 1.3
公明党 3 4 3.8 3.7
共産党 4 5 3.9 4.0
次世代の党 0 0 0.5 0.1
社民党 1 1 1.5 0.6
生活の党 0 0 0.5 0.2
元気にする党 0 0 - 0.2
新党改革 0 - 0.2
その他 1 7 0.4 0.6
支持政党なし 37 38 43.6 36.2
わからない・無回答 9.0
野党5党の合計 17% 21% 18.2% 15.9%
(NHKの調査は9月11~13日時点)
つまり、どの世論調査を見ても、野党5党の選挙協力がかりに実現したとしても、合計支持
率は16~21%にとどまり、自公両党の合計支持率(39~46%)のほぼ半分に過ぎないのであ
る。
もっとも、これは全国を1つに束ねた数値で、選挙区ごとに見なければ選挙協力の影響は計
れないといえるかもしれない。これについては、『毎日新聞』が9月26日の朝刊で野党5党
が来る参議院選挙の改選議席のうち、1人区すべてで候補者を1本化した場合の当落の試算を
している。
それによると、野党統一候補が自民候補を逆転するのは3つの選挙区(新潟、長野、三重)
にとどまり、残り27の選挙区は自公候補者が議席を維持するとなっている。つまり、来年の
参議院選にあたって、かりに野党5党の選挙協力(それも全選挙区で一本化という究極の選挙
協力)が実現したとしても、自公政権に取って変わるには遠く及ばないのである。
もっとも野党の選挙協力はたんなる足し算では測れないのは事実だろう。私はこれを「選挙
協力のシナジー効果」と呼んでいる。例えば野党2党が統一候補を擁立すれば、それによる政
治的影響力の増大に対する期待が高まり、2プラス1=3プラス・アルファの議席獲得効果を
期待できるという予測である。
しかし、「選挙協力のプラスのシナジー効果」がどこまで実現するかは不確かである。そも
そも維新の党と共産党の選挙協力が実現する見通しは低く、民主党内でも保守系の議員の非共
産意識は簡単に解消しそうにない。むしろ、5党の選挙協力を進めようとすると、民主党に分
裂の事態(マイナスのシナジー効果)さえ起こりかねない。そうなると上の試算さえ、机上の
足し算となる公算が大きい。
このように考えると、たとえ暫定政権と断っても、それを「既存の野党の連合政府」という
構想で提案したのでは、戦争法案を廃止できる政府の樹立という目的にそぐわないのは自明で
ある。この事実を直視しないまま、提案された政権構想―――たとえ、それが真剣な提案であ
っても―――を「戦争法を廃止できる」政権と銘打つのは信頼するに足る提案とは言えない。
また、そうした提案に即座に賛意を表した「著名人」は、善意からとは言え、提案の内容をど
こまで主体的に吟味したのかが問われるだろう。否、真剣な提案、善意の賛同というなら、な
おのこと、その提案は、目指す目的(戦争法の廃止等)に適ったものかどうかを直視すること
を求められるのである。
初出:醍醐聰のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3101:151005〕
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